第150話目次第152話
「ふぅ、いい加減核心に迫らないとねぇ」

3日目の2時間目後の休み時間。
真帆の調査も行き詰まってきた。

匠本人には聞けないのはもちろん。バレると嫌なので匠の周りにも聞けない。
匠は好んで浮気をしてないというのはわかったが、それ以上はさっぱり。

「やっぱり、本人に聞かないと無理かなぁ?」

やはり、本人に問いつめるのが一番簡単で効果的だが、それが後々に響くのだけは避けたい。
だから真帆は躊躇してしまっている。

「だれか頼りになる人いないかなぁ?」

真帆は体育の授業を受けに(当然見学だが)体育館に行く途中、見知った顔に合った。

「あっ!白雪さん!……ほら、恵。ごあいさつは?」
「こんにちは!」
「光さん、こ、こんにちわ……」

制服姿の光が恵を連れて登校してきたのだ。

「遅いですけど、今日はどうしたんですか?」
「うん。恵の予防接種があって、2時間目まで休んだの。恵はついでに連れて来ちゃった」
「そうなんですか……」

美帆口調を真似て話す真帆の内心はドキドキだった。
恵は真帆をニコニコと笑顔で見つめている。

(うわっ!恵ちゃんを見てたら、なんか嫌な予感がしてきた……)

太陽の恵み、光の恵

第25部 白雪Exchange編 その7

Written by B
(あの子、私と姉さんを簡単に見分けるからね……)

3時間目の授業中。
真帆はこんなことを考えていた。


(あまり、恵ちゃんと顔会わさないようにしよう……)

恵はなぜか、美帆と真帆の区別がすぐにできる。
誰でも長時間見比べればできるし、親しい人ならすぐにでもわかる。
ところが、恵はそれほど会っていないのになぜか区別がついている。
なぜかはよくわからない。


(下手に公衆の前で私の名前を呼ばれたらたまんないわよ……くわばらくわばら)

とにかく任務を果たすまではバレないように。
このことが真帆の頭の中でいっぱいになっていた。



そして放課後。

(また、坂城くんはすぐに……あれ?)

匠はまた教室から出て行った。
しかし、今日は鞄を持ってない。

(忘れたのかな?いや、そんなことはない……これは怪しい!)

真帆の直感が働いた。
急いで真帆は匠を追いかけることにした。

(まだ、それほど離れてないはず!……あっ、あそこだ!)

真帆は匠の背中を見失わないように、後をつけていった。



ついた先は屋上だった。

(あれ?屋上?誰かに呼ばれたのかな?)

真帆はそぉ〜っと屋上への扉を開ける。
うまく音を立てずに扉が開けられた。
視界の先には匠が立っていた。
匠は金網から外をみていて、気がついてない。

(よかった。気がついてない!)

真帆は急いで、建物の陰に隠れて様子をうかがう。



(あれ?主人くんと光さんだ。恵ちゃんはどうしたんだろう?)

しばらくして公二と光が一緒に屋上にやってきた。
公二は至って普通だが、光はなぜか不機嫌そうだ。
二人はまっすぐ匠のところへ向かう。

(匠さんに呼ばれたのかな?何だろう?)

匠のいる場所は屋上の片隅。
真帆の位置からは話している内容がよく聞こえない。


しかし、その後の光景は真帆を驚かせた。



(坂城さんが何か話してるみたいだね……あっ!)

(うわぁ、光さん。ものすごく怒ってる!あんな顔初めて見た)

(坂城くんびびってる……)

(主人くんが必死に押さえてるけど、とめられないみたいね)

(坂城さん、なんか話してるみたいだけど、よく聞こえない……)

(あれ?光さん。納得したみたいね……)

(坂城さん、帰っちゃった……安心したような。気が抜けたような顔してる……)



真帆にとってはあっという間に感じた。
相談事、というよりも、匠が公二と光に説教されているようにも見えた。

(しかし、いったい何を話してたんだろう?)

