第165話目次第167話
「そういうことだったんですか……」
「そういうことなんじゃ……」

校長室。

爆裂山校長は生徒会に事情を説明した。

しかし、今、校長と対峙しているのは吹雪。
ほむらではない。

校長が吹雪を指名したのだ。

「校長。ところでどうして私が事情を聞かなければいけないんですか?」
「どうしてというと?」
「会長でいいじゃないですか」
「いや、ほむらは駄目なんじゃ」
「どうして?」


「ほむらは……関係者じゃ……たぶん冷静に事情を聞ける状態じゃないだろう」

太陽の恵み、光の恵

第27部 "乱れ桜"花桜梨・復活編 その9

Written by B
生徒会室

「………」

ほむらはグラウンドを見ていなかった。

「こんなのアリかよ……」

机に肘をつけ、頭を抱えていた。

「薫をやったのが、八重だったなんて……」

子供の頃から茜と友達だ。
だから、茜の兄の薫とも親しい。

そして、ほむらは薫が病院送りになったのも知っている。
そのとき茜がどれだけ相手に恨みを持っていたのかも、
その日以降、茜が突然サンドバッグに向かい始めたのも。
それからの一文字家の何かが変わってしまったのをほむらは肌で感じていた。

そしてその相手が目の前に現れた。

「なんで……なんで八重は……茜の友達になったんだよ!」

その相手は茜の友達だった。

「八重……茜はおまえを本当に慕っていたんだぞ……」

ほむらの頭の中には少し前に茜の家で交わした会話が思い出される。



『茜、おまえ、最近学校だと八重と一緒だな』
『うん、花桜梨さんって本当にいい人なんだよ』
『まあ、あたしもそう思うけどな』
『美人で頭がいいし、なにより優しくて、大人の女性だなぁって』
『へぇ〜』
『それになにか気が合うんだよね。だから一緒に話していると楽しくて』
『ほう、それはよかったな』
『でも、花桜梨さん。時々悲しそうな顔をしてるように見えるんだけど、なんでだろう』
『さぁ?あたしもわからんぞ。気のせいじゃないのか?』
『そうかな?』



茜の嬉しそうな顔がほむらの頭から離れない。
それだけに、今の茜の心境を知るのが怖い。

「あたし、どうすればいいんだよ……わかんねぇよ……」

ほむらはずっと頭を抱えていた。






その生徒会室の窓際では、

「うわぁ、すごいっす!正拳突きだ!」
「また回し蹴りが決まってるっす!」
「かかと落としだぁ!見事に決まってる!」
「すばらしいっす!もう感激っす!」

夏海が目をらんらんと輝かせ、窓から身をのりださんばかりに花桜梨の雄志に見入っていた。



「光!それ本当か?」
「う、うん……」

階段の踊り場。
学校の生徒はほとんどグラウンドに見入っていて人通りが少ない。
そこに公二と光がいた。

「本当なんだな?この前の冬に八重さんに助けてもらったのは」
「うん、そうなの……怖いスケ番達に囲まれて……」



『やめなさい!』
『えっ……』


『か、花桜梨さん……どうして……』
『朝練があるから、早めに登校しようとしたら、偶然見かけたの』
『よ、よかった……』


『光さん、ここは私にまかせて早く学校へ……』
『えっ……』


『このことは……誰にもいわないで……二人だけの秘密にして……』
『わかった……気をつけてね……』



公二は光の両肩を揺すって問いつめる。
それにたいした光は涙目でこたえている。

「『誰にも言わないで』って真剣な表情でいうからあなたにも黙ってたの……」
「そうだったのか。じゃあ仕方ないけど……」
「あの後花桜梨さんがどうしたのかわからなったけど、今思い起こせばたぶん……」
「………」
「あなた、もしかしたら、これが花桜梨さんを……」
「………」
「どうしよう……私、取り返しのつかないことをしちゃったのかもしれない……」
「………」
「ねぇ、どうしよう。花桜梨さんに何度も助けてもらったのに、それを仇で返すなんて……」
「………」
「ひっく……ひっく……ひっく……」

公二はだまって光を抱きしめる。
光は公二の胸の中で声を上げずに泣きはじめた。

「光、大丈夫だ。八重さんは光が悪いとは思ってないよ」
「でも、でも、でもぉ……」
「大丈夫。大丈夫だ……」

公二もそう言うしか光を慰める手段がなかった。
公二も光もどうしていいか悩んでいた。



「……花桜梨さん……」

2年B組の教室。
教室の窓から楓子はぼそっとつぶやいていた。

「楓子ちゃん、どうしたの?」
「純くん……」

純一郎を見つめる楓子は悲しそうな顔をしていた。

「あのね、花桜梨さんなんだけどね……」
「八重さんがどうかしたのか?」
「中学の頃、一緒だった。って言ったことがあったでしょ?」
「え〜と……楓子ちゃんからそんな話を聞いたよな」

