第153話目次第155話
「光」
「ん?琴子、どうしたの?」

金曜日の放課後。
授業も終わってバイトに出かけようかと思った光のところに琴子がやってきた。

「ちょっと時間あるかしら?」
「え〜と……大丈夫だよ」
「そう、じゃあここでちょっと待っててくれない?」
「いいよ」
「あと、主人君は?」
「公二はもうすぐくるよ」
「じゃあ主人君も一緒に待っててもらって」

そういうと琴子は一旦教室から出て行った。

しばらくして公二が教室にやってきた。
光は事情を話して待っててもらう。

しばらくすると、琴子が戻ってきた。
今度は一人でない。
匠、純一郎、美帆、茜が一緒だ。

純一郎が大きめの袋を、琴子が小さめの袋を二つ抱えている。

「ねぇ、琴子。それって……」


「光、誕生日おめでとう」

来週は光の17歳の誕生日。そして恵の2歳の誕生日がある。

太陽の恵み、光の恵

第26部 光と恵の誕生日編2 その1

Written by B
持ってきた袋が誕生日プレゼントだということに気がついた光は当然よろこぶ。

「うわぁ、いいの?」
「当然よ。プレゼントだって言ったでしょ?」
「ありがとう!」
「光、もらってから言えよ。もらう前から言うな」

琴子達は光の席の周りを囲むように立つ。
公二は光の後ろに立っている。

「でも、本当に私のはいいのに……」
「『私へのプレゼントはいいよ』って前から言ってたけど、長いことつきあってる私としてはね」
「みんなにお返しする余裕がないのに……」
「プレゼントはお歳暮じゃないんだから。素直にうけとれよ、光」
「うん、そうだね。ありがとう、琴子」

琴子は自分の持っていた袋を光に渡す。

「すまんな、光ちゃんが遠慮するから俺たちはプレゼントは持ってきてないけど」
「いいよ。気にしないで、私は別にいいから。お祝いの言葉だけで十分だから」
「俺が言うのも変だけど、そんなに気を遣わなくてもいいよ」
「そうか?じゃあ、公二のときも……」
「俺も同じ、プレゼントなんて別にいいからな」
「ボクもみんなにプレゼントしたいけど、お金がね……」
「それは私も同じ。だから遠慮してるの」
「プレゼントって難しいですよね……」



光は大事そうに琴子からのプレゼントの袋をじっと眺めていたが、中身が見たくなってきた。

「ねぇ、ここで開けていい?」
「いいわよ。開けてみて」
「わ〜い!じゃあ、開けるね!」

光が袋を閉じていたテープを取る。

光、公二だけでなく匠達もその様子をじっと見ている。
琴子はなぜか光の様子をみて、クスクスわらっている。

テープを取って、袋の口を開ける。
そして中に入っているものを取り出す。

「あっ……」

琴子以外の全員が絶句した。

「これって……」



「コスプレ用の犬耳と犬のしっぽよ」



「……」

平然と言う琴子に一同また絶句してしまう。

「光だったらお似合いだと思うから買ってみたんだけど、どうかしら?」
「う、うん……あ、ありがとう……」
「そう、それは良かった」

(み、水無月さん。またすごいものを……)
(ことこ〜、恥ずかしいよ〜)
(み、水無月さんってこんな趣味があったのか?)
(ど、どこで買ったんだ……)
(妖精さん。水無月さんはやっぱり妖しいですね……)
(ボ、ボクにはわからない世界だ……)