真帆はその場であれこれ考えていた。



しばらくして、別の大声が真帆の耳に入ってきた。

「お〜い、連れてきたぞ〜……」
「パパ!ママ!」

ほむらと恵の声だった。
公二と光が恵のところに駆け寄る。

「恵、楽しかった?」
「うん!」
「今日は何をしたのかな?」
「あのね。いっしょにテレビみた!」
「そうかそうか。それはよかったな」
「いやぁ、今日も『ゴッドリラー』見せたんだけど、もう夢中で夢中で」
「また『ゴッドリラー』?他にないの?」
「ない」
「……」


(うわぁ、でられなくなっちゃった!どうしよう……)

真帆は焦っていた。
本当はさっさとここからでて匠を追いかけようとする予定だったが、これでは何も出来ない。



そうしているうちに、ほむらが気づく。

「あれ?白雪。なにしてんだ?」
「げっ!」

ほむらが、建物の陰から覗いていた真帆に気がついた。
公二達の視線も一斉に自分に向かう。
気がつかれた真帆も動けなくなっていた。

そして恵が真帆を指さして一言。


「あっ、マホおねえちゃん!」


「えっ?」
「えっ?」
「はぁ?」
「げっ!」

4人が同時に声を上げる。

「マホおねえちゃん!マホおねえちゃん!」


恵はニコニコ笑顔で真帆を指さす。
他の3人は恵の言うことが何がなんだかわからない。

「マホって……真帆さん?」
「真帆さんって確か、きらめきのはずだけど……」
「何言ってるんだ?」

一方の真帆。

「あはははは……」

もう笑うしかなかった。
真帆はがっくりと膝を落とす。


「?」
「?」
「?」


「あはははは……バレちゃった……」


「!」
「!」
「!」


その言葉に3人はびっくり仰天したのは言うまでもない。



「……と言う訳なの」
「なるほどね。そういうわけだったんだ」
「それなら納得だな」

バレたものはしょうがない。
真帆はこれまでの経緯を簡単に話した。

「しっかし、よくバレなかったな」
「私もびっくり。たぶんしゃべらなかった事がよかったのかも?」
「友達とかは?」
「美幸ちゃん以外とは『ちょっと体調が悪いので……』って言ってごまかした」
「なるほどね……」

3人ともある程度事情はわかっていたみたいなので、真帆の説明も納得しているようだった。



自分の話がすんだところで、本題に入る。

「ところでさっきの話はなんだったの?」
「もろにその話なんだよ」
「えっ?」

「いや、俺に頼みがあるって匠がいうから話を聞いたんだ」
「私、あまりにずうずうしいから怒っちゃって……」
「確かに俺もそう思ったんだけど……」



『ええ加減にしいや!』
『ごめんなさい。ごめんなさい……』
『光。そこまで怒らなくても……』
『だって、ひどすぎるわ!私だったら許さへんよ!』
『俺もそう思うけど……』
『あんなことしていて、お願いだなんて、ずうずうしいと思わないの?』
『わかってる!でもどうしようもないんだよぉ……』
『訳はちゃ〜〜〜んと話してくれるよね?話さないと頼みは聞かへんよ!』
『話します!全部話します!』



『ねぇ、ほんと〜〜〜うに、本当なの?』
『そうだって!信じてくれよぉ!』
『光。嘘ついてないと思うぞ。信じてやれよ』
『う〜ん。そうだね……』



『しかし、2週間近くもだからなぁ。美帆ちゃんは怒ってない?』
『怒るもなにも、もう嫌われちゃったかも……』
『えっ?』
『今週に入ってから全然顔を合わせてくれないんだよぉ……』
『本当?』
『本当だって。俺が美帆ちゃんを見ようとすると、美帆ちゃんが顔を背けちゃうんだ』
『……』
『どうしよう……嫌われちゃったら、俺、もう生きていけない……』



『もう、誠心誠意謝るしかないんじゃないの……』
『たぶん、時間はないわね。早くしたほうがいいんじゃないの?』
『わかった。なんとか謝ってみる』



「ありゃりゃ……」
「ねぇ、真帆さんって今週坂城くんと顔を合わせなかったの?」
「い、いや、顔を合わせるとバレちゃうかと思って……」
「それが、匠にとっては変に誤解されたようだな……」
「まあ、坂城くんにとってはかなりダメージになったことは間違いないみたい」
「今週ボディブローのように殴られ続けた感じかもしれないな」
「なっさけねぇよなぁ。そんなぐらいでうじうじしてるなんてさぁ」

真帆が匠と顔を合わさなかった事が思わぬ効果を発揮したらしい。



「坂城さんは、主人さん達に何を頼んだの?」
「いや、『お金かしてくれ』ってだけなんだけど。その詳細をここで聞いたんだ」
「だけってなによ。今、うちの家計は大変なんだから」
「わかってるよ。だから光を連れてきたんだろ?」
「『親しい仲にも礼儀あり』でしょ?」
「確かにそうだけど、匠の必死の頼みを断れなくてさ……」
「それがわかるから余計に怒りたくなるのよ、もう……」