最近楓子と話をすることが増えた純一郎は楓子から昔の話をよく聞かされた。
花桜梨とも友達だということもそこで聞いていた。

「あのね、そのときに花桜梨さんに関する噂があったの」
「へぇ」
「でも、まったく信憑性がなくて、すぐに消えたんだけど……」
「その噂って……まさか!」


「うん……『八重花桜梨は番長だった』って……」


「!!!」


「そんなの信じられないでしょ?だって、目の前の花桜梨さんはそんな雰囲気なかったんだもん」
「昔の八重さんも今のようだったの?」
「うん。今とまったく変わってない。優しくて大人っぽい先輩だったの……」
「そうだったんだ……」
「まさか、その噂が本当だったなんて……」
「………」

楓子は顔を青くしてグラウンドを見つめ直す。

そこでは花桜梨が拳を振り回し、相手をバッタバッタと蹴り倒す姿があった。

「今も信じられない、夢を見ているような気がしてならないの……」
「俺も、これ夢じゃないかって……」
「ねぇそうでしょ?そうなんでしょ?ねぇ、ほっぺつねってよ」
「わかった、じゃあ俺もつねってよ」
「うん……」

楓子は振り返って純一郎と見つめ合う。
2人は同じタイミングで右手を相手の頬に近づける。
そして強くつねってみる。

「……痛いね……」
「……痛いな……」

「夢じゃ……ないんだね……」
「そうみたい……だな……」

「………」
「………」

2人はつねった手を離す。
そして、何も言わずにグラウンドを見つめ直す。

花桜梨は相変わらず、敵を投げ飛ばしていた。



一方学校の校門前では。

「こりゃ、派手にやってくれるな……」
「まあ、用意周到というか、行き当たりばったりというか……」

薫と舞佳が呆れていた。

校門までの坂道が障害物だらけだった。

工事現場から盗んだと思われるパイロンがたくさん。
これも盗品と思われる古いバイクが倒された状態で何台か。
近くのゴミ置き場から持ってきたと思われる、捨てられた家電製品がたくさん。

「警察でも寄せ付けないためだろうね」
「少なくとも俺達じゃないよな」

とにかくゴミだらけ。
歩いて通り抜けるのはまず無理。
犯人は今頃学校の中で暴れていることだろう。

「しょうがない。片づけるか……」

薫は呆れた表情のまま、目の前のパイロンを持ち上げる。

「ちょ、ちょっと!姐さんはいいんですか?」
「馬鹿野郎!こんなの放っておいて行けるか!」
「えっ?」
「放っておいたら、俺たちも同罪になるぞ!」
「はぁ……」
「早く片づけろ!」
「は、はい!」

近くにいて驚いた不良が薫に聞いてみるが、薫は一喝して手下達を片づけ作業に取りかからせた。



不良達が障害物を丁寧に片づける。
ゴミを拾ってはもとあった場所を探して戻している。

薫と舞佳はその様子をじっと見ていた。

「ダーリン……変わったね」
「舞佳、そうか?」
「そうよ。昔のダーリンなら、こんなゴミ踏みつぶしてでも行ったわよ」
「そうかもな。でも今の俺は常識というものは持ってるつもりだ。こんなのほうっておけないな」
「ダーリン……」
「それよりも、俺たち急いで行っても手出ししていいか微妙だしな」
「う〜ん、確かに……」
「あいつらの目的はたぶん八重だ。茜に必要以上の危害はくわえないだろう」
「そうだといいんだけど……」
「とにかく急ぐぞ」
「そうね」

2人もごみを片づけながら道をあけていく。

「ちくしょう……茜に手出ししたツケはたっ〜ぷりと払ってもらうからな……」
「………」



そういう2人の耳に学校内の騒ぎの声が徐々に聞こえてくる。

「思ったよりも声が小さくないか?」
「そうね、百人とかいたらもっと声がしそうな……」
「もう、そんなに片づいてるのか?」
「まさか、花桜梨さんでもそんなに……」

そのまさかがグラウンドでくりひろげられていた。

8割方のスケ番達は花桜梨の手に落ちていたのだ。

すでに闘いは終わりに近づいていた。
To be continued
後書き 兼 言い訳
花桜梨を見つめる観客達の心境を綴ってみました。

それぞれがそれぞれの立場で花桜梨を見つめています。

一人だけ場違いの人がいるようですが(笑)

次回は彼女が目を覚まします、そして闘いはクライマックス……って感じになるのかな?
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