第185話目次第187話
午後6時。
きらめき高校校舎の生徒入口前。

レイの前には何人かの女の子が横に並んでいる。

「見回りは終わったかね?」
「はい!見回りは終わりました!あの紐緒結奈も帰りました!」

列の中央にいる恭子が敬礼ポーズをとりながら返事をする。

「紐緒君も?」
「はい!『大変ねぇ』と言いながら校門からでるところを確認しました!」
「それだけかい?」
「いえ、『私ばかり監視しないで、ちゃんと見回りしたほうがいいわよ』って言ってましたが、たいしたことないですよ!」
「そ、そうかい。じゃあ、君たちもすぐに帰りたまえ」


「「わかりました!」」


女の子達は回れ右をするとまっすぐ校門へと走り去っていった。

学校にはレイ一人が残された。

太陽の恵み、光の恵

第29部 乙女のダイエット編 その8

Written by B
午後6時半
レイは理事長室にいる。

「これで学校には私以外だれもいない……」

生徒は校内放送を使って全員帰した。
見回りもやって誰もいないことは確認した。

先生達も今日はすぐに帰るように言ってある。
理事長代理の指示なので先生達は文句の一つも言わずに6時過ぎには全員帰った。

今、校舎内は理事長室しか明かりがついていない。

「学校の周りは護衛を何十人もつけているから誰も入ってくる心配はない……」

既に校舎の周りには護衛を何人も配備している。
きらめき高校にはセキュリティシステムが万全だからいらないのだが、念には念を重ねている。

「さて、いよいよあれができるのね……わくわく……わくわく……」

レイは心躍らせていた。



しかし、それも一瞬で終わる。

「レイ様」

「きゃぁぁぁぁ!」

「どうなされました?」

「な、なんで外井がここにいるのよ!屋敷にいるように言わなかった?」

レイの目の前には外井がいつの間にか立っていた。
レイは驚いて椅子ごと倒れそうになった。

「はて?私はレイ様からご注文の品を運ぶように言われたのですが?」
「えっ?」
「服飾担当からこれをもらうように、と言われたのですが……」

そういうと、外井は40センチほどの高さの大きな紙袋を理事長席の机に置く。

「あっ、そうだそうだ。これが必要なのよね♪」
「レイ様もひどいお方です。私はお使いを頼まれただけなのに……」
「ごめんなさい。つい忘れちゃった♪」
「忘れたでは、今後が思いやられます、以後気をつけてください」
「は〜い……」

レイは不満そうに返事をする。
文句を言いたいが、悪いのは自分なのでしょうがない。



「それでは私は校門前でお車の準備をして待っています」
「わかった、お願いね」
「では失礼します」

外井は深々と一礼すると、くるりと回り扉に近づきノブを回す。
そこでレイが一言言う。

「外井、袋の中身は見てないでしょうね」
「いえ、まったく見ておりませんが……」
「ならいいわ。お車お願いね」
「わかりました……」

外井はそのまま理事長室から出て行った。



レイは外井が置いていった紙袋に手をだす。

「さてと、中身中身♪」

レイは上機嫌で紙袋の中身を開ける。

「………」

開けた瞬間、レイは絶句する。
そして絶叫する。

「そ〜〜〜と〜〜〜い〜〜〜!」

レイは中身を取り出し、机にばらまく。

「見てないって言ってたのにぃ……
 ……って、確かに見てないかもね。
 中身を見ずに無理矢理詰め込んだのね……
 それにしてもぉ〜〜〜!」



レイが怒るのも無理はない。

机の上にあるのはレイが注文していない物ばかり。


筋肉増強用のプロテインが3種類。しかも3ヶ月分ぐらいの量。

それに、ボディビル大会のビデオテープが3本。
しかもタイトルに「外井セレクション2004」とか手書きで書いてある。

あとはエクスパンダーに鉄アレイ。
最後は通販番組で売っていると思われる小さな筋肉トレーニングの機械。


「だから、筋肉はいらないって言ってるのにぃ!」

レイは目眩を起こしそうだった。



「私が欲しかったのはこれとこれなんだから!」

レイは紙袋の一番下にあった、2着の服を取り出す。

「早く着替えよっと♪」

レイは窓のカーテンを閉じると、自分の服を脱ぎ始めた。
急いでいるのか、ボタンを外すところで手がもたついている。
それでも、脱いだ服はきちんとたたんで机の上に重ねて置いていく。

