第167話目次第169話
「これが……薫さんを地獄に葬った技よ……」
「!!!」
「い、いくわよ……うわぁぁぁぁぁぁ!」

花桜梨が叫び声を上げながら、最後の敵に向かって走り出した。


「花桜梨さん!」


花桜梨には茜の呼ぶ声が全く聞こえていない。



敵のリーダーは足がすくんで動けない。
表情からして、花桜梨におびえているのは明らか。




花桜梨は怒りのオーラに満ちていた。


しかし


花桜梨は泣いていた。

太陽の恵み、光の恵

第27部 "乱れ桜"花桜梨・復活編 その11

Written by B
「てやぁ!」



どかっ!どこっ!どかっ!



花桜梨はリーダーの顔面に肘打ちを何発も食らわせる。
右、左、右と左右の肘を間髪入れずに打ち続ける。
リーダーの顔は赤くふくれ上がる。

相手はもはやサンドバッグ状態だ。

そして、最後に膝を相手の腹部に蹴り上げる。

花桜梨は相手が腹を押さえる前に右腕を両手でつかむ。

そのまま、花桜梨は相手に背を向け、かつ、相手の懐に入り込む。


「うりゃぁ!」


花桜梨はかけ声とともに腕を引っ張る。
そして相手を背中に乗せ、そのまま投げる。
一本背負いだ。


そして、相手が一番高くなったところで花桜梨は腕を放す。


「うわぁ!」



どかっ



放り投げられた相手はそのまま受け身もできないまま地面にたたきつけられる。
さらにいうと顔面から地面に激突してしまう。



薫と舞佳は花桜梨の動きを遠くからじっと見つめていた。

「おい、八重は本当に……」
「ああ、ダーリンを倒した時のようにやるつもりだね……」
「どういう意味なんだ……」
「花桜梨さんから茜さんへのメッセージよ『茜の兄を病院送りにしたのは私だ』っていう……」
「そんなのわかってる。だから、八重はどういうつもりでこんなことを……」
「こんな状況でもうごまかせないから、自分から名乗るしかなかったのよ……」
「茜との決別……なのか?」
「違うね……たぶん……」

2人はそういったきり黙ってしまう。



「う、ううっ……」

リーダーはゆっくりと立ち上がる。
顔が苦痛でゆがんでいる。
少し鼻血も出ているようだ。

花桜梨は離れた場所からリーダーが頭を上げりだすのを待つ。

そして上がり始めるのを見届けるとリーダーむかって走り出す。


「ほらほら!隙だらけよ!」


花桜梨はリーダーから見て後ろ。
しかし、今は起きあがるのが精一杯で振り返る暇がない。


「くらぇ!」


花桜梨がジャンプする。
花桜梨は体を右に横向きにしながら、左足を高く上げる。
そして、その左足をリーダーの首の後ろ。延髄めがけて蹴りつける。


ばしっ!


「ぐはっ!」


リーダーは衝撃で前に倒れる。
花桜梨も倒れるが、すぐに起きあがり。倒れたリーダーの前から5mほど離れた場所に動き、身構える。



リーダーは少ししてから、ようやく動き出す。
手を顔の横に動かし、そこに手をつき、起きあがろうとする。

ゆっくり、ゆっくりと起きあがる。

花桜梨はそれを見たとたん、猛ダッシュで駆け寄る。

そしてリーダーが顔を起こしたとたん。



ぼこっ!



「ぐへっ!」

花桜梨の右足が起こした顔面を直撃した。

リーダーは顔を押さえながら、横向きにごろごろと転がる。
花桜梨の顔面へのキックが見事に決まっている。



「花桜梨さんが……」


茜は舞佳に寄り添ったまま、花桜梨の姿をじっと見ていた。


「お兄ちゃんを……お兄ちゃんをヤッたのは……」


茜の顔が少しずつ青くなっている。


「そんな……」


茜は呆然と花桜梨を見守るしかなかった。



花桜梨はその相手にすかさずに近寄る。

「ほらっ!起きろ!」
「ううっ……」

花桜梨はリーダーの髪の毛をつかんで無理矢理に立たせる。

無理矢理立たせた花桜梨はすぐに彼女から距離を1mほどおく。

リーダーはもう棒立ち状態。

逃げることはもちろん、防御の態勢をすることすらできない。

意識朦朧とした中で、花桜梨を見つめるだけ。



その彼女にむかって、花桜梨は語りかける。



「ふふ、よかったわね……

 あなたの狙い通りに、私の明日はもうメチャメチャよ……

 たぶん、もうこの町にはいられないかもしれない……

 そのかわり。

 私は言ったわよね。この代償払ってもらうって……

 高い、高い代償……たっぷり払ってもらったけど……

 これで最後よ……

 私の……私の……この気持ちを……この気持ちを受け止めなさい!」



その瞬間、





花桜梨の左足が、





リーダーの右側頭部を蹴りつけようとしていた。





バキッ!





