「貴様ガ、ワタシヲ倒スダト……」
魔物はおびえていた。
さっきまで死人同然だった人間が今は生きる意欲に燃えている。
しかもただの人間ではない。
戦闘慣れした人間だ。
しかも、自分が放った電撃をものともしていない。
突然のことに魔物は動けない。
「あら?襲ってこないの?」
魔物を前にした花桜梨は堂々と立っている。
「じゃあ、私から行くわよ……」
タッタッタッ……
花桜梨が魔物にむかって駆け出す。
そして魔物の目の前に立つと、右手の手のひらを魔物に押し出すように広げる。
「喝!」
「うわぁ!?」
魔物はいきなり後ろに飛ばされた。
太陽の恵み、光の恵
第28部 "乱れ桜"花桜梨・開花編 その3
第171話〜魔物成敗〜
Written by B
後ろに飛ばされた魔物は驚きながらも元の場所に戻る。
「貴様……インチキナ真似ヲ……」
「それならもう一度食らいなさい!」
「ナニ?」
「破!」
「う、うわぁ!」
花桜梨がもう一度、今度は左手の手のひらを魔物に押しつける。
またもや魔物は後ろに飛ばされる。
「ウウッ……貴様モ能力モチカ……」
「能力?なんだかわからないけど、私に能力なんてないわ」
「ナンダッテ?」
「私のはただの気功術よ」
「エッ?」
花桜梨は自分の手のひらをちらちらと見つめながら魔物に睨みをきかす。
「でも、あなたが取り憑いちゃったからかしら……何か違うのよね……」
「エッ?」
「それはね……私の気功に力がみなぎっているのよ!」
「ウワァ!」
花桜梨は再び魔物にむかって気功を放つ。
魔物は少し苦痛の表情を浮かべながら後ろに少し飛ばされる。
さらに花桜梨は魔物を追いかける。
そしてさらに気功を放つ。
「ほらほら!さっきの威勢のいい言葉はなんなの?」
「ウッ……」
「私を食おうとした威張りっぷりは何だったのよ!」
「ウォ……」
「やれるものならやってみなさいよ!」
「ウァ……」
花桜梨は鬼と化していた。
パンチを繰り出すように右から左から、気功を放つ。
その気功に魔物はダメージをくらいながら後ずさりしていく。
もう20分ほど経っただろうか。
魔物と花桜梨は対峙したまま、じっと睨み合っている。
「ウウッ……」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
魔物はボディブローのようにダメージを食らっている。
致命傷までには至ってないが、かなりの蓄積で動きが鈍い。
武器の電撃を出す暇も与えてくれない。
花桜梨もダメージを与えているが、とどめが刺せない。
さすがの花桜梨もそれ以上のダメージを与えるすべを持っていなかった。
魔物には反撃の隙を与えていないが、膠着状態を打開できないでいた。
「貴様コソ、私ヲ始末デキナイデハナイカ……」
「うるさい、あんたこそ何もできないくせに……」
お互いににらみ合ったまま。
まったく動きがない。
そのとき。
花桜梨の背後から声が挙がる。
「花桜梨!避けろ!」
「!!!」
花桜梨はただならぬ気配を感じるとすぐに横に飛ぶ。
そしてそこに光線が走った。
シュバーーーーーン!
「ウワァァァァァ……」
光線は魔物に直撃した。
魔物は後ろに飛ばされる。
さらに今まで見せたことのない苦痛の表情を見せる。
花桜梨は後ろを振り向く。
「芹華……さん?」
「ありがと……あとは任せて!」
「えっ……うそ……」
芹華は驚愕した。
後ろの芹華が全身輝いていたからだ。
全身に白いオーラが花桜梨の目にも見えるぐらいはっきりと光っていた。
そして芹華の髪の毛も白く光っているように見せる。
そして気の力なのだろうか、地面からなにか別の力が沸き上がっているように見える。
その力が風のように芹華の髪、服をなびかせる。
「芹華さん……あなたはいったい……」
花桜梨はそうつぶやくのがやっとなほど驚いていた。
「さて、花桜梨のおかげで体力回復できたからな……」
芹華は手の関節をポキポキ鳴らしながら魔物にむかっていく。
「ナニ……サッキハ何モデキナカッタクセニ……」
「こっちは100%の力を取り戻した……貴様はもう勝てない!」
「ウソツケ……」
「ならば……くらえ!」
シュバーーーーーン!
「ウワァ!」
芹華の両手の手のひらが魔物に向けられている。
そこから白い光線が魔物にむかって放たれた。
さっきの光線も同じように放たれたのだろう。
そしてその光線は魔物を直撃。
魔物はさらに苦痛の表情を見せている。
魔物はもはやおびえているだけ。
さらに逃げるだけの力もないようだ。
「ウウッ……タスケテクレ……」
「助けない!花桜梨を殺そうとした奴なんて……絶対に!」
芹華は両手を握りしめ、目をつぶりなにやら念じている。
芹華のオーラがさらに大きくなる。
光の強さもさらに大きくなる。
芹華の周りを流れる気の風の強さが強くなる。
「これで……とどめだ……」
オーラと気の風が両手の握り拳に集まっていく。
握り拳が異様な光を放つ。
そして握り拳を広げ、その力をすべて魔物めがけて解放する!
