第162話目次第164話
翌日。

授業は至って平穏だった。

いたって普通な授業。
いたって普通なお昼休み。
いたって普通な学校。

そして放課後。

「あれ?茜さん、どこに言ったのかしら?」

花桜梨が気がつくと茜がいない。
隣の子に聞いてみる。

「ねぇ、茜さん見なかった?」
「茜ちゃん?今日は用事があるとかいって、走って帰ったけど」
「そうなんだ……あっ、ありがとう」

これが、平穏とはかけ離れた放課後の始まりだった。

太陽の恵み、光の恵

第27部 "乱れ桜"花桜梨・復活編 その6

Written by B
ひびきの神社。
ひびきの市で一番大きな神社である。

広いだけあって、人気のない場所も結構ある。

そんな神社の片隅の人気のない場所に茜は一人でいた。

「たしかここだよね……」

茜はもらったメモを片手に一人その場所にいた。

「時間ももうそろそろだし……でも人の気配がないなぁ……」

腕時計と周りを交互に見ながら、おととい知り合った人の姿を探す。



「茜さん」
「あっ!いた!」

前から昨日出会った女性が現れた。

おとといと同じように制服で現れた。

「よくきたわね」
「うん。で話はどこで?」
「そうね、ここじゃなんだし、あそこのベンチにでもいきましょうか?」
「うん。じゃあ行こう!」

女性が指さしたベンチに向かおうと、振り向き、女性に背中を向けた瞬間。



がばっ!



「……な、なにを……」

突然女性に羽交い締めされる。
突然のことで茜は動けない。



「お兄さんに教わらなかった?敵に背中を向けてはいけないって」

「!!!……ど、どういうこと……ま、まさか!」

「もう、遅いわ……」

「きゃ!」


いつの間にか両手と両足を別の手によってがっちりと捕まれていた。
茜が後ろを見ると、4人の別の制服を着ていた。
髪の毛は金や銀や緑や茶など色々な色で染めていた。
制服もスカートが長かったり、チェーンがぶら下げてあったりまともではない。

茜は本能的に敵だと察知したがもう遅い。
茜の両手両足はまったく動かない。
動かそうとするがびくともしない。



「うふふ……簡単にひっかかったわね……」

女性は茜の前に立ち、腕を組んで仁王立ちしていた。
顔は今まで見せた優しい顔ではない。

明らかに敵意むき出しの鬼の表情だ。

「いったい何の目的だ!ボクをどうするんだ!」

「あなたは……そうね……『餌』ね……」
「餌?」
「そうよ。獲物をおびき出すための餌……」
「どういうことだ!」

女性は手を後ろに回し、その場を廻るようにしていた。

「そうね……簡単に教えてあげるわ」
「何をだよ」
「これからの予定よ……

 これから、あなたを人質に獲物を脅迫するのよ。
 『茜さんを返して欲しければ一人で来い』ってね。

 来た先には100人の武器持参の猛獣達が待ちかまえているわ。
 そこで獲物を袋だたき。

 これで私の復讐は完成するわ」

勝利はもはや手の中にあると言わんばかりにこれからの計画をとうとうと語る女性。
口調は勝ち誇ったようだ。



「それにしても。あなたはいったい誰なんだ!」
「そうねぇ……あなたと同じ目的をもつ人って言えばいいかしら?」
「ボクと同じってどういうことだよ」
「あなたのお兄さんをヤッた人を恨んでいるってことよ」
「なんだって……」
「どのぐらいかというと……このぐらいね!」



ぼふっ!



「うっ……」

いきなり女性は右膝を茜の腹めがけて蹴り上げた。
ガードが出来ない茜はその衝撃をもろに受けてしまう。

「このぐらい……このぐらいじゃすまないわよ!」



ぼふっ!ぼふっ!



「ううっ……」

何発も何発も膝を茜の腹にぶち込む。

茜は女性の膝蹴りをただ受けとめていた。
顔は苦痛にゆがんでいる。



しかし、突然その膝蹴りが止まる。

「さて、ウォームアップも終わったし、さっさと寝かせるよ」
「はい……」
「いったい何を……うっ……」

茜の口に後ろからガーゼが当てられた。

「クロロホルムよ。暴れると困るから眠ってもらうわよ」
「な……な、に、を……」

クロロホルムを吸った茜は意識が段々と薄れていく。


「あっ、そうだ。約束は果たしておくわね」
「な……に……を……」


「あなたの仇の名前よ……それはね……」


(なんだって……そんな……ば……か……な……)

薄れゆく意識の中で最後の名前は完全に頭に入った茜はそれで意識を失ってしまった。
茜には驚く時間も与えられなかった。
全身の力が抜け、人形のようにその場に崩れ落ちてしまう。



