朝。
「……す〜……す〜……」
「お〜い、光。朝だぞぉ〜」
「……んんっ……」
「起きろぉ〜」
「……あ、あなた?」
「こら。もう朝だぞ。起きろ」
「え〜っ……まだ7じ……」
「今日は早いって言っただろ?」
「でも……」
「いいから起きろ」
「ふぁ〜い」
昨日早めに寝たにもかかわらず光はまだ眠い様子。
しかし、今日はとても大事な日。
今日は公二と光の久々のデートの日だ。
太陽の恵み、光の恵
第26部 光と恵の誕生日編2 その3
第156話〜昼間逢引〜
Written by B
午前9時半。
はばたき市駅前の広場。
「公二ったら、今日はどうしちゃったんだろう?」
光は一人でベンチに座っていた。
「『10時に待ち合わせだ。だから先に行け』なんてさ。それに……」
光は自分の服をしげしげと眺める。
「こんな服着せてさ……それに……」
自分の左手をしげしげと眺める。
「指輪をはずさせるなんて……どういうつもりなんだろう?」
光の左手の薬指にはいつも肌身離さずつけていた婚約指輪がない。
今朝、光は公二にこんなことを言われたのだ。
「いいか。今日はこれだけは守ってくれよ。
まずは、今日一日は俺のことを『あなた』って呼ぶな。
それと、服は出来るだけ大人っぽい服を着てくること。
最後に。今日は指輪は置いていけ。いいな」
光には意味がわからなかったが、いつになく真剣だったので素直に従う事にした。
「こんな服、めったに着ないからなぁ〜……」
光の格好は白のブラウスに、黄色のロングスカート。
普段の光なら絶対に着ない、本当によそ行きの服だ。
ついでに、少しだけ化粧もしてみた。
「それに、どうも気になるよね……」
再び左手を見る光。
左手に指輪がない日というのは、久しぶりだ。
いや、去年婚約指輪を着けてから昼間はずしているのは初めてなのかもしれない。
「でも、なんかドキドキするなぁ。今日、どこに行くかまったく教えてくれなかったからね」
約束の10時までまだ時間がある。
光は周りの人を眺める。
「本当にデートの待ち合わせをしてるみたい……」
光は駅から来るはずの公二をわくわくしながら待っていた。
そんな光の耳に自分を呼び止める声が聞こえてきた。
「よう、ねぇちゃん。茶しばきにいかへんか?」
「えっ?私?」
目の前には背の高い若い男が立っていた。
コテコテの関西弁で光に誘いを掛けてきた。
「そう、そこの可愛いねえちゃん」
「えっ?えっ?ええっ?」
「何、あわてとるんや」
「い、いや、ウチ、な、ナンパやなんて……」
「ほう、ジブン関西の人か?」
「ま、まぁ。少しの間やけど……」
自分がナンパされていることに気がついて慌てる光。
それを不思議そうに見ている男性。
「なんや、ジブン、待ち合わせかいな?」
「ま、まぁ。そうや……」
「なんや、つまらへんな」
「あっ……」
ドカドカ……
光があるものを見つけて黙ってしまう。
男性はなにも気がつかない。
「どうした?待ち人来るって感じか?」
「……」
ドカドカドカ……
「どこや?そっちも綺麗なねえちゃんか?」
「こんのぉ、うわきものぉ〜〜〜〜!」
ドカッ!
男性がいきなり横に吹っ飛ばされた。
気がつくと、目の前に同じ年代の女の子が怒りの表情で立っていた。
「いたたた……な、なんや!いきなりドロップキックはないやろ!」
「なによ!これからデートだっていうのに、ナンパってなによ!」
「い、いや。これはワシのガールハントのテクニックが衰えてないか確認を……」
「そんなの必要ない!」
「い、いや、そ、そんなに怒ったらひどい顔になるで……」
「うるさい!」
ドカッ!
