第175話目次第177話
花桜梨は一人で河川敷公園に向かう。

「………」

公園では茜が待っているのだろう。
それを考えるだけで足取りが重くなる。

しかし、そうしているうちに河川敷公園に到着してしまう。
そこには茜が一人だけでいた。



「お待たせ……」
「花桜梨さん……待ってたよ……」



茜は制服姿で立っていた。
両手は体の横にぶらんと降ろしている。
本当にただ立っている状態。


「今日は花桜梨さんへの恨み……晴らさせてもらうよ……」

茜の視線はまっすぐと花桜梨に突き刺さっていた。

太陽の恵み、光の恵

第28部 "乱れ桜"花桜梨・開花編 その8

Written by B

花桜梨と茜が向かい合う公園から少し離れた場所。

「ねぇ……私たちがいていいの?」
「しょうがねぇだろ……八重の頼みだから……」

ほむらと吹雪である。
ほむらは両手を頭の後ろに組み、吹雪は胸の前で腕組みをしている。
2人は遠くから花桜梨と茜の様子をうかがっている。

「何て言われたの?」
「『もし茜ちゃんになにかあったら救急車呼んで……』だって」
「きゅ、救急車って……ま、まさか……八重さん……」
「そのまさからしいな……」
「か、会長は止めなかったの?」
「八重と茜の話だ。あたしは何も言えねぇ……」
「………」

ほむらと吹雪は黙って公園へと視線を向ける。
ここでふとほむらがあることに気づく。

「吹雪、ところで夏海は?」
「ああ、夏海は生徒会室に縛っておいたわ」
「し、縛って?」
「ええ、八重さんに頼まれたの『夏海ちゃんを来させないで』って」
「そんなこと言ってたのか?」
「ええ、たぶん夏海が変に介入しようとするのを嫌ったんでしょうね」
「でも、放っておいていいのか?」
「たぶん、今頃先生が見つけてくれるわ」
「………」

それ以上は2人は何も言わなくなってしまった。
ただじっと対峙する2人を見つめている。



花桜梨と茜はいまだに向かい合ったまま。

「ボク……やっぱり花桜梨さんのこと……許せなかった……」


「………」


「あんなお兄ちゃんだけど、ボクの大切なお兄ちゃんなんだ……
 絶対にいい人じゃないけど、悪いひとじゃないんだ……
 そんなお兄ちゃんを……」


「………」


「あの時からボクの何かが変わっちゃった……
 だから……
 花桜梨さんを許すなんてこと……昔のボクへ言えない……」


「………」


「言ったら……今までのボクを否定してしまう……」

そういうと茜は左足を一歩前に出す。
そして両方の拳を握りしめ、右の拳を少し前に構える。
今にも襲いかかろうとばかりに目が鋭くなっている。



「そうね……そうなのよね……」

花桜梨はそういうと茜と同様に構えた。

「本当は茜ちゃんの気持ちを受けてあげたい……
 でも、それは絶対にできない……」


「………」


「それをやったら、今までの私を否定することになる……」


「………」


「だから……茜さんを……叩き潰す……」


「………」


「早くかかってきなさいよ!」

花桜梨は茜を怒鳴りつけた。




だっ!


茜は地面を蹴った。
まっすぐ花桜梨に向かってダッシュする。
右手は後ろに振りかざし、花桜梨に向かって殴りかかろうとする。
花桜梨はまったく動かない。
そして茜の拳が花桜梨に襲いかかる。


ぶんっ!
がしっ!


しかし茜の右手は花桜梨の左手がつかんでしまう。
茜の顔が少し引きつる。
ならばと今度は左の拳が襲いかかる。


ぶんっ!
がしっ!


ぶんっ!
がしっ!


ぶんっ!
がしっ!


ぶんっ!
がしっ!


茜がどれだけ素早く殴りかかろうとしても花桜梨がすべて受けてしまう。
右、左、左、右。
フック、アッパー、ボディー、ワンツー。
様々な方向から遅いかかるが花桜梨にはまったくダメージがない。



「はぁ……はぁ……はぁ……」

茜は少し呼吸を落ち着かせている。
自分の右拳は花桜梨の左手に捕らえられている。
先ほどとまったく表情が変わらない花桜梨が茜につぶやく。

「こんなものなの?」
「えっ?」
「あなたの思いって、この程度なの?」
「………」

茜の体がぶるぶる震えている。


「う……う……」


そして顔が急激に真っ赤になる。
茜は猛烈に怒った顔で花桜梨をにらみつける。


「うるさい!うるさい!うるさい!」


茜が再び襲いかかる。



茜にはもはや冷静さがなかった。
とにかくがむしゃらに腕をふるうだけ。


ぶんっ!
ばしっ!