「ぐわぁ……ぁぁぁぁぁ……」





最後の敵が宙を舞っている。





蹴った足を降ろした花桜梨はそれをじっと見つめる。





どかっ!





「………」





地面にたたきつけられた彼女はもう動く気配がなかった。



「終わった……」

花桜梨はぼそっとつぶやいた。


「終わっちゃったのね……」





乱れ散った桜のように校庭全体に散らばる敵の倒れた姿。

『乱れ桜』の伝説がここに復活した。

いや、復活してしまった。と言った方がいいのかもしれない。





「終わり……なのね……もう……」

花桜梨はそこで顔をうつむき、じっと立ちすくんでいた。



「花桜梨さん!」

花桜梨の呼ぶ声がする。
花桜梨は顔を上げ、声のする方をみる。

茜だった。



「花桜梨さん……ねぇ、教えて!」

「………」

花桜梨はうつむき加減に首を横に2度振ると、ゆっくりと校門にむかって歩き始めた。



「花桜梨さん!」

「………」


茜の呼ぶ声に花桜梨はまったく返事をしない。
それどころか茜の顔をみようとしない。
ただ、まっすぐに校門にむかっている。



「花桜梨さん、だから……えっ」

必死に花桜梨を呼ぶ茜の肩を後ろからぽんと叩いたのは舞佳だった。
茜は振り向くと、舞佳はサングラスは外していた。
舞佳は悲しそうな表情で茜を見つめていた。

「舞佳さん……」
「茜ちゃん……事情は今晩、あたし達から話す……」
「えっ?」
「これまで隠してた事……全部話すから……今は……」
「今は?」
「花桜梨さんを……見送ってあげて……」
「見送ってって?」




「花桜梨さんは……ひびきのでのすべてを捨てる覚悟で闘ってたんだよ……」




「えっ……」

茜は驚いて、花桜梨の姿を探す。
花桜梨は校門に立っていた。



花桜梨は校門の前に立つ。

花桜梨はゆっくりと振り向く。

そして、そこから見える学校の姿を見渡す。

校舎、中庭の塔、グラウンド、体育館。

一通り見渡すと再び校舎を見つめる。

校舎の窓に野次馬の姿がたくさんいるのがわかる。

花桜梨はその校舎にむかってゆっくりとお辞儀をする。

そして頭を下げたままじっと動かない。

30秒近くたっただろうか、
花桜梨はゆっくりと頭を上げる。

花桜梨は右手でいつの間にかあふれ出る涙をぬぐう。
しかし、ぬぐってもぬぐっても涙が止まらない。

花桜梨は校舎に背を向ける。

そして、校門から勢いよく走り出す。
後ろを振り向かず、まっすぐに。

花桜梨の姿はすぐに見えなくなってしまった。



「花桜梨さん……」

茜は花桜梨の背中をじっと見送っていた。

その茜にまた肩をぽんと叩く人がいた。

「お兄ちゃん……」

薫だった。
薫は泣いていなかったが、悲しそうな顔をしていた。
そして、一言。

「茜……帰るぞ……」

そういうと、薫は茜の左に周り、茜の肩を抱きしめ、ゆっくりと歩き出す。

「うん……」

茜はそういって、一緒に歩くしかなかった。



1時間後。

校庭にはさっきまでの光景が嘘のようになくなっていた。

薫の子分の不良達が、スケ番達を校門からの坂道の下まで連れ出してしまったからだ。
坂道の下にはいまだに悶え苦しんでいるスケ番達はいるだろう。

しかし、学校自体はもうそんな跡は全く残っていなかった。

グラウンドには自主練習をやる運動部の部員達がいる。
校舎には、文化系の部活をやる人や、図書館で勉強する人などがたくさんいる。
校庭にもおしゃべりをしている人がいる。

さっきの出来事がなかったかのようだ。




しかし、出来事は本当の事実だ。


表向きなにも変わってないようだが、それは違う。


花桜梨がもたらしたもの。


それはあまりに大きかった……。


花桜梨の周辺は劇的に変化しようとしている。
To be continued
後書き 兼 言い訳
長かった第27部はひとまずこれでおしまいです。

敵を退治した花桜梨。
しかし、その代償はあまりに大きすぎたようです。
花桜梨は舞佳の言うとおり、すべてを捨ててしまったようです。

そういうわけで次から第28部です。
花桜梨長編の後編と言っちゃっていいかもしれません。

すべてを捨てた花桜梨が再び前を見つめ、そしてすべてを解決する話です。
上記の通り、大きく二つに分かれます。

前半は、あのお方の久々の登場になります。
そして、後半はついに……とまあ、こんな感じです(どんなだ)

主役夫婦が全然目立っていませんが、もう少々我慢してもらう予定です(苦笑)
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