第183話目次第185話
「姉ちゃん。最近太ってないか?」

輝美の弟である尽のこの一言で東雲家の騒動が始まる。

「うるさいわね!なんで知ってるのよ」
「そんなの聞かなくてもわかるよ。あれだけ毎日洗面所で大声だせば」
「うっ……」
「それに晩御飯でも食べようか迷っているところを何度も見ればわかるって」
「………」

輝美は文句を言いたいけど尽から事実を指摘されて文句が言えない。

「このままだと、ぶくぶく太っちゃうよ」
「そ、そんなのわかってるわよ!」
「葉月の兄ちゃんからも『お前……太ってないか……』なんて言われるぞぉ」
「余計なお世話よ。それに珪くんの物まね、全然似てないわよ!」
「はぁ……それだけ大騒ぎできるエネルギーがあれば、痩せる方につかわないかねぇ……」
「あんたが言うからでしょ!」

尽に完全に押されっぱなしの輝美。
やっぱりダイエットしようと決めたのだった。

太陽の恵み、光の恵

第29部 乙女のダイエット編 その6

Written by B
「あははは!尽くんらしいわね」
「もう、姉の威厳が丸つぶれよ。笑うことじゃないのよ、なっちゃん」
「まあまあ、でもテル、本当に太ったの?」
「……うん……少しだけだけど……」
「そうなの?全然気づかなかったけど……」
「だから、少しだけだって言ってるでしょ?」

お昼休み。
今日は輝美は友達の奈津実の教室まで行って、奈津実とお弁当を食べていた。

「でも、体重って太りすぎのところ?」
「ううん、標準値よりも少し太いぐらいだけど……」

確かに輝美は太りすぎでは全然ない。
確かにちょっとぽっちゃりとしたところはあるがそれは見た目だけ。
でも、確かに最近太ったのは事実だ。

そんな輝美をみて、奈津実はにやりと笑う。

「ふ〜ん、もしかして、尽くんってスレンダーな女の子が好みなのかな?」
「ええっ?」
「それで愛しの輝美お姉ちゃんにも好みのスタイルになって欲しいと……」
「ちょ、ちょっと!なっちゃん!」
「いやぁ、禁断の姉と弟の愛……ああ、輝美もそこまで堕ちちゃったのね……」
「なっちゃん!話が飛びすぎ!それに私はブラコンじゃない!」

奈津実は単純にからかっただけなのだが、輝美は本気に受け止めてしまった。
本気で怒る輝美に奈津実はただ笑うだけだった。



「なっちゃ〜ん!冗談きついよ……」
「あはは、ごめんごめん!でも、尽くんの指摘ももっともだよ」
「えっ?」
「最近太ったんでしょ?だったら、今から対策打たないと後が大変になるよ」
「う〜ん」
「脂肪って筋肉につくのは比較的簡単に燃焼できるけど、さらに太って内蔵に脂肪が付くと大変よ」
「そうなの?」
「そうよ。簡単で燃焼しないんだから。そうなったらダイエットも大変よ」
「そうなんだ……」

やっぱり今からダイエットはやっておいた方がよいということは正しいらしい。
でも、ダイエットというほど本格的なことは必要ないし、するほど太っていない。

「でも、私の場合、なにすればいいんだろう?」
「えっ?テル、どういうこと?」
「いや、バイトで結構体動かしているし、そんなに食べ過ぎだと思ってないけど……」
「確かにね……」

奈津実は輝美のお弁当を見てみる。
輝美のお弁当は自分よりも小さい。
チアリーディング部に入っている奈津実はその分エネルギーが必要としても、やっぱり輝美のは小さい。

「確かに、普段の生活をしていれば太らないと思うけどね……」
「そう、それに最近生活を変えたと思えないけど……」
「えっ?食べ過ぎたとかってことがないの?」
「うん……だから、太ったのが気になって気になってしょうがないんだよ……」
「ありゃりゃ……そりゃやっかいだねぇ……」

奈津実が嘆いた頃にはもうお昼休みが終わろうとしていた。
2人とも次の授業の準備があるので話は打ち切りとなった。



その次の日の深夜。

「はぁ……どうすればいいんだろう……」

一向に減量の見込みが立てられない輝美は机の上のノートパソコンに向かっていた。

「こういうときは、ネットで気分転換だよね」

すでにパソコンの電源は入っており、ブラウザソフトとメールソフトが立ち上がっていた。

「誰か来てないかなぁ……あっ、きてるきてる」

さっそく輝美はメールを開いてみる。



「あっ、なっちゃんからだ」

一通目は奈津実からだ。

『やっほ〜。
 お昼は話が中途半端に終わってごめんね。

 でも、あまり神経質にならないほうがいいんじゃない?
 神経質になって過食症や拒食症になってもしょうがないしね。

 いつもよりちょっと体を動かすようにしたり、食べ物を気をつけるだけでいいと思うよ。

 あと、最近だと痩せるためのサプリって売ってるからそれ試してみたら?
 結構効果あると思うよ。

 それじゃあ、頑張ってね♪              なつみ』


「なるほどね……明日買ってみようかな……」

奈津実のアドバイスに素直に従ってみようと思う輝美だった。



輝美は次のメールを開く。

「次はと……あっ、千晴ちゃんだ」

千晴とは、偶然知り合ったいわゆるメル友。
千晴がアドレスを間違えて輝美に送ってしまったのがきっかけでメル友になっている。
ちなみに千晴は元々アメリカにいて、今日本にいる高校生ということ以外はわからない。

「昨日、ダイエットのことを聞いたらもう返事が来た……親切だねぇ……」

輝美はさっそくメールを読んでみる。

『こんにちは。
 Dietですか?

