第180話目次第182話
ひびきの高校野球部の女子部室。

楓子がテーブルをじっと見ている。
テーブルの上にはショートケーキが1個。

「………」

楓子はよだれを飲み込みながら、そのケーキを見ている。

あまりの集中ぶりに扉が開いて誰かが入ってきたことに気がついてない。

「……先輩?」
「………」
「……先輩?……食べないなら私が食べちゃいますよ」
「ああっ!友梨ちゃんだめぇ!」

太陽の恵み、光の恵

第29部 乙女のダイエット編 その3

Written by B
部室内ではショートケーキをおいしそうに食べている楓子とそれを見て呆れている後輩の友梨子の姿があった。

「そんなに食べたいのなら食べればいいじゃないですか」
「そんなこと言ったてぇ……」
「どうかしたんですか?」
「いや、え〜と、その〜……」

なんでもない会話なのだが楓子の言葉が止まった。
それをみて友梨子は何かを察した。

「先輩……もしかして……太りました?」
「いや〜ん……」

楓子は両手の拳を口にあて、もじもじしている。

「やっぱり……」

友梨子は大きくため息をついた。



「先輩のことだから、どうせ甘い物の食べ過ぎなんでしょ?」
「ううっ……」
「図星ですね……まったく……あれほど注意しているのに……」
「だって、おいしそうでつい……」

どうやら友梨子が前々から注意していたようだが、楓子に伝わっていなかったようだ。


「でも先輩。このままじゃもっと太っちゃいますよ。
「うっ……」


ぐさっ


「もうすぐ夏ですよ。水着とかどうするんですか?」
「ううっ……」


ぐさっぐさっ


「先輩。よく剣道部のところに行ってますよね。彼ですか?……海にデートに行けませんよ?」
「うううっ……」


ぐさっぐさっぐさっ


友梨子の言葉が楓子の心にぐさぐさと突き刺さる。

「ひどい……友梨ちゃん、私が気にしていることをずけずけと……」
「ずけずけって……事実だし……」
「ひどい……」
「だったら食べなきゃいいでしょうが!」
「ぐすん……」
「泣いた真似したって、ごまかせませんよ」

楓子は両手で涙をふく仕草をするが、友梨子には通じていない。



「ねぇ〜、友梨ちゃんどうしよう〜」
「どうしようって……痩せるしかないじゃないですか……」
「それが問題なんじゃない……」

場所が変わって部室の裏にある洗濯機の前。
汚れたユニフォームの洗濯を行っているところ。
洗剤を入れたり、先に洗い終えたユニフォームを干しながら話は続く。

「先輩、とにかく運動じゃないですか?」
「でも、そんな時間どこにあるの?」
「はぁ……ま、まあ運動はともかく、部活のあとの間食が問題なのかもしれませんね」
「やっぱり……」

友梨子は大きくため息をついたあと、楓子の一番の問題点を指摘する。

「先輩、部活のあとものすごくお腹がすきません?」
「そうだね……思いっきりお腹がすいちゃうのよね」
「だから、帰り道でケーキを必要以上買ってませんか?」
「な、なんで知ってるの……」
「いや、想像で言ったんですけど……やっぱり……」
「………」
「そこを我慢しないと何やってもさせられませんよ」
「う〜ん、やっぱり我慢しないとだめだよね……」

友梨子の言葉にがっくりする楓子だった。



そして部活も終わりに近づいたころ。
2人は部員達の練習風景を見ていた。
グラウンドでは部員達が連携プレーの練習を行っていた。


「先輩も部員達みたいに運動すればスマートになれますよ」
「そうかなぁ?」
「運動部の女の子ってスマートな子って多いじゃないですか」
「でも、食べ過ぎってことないのかなぁ?」
「食べたら動けなくなっちゃうから、自然と気をつけるんじゃないですか?」

2人は部室の扉の前で並んで練習を見ていたのだが、
楓子が足元に何かを見つけた。



「そっかぁ、たとえばこれを素振りすると……か……」

「ああっ!しまったぁ!」



友梨子が気がついたがもう遅い。
楓子の足元にあったのは金属バットだった。

楓子の表情がみるみる変わっていく。
とくに目が怪しく光りだす。



「うふふふ……ダイエット♪ダイエット♪」

(やばい……やばすぎる……)



今日の楓子の目はいつもより余計に怪しい。
友梨子はその目におびえきっている。



楓子はにこにことグラウンドに歩み寄る。
それをみた部員達は恐れ慌てふためきグラウンドの内野に集まる。


「ノックだよぉ〜♪」


「「「おおぅ〜!」」」


「今日はダイエットしたいから、3倍増しだよぉ〜♪」


「「「おおっ〜!」」」


(はぁ〜、なんで先輩はこんなの毎日やって痩せられないんだろう?)


