第149話目次第151話
(さて、とにかくなんとか授業をこなしていかないと……)

早くも余裕の真帆とは正反対に、美帆のほうが不安になっていた。

(授業は大変ですけど、さすがきらめきですね)

周辺地域では人気も実力もあるきらめき高校の人気の理由もわかるような気がしている。
とにかくどれもレベルが高いのだ。

(でも、私はひびきのぐらいがちょうどいいですねぇ)

それでも美帆にとってはひびきののほうが好みらしい。

(さて、放課後は夕子さんに頼まれていろいろやることがありますからね)

帰り道、美帆は夕子から色々頼まれた。
正確には帰る途中で喫茶店に寄って、いろいろ話していたときに頼まれたのだ。

(昨日はすぐに帰ったけど、今日は学校にいられそうでとても楽しみですね)

放課後のことを考えると、勉強もすこし頑張ろうという気になってきた美帆だった。

太陽の恵み、光の恵

第25部 白雪Exchange編 その6

Written by B
そして放課後。

「あ〜あ、おわったぁ!」
「そうですね。今日も無事終わりましたね」

無事に授業が終わった美帆と夕子はほっと一息ついている。

「さて、昨日も言ったけど、今日はちょっとつきあってもらうからね」
「ええ、いいですよ」
「じゃあ、その前に……」

夕子は美帆に右手を差し出す。
何かよこせ、という感じのての動きをする。

「今日もですか?」
「うん、だっておなか空いちゃって」
「バレません?」
「もう放課後だから、今来たばかりとか、何とでも言い訳できるわよ」
「そうですか……わかりました。ちょっとまってくださいね」

美帆は鞄を持たずに教室から出て行った。



そしてすぐに美帆が戻ってきた。

「お待たせしました」
「早く、早くぅ」
「そんなにせかさなくてもいいですよ……はい」

美帆が夕子の右手の上に置いたのは、メロンパン2個だった。

ずっと美帆の胸の中に隠しておいたものだというのは言わずもがな。

「しかし、おっきいパンを買ってきたねぇ」
「だって、コンビニで一番大きなの買ってきたから……」
「なるほどね、でも、それでちょうど真帆ぐらいの大きさだからちょっと悔しいのよね……」
「私も……」
「あっ、2個も食べられないから、美帆も食べたら?」
「そうですか、じゃあ頂きます……」

2人はメロンパンを食べながら教室を出て行った。



廊下をメロンパンを食べながら歩く二人。
すれ違う人は何人もいるが、美帆のことはだれも気がつかない。

「え〜と、3カ所行って欲しい場所があるからよろしくね」
「はい、わかりました」
「じゃあ、まずは……バスケ部の女子の部室ね」
「案内お願いしますね」
「まかせて!しかし、助かるわぁ。美帆がちょうど適任だったのよ。

 『占いが出来る人』『演劇がわかる人』『とにかくきら高生じゃない人』

 ちょうど、探していたところだったからねぇ」
「お役に立ててうれしいです」
「いや、役に立ってもらうのはこれからだよ!」
「あっ、そうですね」

(やっぱり、ゆかりに似てるんだけど、美帆のほうが話がわかるだけ楽だわ……)

夕子がそんなことを思う間に二人は女子バスケ部の部室に到着した。



部室に入ると、部室の中央で背の高い女の子があれこれ指示を出していた。
夕子はその女の子に躊躇なく声を掛ける。

「ヤッホ〜!奈津江ちゃん、恵ちゃんいる?」
「よお、朝日奈じゃないか?どうしたんだ?」
「いや、恵ちゃんの相談役を連れてきたんだけど」
「ああ!あれね!わかった。すぐ連れてくるね!……恵!」

