第151話目次第153話
美帆と真帆が入れ替わってから4日目。

玄関で、美帆は真帆に何度も訪ねていた。

「ねえ、妖精さんでなにするんですか?」
「変なことは、な〜んにもしないって……でもちょっとね」
「本当ですか?」
「本当だって」

美帆は今日、真帆に妖精さんを貸すことにした。
しかし、真帆が何をするのか不安でどうしようもない。

「間違っても……匠さんには何もしないでくださいね……」
「えっ?」
「匠さんにひどいことして嫌われたら……」
「だ、だ、大丈夫だって!心配しないで」
「そうですか、じゃあお願いしますね……」

美帆は心配そうな顔をしながらもきらめきに向かっていった。

「……」

真帆は美帆の背中が見えなくなるまで見送ると宙に向かってこうつぶやいた。




「姉さんに遠慮することないよ。徹底的にやってちょうだいね」

太陽の恵み、光の恵

第25部 白雪Exchange編 その8

Written by B
「はぁ〜……」

匠は元気なさそうに登校していた。

「早く謝らないと……」

匠自身もよくわかっている。
いい加減に謝らないといくら美帆でもキレてしまう。
それが怖くて夜もろくに寝ていない。

「怒ったら怖いからな……」

怒った時の美帆の怖さは身にしみてよくわかっている。

「教室についたらとにかく謝らないと……あれ?」


ガシャ!


「あ゛あ゛ぁ〜〜〜〜〜!」

突然匠の目の前に植木鉢が落ちてきた。
植木鉢も盆栽を入れるような大きな植木鉢。

匠は思わず奇声をあげてしまう。

「な、な、なんなんだ……」

木っ端みじんの植木鉢を見た後、匠は真上を見上げる。



真上にはマンションやアパート等、高い建物がない。



「空から……降ってきた?」

匠は思わず身震いしてしまう。

「怖い……なんかヤバイ……」



「な、なんか、嫌な予感がする……」

不安が募ったまま道路を歩いている。



プップー!



「えっ?」



ブロロロロロロロ………



「うわぁ!」


クラクションが鳴ったと思ったら、匠のすぐ真横を黒い車が猛スピードで走りさっていった。
匠は飛び退いたため、道路に尻餅をついてしまう。


「く、黒塗りのベンツ……」

しかも薄汚れたベンツ。
乗っている人はすぐに想像がつく。

「ぶつかってたら、たぶん東京湾の底……ぶるぶるぶるぶる……」

最悪の状況を考えると腰を抜かしてしまいそうだった。



「ふぅ……学校の中にいれば、安心だな……」

冷や汗ものだったが、なんとか学校にたどり着いた。
あと5メートルすれば生徒玄関にたどり着く。

「建物の中に入ればもうあんし……」



ガコン!



「ぐへっ!」


匠の頭に強烈な衝撃が走った。
あまりの痛さに匠の頭はぐらぐらしてしまう。


「はらほらひれはれ……」


足取りもおぼつかなく、フラフラ状態。
意識ももうろうとしている。


「な、なんで金ダライが……」

匠の足元には巨大な金ダライが落ちていた。



「今日は厄日だ……」

匠はフラフラながらもようやく教室にたどり着く。

「あっ、美帆ちゃんだ……うっ……」

匠の机の側で美帆が立っていた。
美帆はニコニコして匠を見つめている。

「坂城さん」
「はい?」
「話があります……放課後、屋上で待っててくださいね」
「は、はい……」



「うふふ……覚悟してくださいね……」



「えっ……」

美帆の言葉に匠は思わず鳥肌が立っていた。

「まさか……」

匠は美帆の笑顔に並々ならぬ殺気を感じ取っていた。

「こ、殺される……」

匠はぶるぶる震えていた。



(うふふ、ばれてないみたい……)

美帆、ではなく真帆は心の中でつぶやいていた。

(すごいな、坂城さん、顔が真っ青になってる)

美帆の席で匠の様子をチラチラと見る真帆。

(いい気味よ。姉さんを泣かせた罪は大きいってこと、思い知らせてやるんだから!)



