第182話目次第184話
放課後の廊下をレイはぶらぶらと歩いていた。

「誰かいないかなぁ……」

レイの目当ては女の子。
別にナンパではない。

ダイエットに詳しそうな女の子を捜していた。

「うちの学校ってスタイルいい子が多いからねぇ……」

自分だってスタイルはいい部類だが、男として生活しているレイの頭にはまったくない。

「え〜と……あっ、いた!」

レイはお目当ての子を見つけたらしい。
レイは平然とした表情でその女の子に近づく。

「あれ伊集院くんどうしたの?」
「ごほん!い、いや白雪くんもどうしたのかね?」
「私はヒナちゃんを待ってるんだけど」
「そ、そうかね……い、いやちょっと聞きたいことがあってね……」
「???」

太陽の恵み、光の恵

第29部 乙女のダイエット編 その5

Written by B
レイが目をつけたのは真帆だった。
真帆のスタイルの良さはわかっている。

(きっと、白雪さんならいい方法を知ってるかも……)

そんなわけで、真帆にダイエットの方法を聞いてみようとしたのだ。



そういうわけで、さっそく聞きたいわけだが、ここでレイは考えた。

(で、でも、い、いきなり『ダイエットしたい』なんて聞いたら疑われるかも……)

確かにそうだ。
端からみれば、男が女にダイエットを聞いているのだ。
そういうのは普通同性から聞くもの、異性に聞くのはおかしすぎる。

(そうだ!)

そこで一計を案じた。

「い、いや、じ、実は妹がダイエットしたいらしくて……」

自分を妹のメイに置き換えて話をしようとしたのだ。



しかし、そのたくらみは一瞬でご破算になる。


「え、メイさんのこと?」
「えっ?」
「うん、今年のお花見のときに会ったけど」
「そ、そうなんだ……」
「メイさんって、小柄で痩せてると思ったけど……」

(そ、そんなぁ……なんで知ってるのぉ……)

メイはひびきの高校にいる。
だから、きらめき高校でメイのことをよく知っている人が少ないと思っていたのだが、
真帆は予想外に知っていた。
レイは膝をがっくりと床につきたいぐらいに愕然としていた。

「ぼ、僕もそう思うんだが、ぼ、ぼくに、聞いてきてね……あははは……」
「ふ〜んそうなんだ……」

しかし、そうしてられずに、なんとかごまかすレイ。
真帆はそれでも納得したみたいだ。



「お〜い、真帆〜」
「あっ、ヒナちゃん!」
「あっ、伊集院くんだ。真帆、伊集院くんに何か用なの?」

そんな会話をしているうちに夕子がやってきた。
夕子は真帆の右横に立つ。

「あのね。伊集院くんがダイエットについて聞きたいんだって」
「えっ?伊集院くん、太ったの?」
「いや、妹さんがなんだけ……あれ?どうしたの?」
「い、いや、な、なんでも……」

真帆は夕子の勘違いを訂正しようとしたときにレイの顔をみたら、レイは冷や汗を垂らしていた。
どうもさっきから怪しかったレイ。
真帆は少し考えた後、レイに聞いてみた。

「もしかして、ダイエットしたいのはメイさんじゃなくて、伊集院くんじゃないの?」
「!!!」

レイの冷や汗がさらにダラダラと流れる。

「真帆、図星みたいだよ……」
「やっぱり……」

レイに聞こえないようにぼそぼそと話す夕子と真帆。



一方のレイは、

(うぇ〜ん、うぇ〜ん、うぇ〜ん……ばれちゃったよぉ〜……うぇ〜ん……)

心の中で号泣していた。



そんなレイを見ながら夕子と真帆は普通の声で話をしていた。

「やっぱりね。最近、ちょっと太ったかな?って思ってたんだけど……」
「でも、何で私に聞いてくるの?」
「真帆、わからないの?そんなの男子に言ったら後々何言われるかわからないっしょ?」
「なるほどね。弱み握られちゃうもんね」
「で、女の子に聞こうとしたけど、恥ずかしくて妹さんということにしたんだよ、きっと」
「なるほどね」