「で、坂城さんはなんでお金が足りないの?」
「簡単に言うと『身辺整理』だってさ」
「身辺整理?」
「なんだそりゃ?」

つまり公二の話だとこういう事。

匠が美帆とつきあい始めたのは周知の事実。
中庭のど真ん中で、あんな絶叫の告白すれば、学校中に広まるのは当然の話。

ところがこれに納得しないひとがいた。
それは今までさんざ匠とデートしてきた上級生達。
今まで、さんざん甘えてきて、突然まったく正反対のタイプとつきあいだしたのだから。

それに甘え上手の匠に上級生達は結構おごったりプレゼントしてきたのだ。
全部取り返すというのは無理な話。
それならば……できるだけ。
先週から匠とデートしたのはそう言う魂胆だからだそうだ。

「つまり、坂城くんにおごらせてばっかり、というわけ?」
「そうみたい。だからお金がなくなったみたいなの」
「まあ、匠がおごってもらった額に比べればかなり少ない額だとは思うけど」
「なるほどね」
「匠って、今までさんざん女の子におごらさせたからさ。そのツケが最後に回ってきたってところかな?」
「ふ〜ん」
「まあ、もうデートはしないって言ってたから大丈夫だとは思うけどね」

要は最後にデートをさせろという頼みを匠が断れないでいるらしい。



「でも、そんなの突き返せないの?」
「今まで断ったことがないから、今更無理だろうな」
「そういうもんなの?」
「そうなんじゃないの?それに匠は美帆さんに昔の甘えまくりのデートの様子を知られるのを変に恐れてるんだよ」
「なんで?」
「さぁ?たぶん、美帆さんのまえでは男らしく見せたいと思ってるからじゃないの?」
「ふ〜ん……」

(これで全部のつじつまが合うわね……これで全貌がわかったわ)

真帆はすべて納得した。
今までの匠の行動を考えると、すべて理にかなっている。


「でも、ひでぇ女どもだなぁ。男にたかるなんてな」
「う〜ん。坂城くんもたかってたも同然だしね……」
「まぁ、どっちもどっちだな」
「……」



とりあえず、この問題は解決に向かっている事は確認した。

「で、真帆さんはどうするつもりなの?」
「う〜ん、今週はずっと入れ替わるって約束しちゃったから、どうしようかなぁ?」
「なぁ、あまり騒ぎは大きくしないでくれよ。生徒会でもフォローしきれねぇからな」
「わかってるわよ。静かに静かにしてるわよ」

この日は公二達親子とほむらと一緒に下校した。
下校の間、真帆は今週ひびきのに来た感想を率直に話した。
他の学校から見るひびきのについて興味があったらしく、みんな真帆の話に耳を傾けていた。

真帆は上機嫌で家に帰ることが出来た。



そしてその夜。
電話の呼び出し音が鳴った。
たまたま電話の前にいた真帆が受話器を取った。
電話は匠からだった。

「はい白雪です」
「あのぉ、ひびきの高校の坂城と言いますが……」

(やっぱり謝りの電話なんだろうね、これ)

瞬時に真帆はそう判断した。


「あっ、坂城さん。私、真帆」
「あっ、真帆さんか……あのぉ、美帆ちゃんいますか?」
「姉さんね……ちょっと待って」

真帆は保留のボタンを押す。

(姉さんにこの電話を渡せば、これにて一件落着。なのかな……)

(……)

しばらくして、真帆は再び保留のボタンを押す。


「ごめんなさい。姉さん、ちょっと出かけてるみたいなの」
「そうですか……」
「どうせ学校で会うんだから、明日学校で話したら?急な話じゃないんでしょ?」
「……わかった、そうするよ……」
「じゃあ、電話があったことだけ伝えるね」
「そう言ってくれないか?それじゃあ……」




ガチャ



「……」

真帆は受話器を置くと美帆の部屋へと向かう。


(絶対にそんなことさせない……そんな簡単に終わらせてたまるもんですか……)


部屋には美帆が机に向かって勉強していた。




「姉さん」
「なんですか?」

「明日、妖精さん貸してくれない?」
「はぁ?」
To be continued
後書き 兼 言い訳

さて、真相がはっきりしました。
まあ、こういうことです(笑)
「やっぱり」でしょ?(笑)

さて、次回は真帆ちゃんがなにかやらかします(笑)
もうわかるでしょ?(笑)

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