「総番長!大変です!」
「なんだ!大慌てでいったいなんだ!」
「そうだよ!落ち着いて話なさいよ!」

一文字邸
茜の見張りをさせた薫と舞佳はそこで待機していた。
何も連絡もなく、問題ないと思っていた矢先に手下の不良が飛び込んできた。

「なんか、けったいな武器を持ったスケ番連中がたくさん歩いているんですよ!」
「そんなのよくあることだろ。それがどうした?」


「そこに姐さんが連れられていたんですよ!」


「なにぃ!」
「何ですって!」
「ええ、何かで眠らされているらしくて、3人に肩に担がれて連れられてました」
「本当なんだね?」
「はい!あの髪型と出で立ちは姐さんで間違いありません!」

「で、その連中はどこに行った!」
「場所は今他の奴がつけてます!ただ、方向からして……」
「方向からして?」
「もしかしたらひびきの高校に向かっているのではと……」

「!!!」
「!!!」

不良の報告に薫と舞佳は顔を見合わせる。

「もしかして……」
「たぶん茜をだしにして、花桜梨さんを呼び寄せるつもりだわ」
「なんで……」
「復讐よ。花桜梨さんへのね。たぶん、茜ちゃんとの関係を知ってのことだと思うわ……」
「許せねぇ……おい!連中を集めて学校に行くぞ!」
「はい!」

不良は飛び出るように一文字邸から走り去った。


そして薫と舞佳がゆっくりと立ち上がる。

「舞佳、行くぞ……」
「ええ、私もいくわ……」
「舞佳、八重とのこと、茜に話さないといけなくなったようだな……」
「それだけは避けたかったけど……もうダメね……ううん。もう知ってしまったかもね」
「茜はショックかもしれないな……」
「………」

今後の事を考えると気が重くなる2人。
それでも立ち上がり、学校に向かうべく一文字邸を出て行った。



ひびきの高校の校長室。
校長室にバレー部のユニフォームの花桜梨が飛び込んできた。
校内放送の呼び出しに何かを感じた花桜梨は走ってここに来たのだ。

校長室にいた校長は重苦しい雰囲気に包まれ、校長も暗い顔をしていた。

「校長先生!いったい何が」
「……八重くん……すまん……」
「校長!いきなり頭を下げられてもわけがわかりません!」

頭を下げる校長を見て、意味がわからない花桜梨

「ついさっきだ……近くの高校の女生徒がこの校長室にいきなりやってきてこれを置いていったよ」
「えっ?」
「どうやらまっすぐここに向かって来て、さっさと帰っていったみたいだ」
「………」
「とにかく見てくれ……」



校長は花桜梨に一枚の紙切れを手渡した。

「こ、これは……」

紙切れにはこう書かれていた。

『ひびきの高校にいる八重花桜梨に告ぐ。

 一文字茜は預かった。

 返して欲しければ、校庭の中央で1人で待っていろ。

 こっちは100人引き連れて参上してやる。

 全校生徒の前でさらし者にしてやるから覚悟しておけ』

そして紙切れの最後には昨日黒幕とみた、花桜梨の中学の知り合いの名前が書かれていた。



「すまない……手遅れだったみたいだ……」
「………」
「たぶん、もうすぐここに来ると思う」
「………」
「いくら儂でも100人は無理だ……」
「………」

校長室は沈黙と重苦しい雰囲気に包まれる。

校長は頭を抱えている。
花桜梨は紙切れを持ったまま動かない。



しばらくして花桜梨が沈黙を破った。

「わかりました……これに従います」


「八重くん!」


「校長先生。校庭から生徒を避難させてください。
 あと、校門から出ないように、校内放送で流してください。
 とにかく、争いに関係ない人を巻き込ませないようにしてください」

「わ、わかった……」

「あと……警察は呼ばないでください。先生達も手をださせないでください」

「八重くん……まさか……」

「私一人で決着つけます……もう二度とこんな真似をさせないように……」

「………」

校長は無茶だと思った。
しかし花桜梨の真剣な表情にさすがの校長も何も言えなかった。



「無理だけはしてはいかんぞ……」
「ありがとうございます、校長先生……」
「もう行け」
「はい……」

花桜梨は校長室の扉に向かう。
そして扉を開ける前に、校長に顔を向ける。

「最後にいいですか?」
「なんだ?」



「学校の決定には従います……

 校長先生も私をかばわなくてもいいです……

 覚悟は決めましたから……

 校長先生。

 総番長だった私を黙って1年と4ヶ月いさせてくれてありがとうございました。

 このご恩は一生忘れません。

 さようなら……」



「八重くん!」



バタン!



校長が呼び止めようとしたが、花桜梨は校長室から出て行ってしまった。


「八重くん……君は……」

校長が最後に見た花桜梨の瞳は涙で濡れていた。
To be continued
後書き 兼 言い訳
とうとう茜が捕まってしまいました。

そして花桜梨についに脅迫文。
花桜梨も覚悟を決めたようです。

次回から遂に闘いが始まります(たぶん)
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