そしてレイは白の下着姿になる。



「いよいよね……」

レイは2着の服をもち、目の前に持っていく。

「夢にまで見たこれが着られるなんて……」

レイが持っているのはきらめき高校の体操服とブルマ。
特別なデザインでも素材でもなく、普通の生徒が着ているのと同じもの。
レイに合わせて大きめなサイズになっている。

「ああ、緊張しちゃう……」

レイはどきどきしながら、体操服とブルマを身につける。
そしてレイは体操着姿になった。



体操着姿のレイは理事長室の壁になぜかある全身が写る鏡の前に立つ。
鏡には体操着姿のレイの姿が映っている。


「素敵……」


それを見てレイはうっとりした表情をする。
そして目をつぶり自分自身を抱きしめる。


「この体操着の肌触り……
 それにこのブルマの締め付けとお尻に感じる感触……
 そしてこの太股が露出するこのデザイン……

 はぁぁぁ……

 さ・い・こ・う……」


鏡の自分自身を見つめ、またうっとりとする。


「最近、ブルマが減少してるって聞いたな……
 なんか、女の子からの評判が悪いとかで……
 なんでだろう?
 こんな素敵なものを着ないなんて……
 私にはわからないわ……」


普段は男として生活しているレイだから、思考も普通の女の子とは違っているようだ。



ひととおり、自分のブルマ姿を堪能したあと、レイは理事長室からでる。
廊下には物音一つしない。

「静かね……」

明かりも最小限の非常灯しかついていない。

「しかし、我ながら名案ね。
 『学校の中をランニングする』なんて。
 運動できるからダイエットできるし。
 何より、普段できない格好で学校中を堂々と走れるんだから。
 一石二鳥だね♪」

レイは一回深呼吸をする。

「いくわよ!」

レイは軽やかに走り出した。




タッタッタッタッ……



大きく綺麗なストライドでレイは廊下を軽やかに走る。

誰もいない教室。
邪魔をする物も人もいない。

長い髪をなびかせ、軽やかに走る。




タンタンタンタン……



階段も1段1段リズムよく登っていく。

階段全体にリズムのいい音が響く。

レイにはその音がとても心地いい。




タッタッタッタッ……


2階、3階、特別棟。
レイは学校全体を走り回る。
学校全体が大きいので、結構距離もある。

レイの顔に汗が伝う。

体も運動した熱で暑くなっている。


「気持ちいい……」


レイはそのすべてが心地よかった。



そして1階に戻ってきたとき。



ドンッ!



「きゃっ!」
「うわぁ!」

レイは何かにぶつかった。
不意打ちを食らったレイは思いきり尻餅をつく。

(えっ?なになに?今、男の人の声がしなかった?)

ぶつかったのは廊下のど真ん中。
誰もいないはずの廊下でぶつかった。

レイにはなにがなんだかわからない。



しかし、レイの目が慣れると目の前のぶつかった物体の正体がわかる。



(な、な、な、な、公人くん!)



目の前にいたのは、この場にいないはずの公人だった。


(どうして?どうして?どうしてなの?)


レイにはどうしてこうなっているのか、わからずおろおろするばかり。



おろおろしているうちに相手もこっちに気がついたようだ。

「あれ?君は……」
(はっ!公人くんがこっちを見てる!)

公人がこっちを振り向いたのに気づいたレイはさらにおろおろするばかり。

「たしか、何度もよくぶつかって……」
(駄目!そんなにじろじろ見られたらバレちゃう!)

「君はいったい……」
(逃げないと!)


ダッダッダッダッ……

レイは慌てて来た道を逆走して、逃走した。

(うえ〜ん、誰もいないはずなのにぃ。もう帰る!)