真帆と夕子はレイの顔をちらりと見る。
レイは2人に背中を向けて、こっそりと退散しようとしていた。



すぅ〜……



「「伊集院くん!」」



「!!!」



2人のそろった大声に、レイはピンと背中をまっすぐにして硬直してしまう。



硬直している間に、2人はレイの両横にはさむように立つ。

「ねぇ、伊集院くん。逃げることはないと思うなぁ〜」
「そうそう。可愛い子2人を置いていってねぇ〜」
「男の子のダイエットってよくわからないけど、私の知ってる範囲で教えてあげるよ」
「だいじょ〜ぶ、あたしはこう見えても秘密は守るから」

にっこりと満面の笑みをレイに向ける2人。
その笑顔は、レイには『相談相手をさせろ』と脅迫しているように見えた。

「そ、そうなんだ……じゃあ、相談しようかな……」

レイはそう答えるのが精一杯だった。



理事長室。

「ふ〜ん、最近お昼ごはんをつい食べ過ぎていると……」
「だから、伊集院家の管理もできなかったわけと……」
「そ、そういうことなんだ……あははは……」

結局、レイは2人に太ったいきさつを話すことなってしまった。
ただ、簡単にまとめて話したので、昼ご飯をどうして食べ過ぎたかまでは言わなかった。

レイの話を一通り聞いた後で、2人は考えた。

「ヒナ、単なる食べ過ぎなら、運動すればいいんじゃない?」
「そうだよね。まだ脂肪が体につかないうちに落とせそうだしね」
「伊集院家なら、ものすごく豪華なトレーニングルームがありそうだしね。そうでしょ?」
「あ、ああ……最新式の設備があるが……」
「な〜んだ、それでトレーニングすればいいじゃん」

(そ、そんな……運動だけでいいの?)

真帆と夕子の結論はレイが想像した以上に単純なものだった。
ちょっと意外な結論でレイは驚いていた。
しかしそれは顔に出さないように気をつけながら確認する。

「そ、そんなことでいいのか?」
「バッチリよ。それに体力つけないと、これからやっていけないよ」
「は、はぁ……」
「精神的なものでもないらしいし、ものすごく太ったわけではないし、それで十分よ」
「私もヒナと同じ」
「そ、そうなんだ、あ、ありがとう……」

レイがお礼を言うと2人は用事があるらしくさっさと理事長室から出て行ってしまった。



理事長室の机に倒れ込むレイ。

「はぁ〜、運動だけでいいのかなぁ……」

運動で脂肪は燃焼させられることぐらいレイはわかっている。
しかし、そんな簡単なことで痩せられるか、という疑問がいっぱいになっている。


「いえ!すばらしい意見ではありませんか!」
「きゃっ!」



むきむきっ!



「体力は何よりの基本!体力に必要なのは筋肉です!」



むきむきっ!



「さぁ、今からステロイド生活を!」



むきむきっ!



「だから、私は痩せたいの!それにステロイドはまずいでしょ!」


突然外井が現れ、レイの目の前でいつものようにポーズを決めながら筋肉のすばらしさを説く。
突然の出現にレイはいきなり現れる事への文句を言うのを忘れてしまっていた。



「でも、レイ様。伊集院家の御世継ぎとして仕事をこなす体力は必要ですよ」
「たしかに、それはみんなのいうとおりだけどな……」
「地下のトレーニングルームで運動してみてはどうですか?」
「そうだね……そうするかなぁ?」
「そうですか。では私がコーチを……」
「それは断る!」
「どうしてですか?」
「絶対に減量のためのトレーニングじゃなくて、ウェイトトレーニングになるに決まってるから!」
「そうですか……それは残念です……折角の機会だったのに……」

(うぇ〜ん……やっぱり外井には任せられない……)

珍しく外井がまともな事をいうかと思ったら、やっぱり筋肉の話になってしまいがっくりするレイだった。



とりあえず外井を追い出し、再び一人で考えるレイ。

(トレーニングルームかぁ……
 でも、見つかったら恥ずかしいなぁ……ダイエットなんて恥ずかしいし……
 それに太ったなんて言ったら、周りからなに言われるか……
 運動したいけどどうすれば……)

運動したいけど、場所に困る。
見つかりたくないので、一人で運動したい。

(そうだ!)