女の子は部室の奥に入っていった。

「あの人は?」
「うん、女子バスケ部の次期キャプテンで私の友達」
「なるほど。ところで私に用がある方は?」
「マネージャーの女の子なんだ」



二人が話していると、先ほどの女の子がもう一人女の子を連れてきて戻ってきた。
髪の毛を束ねている大きなピンクのリボンが印象的だ。

「連れてきたよ〜」
「奈津江ちゃん、ありがとう。じゃあ、美帆。よろしくね」
「えっ?白雪さんってたしか、真……」
「あっ、言うの忘れてたね、この人は真帆の双子のお姉さんで美帆っていうの」
「初めまして、真帆がお世話になってます……」
「美帆、で、こっちが、さっきのキャプテンの鞠川奈津江。こっちがマネージャーの十一夜恵ね」
「あっ、どうも……」
「は、はじめまして……」

美帆を紹介された二人は驚いたが、夕子が普通に話を進めるので、二人は強引に納得してしまう。
簡単な挨拶?がすんだところで、本題に入る。

「美帆。実は恵ちゃんが恋愛で困ってて」
「どういうことなんですか?」
「あの〜、実は……」

恵の話によるとこういうこと。

実は恵には最近つきあい始めた彼氏がいる。
ところがその彼氏…戎谷淳と言うのだが…二枚目な上に、ナンパ好き。
彼の周りには常に女の子が集まっている。
彼はまったく嫌そうな顔をしないそうだ。

「もしかしたら、浮気してるんじゃないかと思うと夜も眠れなくて……」
「……」

(私と似てる……)

「恵ちゃんって、占いが得意なんだけど、自分の事はやっぱり無理だから……」
「そういうわけなんだ。占ってくれない?」
「ええ、わかりました……」

(私に占えるか……やってみるしかありませんね)

美帆は神妙な面持ちで、鞄から水晶玉を取り出す。
そしてテーブルに置き、手をかざす。
美帆は水晶玉の中を真剣に見つめる。

「……」
「……」
「……」

周りの3人は固唾を呑んで見守る。

美帆はカードをじっと眺めると、ようやく安心したような表情を浮かべる。

「大丈夫ですよ。彼は浮気なんてしてないみたいですよ」

「本当ですか?」
「ええ、彼は浮気をするつもりなんてまったくありませんよ」

「じゃあ、女の子に囲まれているのは?」
「それは女の子が勝手に集まっているみたいです」

「淳くんが嫌な顔をしていないのは?」
「それは、女の子を傷つけないように気を遣っているだけみたいですよ」

「本当に本当ですか?」
「そうですよ。彼はいつも一人で帰ってますから」
「よかったぁ!」

ほっと胸をなで下ろす恵。
よほど心配だったのか、大きく深呼吸をしている。



「よかったね、恵」
「うん。これで夜も眠れます」
「やっぱり、彼氏は信じるものだよね。ねぇ、奈津江ちゃん?」
「えっ?」
「そうでしょ?芹沢くんのこと信じ切ってるでしょ?」
「そ、そうだけど……ひ、朝日奈こそどうなのよ!」
「わ、私は……好雄のこと信じてるもん!」

恵を安心させたはずの夕子と奈津江だが、いつの間にか、お互いをからかい始めていた。

(やっぱり、信じることが大切なんですね……私も信じないと……)

そんな二人を見ながら美帆は一人で納得していた。



バスケの練習が始まる時間だったので、夕子と美帆は部室を後にした。

「じゃあ、次は演劇部の部室ね」
「わかりました。今度の用事は?」
「え〜と、『シナリオを見て欲しい』って言ってた」
「シナリオ?」
「うん。『友達に見せても、褒めてくれるだけで、本当の評価をしてくれない』って」
「それは私もよくわかりますね」
「あっ、もうすぐね。じゃあ、またヨロシクね!」

