第163話目次第165話
ひびきの高校校庭

放課後なのにもかかわらず、とても静か。
校庭にはど真ん中に一人きり。


花桜梨は制服姿で校庭に立っていた。


「来たわね……」


校門から大集団がやってきた。


木刀やらチェーンやら竹刀やら色々な武器を持ったスケ番達がぞろぞろと校庭に入っていく。
そしてスケ番達は花桜梨から10mほど離れたところで円状に取り囲む。


脅迫状のとおり100人、いやそれ以上はいるかもしれない。
全員が獲物を狙う目で花桜梨を鋭く見つめている。
しかし、花桜梨は全く動じていない。


そして全員取り囲んだところで、リーダーの女性は木刀を片手に花桜梨の目の前にやってきた。
2人の間は2メートルほど。


「花桜梨、久しぶりね」
「本当に久しぶりね」


簡単な挨拶。
しかし2人の間には火花が飛び散っていた。

太陽の恵み、光の恵

第27部 "乱れ桜"花桜梨・復活編 その7

Written by B
「花桜梨、どう?昔を思いだした?」

木刀で肩を軽く叩きながら、花桜梨の目の前のリーダーが言う。
なれなれしい言い方で、花桜梨を挑発しているようにも聞こえる。


「ええ……とてもよく思い出させてくれたわね……」
「そう、それはよかった……」

うんうんと首を上下に揺らすリーダー。
表情はとても誇らしげだ。



「さて、聞かせてもらうかしら?」
「あら?何の事かしら?」
「しらばっくれないで……どうして、こんなことしたのか」
「言う必要あるの?」
「あるわよ!あそこまでしておいて、私を呼ぶ理由を聞く権利ぐらいあるわ!」

花桜梨はリーダーの後ろの木を指さす。
そこには未だ眠ったままの茜が木に縛り付けられていた。
花桜梨を囲っている間に、縛り付けたのだろう。

「そんなに知りたい?」
「知りたいわよ!」
「わかったは。じゃあ教えてあげるわ……」
「………」



「……花桜梨、あなたが憎らしい……今のその花桜梨が憎たらしい……それだけよ」


花桜梨を見つめる視線が鋭いものに変化する。
明らかに憎悪の視線、表情をしている。



「あなたのその格好。その表情……
 なんで普通なの?
 なんで普通にできるの?

 私はあなたが突然総番長の座を降りて、あの街からいなくなってからどうだったか知ってる?

 堅気に戻ろうにも周りの不良達に目をつけられて戻れない。
 それ以前に、学校のクラスメイトや近所の人は私を偏見の目でしかみてくれない。
 戻りたくても戻れなかったのよ!

 さらに頂点を狙う力は私にはない。

 結局、私も転校しないと居場所がなかったのよ。
 でも転校した先も周りの目が冷たくて、結局不良になってしまい、しばらくして転校……

 5年近くもその繰り返しよ!」

「………」

「そして、ここでそれなりの地位を築いたちょうど1年前。あなたの姿を見つけた。

 最初は同姓同名だと思った。
 だって、総番長までやった女が普通に暮らすわけないじゃない。
 そう思ったけど、違ってた。

 2月頃かしら。あたしと対立関係のスケ番グループの幹部がそろって病院送りの事件を聞いたわ。
 結局犯人は見つからなかったけど。

 ……犯人はあなたでしょ?」

「そうよ……私よ……」

「やっぱり。
 それを聞いて、間違いないと思った。

 ……そして、あなたが憎くなった。

 私は5年も堅気に戻れず、権力もつかめず中途半端に暮らしてきた。

 それなのにあなたは何?

 普通の高校生として暮らして。
 普通にバレー部で活躍していて。
 たくさんの友達も持っていて。
 昔のことなどまるで別人の仕業かのように普通に暮らしている。

 どうしてなの?
 どうしてそんなことができるの?

 それからね……あなたへの憎しみが強くなり出したのは……」

「………」

「私はあなたが憎い……
 あれだけのことをしでかして、普通の生活に戻れている花桜梨が憎い……

 私はあなたの生活を滅茶苦茶にしたかった……今の私のように……」

「………」



「それからあなたの周辺を調べたわ。
 そうしたら、あなたの友達があの一文字薫と一緒にいるのを見つけたわ。
 会話からしてそいつの妹だと確信した。
 そして、あなたとの事は知らないと直感した。
 そしてじっとチャンスを狙っていた……」