女の子は男の尻を思いっきり蹴り上げた。
「いたっ!わ、わかった。ワシが悪かった!」
「わかればよろしい。あっ、ごめんなさいね。この馬鹿が迷惑を掛けて」
「い、いや……」
ようやく光は声を出すことが出来た。
あまりのドツキぶりに驚いてしまっていた。
「ほら!さっさと映画にいくわよ!」
「こ、こら!耳引っ張るな!」
女の子は男の子を無理矢理引っ張って言った。
「な、なんやあれ……」
光は呆然と二人を見送っていた。
「おい、光」
その光の背中から自分を呼ぶ声が聞こえてきた。
「えっ?」
光は振り向く。
「よっ!」
そこには公二が立っていた。
「あっ……」
白のワイシャツに、黒の背広のズボン。
そして青のストライプのネクタイ。
そんな大人っぽい衣装を身にまとった公二がそこにはいた。
(公二……かっこいい……)
光は公二の姿に見とれていた。
(やだぁ、ドキドキしている……こんなの久しぶり……)
そして、光は久しぶりに感じる胸のときめきにとまどっていた。
「光。じゃあ行こうか」
「う、うん……」
公二の呼びかけに光は返事をするのが精一杯だった。
二人は駅前を出て、ショッピング街を歩いていた。
手をつなぎ横に並んで歩く。
「あのね、公二」
「どうした?」
「さっき待ち合わせしてる時ねぇ」
「待ち合わせの時?」
「ナンパされちゃった♪」
「へぇ、光をナンパする変わり者がいるんだ」
「ひっど〜ぉい!」
「あははは。冗談だよ」
「ぶぅ〜」
ふくれっ面する光。しかし怒っていないのはバレバレだ。
「でも、今の光をナンパしたくなる気持ちはわかるよ」
「なんで?」
「だって、今の光。とっても綺麗だから」
「えっ……」
公二の一言に光は顔を真っ赤にする。
(ちょっとぉ〜、照れちゃうじゃないのよぉ〜)
光の心臓はドキドキしっぱなしだった。
二人が最初に訪れたのは、臨海公園地区と呼ばれている場所にある、ショッピングモール。
大きなアーケードに囲まれており、、二階建構造の全天候型になっている。
ここにはおしゃれな店が数多く出店しており、はばたき周辺の流行の発信源とも言われている。
また、世界的に有名なファッションデザイナー、花椿吾郎がオーナーの店も出店しているということもあり、
遠くからの買い物客も多い。
二人は、そこでウィンドウショッピングを楽しんでいた。
「ねぇ、あな……公二」
「なんだ?」
「どうして、はばたきでデートすることにしたの?」
「えっ?」
「きらめきだって行く場所はたくさんあるのに……」
「きらめきとかだと、知っている人がたくさんいて恥ずかしいだろ?」
「ま、まあそうだね……」
「気兼ねなくデートしたいからさ。わざわざ離れた場所にしたわけ」
「ふ〜ん……」
手を握りながら色々なお店を見て回る。
世間話をまじえながら、話をしながら廻る。
今日は買い物が目的ではない。
だから、高そうな店も気軽に入っていく。
そのなかで、二人はあるブティックに立ち寄る。
店の中には二人と同年代、もしくはそれよりも上の女の子がたくさんいた。
ならんでいる服を見ながら話は続く。
「昔はこんなおしゃれな服ってみなかったよね」
「そうだな。こんな服着てる人ってそういなかった気がしたな」
「でも、動きずらそうな服だよね」
「まあな、おしゃれな服で運動するわけじゃないからな」
「ねぇ、私はこういう服と動きやすい服とどっちが似合うと思う?」
光は一着の服を公二に見せる。
それはグリーンのサマーニットだった。
確かに活動的な服ではない。
「う〜ん……光、それって、男には酷な質問だぞ」
「どうして?」
「気軽に聞いてくれるけど、『これは似合わないよ』なんて、なかなか言えないぞ」
「そうかなぁ?」
「匠も『絶対に似合わないけど、面と向かって言いにくかった』って言ってたし」
「ふ〜ん」
光は公二の言葉を聞くと、しげしげと持っていた服を見る。
そして自分の体にあてて、公二に見せる。
「似合わないのかなぁ?」
「俺はスポーティな服の方が似合うと思うけどな」
「やっぱりね……」
「でも、大人になったらきっと似合うようになるよ」
「そう?今の私も十分オ・ト・ナだと思うけどなぁ?」
「どこが?」
「だって、あなたとあんなことやこんなことも……やだぁ、エッチ!」
「俺は何も言ってない。光が言ってるだけだろ」
「あっ……」
光は顔を真っ赤にしてしまう。
「はずかしい……」