演劇部の部室はそれほど離れていないのですぐに到着する。



「美帆、こちらが如月美緒さん。美緒、こちらが真帆のお姉さんの美帆さん」
「どうも、初めまして……」
「こちらこそ初めまして……」

演劇部に到着した夕子はさっそく、依頼主に美帆を紹介する。
依頼主の美緒は夕子の紹介に何の疑いなく美帆に挨拶する。

「じゃあ、さっそく、シナリオを見て頂けませんか?」
「いいですよ」
「これなんですけど……」

美緒はいっぺんをホチキスで留められたA4のコピー用紙の束を美帆に渡した。

「へぇ、恋愛ものですか……」
「そうなんです、時代劇なんですけど……」
「なんかおもしろそう……」

美帆はパラパラとシナリオを見ていく。
美帆の背中越しから夕子もシナリオの中身を見ている。



「ふぅ、やっと読み終えました……」

美帆がシナリオをテーブルの上に置く。
そして大きく息をつく。
ようやくシナリオを全部読み終えた。

「どうでした?」
「大まかな展開はいいと思いますよ。私もこんな話を書きそうですから」
「そうですか?」
「ええ。ただ、やはり時代劇っぽい展開があったほうがよいかと……」
「例えば?」
「例えば、このヒロインが、親の都合で主役のライバルの許嫁にされてしまうとか」
「なるほど……」
「時代劇だからこそ出来る展開のほうがおもしろいのではと……」
「ありがとうございます。なんか違和感を感じていたのですがこれですっきりしました」

美帆は率直な感想を述べる。
やはり美帆もシナリオを書いているから、良いところ、悪いところはよくわかる。
自分が書くことを想定したことを考えながら読んでいた。
だから、美帆の言うことは美緒にはよく伝わった。



しかし、それよりも的確な事を言う人がいた。

夕子だ。


「ねぇ、美緒。チャンバラシーンってないの?」


「えっ?」
「えっ?」

「やっぱり時代劇ならチャンバラでしょ!」

「あっ……」
「そういえば……」

「テーマは恋愛ものだけど、時代劇ならこれがクライマックスにないと納得しないよ?」

「確かに……」
「そうですね……」

美緒のシナリオにチャンバラシーンは入っていなかったのだ。
美帆もテーマの恋愛の展開にばかり気を取られていたので、そこまで考えていなかった。

一方、夕子は観客としての視点で、劇の様子をイメージして見ていたので、それに気がついたのだ。

「大立ち回りが無理なら、主役とライバルの決闘みたいなのをクライマックスにすれば盛り上がるよ」
「私もそう思います……」
「花道とか作って、そこまで動いてやったらいいかもしれないよ」
「そうですね。これはうかつでした……これは参考になりました。ありがとうございました」

美緒はとても収穫があったようで大満足の表情をしていた。



部室を出た二人は最後の場所へと向かう。

「私よりも夕子さんが見れば十分だったのでは?」
「ううん、私は美帆の意見は気づかなかったな」
「そうですか。私も夕子さんの意見は気がつきませんでした……参考になりました」
「そう?そう言ってくれると嬉しいな」

先ほどから、夕子は美帆に褒められっぱなしでちょっと照れてしまっていた。



二人は校舎に戻り、校舎の奥へと向かう。

「最後はどこですか?」
「科学部の部室なんだけど……ちょっとやっかいなんだよね」
「やっかい?」
「何をするのか聞いてないのよ『実験の目的など言う必要はないわ』って言って」
「えっ?」
「だから、どういう実験なのかよくわからないのよ」
「そうですか……じゃあ、妖精さんに調べてもらいますか?」
「えっ?」
「妖精さん。奥にある科学部の部室の様子を調べてくれませんか?」

驚く夕子をよそに、美帆は何もないところに向かって話しかける。

(思いだした、美帆って妖精さんが見えるんだった……)

何もないところを見ながらニコニコする美帆を、夕子はすこし怖いような目で見ていた。



「あれ?どうしたんですか?」
(妖精さんが戻ってきたの?)

しばらくして、美帆が驚きの声をだした。
もちろん何を見ないところに声を掛けながら。

「えっ?無理?どうして?」
(妖精さんが無理だって?そもそも本当に妖精さんっているのかしら?)

「無理に入ったら死んじゃうって?どういうこと?」
(妖精さんでも死んじゃうのかな?)

「えっ?なんですかそれ?……よくわからないけど、危険だと……わかりました」
(何が納得したんだろう?)

