第184話目次第186話
もえぎの市にある室内プール。

ここのメインの施設は遊戯用の波プール。
1年中夏の海の雰囲気を満喫できるとあって人気も高い。
話では新しいアトラクションの建設予定もあるらしい。

こういう室内プールだが、競技用のプールもある。
平日はスイミングスクールのためのプールとして使われているが、休日は会員ではない市民にも低料金で開放している

子供からご年配まで、真面目に泳ぎたいと思っている人には好評らしく、それなりの人数はいる。



そんな市民プールに少々浮いている、バリバリの競泳水着の女の子が2人。

「え〜、めんどくさいやん」
「だめ!準備運動しないと、足つっちゃうよ」

ちとせと優紀子はダイエットのために泳ぐ準備をしていた。

太陽の恵み、光の恵

第29部 乙女のダイエット編 その7

Written by B
もえぎの高校の競泳水着は一般の競泳水着と同じでシンプルなデザイン。
しかし、少しハイレグ気味で、背中の露出も結構広い。
体育の授業以外で着るにはちょっと恥ずかしい。

しかし、競技用プールなので、あまり違和感はない。


ちとせは優紀子に言われてプールの隣で渋々準備運動をしている。

「こんなところで準備運動なんて、恥ずかしくてしゃあないわ」
「でも、足つって溺れるのはもっと恥ずかしいよ」
「う〜ん……」

なんだかんだいいながら、しっかりと準備運動を行う2人だった。



そして、いよいよプールに入る。
2人ともプールサイドからゆっくりと水の中に入る。

「なぁ、ゆっこ。これからどうするんや?」
「え〜とね、遠泳だよ」
「遠泳?どのぐらい」
「とりあえず……2キロかな?」
「い、2キロやてぇ!」

ちなみにここのプールは全長50メートル。
2キロというと20往復になる。

ちとせは視界の向こうの反対側のプールサイドを見てみる。
ちとせにはかなりの距離に感じたようだ。

「な、なぁ、全力で50メートルをばぁっと!ってのではあかんか?」

「だめ、今日は全身の筋肉を使うために来たんだから、
 そういう場合は速さよりも距離!
 だからゆっくりでいいから、全身を使ってなが〜くやるのがいいの」

「えらい詳しいな」
「これでも野球部のマネージャーやってますからね」
「ふ〜ん……」
「そういうわけだからいくよ!」
「ちょ、ちょっと、ゆっこ!」

優紀子はちとせの手を引っ張ってコースの中央に進んでいく。
ちとせはただ引っ張られるだけ。

「これで、ちとせも逃げられないからね」
「に、逃げるって……」
「ちとせのことだら、途中で休憩とか言って休みそうだもん。2キロ泳ぐまで休憩はなしだよ」
「え〜っ!ゆっこのおに〜!」
「鬼じゃない!私が一緒に泳ぐから頑張ろう、ねっ?」
「は〜い」

優紀子の言葉にちとせも従うしかなかった。



そして2人は泳ぎ始める。

ちとせが先に泳ぐ。そして優紀子が後ろで監視?しながら泳ぐ。

2人とも平泳ぎでゆっくりと泳ぐ。

他に泳いでいる人を気にしながらもまっすぐ前に向かって泳ぐことに集中する。

泳ぎ始める直前までぶつぶつ言っていたちとせも黙々と泳いでいる。

元々泳ぐのは好きで得意なちとせはすいすいと泳いでいく。

一方の優紀子はそれほど運動は得意ではないが、ちとせに遅れないようにと懸命に泳いでいる。

もう、ダイエットとかそんなことを考えて泳いでいない。

部活同然に黙々と懸命に泳いでいた。

そして2人は20往復2キロを泳ぎ切った。



「はぁ〜、疲れたわ〜」
「ほんとだね」

2キロを泳いだ2人はプールから上がり、プールサイドにあるベンチにどっかりを座っている。

「2キロなんて無理やと思ったけど、意外と泳げるもんやね」
「でも、10往復目辺りがきつかったよね」
「そうやな、そこから先は意外と楽やったな」
「あと少し、もう少し、って感じで泳いでたよ」

ちとせはベンチにおもいきり横になって、ぜいぜい呼吸している。
優紀子はそのベンチの端の小さなスペースにちょこんと座っている。
優紀子としては座りずらいが、我慢して座っている。