気合いが入っていそうで、実は完全に脱力した部員達の声がグラウンドに響き渡る。

哀れな目で見つめる、他の部員達。
ショーを見ているかのように校舎から見ている野次馬達。
そして頭を抱えながらノックを手伝う友梨子。

結局普段とあまり変わらない風景がグラウンドに繰り広げられていた。



そして30分後。

「あ〜あ、今日もやっちゃった……」
「………」

グラウンドには積み重なるように倒れている部員達。
その光景は一部では「この前のスケ番達の騒動よりもひどい」との評判もあるぐらいだ。

そんな光景を見ながら、楓子と友梨子はボールの片づけをやっている。
ノックのあとは部員達は動けないのでこうしてマネージャー達が片づけをしている。

「なんかものすごくお腹空いちゃった……」
「当たり前ですよ!あれだけバットを振れば……」
「友梨ちゃん……ノックの話は止めてくれない?」
「ご、ごめんなさい!」

楓子はノックのあとは、ノックについて話をしたがらない。
楓子の表情は暗く、寂しい。
友梨子はそれをみて慌てて話を止める。


楓子自身も部活後にお腹が減る元凶はこれであるのは百も承知なのだが、それを口にしたがらない。
友梨子もそれにようやく気がついた。



しかし、それを避けていたら問題は解決しない。
友梨子は思いきって話を続けることにした。

「でも先輩……原因はわかってるんでしょ?」
「………」
「避けられないことはわかりました。じゃあ、食べ過ぎない方法を考えましょう」
「……どうやって?」



「簡単ですよ。私が帰り道を監視することにします!」



「ええ〜っ!」
「せ、先輩、ボール!」
「あっ……」

友梨子の力強い言葉に楓子は驚く。
思わず持っていたボールのかごを落としてしまうほど。

2人でこぼれたボールを拾いながら話を続ける。

「たぶん、先輩のことだから、誘惑に負けちゃうんじゃないですか?」
「う、うん……」
「それだったら、私が家まで監視しますから寄り道する危険はなくなりますよ!」
「で、でも……」
「先輩の家と私の家って近くだから、まったく問題ないです!」
「………」


「い・い・で・す・ね?」
「はい……」


友梨子の力強い押しに楓子は納得するしかなかった。



そして帰り道。

「じゃあ、まっすぐ家に帰りますからね!」
「はい……」

制服姿に着替えた2人が校門の前に立っている。
楓子は左腕を友梨子に抱きつかれており、逃げることができない。

そして家に向かおうとしたとき。

「あれ、楓子ちゃん。帰りなの?」
「あっ、純くん……」

純一郎が後ろから楓子を呼んでいた。
竹刀の袋を持った純一郎が楓子の前に回り、立つ。

「今日は後輩と一緒なんだ」
「そ、そうなの……」

純一郎は楓子の隣の友梨子をちらりと見ている。
楓子はなんで一緒にいるのかは言えるわけがなくもじもじしている。

「折角喫茶店にでも一緒にと思ってたけど、先客がいたんじゃしょうがないな」
「う、う、う、うん……ごめんね……」

「わかっているんでしょうね?」とばかりに左腕をぐいぐいと引く友梨子をちらりとみて、楓子は断るしかなかった。

「じゃあ今度一緒に……それじゃあまた明日」
「うん、また明日……」

そういうと純一郎は足早に校門前の坂道を降りていった。



純一郎の背中を見送る楓子と友梨子。
寂しそうな顔で見送る楓子の耳元で友梨子がささやく。

「彼なんでしょ?」
「か、彼って訳じゃないんだけど……」
「先輩、我慢ですよ。我慢すれば、海でのデートが……」
「う、海でのデート……」
「先輩のナイスバディに彼もメロメロに……」
「………」
「ありゃ……もう入っちゃってる……」

顔を真っ赤にしてボーっとしている楓子を見て、頭の中が妄想でいっぱいなのを友梨子は感じた。

「と、とにかく……連れて行きましょ……」

そんな楓子を友梨子は無理矢理引きずって家へと帰った。



「先輩、着きましたよ」
「あ〜あ、着いちゃった……」

そして、寄り道せずに楓子の家の前。

「それじゃあ、友梨ちゃん。また明日……」
「それじゃあ、また……って先輩?」
「はい?」
「まさか部屋でお菓子をぼりぼり……なんて考えてないでしょうね?」
「うっ……」

友梨子の言葉に楓子の言葉ばかりか体が固まる。
どうやらまた図星らしい。


「う〜ん、怪しいですね……わかりました!ご飯前まで一緒にいます!」


「ちょ、ちょっと友梨ちゃん!」
「ご飯の時間まで私が監視します!いいですね!」
「で、でも親が……」
「大丈夫ですよ。うちの親って放任主義だから、ご飯までに戻ってくれば大丈夫ですから」
「………」
「ついでですから勉強も教えてくださいね♪」
「そんなぁ〜」



そういうわけで、友梨子がご飯時まで楓子の部屋に居座っているため、楓子はまったくおやつが食べられなくなってしまっていた。
おまけに友梨子から勉強を聞かれるため楓子にとっては頭もお腹もさんざんな目にあう毎日が続くこととなる。

しかし、これが功を奏し、楓子は確実に減量に向かうこととなる。
さらに友梨事との仲も親密になる結果となる。

楓子にとっては一石二鳥のような結果なのかもしれない。
To be continued
後書き 兼 言い訳
今回は楓子ちゃんのお話です。

楓子ちゃんは本編でも確実にダイエットを行ってナイスバディになるキャラですけどね。
でも、こんなので痩せてもうれしいのかなぁ?

今回は楓子と友梨子の先輩後輩の仲良しぶりが伝われば嬉しいな、と。

そういうことで次回はちぃちゃんになるかな?
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