第169話目次第171話
「魔物?」

「ああ……まさか、こんなところでご対面とはな……」

もえぎのの山奥のトンネルは異様な空間と化していた。

白いモヤがかかり、別空間のようになっていた。


芹華は目の前にいる暗黒色をした人型の魔物と対峙していた。
その魔物が重い声を響かせる。

「ヨクモ、俺達ノ、仲間ヲ……」
「ほう、あんたはあいつらのお友達か?」
「タダノ仲間ダ……」

芹華はそれに全く動じずにむしろ堂々としている。
しかし、魔物はフラフラと芹華の周りを回っている。

「オマエヲ、ココデ、殺シテヤル……」
「へぇ〜、やれるものならやってみな?」
「イイノカ?俺様ノ、特技ヲ、知ラナイナ……」
「何だ?」



「オレハ、死人ニ、トリクツノガ、得意ダ……」


「えっ……はっ!花桜梨!」


その魔物は芹華の後ろで呆然としていた花桜梨の体の中にすっと入り込んだ。

太陽の恵み、光の恵

第28部 "乱れ桜"花桜梨・開花編 その2

Written by B
「しまった……花桜梨に取り憑くなんて……」

芹華は自分のミスを悔やんでいた。
後ろに花桜梨がいたのを失念していたのだ。


「てめぇ、花桜梨から離れろ!」


花桜梨はフラフラと立っていた。
目は白目をむいて妖しく光っている。
顔色はうっすらと青くなっている。
完全に魔物に取り憑いていた。



「それに花桜梨は死人じゃないぞ!」
「コイツハ、生キタ、死人ダ……」
「何だって……」


魔物は花桜梨の口を通して重い声を響かせる。


「コイツハ、生キル意志ガナイ……」
「………」
「ハハハハ……マア、廃品利用ダナ……」


花桜梨の右腕がゆっくりと上がる。
たぶん魔物に操られているんだろう。
そして手のひらを芹華に向ける。

「やばい!来る!」

芹華は目を見開き何かを念ずる。


ピカッ!


芹華の目の前に薄いオレンジの光の壁ができあがる。
それと同時に花桜梨の右腕から稲光が光る!



バリバリバリバリバリ!



「うわぁ!」



どさっ



稲光は光の壁を打ち破り芹華に直撃する。
芹華は5mほど後ろに吹っ飛ばされる。



「ちくしょう……こんなもの……」

芹華は再び念ずる。
再びオレンジの光の壁が芹華の前に現れる。
魔物に取り憑かれた花桜梨がゆっくりと芹華に近づいてくる。



「フフフ……何度ヤッテモ同ジダ……」



バリバリバリバリバリ!



「うわぁ!」



ばんっ!



花桜梨の右手から放たれた電撃が芹華を再び吹き飛ばす。
芹華はトンネルの壁にぶつけられる。
そのままずり落ちるように芹華は倒れる。

「ううっ、いてぇ……」

芹華は倒れたまま背中をさすって痛みを和らげようとする。



「モウ終ワリカ?」
「てめぇ……」

魔物が芹華を見下ろす格好になる。
白目が光る花桜梨の表情がとても不気味だ。
それでも芹華はひるまずに言い放つ。

「てめぇ、花桜梨から離れろ!」
「無駄ダナ……コイツハ、モウ生キル気ハナイ……」

「出任せ言うな!」
「コイツノ過去ガ見エル……コイツハ過去カラ逃ゲテイル……」

「何だって……」
「逃ゲテ、逃ゲテ、何度モ逃ゲテ……ソシテ今日、マタ逃ゲ出シタ」

「………」
「モウ、コイツハ生キルコトカラ逃ゲテイル」

「ううっ………」
「ハハハ……格好ノ獲物ダヨ……」

重い声に芹華は何も言えない。
魔物の言葉に芹華は反論できない。
なぜなら、芹華も花桜梨に似たような感情を抱いていたからだ。



「人間トハ弱イ生キ物ダ……ソレモ段々ト弱クナル……」
「………」

「コイツミタイニ頂点ニ立ッテモコノザマダ」
「………」

「所詮ソンナモノダ、楽シイコトダケニ目ガイッテ、辛イコトニハ逃ゲテイク……」
「………」

「ソシテ壁ニブツカレバ、最後ハ生キルコトカラ逃ゲ出ス」
「………」

「ワタシハソンナ、生キタ死人ヲ食ッテ生キテキタ。最近ハ餌ガ増エテ力ガミナギッテイル」
「………」


花桜梨の右手が上がり、手のひらが芹華に向けられる。


「モウ人間ハ私ニ勝テナイ」



バリバリバリバリバリバリ!



「うわぁぁぁぁ!」


芹華は至近距離から魔物の電撃を食らってしまった。
全身に電撃が走る。
芹華は頭を抱え悶え苦しんでいる。



「アハハ、苦シメ!オマエニヤラレタ仲間ノ分マデ……」



バリバリバリバリバリバリ!