琴子以外の全員は琴子からのプレゼントに呆れていた。
いや、引いている、という表現が合うのだろうか。



しかし、それも琴子の言葉でいっぺんに変わる。


「さて、冗談はこのぐらいにして」


「えっ?」

「なにいってるのよ。プレゼントがこれだけのわけがないでしょ?」
「琴子、じゃあこれは?」
「それもプレゼントよ。でも本物はこちら」

そういって、琴子がもっていたもう一つの袋を光に渡す。

「中身を見て」
「うん、わかった……」

光は不安そうに袋を開けて中身を見る。

「あっ……」

今度は絶句しなかった。
中に入っていたのは、青色の帽子と綺麗な幾何模様がプリントされたTシャツ。

「うわぁ、これもらっていいの?」
「光に似合うかわからないけど、こういう動きやすいの好きでしょ?」
「そうだな、光にきっと似合うよ」
「琴子、ありがとう!」

素直に喜ぶ光と公二。


「あら?お礼はまだ早いわよ」


「えっ?」
「ちゃんと中を見た?」
「えっ?たしか中は……ああっ!」
「どうした?」
「あなた、これ……」
「あっ……」

袋の中をよく見ると、同じものがもう一組あった。
正確にはデザインが同じでサイズが大きい帽子とTシャツがあったのだ。

「これってもしかして……」
「夫婦でおそろいよ。光はそのほうがいいでしょ?」
「琴子……」
「光のことだから、ペアルックとか好きかな?って思ったんだけど……どうかしら?」
「うんうん!ありがとう!本当に嬉しいよ!」

光はさらに素直に喜びを表していた。

(さすが水無月さんだな。そこまでわかってるなんて)
(ペ、ペアルック……うむむむ……)
(光さん本当にうれしそうですね)
(琴子さん、すごいなぁ……)

匠達も琴子の粋な?プレゼントに関心していた。



「さて、今度は恵ちゃんへのプレゼントだ」
「えっ?恵にも?」

純一郎は持っていた大きな袋を公二に渡す。

「あっ、恵ちゃんのプレゼントは俺たちで一緒に買ったから」
「俺だと何送っていいのかわからないから水無月さんに頼んだんだ」
「みんなでバラバラにするよりも、お金を集めると大きなのが買えるんだよね」
「私たちも商品は水無月さんにおまかせしました」

「お金は5人で?」
「いいえ、八重さんに佐倉さん、赤井さんにも出してもらってるよ」
「あと真帆も一緒ですよ」
「みんな部活とかで忙しいから来てないけどね」

「みんな、恵のために……ごめんね」
「謝ることないわ。だって、私たちにとっても大切な子だから」
「こらこら、光。それだけで泣くなって」
「わかってるけど、嬉しくて……」

みんなの好意に思わずほろりとしてしまう光とそれに慌ててなだめる公二。
ほほえましい光景がそこに繰り広げられていた。



嬉しい二人だが、やっぱり中身が気になる。

「ねぇ、こっちも中をみていいかな?」
「う〜ん、できれば恵ちゃんに開けて欲しいんだけど」
「確かにそうだな。俺たちのプレゼントじゃないからな」
「俺もそうしてくれたほうが嬉しいな」
「じゃあ家に帰ってからのお楽しみにするね」
「そう、それがいいわね」

二人は見たいのを我慢することにした。



琴子がちらりと時計を見ると、体を扉の方に向ける。

「じゃあ、私たちは用があるから行くわね」
「うん、みんなありがとう」
「な〜に、たいしたことないって」
「そうそう」

琴子につられて匠達も一緒に廊下に向かう。
しかし、ふとなにか気がついた公二が呼び止める。

「あっ、そうだ。一つ聞いていい?」
「いいわよ」
「光の誕生日は月曜だろ?なんで今日くれるんだ?」
「よく考えればそうだよね……」

ごもっともの質問だ。
月曜だったら当日プレゼントしてもいいし、それが普通だ。

「ふぅ……私はちゃんと考えてるのよ」
「えっ?」
「どうせ、明日からの土日で主人君が光と恵ちゃんにとびっきりのプレゼントをしてくれるんでしょ?」
「うっ……」
「そんなのもらった後だと、このプレゼントがかすんじゃうわよ」
「……」
「メインは一番最後がいいでしょ?それだけよ」
「な、なるほどね」
「それじゃ、光。素敵な土日をね」
「……」

琴子がこう言うと教室から出て行ってしまった。



琴子達が来たときにはクラスメイトもたくさんいたが、今は光と公二の二人っきり。

「ねぇ、あなた。土日のこと言ったの?」
「ばか、言うわけないだろ?」
「まったく、琴子ったら相変わらず感がいいんだから……」
「まったくだ、いつもびっくりさせられるよ」

二人はそう話しながら教室を出て行った。

「しかし、このプレゼントどうしよう?」
「俺はまっすぐバイト先に行かないと間に合わないけど、光は?」
「う〜ん、私もスーパーに直接行かないと遅刻しちゃう」
「よわったなぁ……」
「いいよ。私が持っていくから」
「いいのか?」
「あなたは夜遅いでしょ?疲れたところでこんな荷物大変よ」
「そうか、ごめんな」
「いいっていいって。これでも私たち夫婦なんだから。助け合わなきゃ!」
「じゅあ、途中まで俺が持っていくよ」