光は持っていた服で顔を隠してしまった。
結局、午前中はウィンドウショッピングを満喫した。
ウィンドウショッピングとはいっても、それでもアクセサリを一つ買った。
「ねぇ、いいの?買ってもらっちゃって」
「いいって、いいって。せっかくいいのが見つかったんだから」
「ありがと。大切にするね」
光の胸元にはさっき買ったばかりのネックレス。
ハートにかたどられたシルバーの飾りが光っていた。
「でも。こういうのってなんか照れくさいね」
「そうか?」
「うん。やっぱりこういう格好しているからかなぁ?」
「こういう格好だから、似合うんじゃないか」
「そうかもしれないね」
ちょっと大人っぽい格好をした二人。
端から見ていたら高校生には見えない人もいるかもしれない。
「なぁ、そろそろお昼にしないか?」
「えっ?ちょっと早いんじゃない?まだ12時なってないよ」
「ちょっと早めにしないと、どこのお店も混んじゃうだろ?そういうこと前にもあっただろ?」
「そうだったね。うん、じゃあお昼にしようね」
「ああ、確かここのショッピングモールに人気のイタリアンの店があるらしいからそこにしない?」
「イタリアンかぁ……いいねぇ!そこにしよう!」
「じゃあ、決まりだな」
そういうわけで、二人はイタリアンレストランでお昼にすることにした。
ショッピングモールの片隅にあるイタリアンレストラン。
ションピングモールのイメージに一致しているおしゃれな店で、味も評判がいい。
いつもは待つことも多いこの店だが、今日はまだお昼には早いらしく、待つことなく入ることができた。
「いい雰囲気のお店だね」
「そうだな」
「ねぇ、このお店、どこで知ったの?」
「いや、本屋のグルメ関係の本を立ち読みして調べたんだ」
「へぇ〜、本にも載ってる店なんだ」
「あとは……実は舞佳さんからも聞いたんだ」
「えっ?舞佳さん?」
「あちこちにバイトするからこういうお店の事も知ってるかな?って思って聞いたんだ」
「聞いたら?」
「やっぱり、色々教えてくれたよ」
ちなみに、光には話していないが、公二と舞佳はこんな会話をしている。
『あの、舞佳さん。はばたきでおすすめの食べる店って知ってます?』
『はばたき?親子三人でお出かけでもするの?』
『そうじゃなくて、実は光とデートをするつもりで……』
『デート?高校生のデートならファミレスでも十分よん。大事なのは雰囲気よりも会話よ、それに……』
『い、いや、雰囲気が必要なんですよ』
『どうして?』
『実は光の誕生日祝いなんですが……』
『ふ〜ん、主人くんもなかなかねぇ。はぁぁ、ダーリンもそういうのを大事にしてくれてもいいのになぁ』
『そういうわけなんです。だから……』
『わかったわ。それなら、あそこのイタリアンがいいらしいわよ』
『あそこって?』
その後、舞佳はいくつか候補をあげて教えてくれてた。
そのなかで公二が選んだのがこの店だ。
二人はさっそく注文をして、料理が来るのを待つ。
「ねぇねぇ。この後はどうするの?」
「近くに水族館があるから、そこに行こうと思うんだけどどう?」
「水族館かぁ。久しぶりだなぁ」
「じゃあ、いいかな?それからはきらめきに戻ってからのお楽しみだな」
「ええっ〜」
「そう言うなって。こういうのは楽しみにするのがいいんだろ?」
「ま、まあそうだね。じゃあ楽しみにするね」
「ああ、そうしてくれ」
しばらくして注文の品が来たのでさっそく頂くことにする。
公二はトマトとチキンのスパゲティとグレープフルーツジュース。
光はカルボナーラとオレンジジュース。
二人とも味の良さに表情もよくなる。
「おいしいね」
「これはおいしいな」
「量もちょうどいいし、味もおいしいし。人気があるのもわかるよ」
「男にはちょっと物足りない気もするけど、結構な量だとおもうな」
「来て良かったね」
「ああ、選んだおれも嬉しいよ」
おいしいイタリアンに満足の二人。
デートはまだまだ続く。
To be continued
後書き 兼 言い訳
公二と光のデートの前半です。
1話ですまそうと思ったのですが、非常にながくなったので2話に分けました。
今回は午前中のデート。
ほのぼの感をだそうとおもったのですが……
はばたきのどつき漫才のウェイトが高すぎ(笑)
でもこういう展開もあるのかな?と(言い訳)
さて、次話はデートの後半。
おもいっきりラブラブ話かなと。