第154話目次第156話
朝。
主人家のとある一室。

「す〜、す〜、す〜……」

主人家の天使はまだ、ぐっすりと眠っている。

「す〜……」
「恵」

「す〜……」
「恵、起きなさい」

そんな恵に優しい声がかけられる。
その声に恵は目を覚ます。

「……ん〜?」
「恵、おはよう」

「マ……マ?」
「おはよう、恵」

「お……は……よ〜」
「朝だよ。今日はお出かけだから、起きるんだぞ」

「ふぁ〜い……」

恵は寝惚け眼をこすりながら起きあがる。

今日は3人でお出かけの日。
恵の2歳の誕生日祝いだ。

太陽の恵み、光の恵

第26部 光と恵の誕生日編2 その2

Written by B
公二と光、そして恵は朝ご飯を食べた後、お出かけの服に着替える。
しばらくして準備が整う。

「じゃあ行くぞ」
「は〜い!」
「あはは、恵ったらすごく元気だね」
「朝は本当にねぼすけだったのにな」
「やっぱり楽しみなのよ」

朝、起きたときとはうってかわって、恵はかなり元気だ。
まあ、恵はいつも元気なのだが、今日は特段に元気そうだ。

「動物園って、何度も行ってるのにな?」
「恵もなんとなくわかってるのよ。今日が誕生日祝いだって」
「そういうものなのか?」
「たぶんそうよ」
「パパ〜、ママ〜、はやくぅ」
「はいはい、今行くよ!」

公二と光は恵の元気ぶりに少し感心していた。



今日の目的地は動物園。
動物園は何度も言ったことがあるが、恵はいつも楽しんでいる。
誕生日祝いということで、恵の一番お気に入りの場所に出かけることにした。

「さ〜て、今日は恵が元気だからなぁ。こっちも気合い入れないと」
「うふふ、そうね。恵、まずはどこに行きたい?」
「ぞうさん!」
「じゃあ、さっそくぞうさんを見に行こうな」
「わ〜い!」
「こら、恵。そんなに走ったら転んじゃうよ!」

今日は恵のリクエストにできるだけ答えることにするつもりらしい。

そういうわけで、さっそく象の檻にたどり着く。
一番好きな象さんをみて恵はとてもご機嫌だ。

「ぞうさんだぁ〜!」
「あはは、恵ったら大喜びしてる」
「子供って大きいのが好きだもんな。俺たちもそうだったのかな?」
「そうだと思うよ。特にあなたは」
「そうか?まあ男の子って大きいの大好きだもんな」
「わぁ〜」

恵は象さんの仕草の一つ一つに夢中だ。
親の言葉が耳に入っていないぐらい目をランランと輝かせている。

「ねぇ?次どうする?」
「う〜ん、恵が象さんに飽きるまで待つしかないんじゃない?」
「そうね。無理矢理連れて行くと不機嫌になるかもね」
「俺だって、時間がきたら連れて行きたいけど、今日は恵の誕生日祝いだからね」
「しょうがないね」

恵の後ろで公二と光は一緒に象さんの様子を見ることにした。
しばらくして、恵が「キリンさん!」と言ったので、さっそくキリンの檻に連れて行くことにした。



いくつかの檻を見たところでお昼になったので、広場に戻ってお昼ご飯にする。
今日のお昼は光が作ってきたサンドイッチ。
タマゴ、ハムとチーズ、ポテトサラダ等々、具も色々とそろえた。

「おにぎりもいいけど、サンドイッチもいいな。とってもおいしいよ」
「ありがと。初めて作ったんだけど、うまくできてよかった」
「おにぎりと比べてどっちが楽なんだ?」
「う〜ん、どっちもどっちだね」

恵はサンドイッチを静かにもぐもぐと食べている。

「しかし、最近ご飯を食べるときの恵っておとなしくないか?」
「私がしつけてるのよ」
「しつけ?」
「うん、『恵、ごはんのときはしずかにするのよ』って」
「う〜ん、確かにうるさかったけどな。でも、光。やりすぎには気をつけろよ」
「えっ?」
「大きくなっても、静かに食べるのも考え物だぞ」
「どうして?」
「考えてみろ。会話のない食卓って」
「う〜ん……そうだね。明るい食卓がいいよね」
「だろ?」
「そうだね。う〜ん、躾って難しいね……」

光の作ったサンドイッチはあっという間になくなってしまった。
それだけおいしかったのもあるし、何より外で家族3人で食べるご飯は楽しいのもあるからだろう。



「す〜、す〜……」
「ねぇ、あなた。午前中、幾つ廻った?」
「え〜と、象、キリン、ライオン、猿山……4つだな」
「えっ、それだけ?」
「俺も数えて驚いたけど、それだけ夢中だったのかもしれないな」
「真剣なあとって疲れるんだよね」
「す〜、す〜……」