「ううっ……!」


魔物は再び芹華に至近距離から電撃を食らわせる。
芹華は大の字になって倒れてしまう。



芹華はぜいぜいと息を吐いている。

「はぁはぁ……」
「ドウシタ?仲間ニヤッタヨウニ私ニハ何モシナイノカ?」
「ち、ちくしょう……」
「ン?ソレトモコイツヲ傷ツケルノガデキナイノカ?」
「ううっ……」
「ホレホレ。ヤレルモノナラヤッテミロ」
「………」

魔物の挑発に芹華はなにもできない。
芹華も攻撃しようと思えばさっきからできた。

しかし、今、魔物は花桜梨に取り憑いている。
魔物への攻撃は花桜梨への攻撃になる。

(ちくしょう……私がそんなことできないのをわかってるくせに……)

芹華はただ悔しがるしかない。



「人間トハ馬鹿ナ生キ物ダ……外見バカリ気ニスル……」
「………」

「私ガ取リ憑イテイルノニ何モデキナイ……」
「………」

「ソンナモンダ、人間ハ本当ノ姿ヲ見ナイ。見ヨウトシナイ。見セタガラナイ」
「………」

「隠シタッテ無駄ナノニ……アハハハ……」
「………」

「コイツモソウダ。本当ノ自分ヲ見ヨウトシナイ。見ルコトカラ逃ゲテイル」
「………」

「コウイウノガイルカラ、私ハ生キテイラレル……」
「………」

魔物は花桜梨の表情を使って、芹華を見下す。
芹華を見て笑っている。
それは馬鹿にした表情。
しかし、ダメージが大きい芹華は何もできない。



「オマエモ俺達ノ仲間ニ入レテヤル……」

花桜梨の両手が芹華に向けられる。

「トドメダ……」

芹華は大の字に倒れたまま動けない。
芹華は観念したかのように目をつぶる。
花桜梨はそれを見てにやりと笑う。




「フフフ……死ネ……ウォッ!」




突然魔物が変な声を上げる。
芹華も驚いて目を開けると、花桜梨が苦しんでいる。


「ウォォォ……ソンナ馬鹿ナ……」


花桜梨が頭を抱えて苦しんでいる。


「コイツニ、ソンナチカラガ……ウォォォォォォ!」


シュン!


「花桜梨!」


花桜梨の体が一瞬、フラッシュのように光った。
そして再び闇に包まれる。
芹華は状況を確認すべく周りを見渡す。


「いったい何が……はっ!魔物が!」


気がつくと魔物が花桜梨の体から抜けている。
魔物は驚いたようで呆然としている。
そしてその魔物の前には……


「花桜梨……おまえ……」





「ふざけるな……私は生きている!」





花桜梨がしっかりとした足取りで立っていた。
目は鋭く魔物を見つめ、手のひらは強く握られている。
そして芹華には花桜梨の周りに白いオーラが見えた。



今だ驚いている魔物に花桜梨が言い放つ。

「よくも私の体に取り憑いたわね!
 あんた、魔物のくせにおしゃべりなんだよ!

 確かに、私は死ぬつもりだったわよ!
 今日だけじゃない!
 死のうと思ったことなんて、3度や4度もある女よ!

 そのたびに、私に手を差し出してくれた人がいたから今まで生きていた。
 今日は違う。
 私に手を差し出してくれる人は誰もいない。

 あんたがしゃべってなければ、私はたぶんこのままあんたに食われてたよ。」


「ナ、ナンダッテ……」


「でもね。
 あんたがあんなこというからむかついたんだよ!

 私のことなんか知らずに偉そうなこと言うんじゃないわよ!

 私が過去から逃げてる?
 私が本当の自分を見ようとしない?

 ふっ、言ってくれるじゃないの。

 そこまで言われて、おめおめと死んでいく私じゃないわよ!

 こうなったら、過去を全部抱えて生きてやる!
 本当の自分を隠さずに生きてやる!

 もう絶対に逃げない!
 もう絶対に自分から死のうなんて考えない!

 闘って……闘って……闘い続けて死んでやるわよ!」


「ウウッ……」


花桜梨が魔物にむかって凄む。
魔物は思わず後ずさりしている。

「花桜梨……おまえ、いったい何者なんだ……」

芹華は花桜梨の姿をじっと見ているだけだ。



後ずさりした魔物だったが、すぐ前にでる。


「コ、コシャクナァ!」


バリバリバリバリバリバリバリ!


「………」


魔物の手から電撃が花桜梨にむかって放たれる。
花桜梨は顔の前で腕をクロスさせ、電撃を防御する。

花桜梨は平然としている。

「この刺激……久しぶりね……」

「………」

花桜梨がにやりと笑う。
そして一言。



「でも昔食らったアメリカ製のスタンガンに比べればオモチャみたいなものね」



「「!!!」」

花桜梨の言葉に魔物はともかく、後ろにいた芹華も驚いている。
この空間はもはや花桜梨の空間と化していた。



「あら?あなたの攻撃ってこれだけ?」

「……キ、キサマ……何者ダ……」


驚く魔物に花桜梨はしっかりとした口調で言い放つ。




「第三十六代関東総番長、八重花桜梨……私があなたを成敗してやるわ……感謝しなさい……」




花桜梨の目には迷いも悲しみもなかった。
そこには前を見る決意の目があった。
To be continued
後書き 兼 言い訳
(自称)めまぐるしい展開でした。
しかし、魔物の言葉は花桜梨の何かを目覚めさせたようです。

詳しいことを書くと本編に響きそうなので今回は控えめにしておきます(苦笑)

次回は花桜梨が反撃、そして芹華が……とまあ、なんとなく展開が想像がつくでしょ?(笑)
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