入れ替わりも2日目を迎えた。
初日で早くもひびきのに慣れた真帆は単独で校内を歩き回っていた。
(へぇ〜、結構こっちも楽しそうじゃない)
きらめきとは違った雰囲気を改めて肌で感じていた。
(さてと……どこにいるのかねぇ?)
真帆は匠がどこにうろついているのか探していた。
(きっとどこかで女の子と一緒にいるはずだから……)
しかし簡単に見つからない。
始業時間が近づいてきたので教室に戻ったら、匠が自分の席でため息をついていた。
(とにかく今日は現場を押さえないとね……)
真帆の今日の目的は決まっている。
太陽の恵み、光の恵
第25部 白雪Exchange編 その5
第149話〜隠密調査〜
Written by B
「さてと、学校でも廻ってみようかな……」
休み時間になると真帆は教室を飛び出して、学校中をうろうろしていた。
「迷子にならないようにしなくちゃね……」
なにせ、ほとんど初めての場所。
道に迷わないように、教室の場所を確認しながら廊下を歩く。
「しかし、どこもかしこも明るい声がするねぇ……うちとはちょっと違うな……」
確かにどこの教室からも明るい声が聞こえてくる。
それもどの声も活発で大きな声だ。
きらめきは静かというわけではないが、どことなく落ち着いているということに真帆が改めて感じた。
明るい声は聞こえてくるが、ひびきのと比べるとどことなく上品な感じなのかもしれない。
(他の学校と比べるとやっぱりうちの学校って違ってるんだな……うん、よくわかる)
始業時間も近くなり、真帆は教室に戻る。
扉を開けた真帆はちらりと匠の様子を観察する。
(なんか、不安そうな顔ね……何が不安なのかしら……)
匠は不安そうな顔で、なにやら手帳を見ている。
財布を取り出して、中身を確認している。
そして大きなため息一つ。
(まあいいわ。機会があったら、問いつめてやるんだから!)
真帆は自分の席に戻る。
匠の席の前は止まらないように一気に通過する。
通過するときに匠が何か言おうとしていたが、気にせずに通過してしまった。
授業は真帆にとっては気楽な時間だった。
(同じ教科書だし、授業も丁寧だし。私はこっちのほうがあってるのかな?)
同じ教科書だということで真帆はすっかり安心していた。
さらに、ひびきののほうが教科書の進み具合が遅いので、真帆にとっては復習のような感覚。
確かに内容は難しいが、なんとなく聞いたことのある内容でわかったような気になる。
(それに姉さんなら、楽勝だろうしね♪)
とにかく黒板の内容をノートに写せばそれで十分。
先生から指されたら記憶を頼りに適当に答えればなんとかなった。
(姉さんのメンツをつぶさなければ楽勝、楽勝)
真帆は早くも授業の乗り切り方をマスターしたようだ。
そしてお昼休み。
「どう?いい情報は見つかった〜?」
「全然。坂城くんが何も動かないし」
真帆は美幸と中庭でお弁当を食べていた。
天気もよく、中庭でお弁当を食べている人は結構いる。
「教室ではどうだったの?」
「う〜ん、そういえば財布見つめてためいきついていたけど」
「財布?」
「うん、ねぇ、お金に困っているって話はある?」
「ごめ〜ん。美幸全然わからないんだ。美帆ぴょんもあまり話してくれなかったから」
「そうなんだ。ごめんね」
調査は全然進んでいないが、そんなことはとりあえず横に置いておいて、真帆は別の話を始めた。
「しかし、ひびきのって明るいよね」
「え〜、きらめきって暗いの〜?」
「そういうわけじゃないんだけど、活発で元気だなぁって印象があるね」
「ふ〜ん」
「きらめきにいるとわからないことってあるよね。ひびきのを見て初めて『きらめきってこうなんだ』っていうのがわかることって結構あるよ」
