2時間目
「………」
花桜梨は壇上に立っていた。
この時間は担任が授業を担当していた。
「八重、みんなに言いたいことがあるんだろ?」
という発言をきっかけに授業は急遽中止。
花桜梨の告白の場が与えられた。
花桜梨はちらりと廊下をみる。
(野次馬がたくさん……仕方ないわね……)
廊下のガラス越しからはたくさんの生徒達。
2Dの状況を知った両隣のクラスが授業そっちのけで集まってきたのだ。
(こんな毎日が続くのかしら……いいの……私がそう決めたんだから……)
花桜梨は気持ちを落ち着かせるとクラスメイトに視線を戻した。
しかし、そこには茜はいない。
茜は学校を休んでいた。
太陽の恵み、光の恵
第28部 "乱れ桜"花桜梨・開花編 その7
第175話〜模範戦闘〜
Written by B
クラスがしーんと静まりかえる。
朝はあれだけうるさかった夏海もじっと黙っている。
視線は花桜梨に集まっている。
クラスの担任はすでにいない。
花桜梨はまっすぐ前を向くと告白を始めた。
「昨日のことはもう知ってるわよね。
言い訳するつもりはまったくないわ。
あそこで言ったのがすべてよ。
私は元関東総番長。
そして高1を2度やったダブり女。
それが私。
でもいいの。
もう私は隠さない。
私は喧嘩を売られれば買う。
闘わなければならないのなら、徹底的にたたきつぶす。
そんな私を軽蔑しようが無視しようが私は文句言わない。
だって、そういう人間だから……
とにかく。
普段の私はこれまでと変わらずにやっていくから」
「「………」」
クラスはしーんと静まりかえったまま。
廊下の野次馬達もなにも言わない。
不気味なぐらいの沈黙。
花桜梨がそれを簡単にぶちこわしてしまう。
「……で、私とヤリたい人はいないの?」
ざわ……
「腕試しもするひとはいないの?本気で勝負してやるわよ」
ざわざわざわざわ……
教室も廊下も一斉に騒ぎ出した。
当然だ。
花桜梨が自分への挑戦者を募ったからだ。
花桜梨以外の周辺のほとんどは「そっとしてほしい」という趣旨の事を言うかと思っていた。
ところがそれとは正反対。
思わず騒ぎたくなるのは当然だ。
とは言っても、名乗り出る人は誰もいない。
それも当然だ。
昨日のあの姿を見た上で挑もうとする人はかなり無謀な人だ。
1分すぎ、2分過ぎ……
誰も現れないまま話が終わろうとしたとき。
がらがらっ!
前の扉が開いた。
教室の視線が一斉に扉に集まる。
「なんだよ。誰もいないのならあたしが汚れ役やってやるよ」
ほむらだった。
さらにざわめく廊下や教室のことを無視してほむらは花桜梨の前に立つ。
「腕試しだって?ちょうど体がなまってたんだよ。試していいか?」
「……ええ、いいわよ」
ざわざわざわざわ……
騒ぎがさらに大きくなった。
(どうして赤井さんが……)
花桜梨はほむらがなぜここにたっているのかわからない。
ほむらの顔を見ようとするとほむらはうつむいていた。
ほむらは周りに聞こえないようにぼそっとつぶやいた。
「すまねぇ……あんたが茜と友達になったことにいまだに納得いかねぇんだ……」
「!!!」
ほむらの表情は花桜梨にはまったく見えない。
少なくともいつものほむらの表情ではないことぐらいしか花桜梨にはわからない。
「八重……このむしゃくしゃ……ぶつけていいか?」
「……いいわよ。その代わり、遠慮しないわよ……」
「ああ、望むところだ……」
2人で周りに聞こえないように話を交わした。
それから10分後。
2Dの教室の中央には大きなスペースができている。
椅子は机は周辺に押しつけられている。
クラスメイトは廊下から窓を通して見守っている。
そして教室には花桜梨とほむらのふたりっきり。
ほむらは左足を少し前に出し、両拳を顔の前に構えてすでに準備万端。
一方の花桜梨は普通にたったまま。
「じゃあ、かかっていいんだな……」
「いいけど、赤井さん相手なら……ちょっと待って」
今にも襲いかかってきそうなほむらを花桜梨は制止する。
そして顔を廊下に向ける。
「ねぇ……だれか、ハンドタオルとかないかしら?」
「はいは〜い!私におまかせ〜!」
花桜梨が言うやいやな反応したのは案の定夏海だった。
夏海は、廊下の自分のロッカーからハンドタオルを持ち出すと、嬉しそうな顔をしながら教室に入ってきた。
「これどうするんですか?」
「縛って」
「えっ?」
「わかるでしょ?手を縛るのよ」
「えっ?」
花桜梨の両手は背中に廻っており、腰のところで交差していた。
「早くしなさい!」
「は、はい!」
花桜梨は夏海を一喝する。
驚いた夏海は急いで花桜梨の交差させた両手首のところをきつく縛る。
「できたの?」
「できました〜♪」
「だったら早くでなさい!ここは遊び場じゃないわよ!」
「し、失礼しました!」
怒られた夏海は花桜梨に敬礼ポーズを取ると急いで教室からでていった。
そしてふたたび教室はふたりきり。
さっきと違うのは花桜梨の両手が後ろ手に縛られて手が出せないということ。
明らかにハンデをつけられたほむらはおもしろくない。
「なぁ……あたしをなめてるのか?」
「ううん。普通にやったら面白くない……それだけ……」
「なんか面白くねぇ……」
「どう思うがあなたの勝手……早くかかってきたら?」
平然としている花桜梨。
とうとうほむらがしびれをきらした。
「うぉぉぉぉぉぉ!」
ほむらが花桜梨めがけて突進する。
ほむらは花桜梨の懐の中に入ろうと頭を下げ、前傾姿勢で突進してくる。
「前が見えてないわね……」
花桜梨はその突進を避けようともせず、たったまま。
そして限界までほむらが近づいたときに、右足の膝を素早く振り上げる。
ごきっ!