「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
シュバーーーーーーーーン!
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……ぁぁぁぁぁぁ……ぁぁぁ……」
その光は魔物を取り囲むと悲鳴とともに一気に爆発のように光が拡散した。
そこには魔物は跡形もなく消え去っていた。
「ふぅ……」
トンネルの中は再び、ハロゲンランプだけが光る闇の世界に戻っていた。
「つかれた……」
芹華は元の芹華に戻っていた。
髪の毛は白くなく、もとのグレーのような黒髪に戻っている。
目に見えるオーラや気の流れは何もない。
「あれ?花桜梨は……」
芹華はふと気がついて周りを見回し、花桜梨を捜す。
「花桜梨……」
花桜梨は立ったっまトンネルの壁に頭を両手と一緒につけていた。
格好からして泣いているようにみえる。
「花桜梨、もう終わったよ……」
「芹華さん……」
芹華は花桜梨の左に立ち、肩をぽんと叩く。
「大丈夫かい……おわぁ!」
「芹華さん……」
花桜梨は芹華の顔を見るなり突然芹華を抱きしめた。
花桜梨の顔を芹華の右肩に押しつけている。
「花桜梨、いったいどうしたんだ?」
突然の行動にどうしていいかわからずおろおろする芹華。
そんな芹華に花桜梨はぽつりとつぶやく。
「お願い……ちょっとだけでいいから肩貸して……
私は知ってしまったの……
私は戦い続ける運命、戦い続ける宿命なんだって……
もう、私は闘いから逃げられないんだって……
私は今、ここで決心したの。
私は迷わない。
私は逃げない。
私はこの運命を受け入れるって……
でも……
お願いだから……今だけ泣かせて……」
花桜梨の言葉に芹華はじっと聞いていた。
芹華の表情はとても悲しそうな目をしていた。
「いいよ……
好きなだけ泣いていいよ……」
「ううっ……ううっ……ううっ……うわぁぁぁぁぁぁ!」
花桜梨は芹華の言葉を合図に大声で泣きだした。
芹華は花桜梨を抱きしめながらじっと花桜梨の姿を見ているだけ。
「ううっ……ううっ……」
「花桜梨……」
花桜梨は20分ほど思いの丈をぶけまけるかのように泣きじゃくっていた。
花桜梨が泣きやむ。
2人はトンネルの壁に並んでうつかっている。
お互いの顔は見ない。
2人とも足元をじっと見ている。
時刻は夜10時。
周りは既に真っ暗になっている。
「花桜梨……これから予定はあるか?」
「ないわ……」
「じゃあ、あたしの家に泊まりに来ないか?」
「えっ?」
「あたし、花桜梨と話がしたい。それにあたしの話も聞いて欲しい……駄目かな?」
「でも……」
芹華がその格好のまま、花桜梨に話を持ちかける。
花桜梨はすこし戸惑っている。
その理由に気がついた芹華はフォローを入れる。
「なあに家には『友達の家に泊まる』って電話すればいいんだよ」
「でも、私友達なんて……」
「……あたしが友達だろ?」
「あっ……ごめんなさい……」
「いいよ……じゃあ、OKということでいいのかな?」
「ええ、今日は家に帰りたくないから……」
「じゃあ、もえぎの駅からすぐの場所にあたしの住むマンションがあるから」
「バイク大丈夫かしら……」
「大丈夫みたいだよ。じゃあ行くか!」
「ええ……」
2人は道路脇に置いてある自分のバイクを取りに行く。
幸い花桜梨のバイクは問題ないようだ。
2人はバイクにまたがり、エンジンを掛けるとすぐに走り出した。
目指すはもえぎの市市内の芹華の家だ。
夜11時
芹華のマンションに到着する。
バイクを駐車場におき、芹華の案内でエレベータに乗り、芹華の家にむかう。
そして芹華の家に扉の前に到着する。
「ここ?なにか静かね……」
「………」
芹華はだまってポケットから鍵を取り出すと扉を開ける。
「入って……」
「お邪魔します……」
花桜梨は芹華の家の玄関に入る。
芹華の家には人の気配がまったくなかった。
「えっ……もしかして……」
「そうだよ……一人暮らしだよ……」
芹華は暗い表情でつぶやいた。
花桜梨はその口調や表情から何かを感じ取った。
「芹華さん……」
「花桜梨……あたし、あんたの気持ちわかるよ……だってあたしもそうだから……」
To be continued
後書き 兼 言い訳
魔物はあっけなく片づきました(笑)
しかし、文字であの「ハイパーせりりん」を表現するのは難しいですなぁ。
あの雰囲気が伝われば嬉しいですけど。
しかし、花桜梨と芹華ってここでは似たもの同士なんですよね。
そこら辺は次回以降わかると思います。
次回は花桜梨と芹華の真相が今明らかに!……って感じかなぁ?