「そうなんだ」
「だから、姉さんもきらめきに行ってみて初めて『ひびきのってこうなんだ』っていうのに気づくと思うよ」
「へぇ〜」
真帆からみたひびきのについての感想を美幸は興味深げに聞いていた。
「あれ?あれって匠くんじゃないの?」
「あっ、本当だ」
美幸が指さす方向をみると匠が何人かの女の子に囲まれていた。
「あの人達って誰?」
「3年生っぽいね〜」
「3年生?」
「うん、最近よく匠くんを囲んでるのを見るよ」
「ふ〜ん、これは重要ね……」
真帆は匠に気づかれないようにその様子を観察していた。
匠は困った顔をして対応している。
一方の女の子はニヤニヤしながらなにか話している。
匠には反論することも出来ない様子だ。
何か話がまとまったらしく、女の子はニコニコして立ち去っていく。
残された匠は大きくため息を一つついてから、がっくりしたようにとぼとぼと歩いていった。
どうやら匠は自分たちに気づいてなかったみたいだ。
匠が完全に見えなくなったところで、話を始める。
「……なんか、嫌がってるみたいだったね」
「何だろうね?聞いてみたら?」
「聞けるわけないじゃない!聞いたら私だってバレちゃうよ」
「あっ、そっか〜、う〜ん、難しいね〜」
まだお弁当を食べて終えてない二人は再びお弁当を食べ始める。
「当分、直接本人に聞けないのが辛いよね〜」
「当分?」
「うん。金曜日に正体明かして、徹底的に問いつめようかと思ってるんだけど」
「それが一番いいかもね」
話に一区切りついたところで、お弁当を食べ終わった。
お弁当を片づけて教室に戻る準備をする。
「あれ?あれって主人さんと光さんじゃないの?」
「あっ……」
「へぇ〜、学校でも仲がいいんだ……まっ、当然か」
今度は真帆が指す方向をみると、公二と光がなにやら話をしていた。
意外と近くで、二人とも小声で話していないので、おぼろげに話の内容が聞こえてくる。
「えっ?あなた、今日も残業なの?」
「さっき携帯で連絡が来たんだ、先週ずっと天気が悪かったから工事が遅れてて、人手が必要なんだって」
「ここんとこ毎日じゃないの?無理しないでね」
「ああ、それよりも、光も毎日遅いみたいだけど大丈夫か?」
「うん、バイトの後に茜さんから料理を教わってるから」
「そうなんだ、でも学校があるんだから無理するなよ。茜ちゃんの都合もあるんだし」
「うん!」
よく学校で交わす二人の会話だ。
二人はそんな二人の様子をじっと見つめる。
「いい感じだよね……」
「うん……」
「いい夫婦って感じだよね」
「うん……」
「いいなぁ、あんな彼が欲しいなぁ……」
「うん……」
「美幸ちゃん?」
「……」
真帆がふと気がつくと美幸が今までとは違う表情で二人を見ていることに気がついた。
(この表情、この目、どこかで見たような……)
真帆は自分の記憶の中から似たような表情の人たちを探し出す。
そして思いついた人たちの共通点を調べてみる。
その結果……。
(み、美幸ちゃん。まさか……ねぇ)
真帆は美幸に呼びかけてみる。
「ね、ねぇ、美幸ちゃん?」
「……あっ、真帆ぴょん……」
真帆に呼ばれて美幸が見せた表情はとても寂しそうな表情だった。
その表情をみて、真帆は直感的にわかってしまう。
(ま、間違いない。うそぉぉぉ〜〜〜〜!美幸ちゃん!ヤバイってそれぇ!まずいよぉぉ!)
真帆の心の中では大パニックになっていた。
真帆もそんな美幸に対して何か聞くわけにはいかず、話を変えてしまう。
そして放課後。
(さて、学校巡りでも……ってあれ?)
教科書を片づけようとしたとき、匠が教室から飛び出したのが目に入った。
(確か、鞄を持ってたよね……そんなに急いでどこに行くつもりだったんだろう?)