「私の話をネタにおびき寄せ、誘拐。
 つまり、私を逃げられない状態にする。

 そして、私の過去を全校生徒にこういう形で暴露する。

 ついでに、私を潰す……

 こういう事かしら?」

「その通りよ。
 後ろを見てみなさいよ。

 窓という窓から野次馬がいっぱいよ。

 みんなあなたを見ているわ。

 みんながあなたの過去を知ることになるわ。

 ……もう、あなたには近寄らなくなるわね……」

花桜梨は後ろを向く。
あちこちの教室から野次馬が集まって校庭に視線が注がれている。
しかし、騒がしい気配はない。
緊迫した空気が学校の建物から伝わってくる。
じっと黙って見つめている。



リーダーは完全に勝ち誇った表情で言い放つ。

「さぁ〜てと、じゃあ、観客がいることだし、あなたの紹介でもして「ふざけんな……」」
「えっ……」

花桜梨がリーダーをにらみつけた。
先ほどまでの普通の表情から初めて表情が変わった。
怒りの表情を見せていた。

「なによ。その勝ち誇ったような顔しやがって……

 私がみんなに過去が知られてショックを受けてると思ってるの?

 なめんじゃないわよ……

 あなたの脅迫状をもらったときにはあなたの意図はわかっていたわよ。

 そしてここにいたときには覚悟決めてるわ……

 私はもうここにはいられない……

 それならば……あなた達を徹底的にたたきつぶす……

 自分の過去ぐらい自分で言ってやるわよ!」

「な、なんだって……」

花桜梨がリーダーにはき出すように言い放つ。
その気迫にそのリーダーも周りの人も一歩、二歩と引いてしまう。



校庭に沈黙が走る。
校舎からも全く音が聞こえてこない。
学校中が沈黙に包まれる。

花桜梨は校舎を一瞥する。
そして周りをにらみつける。
周りの人はさらに一歩二歩と後ずさりする。

そして学校中に聞こえるように花桜梨が大声で叫ぶ。



「2年D組 八重花桜梨。

 元関東総番長『乱れ桜』花桜梨とは私のことよ!

 総番長まで張ったこの私が、部活の仲間に裏切られ、
 流れ流れてひびきのへ。

 今はただのダブり女よ!

 こんな私を笑いたければ笑うがいいさ。

 だがな。

 私はあんたたちみたいに心の底まで腐り切っちゃいねえんだ!

 私は……私は、あなた達を絶対に許さない!」



花桜梨のタンカに周りがさらに引いてしまう。
校舎からはざわざわとしだす。



「さぁ……これであなたの思い通りになったわ……
 その代わりにこの代償は高く着くわよ……」

花桜梨がリーダーににらむ。
リーダーは思わず花桜梨を囲んでいる輪の外に逃げてしまう。

「お、おまえら……やっちまえ!」

そしてリーダーの声。

「うわぁぁぁ!」

花桜梨の後ろから襲いかかる声が聞こえてきた。



花桜梨に襲いかかる足音が後ろから聞こえてくる。
しかし花桜梨は後ろを全く見ていない。

「くたばれぇ!」

後ろから襲いかかってきた人は竹刀を持っていた。
頭の上に竹刀を構える、上段の構えで花桜梨の頭めがけて襲いかかってくる。

そして花桜梨の頭に竹刀を振り下ろそうとしたとき。

「くたばるのはあなたよ!」
「なっ……」

花桜梨が後ろを見ないまま、後ろに下がる。
相手の体に背中をくっつける格好になる。

これでは竹刀を振り下ろしても当たらない。

そして花桜梨は両手を上げ、後ろの人の右腕をつかむ。

「てやぁ!」
「うわぁ!」

花桜梨はその右腕をおもいっきり投げる。
一本背負いのような投げ方だ。



どこっ!



「ぐはっ!」

後ろの人は地面に思いっきりたたきつけられる。
背中に衝撃を受けた相手は苦痛の表情を浮かべる。

その好きに、花桜梨は倒れている相手の横に近づき、右拳を相手の腹におもいっきり振り下ろす。



ごぼっ!



「ぐへっ……」

あまりの衝撃に相手は気を失ってしまう。



「う、後ろを見ずに……」
「す、素早い……」

あっという間の秒殺劇。
周りは驚くばかり。

あまりの素早さに次に行こうという人が現れない。



「さぁ!次はだれ?
 次にこうなりたい人は誰なの!」

そんな周りに対して花桜梨は挑発を繰り返していた。

花桜梨の周りには怒りのオーラが漂っていた。
To be continued
後書き 兼 言い訳
ついに花桜梨自らの口で語られた過去。
そして花桜梨の怒りは最高潮に。

今回は、こんな感じかしらねぇ。

ちなみに戦闘前の花桜梨の長いタンカはとあるものを参考にして見ました。
わかった人は私とたぶん同年代でしょう(笑)

次回は花桜梨のアクションシーン満載!……だと思います。
目次へ
第163話へ戻る  < ページ先頭に戻る  > 第165話へ進む