第158話目次第160話
「ひまだなぁ〜」
「そうッスねぇ〜」

放課後のひびきの高校生徒会室

「あつくなってきたなぁ〜」
「ほ〜んと」
「クーラー入らねぇかなぁ……」
「無理ですよねぇ〜」

グラウンドや体育館は部活で熱気にあふれているのに、ここだけはどんよりとした空気で満たされている。
いい年をした女の子二人が、二人横に並んでテーブルに伏せているようにしている。

「あれ?校長には言わないんッスか?」
「言ったよ。そしたら『夏は暑いのがあたりまえじゃ!』だって」
「あ〜あ、だめなんだ……」

生徒会長、赤井ほむらと風紀副委員長、藤沢夏海は、仕事がたまっているにも関わらず、そういうことはすっかり忘れて、ぼぉ〜っと窓からの景色を見つめていた。

「でも、平和だよなぁ」
「だよねぇ〜」


「こらぁ!そんなわけないでしょ!」


スパン!
スパン!


いきなり二人の頭に打撃がくわえられた。
しかも勢いで頭を机にぶつけられる。

頭を抑えながら二人が振り向くと、風紀委員長、橘吹雪がハリセンを持って仁王立ちしていた。

「いたっ!こら!なんだよそれは」
「これ?これは駅前の100円ショップで買ったの……ってそういう話じゃなくて!」
「じゃあなんだ?」


「また、あの不良連中が校門前でたぶろしているのよ!」

太陽の恵み、光の恵

第27部 "乱れ桜"花桜梨・復活編 その2

Written by B
吹雪が窓から校門の方向を指さす。
ほむらと夏海がその方向を見ると、確かにあきらかに不良と思われる学ランの不良が3人ほど立っている。
校門に隠れて校内をチラチラ伺っているようだ。

その向こうをみるとおなじグループと思われる不良がタバコを吸いながら何やら話をしている。

「またか……」
「もう2週間ぐらい来てませんか?」
「一言も二言も注意したいけど、あの人数じゃちょっと……」

椅子に背中をもたれたまま、表情を暗くするほむら。
窓の枠に顔を乗せ、すこし呆れた表情をする夏海。
腕を組んで困った表情をして立っている吹雪。

3人とも表情、仕草は違うが、やっかいな問題だということでは認識が一致している。

「ねぇ、あなた会長でしょ?なんとかしてくれない?」
「あの人数はあたしでも無理だ」
「あたしたち3人でもちょっとねぇ……あれ?」
「夏海、どうしたの?」


「校長が校門に向かってる!」


「なんだって!」
「なんですって!」

夏海がグラウンドの一カ所を指さす。
ほむらと吹雪が驚いてそこをみると確かに校長が校門に向かって歩いている。

なぜかハンドスピーカを持って。



「和美ちゃん。なにするつもりだ?」
「あの不良と話でもするつもりかしら?」
「それだったら……」
「……」
「……」

3人はお互いを見合わせると、両手で耳をふさいだ。



3人は手の向こうから『爆・裂・山』という声がわずかに聞こえてきていた。



校門の前には大の字に倒れている不良達。
グラウンドには、突然の出来事にフラフラとなっている運動系の部員達。
なかには倒れている人もいる。

そんななかで、平然と校舎に戻っていく校長。

「どうやらおさまったようね」
「ああ……一応な」
「……」

手を耳から離した3人はほっとした表情をお互いに見せる。

「しかし、何話してたんだろうな?」
「不良達と校長で何か会話はあったみたいだけど」
「そして『てめぇ、いったい誰なんだ?』って聞いちゃったんだろうね、たぶん」
「そうだけど……なに話してたんだ?気にならないか?」
「確かに気になるわね」
「あたしも」

3人は誰とも言わずに立ち上がり、扉に向かう。

「やっぱり和美ちゃんに聞いてみるか」
「それが一番ね」
「解決策も見つかるかなぁ?」
「わかんねぇや、とにかく話を聞いてからだな」

3人は校長室に向かうべく生徒会室を出た。



校長室前。

3人を代表してほむらが扉をノックする。

「だれじゃ?」
「和美ちゃん、あたしだ。入っていいか?」
「うむ、いいぞ」



ガチャ



ほむらがドアノブを回し、木製の重厚な扉を開ける。

校長は両膝を机につき、両手を自分の目の前に組み、なにやら思案しているようだった。

3人は校長の机の前に横に並んで立つ。
左から、吹雪、ほむら、夏海という並び。

「なあ、さっきの不良どもと何話してたんだ?」
「いや、たいした話じゃない。『人捜しだ』とか言ってた」
「その割には大人数で物騒みたいですけど?」
「わしもそれ以上は聞いてないからわからん」
「まぁ、不良達って大人数って場合が多いのよね」
「そういうことかもしれないな」

3人の質問に校長はそっけない返事をする。
顔も3人の方を見ていない。
まっすぐ何か考えているみたいだ。

「で、あいつらは明日も来るのか?」
「どうだろう。注意しているから、当分はこないじゃろ」
「そうですか。それなら大丈夫かもしれないなぁ」
「まあ、心配するな。来たらまた儂が注意する」
「それは助かります」
「儂が話せることはこのぐらいじゃ」

そこで話は終わった。



再び生徒会室。

校長室から戻った3人は家路につくべく荷物をまとめていた。

「とりあえず、生徒会としては何もせず……でいいのか?」
「それしかしょうがないんじゃない?」
「今度来たときに考えましょうよ。今日のことは」
「まっ、そういうことなんだろうな」

とりあえず、今日のところはこのことはこれ以上考えないことにした。

しかし。

(今日はなにもなかったけど……これでいいのかなぁ?)

