とある屋敷のとある一室。
一人の女性が下着姿で立っていた。
長いブロンドの髪。
絹のような綺麗な肌。
そして彼女の心を表すような純白の下着。
彼女は一人息を呑む。
彼女の足元には体重計。
0.1グラム単位も正確に計る超高性能品だ。
その体重計に彼女は恐る恐る乗る。
体重計の液晶画面がチカチカ光る。
ピピッ!
測定完了の音が鳴る。
「ふむ……レイさま、また太られたようですね」
「き、きゃぁぁぁぁぁぁ!」
太陽の恵み、光の恵
第29部 乙女のダイエット編 その2
第180話〜嬢様苦悩〜
Written by B
「そ、外井!なんでここにいるのよ!」
「いや、私はただレイさまの様子を見にきただけですが……」
「こっちみないでよ!」
女の子の名前は伊集院レイ。
そして、いつのまに現れた男は外井雪之丞、レイの従者だ。
レイは両手で胸を隠してその場にしゃがみ込む。
そして外井をにらみつける。
しかし、外井はよくわかっていない様子。
「大丈夫です。レイ様」
むきむきっ!
「私は筋肉しか興味がありませんので」
むきむきっ!
「ご安心を」
むきむきっ!
「いちいち、ポージングしながら返事しなくていいの!」
平然としている外井にレイは背中を向けて、急いで服を着始める。
「とにかく、私はまったく気にしないのでご安心を」
「外井は気にしなくても、私はすっごく気にするの!」
「???」
とりあえず、近くにあった赤いジャージを着たレイは外井をしかりつけるが外井は理解していない。
「それはともかく、どうしてレイさまは太られたのですか?」
「うっ……」
「伊集院家の誇る栄養士が作ったバランスの取れたメニューを摂られてなぜでしょうか?」
「ううっ……」
「うむ、なにか学校で何かありましたか?」
「うううっ……」
「図星の用ですね。何があられたのですか?」
外井の質問にレイがなぜか言葉を詰まらせる。
よほど図星のようだ。
「だってぇ〜、しょうがないじゃない〜」
案の定、レイは半分泣いているような声を上げた。
一方外井はまったく冷静な顔。
「何がしょうがないんですか?」
「いや、お昼なんだけどね……」
『おい、伊集院。今日もそんなパンかよ』
『なんだね、庶民。そんなこと余計なお世話ではないか』
『いやいや、俺としてはそんな貧弱な昼ご飯では体力つかないと気にしてるだけだ』
『気遣いだけは感謝しておく』
『なんだよ。公人が心配してるのにそんな返事はないだろ?』
『うるさい、庶民B』
『Bとはなんだ。俺には早乙女好雄という高尚な名前があるぞ』
『まあまあ、好雄。そんなに意地になるなって』
『そうだ。庶民B』
『うるさい』
「庶民とは?」
「同じクラスの公人くんなんだけど……」
「公人くん?……おおっ!あの高見様ですか?」
「そ、そうだけど……」
「あの筋肉のすばらしい、特に太股の筋肉がたくましい高見方ですね!」
「筋肉で覚えないでよ!それになんで太股の筋肉のこと知ってるのよ!」
ここで初めて外井が顔を真っ赤にして興奮している。
レイは慌てて外井をなだめている。
「そ、それで、た、高見様はなんとおっしゃられたのですか!」
「興奮しなくてもよい!それで……」
『伊集院家の跡継ぎはもっと体力をつけないといけないぞ』
『ふん、伊集院家の栄養士が栄養を考えているから大丈夫だ』
『栄養だけじゃ体力はつかないぞ……そうだ!今日は俺が伊集院におごってあげよう!』
『おごるって!』
『食堂でステーキ定食の大盛りをおごってやる!それで体力をつけろ!』
『ぼ、ぼくはいいよ……』
『気にしない気にしない!』
『そうだぞ!公人がおごるなんてめったにないぞ。いやあ嬉しいなぁ』
『好雄、それは一言余計だ。それにお前にはおごらん』
『ちぇっ……』
『そうと決まれば食堂へ行くぞ!』
「それで、ステーキ定食の大盛りを食べたと……」
「うん、全部食べちゃった……」
「残さなかったんですか?」
「だってぇ、公人くんのおごりだもん。残せないじゃない……」
「そうですよね!高見様のものなら残せませんよね!」
「外井がいうことじゃない!でも、それが1週間続いて……」
「太ったと?」
「うん……」
レイは顔を真っ赤にしてうつむいてしまっている。
よほど恥ずかしいのだろうか。
外井はいつのまにか冷静さを取り戻している。
「しかし、レイ様いいではありませんか」
「どうして?」
「これからはレイ様も筋肉に目覚めてみませんか?」
「えっ?」
「筋肉はすばらしいですよ!」
むきむきっ!