そうして10分ほどその状態で休んでいたところで優紀子が立ち上がり、いまだに横になっているちとせの横に立つ。

「ちとせ」
「な、なんや?」
「疲れた?」
「ああ、めっちゃ疲れた」
「じゃあ今日はこれで止めようか」
「ええのか?」
「いいよ」
「た、助かった……」

ちとせは本当にほっとした表情を浮かべている。
そんなちとせに対して優紀子が一言。


「明日は2.5キロだからね」


「えっ?」


「毎日0.5キロずつ増やしていくから。で、最後には5キロまでのばすから」


「………」


にこにこしながら仁王立ちで言う優紀子にちとせは言葉もでない。

「最初は慣れてないから、いきなり長距離って無理なんだよね。
 だから、最初は短く、徐々にのばしていくことにしてるから」

「ゆっこ……おに……あくま……」

「頑張ってね。クラスメイトも応援してるよ♪」

「ゆっこあくま……」

「何言っても無駄だよ」

「………」

ちとせは何とか抵抗しようとするが、優紀子は聞く耳を持たない。
ちとせはベンチに横になっているのだが、余計に疲れが沸いてきそうだった。



「じゃあ、最後にクールダウンだよ」
「えっ……」

優紀子はちとせの腕を掴んで無理矢理起きあがらせる。
そしてベンチから無理に立たせるとプールサイドに連れて行く。

「ゆっこ、う、クールダウンって……」
「決まってるでしょ。このまま上がると筋肉痛がひどくなるよ。
 そうならないために、最後はクールダウンさせなきゃね」
「もうええ、ゆっこの好きにして……」
「じゃあ、好きにさせてもらうね」

優紀子とちとせは最後のストレッチまで入念に行った。
周りの目が少し2人に集まっていたのだが、2人とも気にしないようにしていた。


こうして2人の水泳ダイエットの1日目が無事に終わった。



「お疲れさま」
「ああ、なんか久々に運動したぁ!って感じやな」

シャワーを浴びて制服に着替え終わり、施設から出た2人はもえぎの駅前に戻ってきた。
家のある方向が違うため、2人はここで別れることとなった。

「この調子なら1週間でも痩せられそうだね」
「そうやな、ナイスバディのちぃちゃんに大変身や!」

「そのためには間食は気をつけてね♪」
「うっ……」

「折角減らしたのにそれ以上に増やしちゃったらカッコ悪いよね♪」
「………」

「それじゃあ、また明日ね♪」
「………」

優紀子は満面の笑みをちとせに見せてさっさと家に帰ってしまう。

「ううっ……ゆっこのおにぃ……」

優紀子の背中をじっと見つめながら、ちとせはハンカチの端を噛みしめて悔しがるしかなかった。



そして、1週間、ちとせは優紀子の監視の元、長距離遠泳を放課後にみっちりと行った。

毎日泳ぐ直前まで、愚痴をこぼしているちとせだが、いざ泳ぐとなると真面目に泳いでいた。
なんだかんだ言っても、泳ぐのは好きなのだ。



しかし、優紀子のほうはそういうわけにはいかない。

ただでさえ運動はほどほどの優紀子は、ちとせの早いペースに追いつくことで精一杯だった。
水泳に関してさほど得意ではない優紀子は最後日はちとせから大きく離されてしまった。



そんな優紀子が無事に終わる訳がない。
1週間たった後の優紀子は学校でフラフラだった。

「ゆっこ、どうしたん?」
「き、筋肉痛……」
「筋肉痛?」
「5キロはきつかった……」

結局、優紀子だけ筋肉痛が発生してしまっていた。

「ゆっこ、それでマネージャーつとまるん?」
「マネージャーもあんなに運動しないから……」
「まったく、ゆっこも無理するからや」
「誰のせいでこうなったのよ……」

いたって平気なちとせを恨みたくなる優紀子だった。
To be continued
後書き 兼 言い訳
ちぃちゃん3回目です。
ちとせも真面目にやってますね。
まあ、ダイエットというよりも、水泳やってるってほうが大きいかもしれませんけどね。

効果があったのかは、この後のお楽しみということで。

さて、次回はレイちゃん3回目です。
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