「ぐはっ!」
タイミングよく膝がほむらの顔を直撃する。
素早い膝蹴りにほむらも避けきれない。
花桜梨は膝を思い切り振り上げたからほむらの顔も持ち上げられ、しまいには体が後ろにのけぞる。
だっだっだっ……
今度は花桜梨が前傾姿勢でほむらにつっこむ。
そして体勢が立て直していないほむらの腹めがけてタックルするように頭突きをかます。
ぼこっ!
どさっ!
「ぐぅ……」
花桜梨とほむらはそのまま床に倒れる。
思い切りお腹にダメージをくらったのかほむらは息をするのも苦しそうだ。
倒れた花桜梨は足を動かして何とか立ち上がる。
一方のほむらは苦しんでまだ立ち上がれない。
花桜梨は周りを見渡すと突然窓際に向かって走り出す。
そして、端に押しのけられた机の前で思い切りかがんでジャンプする。
タンッ!
花桜梨は高く飛び、机の上に両足で着地する。
そしてそのまままた思い切りかがむ。
そして足をのばしジャンプし、その勢いで後ろに向かって宙返りをする。
「「おおっ!」」
廊下からはそれまで静かに見守っていたのが思わず声が沸き上がる。
教室の天井まで届かんとする宙返りに見とれていた。
そして花桜梨は360度宙返りをして立った状態で着地する。
その着地点はほむらの腹部。
ぼこっ!
「ああああぁぁぁぁぁぁ………」
ほむらは絶叫を上げるとそのまま声を上げなくなってしまった。
よく見ると白目をむいて倒れている。
あまりの打撃に気絶してしまったのだろう。
「ふぅ……やりすぎちゃったかしら……」
花桜梨はほむらの上から降りると大きく息を吐く。
「でも、ここまでやらないと失礼だからね……」
花桜梨はいまだに気絶しているほむらを見下ろす。
「あのぉ〜。もういいですか?」
「えっ?」
突然声を掛けられた花桜梨。
周りを見るといつの間にか目の前には夏海がいた。
「もう、ほどいていいですよね?」
「えっ?えっ?いいわよ……」
「じゃあ、さっそく……」
夏海が後ろにまわってタオルを解こうとしたとき。
がらがらっ!
思い切り大きな音で後ろの扉が開けられた。
そして一人の少女が花桜梨の前に向かってくる。
「茜さん……」
いつの間にか学校に来ていた茜だった。
「………」
茜はじっと花桜梨を見つめながら歩いてくる。
茜の表情は険しい。
あまりの表情に廊下はまた静まりかえる。
そして茜は花桜梨の目の前に立つ。
「ねぇ……これ、どういうこと?」
「見たままよ。赤井さんが挑んできて、私が倒した。それだけよ」
「それだけ?」
「ええ、言い訳しないわ。あなたのお兄さんとのことも……」
「………」
どんっ!
いきなり茜は花桜梨の胸を突いた。
そしてそのまま教室から出て行ってしまった。
廊下の人が何もしないところから、学校からも出て行くつもりなのだろうか。
花桜梨はそんな茜をじっと見送っていたのだが。
「……あれ?」
花桜梨は足元になにか白い紙切れを見つけた。
自由になった手でそれを拾い上げる。
そしてそれを広げて見てみる。
「……やっぱり……」
「あれ?どうしたんですか?……あっ……」
花桜梨の手を解くことに夢中で自体を把握していない夏海が後ろからそれを見て絶句した。
「茜ちゃんが……どうして……」
「ええ……しょうがないのよ……これが運命なのよ……」
そこには「果たし状」と書かれた紙にこう書かれていた。
「今日の午後5時。河川敷公園で待ってます。
何がしたいのか。書かなくてもわかりますよね?」
To be continued
後書き 兼 言い訳
ついにこうなってしまいました。
いやぁ、ここにつなげるまでの展開が難しかったぁ。
間のつなぎ方が色々パターンがあるだけに迷いました。
しかし、花桜梨さんもほむら相手にやりすぎでは、と私でも思いますが、
容赦しないのが彼女ですから(汗
さて、次回はいよいよお待ちかね(待ってねぇよ)の両雄の激突……だといいんですけど(こら)