レイは突然ひらめいた。
マンガだと、レイの頭に電球がぴかぴか光った絵になるだろう。

「いいこと思いついちゃった♪」

レイはにこにこしながら机にある電話の受話器を上げる。
そして短縮ダイヤルをポンポンと押していく。

「さっそく連絡しておねがいしよ♪」

そしてレイは電話した相手にすぐ来るように言った。



そして10分後。


コンコン!



理事長室の扉をノックする音がする。
レイはいつものように対応する。


「誰だね?」
『隊長!ただいま参上しました!』
「来たかね?じゃあ入りたまえ」
『失礼します!』



がちゃ!



入ってきたのはきらめき高校の制服を着た女の子。

「やあ、和泉くん。今日もご苦労だった」
「いえ!とんでもございません!」
「今日は何かあったかね?」
「なにもありません!」

レイの質問に、敬礼ポーズをとったまま答える女の子。
彼女は2年生の和泉恭子。
彼女はレイの事を『隊長』と呼ぶ。
どうやら、レイの命令で色々と動いているらしい。
詳しいことはまた別の話で。

「ところで、お願いがあるんだが」
「はい!なんでしょうか?」
「今晩、都合で校舎内を空にしておかなければならない。
 これから校内放送で学校から出ていくように言うつもりだ。
 そこで、夕方、校舎内に生徒が誰もいないことを確認して欲しいのだ」
「なるほど、見回りですね!わかりました」
「この学校は広いから気をつけるように」
「はい!仲間と一緒に見回りします!」

そういうと、恭子は急ぐように教室から出て行った。



それから、15分後。
校内放送が学校中に響き渡る。
レイの声が学校中にあるスピーカーから聞こえてくる。

「ああ、僕だ。伊集院だ。
 突然だが、生徒諸君は午後6時までに学校から出て行ってもらいたい。
 6時過ぎには私設軍隊が見回りに廻るから、それまでにいたら命はないと思ってかまわない。
 それではよろしく。あっはっはっは……」

レイの高笑いがフェードアウトする形で校内放送は終わる。

ちなみに今は午後5時過ぎ。
生徒達は急いで家に帰る準備にとりかかる。
ちょっとしたパニック状態になっている。
そして6時ちょっと前には生徒は全員学校から出て行ってしまった。



校内放送が終わった直後の理事長室。

「はぁ……高笑いって結構疲れちゃうのよね……」

理事長室のマイクから校内放送を終えたレイは一呼吸つく。

「でも、私設軍隊って大げさすぎたかな……でも、このぐらいしないとね……」

私設軍隊は単なる脅し。
実際は先程頼んだ恭子達が見回りを行う程度だ。

「でも、これで今晩は学校に誰もいない……
 校舎周辺の警備を固めておけば学校内は一人きり。
 そうすれば……うふふ♪……」

レイは思わず一人でほほえんでしまう。
よほど夜が楽しみなのだろうか。

そうしていくうちに、夜は更けていく。
To be continued
後書き 兼 言い訳
レイちゃん2回目です。

女の子の悩みはあるのもの、友達に聞くことができないというのは大変ですね。レイちゃんって。
小学、中学と大変だとおもうんですよね。

しかし、レイちゃんと恭子のなれそめも書いたほうがいいなぁ、書いてて思ったなぁ。

さて、次回は別キャラのお話です。
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