「筋肉がつけば高見様もよろこびますよ!」
むきむきっ!
「さぁ、今日からプロテイン生活を!」
むきむきっ!
「だから、いちいちポージングしなくていいから!」
何度もボディビルのポージングをとる外井をレイは何度も止めようとしているが外井はまったく聞き耳を持たない。
「とにかく!私は痩せたいの!」
「そうですか?せっかくの機会なのに……」
「うるさい!今から栄養士にカロリーを抑えるメニューにするように言って!」
「そうですか……わかりました……」
外井は不満そうに部屋から出て行った。
バタン!
「………」
レイは扉をじっと見つめている。
「私を襲わないだけいいけど……あんなのもいやぁ〜」
レイは筋肉に異常に執着する従者に呆れていた。
翌日。
「はぁ〜……」
レイは教室で寂しくたたずんでいた。
レイの格好は特別仕様の男子制服。
長い髪は後ろに束ねている。
端から見ていれば美少年という格好のレイ。
そのレイはためいきをついている。
(どうしよう……今日も公人くんからお昼を誘ってきたら……断れるかなぁ……)
授業中もレイはこんなことばかり考えていた。
そしてお昼休み。
案の定公人が誘ってきた。
「おい、伊集院」
「なんだい庶民」
「今日も一緒にお昼にしないか?」
(うえ〜ん、きちゃったよぉ〜。きょ、今日こそ断らないと……)
レイは顔はいたって冷静だったが、心で泣いていた。
「う、うむ、今日はちょっとお腹の調子が悪くて……」
「ほう、それは珍しいな」
「だ、だから今日はだから……」
「そうか?それじゃあ仕方ないな……」
(ほっ、よかった……ごめんね……)
あきらめの表情の公人。
レイは心で両手を会わせて謝っていた。
しかし、レイの安心はすぐに潰される。
公人の後ろに好雄がいたことに気がつかなかったのが幸いした。
「あれ?今日は日替わりメニューは『おかゆ定食』だぞ」
「好雄、そうなのか?」
「ああ、今朝みたらそうだった」
「おお!それなら伊集院でも食べられるな、好雄ありがとう」
「な〜に、好雄様の情報量を甘く見ちゃいけないな」
「そうと決まれば行くぞ!今日もおごってやるぞ!今日はお見舞いだ!」
そういうと公人はレイの手をとって無理矢理立ち上がらせる。
「じゃあいくぞ!好雄、逃げないようにもう片方を抑えろ!」
「まかせとけ!」
レイは公人と好雄に両腕を捕まれて逃げられなくなっていた。
(うえ〜ん、早乙女くんのばかぁ!)
レイは心で号泣していた。
結局レイはおかゆ定食を全部食べてしまった。
さらに、公人が気を利かせたのか、おかゆが大盛りだったのでレイはまた太ってしまった。
(うえ〜ん、どうしてこうなるのぉ〜)
放課後
「はぁ〜……」
レイの個室同然になっている理事長室。
レイの机代わりになっている理事長の机でほおづえをついてため息をついている。
「このままじゃ、もっと太っちゃう……」
レイは悩みに悩んでいた。
「何とかしないと……」
増えてばかりで減る要素がまったくない今の生活。
レイは危機感でいっぱいになっていた。
「栄養士にはカロリーは極力抑えるようにしてあるけど、お昼が断れない……」
「運動……しようかな……」
「でも、下手なダイエットって危険だって言うしなぁ……」
「どうしよう……誰かに聞こうかなぁ……」
レイの頭には何人かの顔が思い浮かぶ。
「今いるかなぁ……聞いてみよう……」
レイは立ち上がって理事長室から出て行った。
これがレイのダイエット作戦の開始の瞬間だった。
To be continued
後書き 兼 言い訳
レイちゃん登場です。
レイの女の子っぷりと、外井のばかっぷりが伝われば嬉しいですな。
今後はレイちゃんが他の子を巻き込むような展開になりそうです。
そういうことで次回は別のキャラかな?