二人は生徒玄関に到着する。
そのまま二人はバイト先に向かった。



そして、その夜7時過ぎ。

「ただいまぁ」
「おかえり、あなた!」

公二が家に帰ってきた。
公二の声を聞いて、エプロン姿の光が真っ先に出迎えに来た。
公二は光に学生鞄を渡してから、靴を脱ぎ始める。
光は公二の鞄をを胸に抱えて、公二が靴を脱ぎ終えるのを待つ。
公二が服を脱ぎ終えると、光が公二の制服のネクタイをほどき始める。
いつもの主人家の風景だ。

「ねぇ、あなた。お風呂にする?ご飯にする?それともわ・た・し?」
「おなか空いた。ご飯食べたい。光は食べたのか?」
「ううん。これから」
「じゃあ、光もご飯だろう?そんな質問するなよ」
「え〜っ、でもぉ〜、つい癖でぇ〜……」
「まあいいや。とにかくご飯ご飯。今日は光も作ったのか?」
「うん!今日は麻婆茄子作ったんだよ♪」
「ほう、それは楽しみだ」
「早く着替えて。みんな待ってるから」

こうしていつも通りの主人家の夕食が始まる。



夕食も終わり、親子3人でお風呂に入り終わった後。
公二と光は恵と一緒にアニメのビデオを見て楽しむ。

しばらくすると、恵が眠くなってくるので、自分たちの部屋に戻って恵を寝かしつける。

恵が眠り出す夜の9時ごろから、公二と光の時間になる。

恵を起こさないように静かに宿題を済ませると、二人はそれぞれ好きなものを読み始める。

公二は朝刊や夕刊を隅から隅まで見ることが多い。
光は料理や育児雑誌を読むことが多い。

それぞれ好きな事はしているが、二人の間では時々話をすることが多い。

「ねぇ、琴子達のプレゼントどうしよう?」
「明日、帰ってきてから開けようと思うんだけど」
「そうね。そのタイミングがいいかもね」
「なんか今からでも恵の喜ぶ顔が目に浮かぶよ」
「あははは。私もそう思った」
「あははは」

顔を合わさずに話をすることもあるが、たいてい二人顔を合わせて話をする。

「ところで、夕方、メイさんから恵宛に荷物が届いたんだ」
「えっ?メイさんから?」
「伝票に『プレゼント在中』って書いてあったからたぶん誕生日プレゼントだよ」
「これも明日でいいのかな?」
「まあ、生ものじゃないと思うからこれも明日までそのままにしようよ」
「そうだな。しかし、恵は幸せ者だな。こんなにプレゼントもらって」
「そうね。恵は幸せかもね」

二人は恵の寝ているベッドに向かう。
恵はすやすやと眠っている。

「幸せそうな寝顔だね」
「ああ、この寝顔を見ると、明日も頑張るぞ、って気持ちが沸いてくるんだよな」
「うん。私も、そう思う」
「この寝顔を守っていかないとな」
「そうだね」

恵の寝顔は天使の寝顔のよう。
公二と光が恵の寝顔をみて率直に感じていることだ。



「なぁ、明日は早いからもう寝るぞ」
「そうだね。明日は恵のお祝いだだもんね」
「ああ、ついでに俺たちも楽しもうな」
「うん。じゃあ、電気お願いね」
「わかった」

二人は、新聞や雑誌を片づける。
片づけが終わると、公二が部屋の電気を消すと、二人一緒にベッドに入る。
しばらくして、寝息しか部屋から音がしなくなる。

こうして主人家の一日が終わる。

至って平凡な一日。
二人が望んだ安らぎの日々。

でも明日はそんな二人にとっても大切な日。
明日は一日恵のお誕生祝いだ。
To be continued
後書き 兼 言い訳

さて第26部お誕生日編です。

第15話で1年次の光の誕生日をなぜか日曜日にしてしまったため、2年次では月曜日になります。

今回はシンプルなほのぼのらぶらぶ路線でいければと思います。
内容が内容だけに今回を含めて3話で終わる予定です。

土曜日が恵のお祝い、日曜日が光のお祝いという感じみたいです。
公二は何をお祝いするのでしょうか。

次話は恵のお祝いの話です。

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