おなかいっぱいで眠くなった恵は公二の膝の上ですやすやとお昼寝。
公二と光はベンチに座って、恵のお昼寝を眺めていた。

「それにしても、家族連れが多いよね」
「まあな、ひびきのときらめきから来るんだから多いに決まってるよ」
「まあ、そうよね……あれ?」

静かに会話している、2人のところに同じ年代の男の子がやってきた。

「すいません、迷子センターってわかりますか?」
「えっ?」
「いや、沙……いや、友達と一緒に来たら、迷子を見つけて……」
「その迷子は?」
「友達にあそこで見てもらってます」

その男の子は広場の隅のほうを指さす。

そこにはやはり同年代と思われる女の子が小さい子供をなだめていた。

「うわ〜ん!ママ〜、ママ〜!」
「ほらほら。大丈夫よ。すぐにママは来るからね」
「わ〜ん!」

「あなた、迷子センターの場所ってわかる?」
「え〜と、確か入場門の側にあったはずだぞ」
「そうですか!ありがとうございます!……お〜い!沙希!場所わかったぞ!」

男の子は公二達に一礼すると、すぐに迷子の子供と女の子のところに走っていった。



若いカップルが迷子の子供を連れて行くのを見送る公二と光。

「迷子ね……それにしてもなんで私たちに聞いたのかしら?」
「たまたま近くにいた親子連れが俺たちだっただけなんじゃないの?」
「親子連れ?」
「迷子センターの場所を知ってると思ったんじゃないの?」
「なるほどね……あれ?」

ここで光が何か思いだしたようでちょっと考えている。
そして、なにか思いだしたようだ。

「ねぇ、あなた。覚えてる?」
「えっ?」
「たしかこの辺りだったよね?」
「えっ?なにが?」
「ほら、小さい頃迷子になったことがあったでしょ?」
「迷子、迷子……ああっ、あったあった!」

二人とも昔の事を思いだしていた。



『ねぇ、くらくなっちゃったよ。もう帰ろうよお!』
『うん、でも、ここどこだろう?』
『ふぇ、もしかして迷子になっちゃったの?帰れないの、おうちに?』
『こっちでいいと思うんだけど。でも、みちがほそいし……』
『ぜったいだいじょうぶっていったじゃない。うそつき〜!かえりたいよぉ〜!』
『そんなこといっても……』



「二人でわんわん泣いたよねぇ〜」
「そうそう、光が泣きやまなくて困ったと「二人で〜!」」

光がふくれっ面だ。
自分だけが泣いたと思われているのが気に入らないらしい。

「お、俺は別に……あの時は光があんまり泣くからつられただけだよ……」
「あれ〜、二人で泣いたことに変わりないでしょ〜!」
「光、二人で泣いたことに変にこだわってないか?」
「いいの!」
「へいへい、参りました……ところで光、あの時、どうやって帰ったんだっけなぁ?」
「よく分かんないけどさぁ、泣きやんだ時は家だった気がする」
「その言い方……光もお気楽だなぁ」
「でもさぁ、二人一緒だったことは覚えているよ」
「あのころっていつも俺たち一緒だっただろ?」
「あっ、そうか。まあいいじゃん。恵も目が覚めたようだし、行こう!」
「あ、ああ……」

確かに恵が目が覚めたようなので、出かけなくてはならない。
でも、なにか光にはぐらかされたようで、なにか歯切れがわるい公二だった。



「さて、恵。次はどこに行きたい?」
「ペンギン!」
「恵、ペンギン好きだねぇ」
「ペンギンだいすき!」

「恵って本当にペンギンが大好きだね」
「ここに来たときは毎回喜んで見てるよな」
「あなた、ペンギン好きだっけ?」
「いや、光は?」
「私もそれほどじゃないけど……」
「好みって遺伝しないのかもな」
「そうかもね」

恵は飽きるまでペンギンを見続けいた。
今回は恵が飽きるまでその場所にいるので、公二と光はそれより前に飽きてしまっている。
しかし、それでも恵につき合うのが親としての役目だと思い、恵と一緒に見続けた。