ぶんっ!
ばしっ!


ぶんっ!
ばしっ!


ぶんっ!
ばしっ!


茜の攻撃のスピードは速くなっている。
しかし、正確さが格段に落ちている。
花桜梨は冷静にそれに対処する。

しかし、今度は先程とは違い、茜のパンチを手で払いのけている。
右へ左へ、茜の拳は花桜梨にまったく届かない。



まったく攻撃が決まらない茜。
その茜が突然体勢を低くした。

「くらえ!」


シュン!


茜が右足を振り回した。
狙いは花桜梨の左脇腹。

しかし花桜梨に焦りの表情はまったくない。


がしっ!


「!!!」


花桜梨は素早く体勢を低くする。
そして茜の右足が体にぶつかる直前に左脇に抱え込む。
力強く抱え込んだので茜の右足は抜けない。

そしてそのまま花桜梨は左に高速で横回転する。
茜もその回転に巻き込まれる。


「うわぁ!」


どかっ!


2人とも地面にたたきつけられる。
しかし、受け身が出来ている花桜梨とは違い、
足を強烈にひねられた茜がその痛みで受け身が十分に取れていなかった。
少し、頭を打ち、起きあがれない。



花桜梨はすぐに立ち上がる。

そして茜の側に歩き、茜を見下ろす。
花桜梨は茜に向かってほほえむ。


「……もう十分よ」

「えっ?」


予想外の言葉に驚く茜。
しかし、依然起きあがれない。


「茜ちゃんの気持ち……十分伝わったわ……」

「………」

「だから今度は私の番……」

「???」




「茜ちゃんのお望み通り……お兄さん同様に……」




「殺してあげる」




「!!!」


花桜梨は茜ににっこりほほえんだ。
逆に茜の顔が一気に青くなる。



「ほら!立ち上がりなさい!」
「いたっ!」

花桜梨はいきなり茜の髪の毛をつかむと無理矢理立ち上がらせる。


「な、なにをする!」
「こうするのよ!」


花桜梨は茜の背後に素早く回す。

両腕をそれぞれ茜の脇の下に通す。

そして両手を茜の頭の下に組む。

茜の腕はがっちり固定されてしまい、どうにもできない。

そのまま花桜梨は後ろへブリッジするように茜を投げ飛ばす。


どかっ!


「ぐぁぁ……」


茜は後頭部を思いきりたたきつけられる。
腕を固められているので受け身がまったくできなかった。



腕をふりほどき、素早く立ち上がる花桜梨。
茜は頭を抱えて転げ廻っている。


「まだまだこれじゃすまないわよ!」


花桜梨は倒れたままの茜をまたぐように立ち、左足を持ち上げる。

茜はうつぶせになった状態で固定される。

花桜梨は左手で茜の左足首をつかむ。

右腕を左足に絡ませ、右手で花桜梨の左手を掴むようにして、茜の左足を動かなくする。

そして両手で茜の左足の甲を一気にひねり上げる。



「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!」



茜の絶叫が周辺に響き渡る。

花桜梨の足首固めが完璧に決まった。



花桜梨は何度も茜の左足をひねる。

「ほらほら!降参したらどうなの!」
「しない……」


「強情張ってたら知らないわよ!」
「うるさい……」

花桜梨が上から茜に降伏を迫るが茜は絞るような声でそれを拒絶する。


「何よ。何もできないくせに。それでもやる気なの!」
「もちろんだ……ボクは……何もしていない」


「何言ってるの。絶対に茜ちゃんにはなにもさせてあげないわよ!」
「うわぁぁぁぁ………」


今度は左足全体をひねり上げる。

「降参したらどうなの?死んじゃっても知らないわよ!」
「降参……するもんか……死んでも……するもんか……」

茜は苦痛に満ちている。
しかし降参しない。


「花桜梨さんへ……一撃……与えるまでは……死んでも降参するもんか!」


茜は力を振り絞って声を張り上げた。





「そう……そうなんだ……」



花桜梨は茜に聞こえないようにぼそっとつぶやいた。
花桜梨はとても悲しい表情になっていた。
To be continued
後書き 兼 言い訳
ついにぶつかることになった花桜梨と茜
しかし、タイトルどおりにかなり一方的
話になりません。

それでもあきらめない茜。
花桜梨はどうするんでしょうかねぇ?

次回で決着する予定です。
今部はあと2話ぐらいかなぁ?
目次へ
第175話へ戻る  < ページ先頭に戻る  > 第177話へ進む