(でも、あの不良達……誰を捜してたのかしら?)

(和美ちゃん……なにか隠してるな……まちがいない)

3人はそれぞれ胸になにかつっかえたまま下校することになった。



3人が去った校長室。
爆裂山校長はまだ思案に暮れていた。
窓からの景色が水色から赤に、そして深い青に変わろうとしているのに、明かりをつけず、そのままの姿勢で。

「九段下君からの話はこういうことか……」

爆裂山は神妙な顔のまま立ち上がった。
まずは壁のスイッチを押して部屋の明かりをつける。
そして、棚から一冊のA3サイズの黒いバルキリーファイルを取り出し、机に戻る。

そして、そのなかの1ページを開いて広げる。

「入学したときはこれとは別の件が問題だったはずじゃが……まさかこっちがくるとはな……」

ファイルは見開きで履歴書のような形式のペーパーが綴られている。

そこにはびっしりと過去の経歴等、その個人に関する情報が書かれている。

爆裂山はそのファイルをじっと見つめ、思案にふけっていた。






そのバルキリーファイル。

背表紙には、

「要注意入学者リスト」


そして今見ているペーパーの氏名欄には、

「八重 花桜梨」


と書いてあった。










翌日の放課後。

校長室には爆裂山が一人で椅子に座って窓から部活の様子を眺めていた。



コンコン



扉のノックの音に爆裂山は体を反転させる。

「だれじゃ?」
「2年D組の八重です」
「わかった。入りなさい」



ガチャ



「失礼します」

入ってきたのは花桜梨だった。
花桜梨は今朝、クラス担任を通じて放課後来るように言われていた。



花桜梨はすこし緊張した面持ちで校長の机の前に立つ。

「部活があるのにすまないな」
「いえ、大丈夫です」

花桜梨は何を言われるのだろうかという、少しおびえているようにも見える。

「では、さっそく本題にはいろう。八重君」
「はい……」

爆裂山はまっすぐ鋭い視線を花桜梨に突きつける。
花桜梨は不安を隠せない。



「君は誰に狙われているのかね?」



「!!!」



花桜梨の顔が一瞬にして変わった。
校長をなにか猛獣をみているかのような、おびえた表情で見つめている。
体が後ろに倒れかかり、なにか逃げるような体勢になっている。
なにより、足が少しずつ後ずさりしている。

今すぐにでもこの場から立ち去りたいのがもうみえみえである。



「どうかね?」


「……」


花桜梨は何も言わずに体を反転させた。
そしてそのまま扉のほうに歩きはじめた。


「待ちなさい!」


「……」


校長の一言で花桜梨の足はとまった。
頭はうつむいたままで振り返らない。


「質問に何も答えずに立ち去るのはよくないぞ」

「……」

「それに儂は八重君のことを責めるつもりはない」

「……じゃあなぜですか?」

「儂は校長だ。生徒を守るのが役目じゃ……それだけだ」

「……私のこと……知ってるんですか?」

「ある程度はな……まあ、うちの一文字君が関わってることもあるしな」

「……」

「その事については、何も聞かない。聞いてももうしょうがないことじゃ」

「……」

「それより、儂は今の八重君が心配じゃ。で、どうなんだ」


爆裂山は低い声ながら、やさしい口調で花桜梨の背中に語りかける。
花桜梨は動かない。
爆裂山もなにも言わない。


沈黙が走る。




「……助けて」


「ん?」


「……助けて……ください」


弱々しい声で、花桜梨が口を開く。
つぶやくように、弱々しく、爆裂山にわずかに聞こえるぐらいの小ささで。


「もう……嫌なんです……」


「なにがじゃ?」


校長の問いに、花桜梨は振り向いた。

振り向いた花桜梨はおびえた子猫のような弱々しい表情だった。
両手を胸の前で組み、訴えるかのような口調で花桜梨が思いの丈をはき出す。





「もう嫌なんです!

 もう、闘いたくないんです!
 なんの意味のない闘いなんてもうしたくない!
 私は、普通の生活がしたいんです!

 それに、もう友達を裏切りたくない!
 友達をこれ以上隠すのが辛いんです!

 でもどうしたらいいのかわからない!
 お願いです!
 助けてください!

 お願いです……助けて……」





花桜梨の切実な想いが校長室に響き渡っていた。
To be continued
後書き 兼 言い訳
花桜梨の過去ぐらいは校長は事前情報として把握しているような気がします。
でも、だからといって、それでなにか差別するような校長ではないんですけどね。

さて、次から事態が急展開する予定です。
今部のキーとなる茜ちゃんが中心になるのかな?
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