少し考えた直後。
廊下から大きな声が聞こえてきた。
「「「つ〜かまえた!」」」
「うわぁ!」
複数の女の子の声と匠の悲鳴だった。
(ん?なんだなんだ?)
真帆は教室の扉から廊下を覗いてみる。
(ありゃりゃ、捕まっちゃってるよ)
みると、匠が3年生らしき女の子達に捕まっていた。
「逃げようなんて、まさか言わないよねぇ?」
「あ、あの……」
「もう、私と匠くんの仲じゃない」
「い、いや、そ、その……」
「約束はちゃ〜んと守ってもらうからね?」
「は、はい……」
「じゃあ、レッツゴー!」
「……」
匠は女の子に囲まれたまま廊下の向こうに行ってしまった。
(なんか、拉致って感じだね……)
真帆からの距離では会話の中身はよくわからなかったが、匠が嫌そうな表情をしていたのはよくわかった。
(どうやら坂城くんが進んで浮気しているようじゃないわね……)
とりあえず、真帆は最悪のケースではないことを確信した。
(しかし、そんなに嫌がるのを何でだろう?)
しかし、まだ腑に落ちないがひとまず安心した真帆だった。
匠がいなくなったところで、真帆は帰宅の準備をする。
廊下に出るとそこには美幸が待っていた。
「あっ、真帆ぴょん!部活は?」
「ダメだよ。私は演劇なんでできないから」
「部活の人とか言ってあるの?」
「うん、月曜に姉さんに言われた人に『今週は都合で休みます』って言っておいたから」
「そんなんでいいの?」
「いいみたいだったよ。たぶん部長さんだと思うんだけど、納得したみたい」
「ふ〜ん」
真帆は美幸と一緒に廊下を歩く。
真帆は生徒玄関、美幸は部室に行くためだ。
「ところで、調査はどうだったの?」
「うん、坂城くんは浮気してないってことはわかった」
「そうなんだ〜。美帆ぴょんも安心だね!」
「そうだけど、なんで坂城くんが3年生達とつきあってるのかがわからないんだ」
「う〜ん、美幸もわからないなぁ」
「でしょ?だから、今度はそこを調べないといけないわね」
そんな話をしているうちに、生徒玄関にたどり着いた。
「美幸ちゃんは部活だよね?」
「うん!真帆ぴょんは?」
「これからバイトできらめき市まで行くの」
「大変だねぇ。頑張ってね!」
「ありがと。美幸ちゃんも頑張ってね」
「うん!それじゃあ、またあした〜!」
「じゃあね!」
そこで二人は別れた。
真帆はバイト先のファーストフードLに遅くついてしまった。
無理もない。
ひびきのからは意外と時間がかかってしまうのだ。
「あら?真帆ちゃん。今日は遅かったわね」
「え、ええ。ちょっと用事があって……」
真帆はチーフの舞佳に謝ったが舞佳は特段怒りはしなかった。
「ふ〜ん。それはともかく、今日なんかいいことがあった?」
「えっ?」
「いやね。最近真帆ちゃんの表情がちょっと暗かったからね。お姉さんちょっと心配してたんだけど」
「そうでした?確かに今日心配事がちょっとだけ片づいたから」
「そうなんだ、それはよかった。でも、それをレジで顔にだしちゃだめよ!」
「はい!」
「お客さんにはどんなときにも明るく元気よく!わかってるわね?」
「はい!」
「よし!じゃあ今日も張り切っていくわよ」
今日も真帆は満面の笑みでレジの前に立つ。
お客さんには真帆が学校でなにがあったかなんて知るよしもない。
それでも真帆はいつもよりもほんの少しだけ元気がよかった。
To be continued
後書き 兼 言い訳
真帆の学校の様子でした。
学校の様子は大して書いていませんね。
まあ、今回は真帆の調査をメインにおきましたので。
さて、匠の行動の原因が少しだけわかったようすですが、まだ半分といった感じ。
真相はまだ先になりそうです。
次回は区切りの150話ですが、話の都合上なにもありません(苦笑)
普通に美帆のきらめきの様子を書く予定です。