結局、いつもよりも廻った檻の数はかなり少なかった。
しかし、恵は好きな動物が好きなだけ見られたので大満足だった。



夕方。
家に帰ってきた3人は自分たちの部屋に戻ってくつろいでいる。

ベッドで横になって軽く疲れを取ったあと、いよいよあれの出番が来る。
ベッドの下に隠しておいた二つの大きな袋を取り出して恵に渡す。

「恵、お誕生日おめでとう!」
「はい、みんなが恵にプレゼントしてくれたんだよ!」
「わぁ〜!」
「さっ、恵、開けてごらん」
「は〜い!」

恵は誕生日プレゼントとわかっているのかわからないがプレゼントに大喜びしているようだ。
恵は力任せにプレゼントの袋をこじ開ける。

「あははは、恵、すごい勢いで開けてる!」
「あははは、プレゼントと言ったら目の色変えてるのは誰かと一緒だな」
「あ〜な〜た〜、なにか言った?」
「いいえ、べ〜つにぃ〜」



恵が一つ目の袋を開けて、中身を出した。
恵の喜びの声が一段と大きくなる。

「うわぁ!」
「くまさん!くまさん!」
「これはテディベアか?」
「くまさんだぁ〜!」
「そうみたいだね」

最初に開けたのはメイからのプレゼントの袋だった。
中身は恵と同じぐらいの大きさのテディベア。
よく見ると袋があまり見かけないデザイン。
どうやら外国から直接購入したものらしい。

「すごく大きいなぁ、結構するんじゃないのか?」
「メイさんらしいといえば、メイさんらしいね」
「恵、大喜びだな」
「メイさんもこれだけ喜んだら嬉しいでしょうね」
「学校でお礼を言っておかなきゃな」

恵はテディベアを抱きしめて大喜びだ。



「さて、琴子達の方も開けないと」
「こっちは何だろう?」
「とりあえず、恵に開けてもらおうよ」
「そうだな。恵!こっちも開けてみたら?」
「は〜い」

恵はもう一つの袋も力づくで開ける。
そして中身を公二と光に見せる。

「ママ〜、ふくふく!」
「ふく?ふくって洋服か?」
「そうみたいだね」

公二と光は近くに寄って洋服をみてみる。

「確かに女の子の服みたいだな」
「白のブラウスに、黄色のスカート、それに緑の上着に赤のリボン……」
「子供服にしては地味だな」
「あれ?……あなた!これって!」
「え?これって?……ああっ!」



「やっぱり……」
「もしかして……」



「高校の制服だ!」
「高校の制服だ!」



誰がどうみてもひびきの高校の制服を恵のサイズにしたものだ。
どう考えても恵のためにわざわざ作ったとしか思えない。

「恵のための制服……」
「あれ?なんか紙切れが入ってるぞ」
「なんか書いてある。この汚い字……ほむらだ」
「こっちの綺麗な字は?」
「こっちは琴子だね」
「え〜と、どれどれ……」


『子供の成長が早いから大きめにしてあるわよ。
 恵ちゃんならきっと似合うと思うわ。
 これからも親子3人幸せにね。     琴子、他親友一同』


『和美ちゃんに頼んで特注品をつくってもらったぞ!
 これからはそれ着て学校に来い!
                      ほむら』


「……」
「……」
「ぐすっ……みんな……ありがとう……ぐすっ……」
「こら……光……泣くなって」
「嬉しくて……涙が止まらない……」

光は嬉しくて泣いていた。
公二も必死に泣きそうなのをこらえていた。

「ねぇ、あなた」
「なんだ?」
「私、恵を産んでよかった……本当によかった」
「光……」
「こんなにみんなに愛される娘を産めて……本当に幸せ……」
「俺も幸せだよ……」

公二と光は今の自分たちの幸せを感じ取っていた。



そして夜。
恵は疲れたようで、早めに眠ってしまっていた。

「もう、ぐっすり寝ちゃってるな」
「一日中大はしゃぎだったからね」
「こう満足な寝顔をみると、俺たちも嬉しいな」
「恵、今日のこと覚えててくれるかなぁ?」
「大丈夫。覚えててくれるよ」

恵の幸せそうな寝顔。
それを見ていたら、自分たちも眠くなってきたようで、あくびが自然とでてくる。

「ふぁ〜あ。なんか眠くなってきちゃった」
「なぁ、明日も早いからもう寝るぞ」
「うん!明日は久々のデートだもんね♪」
「まあ、一応俺からのプレゼントだからな」
「なんかワクワクして眠れなくなりそう……」
「あはは、遠足じゃあるまいし。じゃあ、片づけたら寝るぞ」
「じゃあ、おやすみぃ〜」
「おやすみ……」


明日は公二と光の久々のデート。
光の誕生日祝い代わりの、夫婦水入らずのデートである。
To be continued
後書き 兼 言い訳

恵のお誕生日代わりの動物園巡りでした。

あまり恵ちゃんが目立ってないなぁ。

次話はいよいよ光の誕生日祝い。
公二と光のデートをたっぷりと書く予定です。

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