「夕子さん?」
「はい?」

美帆と妖精さんの会話を夕子は不思議そうに聞いていたが、突然話を振られて驚く。



「あの〜、『サイコバリア』ってなんですか?」

「えっ?」



「いや、科学部の部室の周りにサイコバリアみたいなのが張られて妖精さんでも入れないみたいなんですが」

「……」


美帆の質問に夕子は絶句してしまった。



「あら。それは私が開発したバリアよ。あのバリアは誰でも何でも侵入できないわ」
「もし侵入したら……」
「間違いなく炭の固まりになるわね」
「そんな物騒なのをなぜ……」
「私の開発したのが漏れたら大変でしょ?」
「……」

科学部室内。
科学部の部長であり、科学部室の主でもある女の子、紐緒結奈は二人の質問に平然と答える。



ちなみに、結奈は美帆を見るなり一言。

「あなたが白雪さんのお姉さんね」

と紹介してもいないのに答えた。

「なんで知ってるんですか?」

の問いには、

「あなたを見れば一目で別人だとわかるわよ。それに校内の生徒のデータベースはこのコンピュータに全部入ってるわ」

と平然と答え、ディスプレイに真帆の情報を出力した。
真帆の身長、体重、3サイズから家族構成、はたまたテストの成績まででていれば信じないわけにはいかなかった。



「ところで、これは何の実験ですか?」

ちなみに美帆は結奈の言われるままに、ヘッドギアをつけられ、両腕、両足を金属製のリングで固められ、身動きできない状態になっている。

「『裏の性格』を調べる実験設備よ」
「裏の性格?」
「そう、深層心理って言えばわかるかしら?普段では見えない部分を表に出す機械なの」
「ところで、なんでわざわざきら高生以外の人が必要だったの?」
「同じ実験台ばかりやると、結果が偏る可能性があるのよ。だから実験台を変える必要があるの」

冷静に語る結奈の話を聞けば聞くほど美帆の不安は大きくなる。

「あ、あの〜……私は大丈夫でしょうか?」
「大丈夫よ。抵抗しなければ」

(抵抗しなくても、不安だなぁ……)

「本当ですか?」
「本当よ。抵抗した人はろくな結果にはなっていないわ」

(確かに……好雄もひどい目にあったみたいだし……)

結奈はスイッチがたくさんあるボードの前に座る。
そして、幾つもスイッチをONにし始める。

「じゃあ、最初は少し痛いから我慢してね」
「えっ?」
「じゃあ、実験開始」

ポチッ



ビリビリビリビリビリビリビリ!



「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜!」

美帆の絶叫は防音処置している科学部室の外をでることはなかった。



美帆の絶叫から10分後。

「朝日奈さん」
「は、はい?」
「これは、とても興味深い実験台を連れてきたわね」
「そ、そう……」
「そうよ。みればわかるでしょ?」
「……たしかに……」

結奈と夕子は美帆の方をみる。

その美帆はというと、



「もう、ヤダ〜!こんな格好して、超はずかしい!」

「それにさっきは痛くてもう、サイアク〜!」

「早く出して〜、もうムカツク〜!」



こんな調子で文句をずっと言っていた。
美帆の目は完全に普通ではない。


「たぶんこれは白雪さんの真似よ」
「真帆ってこんな事言わないけど」
「私も聞いたことはないわ。たぶん、デフォルメされた白雪さんだと思うわ」
「さすが双子ね……」

「今度白雪さんを連れてきなさい。同じ実験をするわ」
「同じ実験?」
「そう、たぶん白雪さんはデフォルメされたお姉さんになるわ」
「私もそう思う……」

不安そうな表情で見る夕子に対して、結奈は興味津々といった感じだ。



それから10分ほど、美帆は変わった性格のままにされ、ずっと結奈の観察対象にされていた。

実験後、美帆はそのときの事を全く覚えていなかった。
夕子に自分の様子を聞いたところ。

「聞かない方が美帆のためだよ」

と答えて何も教えてくれなかった。


美帆は訳のわからないまま家路につくことになった。
こうして美帆の2日目は、最後がよくわからずに終わってしまった。
To be continued
後書き 兼 言い訳

区切りの150話ですが、普通の内容になってしまいました。
美帆のきらめき高校での様子です。

美帆ときら高キャラの絡みを書きたいなぁと思って書いた回です。
1話だとこのぐらいの量が精一杯ですね。

さて、次回は真帆サイド。
いよいよ、真相に迫ってきます。

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