お昼休み。

きらめきにいる美帆は落ち着きがない。
話を聞くにも上の空。
それを隣にいる夕子が気がつかないはずがない。

「どうしたの?」
「い、いや、真帆の事でちょっと……」
「真帆?大丈夫よ、真帆ならバレずにやってるわよ」
「そういうわけじゃなくて、妖精さんが……」
「妖精さん?」
「今日、真帆に妖精さんを貸してあげたんですが、理由を話してくれなくて……」
「そ、そう言う意味で……」
「真帆が、なにかとんでもないことを……ましてや匠さんになにかしたら……心配で」
「なるほどね……なあに、心配することなんてないわよ」
「そうですか?」
「そうだって!ちょっとは妹を信用したら?」
「そうですね、信じることが大事ですよね……わかりました」

夕子の言葉に美帆はようやく落ち着いてお弁当箱に視線を向けていた。



(真帆……美帆の彼に何かするつもりね……)

しかし、夕子は逆に不安になっていた。

(真帆って、姉のことになると少しおかしくなるんだよね……)

真帆とは色々プライベートの話もたくさんしてきた。
真帆の性格とかもよくわかっている。
しかし、姉の美帆に対する態度はよくわからない。
夕子は変に美帆のことを気に掛けているように思えた。

真帆がそれだからこそ、今、真帆は美帆を入れ替わっているのだから。

(来週、真帆に聞かないとダメみたいね……)

しかし、今週ずっと、この姉妹に巻き込まれてしまった夕子は最後まで関わらないと気が済まなくなっていた。

(でも、今はどうしようもないから、忘れよっと!)

夕子も気を取り直してお弁当に視線を戻していた。



そして、放課後。

「……怖いよぉ……」

授業が終わって真っ先に屋上に走ってやってきた匠はふるえていた。

今日は怖くて美帆の顔を見ないようにしていた。

美帆がどのように思っているかわからない、怖くて知りたくもない。



「匠さん」

「は、はい!」



そうこうしているうちに美帆がやってきた。
美帆はニコニコ笑顔だった。

(こ、怖い……)

しかし、匠はその裏に隠れている殺気を感じ取っていた。

そんな匠のことを知ってか知らずか美帆はいきなり本題に入る。



「私がいながら、よくもあんなに浮気をしてましたね?」

「い、いや、あの、その、この、そ、それは……」



「どういうつもりですか?」

「は、あ、あの、い、ま、は、はぁ、そ、その……」



「本当に私の事が好きなんですか?」

「もちろんだって!一番好きなのは美帆ちゃんだよ!」



「じゃあ、証拠を見せてもらえますか?」

「しょ、しょうこって?」



「私の事が好きなら、あそこから飛び降りられますよね?」

「えっ……」

(ここから飛ぶなんて……でも断ったら妖精さんにもっとひどい目に……)



美帆は近くのフェンスを指さす。

匠の顔から一気に血の気が引いていく。



「で・き・ま・す・よ・ね?」

「は、はい……」

(ああっ、俺の人生はこれで終わりだ……)

匠はとぼとぼとフェンスに向かう。
そしてフェンスをよじ登り始める。



(あれ……うわぁ!)

フェンスの真ん中まで登ったところで、匠の右腕がいきなり後ろに引っ張られた。


ドスン!