 私はしたことがありませんね。
 でも、今日、学校の知り合いの女性に聞いてみましたら。

 「ばかね、Dietなんて最近色々聞くけどくだらないわね。
  そんなことするより一番先にやることがあるのに……
  なにって?
  生活たいどよ!

  朝ちゃんと起きる。
  朝食をしっかり食べる。
  間食しない。
  昼も夜も規則正しく栄養を考えて食べる。
  そして夜更かししない。

  これができない限り、どんなDietやっても無駄ね」

 だそうです。
 話だと医学的にも睡眠はDietには必要だそうです。
 だから、早く寝たらどうですか?

 いいことが書けなくてすいません。
 それではまたメールします。             千晴』

「………」

あまりに鋭い指摘に声もでない。



輝美は続いて、メールに続きがあったので最後の部分を見る。

その文章をみて輝美は硬直してしまう。

『P.S.
 すいません。
 メールで「アメリカの女の子はどうですか」とか
 「バストを減らさない方法って知ってますか?」とか言われても困ります。
 私は男性なので。
 すいません。』

「ええっ〜〜〜〜〜!男だってぇ!」

輝美は思わず叫んでしまう。
女の子だと思っていた千晴は男の子だった。

「千晴だから、てっきり女の子だと……やばぁ……」

輝美は千晴に送ったメールの内容を思い出す。
千晴を女の子だという前提で送った内容が結構多い。
当の千晴もかなり困っていたかもしれない。

「うわぁ〜……やばぁ〜……謝りのメールを書かないと……」

輝美は急いで返信のメールを書き始めた。



「ふぅ〜」

メールを書き終えた輝美は送信ボタンを押してほっと一息つく。

「さて、メールはこれだけみたいだし、さてと今は何時……げっ」

輝美が時計を見ると、夜中の3時。
それを見て、輝美はなぜ最近太ったか原因がわかった。

「うわぁ!これだから太っちゃうんだぁ。早く寝よう……」

輝美は急いでパソコンの電源を切って寝ることにした。



それから2週間後。

「えっ?テル、元に戻ったって?」

輝美は再び奈津実とお昼御飯。
そこでダイエットの成果の報告をしたのだ。

「うん、夜更かししないようにして……
 それになっちゃんから教わったサプリを毎朝飲んで……
 そうしたらいい感じに痩せられた」
「へぇ〜、すごいじゃない」
「痩せたっていっても、ちょっとだけだけどね」
「じゃあ、このまま続けるの?」
「う〜ん、私はこれで十分だと思うから、サプリは止める」

確かに見た目少しすっきりした感じの輝美。
それをみた奈津実もダイエットの効果があったことがわかる。



「でもよかったじゃない」
「ありがと。なっちゃんのおかげだよ」
「いえいえ、どういたしまして……ところで」
「えっ?」

奈津実が輝美の顔に近づく。
そして輝美の耳元でそっとささやく。



「そのサプリ……いらないならくれない?」

「えっ?」

「いや、あの、その、まあ、だから、あははは………」


輝美は驚いて奈津実を見てみる。
奈津実はなにかいいずらそうにしている。
それをみて輝美は、奈津実もサプリのお世話になりたい状況だということを知るのだった。



その日の夜。

「ふんふんふ〜ん♪」

久々に上機嫌の輝美はお風呂上がり。
白のパジャマに着替え、タオルで頭を拭きながら自分の部屋へと戻る。

その途中で尽に出会う。
白いTシャツに青の短パン姿の尽はこれから風呂に入るところ。

「あれ?姉ちゃん痩せたの?」
「あら?わかっちゃった?」

輝美は機嫌がいいところを言われてさらに機嫌がよくなる。

「ああ、洗面所からの悲鳴も聞こえなくなったし、御飯も躊躇なく食べてるし」
「まあね。気にする必要もなくなったからね♪」
「ふ〜ん……」



(あら?尽の視線ったら……)

輝美は尽の視線が自分の全身をさまよっていることに気づいた。

上機嫌の輝美は尽をからかってみることにする。


「あは〜ん、さてはお姉ちゃんの引き締まったナイスバディにくらくらになってるなぁ?」
「うっ……」

尽が一瞬固まる。
調子に乗ってさらに押してみる。

「ほらほら?もしかして興奮しちゃったのかなぁ?」

輝美は尽の目の前に立ち、胸を張ってみる。
すると尽の声が一変する。

「……しちゃったよ……」
「えっ?」

「そんなおっきな胸みたら、たまんなくなっちゃうよ!」
「えっ?」

ドタドタドタ……

尽の言葉に輝美が驚いているうちに、顔を真っ赤にした尽は風呂場に逃げるように走ってしまった。



「……尽……」

呆然として立ちつくす輝美。

「もう尽もそんな年になっちゃったんだ……気をつけよう……」

尽は小学5年生。
性的なことは知っている年齢だ。
もし、奈津実が以前言ってた禁断の恋になったらたまらない。
輝美は尽に変な誘惑をしないように気をつけようと思ったのであった。

「でも、尽が興奮してくれるぐらい痩せられてよかった♪」

しかし、その後でこんなことを言っていることから、本気でそう思っているのかは微妙である。
To be continued
後書き 兼 言い訳
久々の輝美ちゃんのお話です。

サプリって、規則正しい生活をしないと効果が小さくなるらしいですね。
やっぱり規則正しい生活というのは大切みたいですね。

あと、千晴くんが初登場になるのかな?
さて、次回はちぃちゃん3回目になるかな?
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