レイは泣きそうになりながらも理事長室に逃げ込んだ。



そして残された公人のところにもう一人、近くの女子トイレからきた。

「ああ、すっきりした。公人、どうしたの?」
「……金髪の幽霊……」
「また?公人ってよく金髪の幽霊にぶつかるわね」

黄色のヘアバンドが月明かりに照らされて怪しく光っているこの女の子の名は藤崎詩織と言う。

「今日の幽霊……ブルマ姿で足があった……」
「足?」
「ああ、太股がこうすらっと……」

公人のその言葉を聞いて詩織は不機嫌になる。


「なによ。ここに見放題、触り放題の太股がここにあるのに、浮気するわけ?」


詩織は公人の前でスカートを両手でパンツが見えるギリギリまで持ち上げ、自分の太股を公人に見せつける。

「詩織、浮気という意味じゃなくて、幽霊に足があった、っていうだけだよ」
「な〜んだ、それなら安心した♪」

詩織は不機嫌が治ったようだ。



公人と詩織は腕を組んで歩き始めた。

「しかし、びっくりしたよ。『誰もいない学校内でデートしよ♪』なんていきなりいうから」
「だって、伊集院くんが生徒も先生も全員追い出したでしょ?だからチャンスだと思って」
「どうしてそんなことを?」
「だって、誰もいない学校って、怪しくてドキドキしちゃうでしょ?」
「確かにちょっとした肝試しみたいだからな……」
「それに、いつもだと、こんなふうにいちゃいちゃできないしね♪」


チュッ


そういうと詩織は公人に横から抱きついて、頬に軽くキスする。

「しおり〜」
「えへへ、しちゃった♪」

公人の顔は真っ赤。
詩織の顔もほのかに赤い。

「でも、伊集院のことだからセキュリティが万全だと思うけど」
「あっ、それは紐緒さんに頼んで切ってもらった」
「え゛」
「あの放送があってから、急いで頼んだら5分でやってもらっちゃった」
「紐緒さんでしょ?交換条件は?」
「公人と私のペアでの人体実験2回分。格安だって」

笑顔で平然と言う詩織。
慣れているとはいえ、公人も即座に返事ができない。

「……もう俺はなにも文句言わない……しかし、それで本当に俺達の様子が見られてないのか?」
「う〜ん……見られているなら、それはそれで燃えちゃうかも♪」
「ここで燃えるなよ……ほら、次はどこに行くんだ?」
「特別教室棟」
「わかったよ。はぐれないようにしろよ」
「は〜い♪」

この2人は夜の学校を満喫しきって、夜の10時過ぎに学校の校門から堂々と帰ったようだ。



一方のレイはというと、すぐに服を着替えて外井が運転する車に乗り込んで家路についていた。

「なんで、なんでこうなるの……」
「レイ様、予定より早かったようですが、なにかあったのですか?」
「いや、なお……いや、何でもないの」
「?」

レイは公人の名前を出すと外井が興奮するのが分かり切っていたので言うのを止めた。

「ところでレイ様。先程、総統から連絡がありました」
「御父様から?」
「はい、帰ったら総統の部屋に行くようにとのことです」
「わかったわ。でもなんなのかしら?」
「服飾担当に問いつめた事を聞くとか……レイ様、口止めされなかったんですか?」
「あ゛……」
「私は何も言いませんでしたが、向こうは淡々と答えたんじゃないですか?」
「う゛……」
「いまから、言い訳を考えておいたほうがいいのでは……」
「………」

レイは何も言えなかった。



どうやらレイが内緒で体操着とブルマを作らせた事が、父にバレてしまったようだ。
そしてその父から問いつめられたレイは今日の計画のことや、最終的にはダイエットのことを白状させられてしまった。

当然、レイは父から「自己管理が甘すぎる!」と厳しくしかられてしまった。

レイにとってはさんざんな1日になったようだ。
To be continued
後書き 兼 言い訳
レイちゃん3回目です。
レイちゃんの計画をあっさりぶちこわす詩織ちゃんです(汗

ちぃちゃんと違ってレイちゃんは散々なご様子ですね。

こちらは効果があったのかは、この後のお楽しみということで。

さて、次回は他キャラの話が入り、ちぃちゃんとレイちゃんの話で今部は終わる予定です。
その次回ですが、誰書こうかな?(まだきめてないらしい)
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