匠はコンクリートの床にたたきつけられる。




「いてててて……」


匠はぶつけた腰をさすりながら起きあがる。

そこには両手を腰に当て仁王立ちして、さっきとは違う怒った顔で見ている美帆の姿があった。


「その言葉、その態度、もっと早く姉さんに見せて欲しかったな」

「えっ?」

「いい加減に気がつきなさいよ……」


美帆は胸のところで縛っている髪の毛をほどいた。
美帆は頭を大きく横に振る。
長い髪の毛が後ろにぱぁっと広がる。


「まさか……」


再び、仁王立ちする、美帆。
いや、美帆ではない。
確かに似ているが美帆とは雰囲気が全然違う。
そもそも、さっきの口調は美帆は絶対にしない。
匠もようやく気づく。


「真帆ちゃん……」


驚いて再び尻餅をついてしまう匠。


「ようやく気がついたの?」

「あ、あはははは………いつから?」

「今週ずっとよ……」

「えっ?そんなに」

「そうよ。姉さん『学校に行きたくない!』って言ってたんだからね!」

「……」



本来の口調に戻した真帆は匠に説教を始めた。
匠に間を挟ませずに

「姉さん、カンカンだよ」


「でもね。それでも姉さんは坂城さんの事想ってるんだよ」


「今日も『匠さんにひどいことしないで』ってさ。何度も何度も」


「姉さんは坂城さんにまったくかまってもらえないのにだよ?」


「ねぇ、恥ずかしいと思わない?」


「一言でもいいから、最初に事情を言えば姉さんもわかってくれたはずだよ」


「それを何も言わないなんて。姉さんがかわいそうだよ」


「今晩、絶対に謝ること。いいわね?」


「はい……」

匠は意気消沈してうなだれていた。



「ねぇ、約束して。もう姉さんを泣かさないで」

「わかった、できるだけ……」

「絶対に!」

「ぜ、絶対に泣かさないから……ごめんなさい」

「もういいわよ。これ以上なにも言わないから」

真帆の口調がようやく普段の口調に戻った。
匠もお説教が終わったと感じとり、フラフラと立ち上がる。

「私はもう帰るから。匠さんもそうしたら」

「ああ、そうする……」

ニコニコ顔の真帆に対して、匠は気が抜けた様子だった。



そして、屋上へ向かう階段に戻った二人。

匠が先に階段を下りようとする。

「ねぇ、坂城さん」

「はい?」

真帆はにこにこ笑いながら一言」


「最後に……私からの……」

「真帆ちゃんからの?」




「おしおき」




どんっ!




「うわぁ!」


真帆は不意に匠の胸板を突いた。
匠は当然階段へ真っ逆さま。


「うわぁぁぁぁぁぁ……」


匠は叫び声とともに遙か下の1階まで転げ落ちていった。




「これで反省しなかったら……絶対、許さないから……」


真帆は階段をじっと見つめてつぶやいた。

そして、しばらく自分を落ち着かせるように深呼吸した。



「妖精さん、ありがとう。もう先に家に帰っていいから」


真帆は宙に向かって一言そうつぶやいた。



そしてその夜。

「結構長いなぁ……」

真帆は美帆の部屋にいた。

美帆は先ほど匠から電話が来ていて、お話中。

真帆が退屈し始めたときに美帆が戻ってきた。


「姉さん。どうだった?」
「匠さんを許しました」

「えっ?簡単に許していいの?」
「だって……あんなに泣いて謝られたら……許すしかないじゃないですか」

(ありゃりゃ、お灸が効きすぎたのかしら……)

真帆は受話器の向こうで泣きながら必死に謝る匠の姿を想像して苦笑した。

「事情も事情ですから……仕方ないですよ」
「そうなの?」
「匠さんもててましたから……相手の女の子の気持ちもわかる気がします」
「そんなもんなの?」
「なんとなくですが……匠さんも被害者なんですよ。匠さんだけが悪い訳じゃ……」

(姉さん、優しすぎるよ……でも、そこが坂城さんも惚れたのかもしれないけど)

物わかりのいい美帆に真帆はすこし呆れていた。

一方の美帆はなんとなく嬉しそう。
その理由が美帆自身から語られる。

「あと、今度の日曜日にデートに誘われました♪」
「えっ?」
「『長いこと待たせてごめん、行く場所は美帆に任せるから』ですって♪」
「本当?」
「今からとても楽しみです、どこに行こうかなぁ……」
「……」

美帆はもう自分の世界に入ってしまった。
真帆は呆れて見ているしかない。

(姉さんが元の姉さんに戻ったから……まっ、いいか)

美帆の笑顔を見てすべてを許してしまう真帆だった。
To be continued
後書き 兼 言い訳

真帆ちゃん、とうとう暴走してしまいました(笑)

原因がわかってかなりご立腹だったのかもしれません。

匠と美帆の電話ですがあえて書きませんでした。
かかないやり方もありかと。
でも、どんな会話をしているのか想像がつくでしょ?(笑)

一応、これにて一見落着?なのでしょうか。

とにかく次回は25部の最終話になります。

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