「ねぇ〜、だっこ〜」
深夜の主人家。
さて寝ようとしたときに、光が駄々をこねている。
「ベッドまで動けるだろう?」
「もう動けない〜」
「あのなぁ」
「ぶぅ〜、だっこ、だっこぉ〜」
公二は呆れているが、光はテーブルにしがみついて動こうとしない。
「わかったよ……」
「わ〜い♪」
公二は右手を光の両膝の下に入れ、左手を背中に回して光を持ち上げる。
俗に言うお姫様だっこというヤツだ。
光はいたってご機嫌。
しかし、公二はなぜか、不思議そうな顔をしている。
「光……」
「どうしたの、あなた?」
「光……太ったか?」
太陽の恵み、光の恵
第29部 乙女のダイエット編 その9
第187話〜幼妻容姿〜
Written by B
その10分後。
「………」
「なぁ、光、悪かったって……」
光がベッドで公二に背中を向けて丸くなっている。
「バカ……」
「いや、俺も失礼だとは思ったけど……」
先程公二が言ったことに怒っている。
いや、正確に言うとかなりいじけている。
「ずっと、気にしてたのに……どうせ、自己管理ができない妻だと思ってるんだ……」
「そんなこと思うか?」
「……太ったから、軽蔑してる?」
「あのなぁ、ほんの少し太っただけで軽蔑するか?」
「……愛してる?」
「愛してるに決まってるだろ」
公二がそういうと、光は素早く体を反転させると公二に抱きついてきた。
「うれしい♪」
「お、おい!」
さっきのいじけ顔とはうってかわって満面の笑みだ。
「だからあなたって好き♪」
「はぁ〜……」
ある意味単純な光に公二は少し呆れてため息をついた。
2人は今、ベッドの上で抱き合った状態。
要はいつもの寝るときのスタイル。
「ところで何で太ったんだ?」
「えっ?」
「ここ最近何か変わったようには見えないけど、どうしたんだ?」
「う〜ん、実は……恵なんだけどね」
「恵が?」
「最近、恵の食欲が旺盛になってきてね……」
『ママ〜、これ〜』
『えっ?肉じゃがが食べたいの?』
『うん!』
『あらあら、恵ちゃんは和食が好きみたいね』
『それは、お母さんの作る和食がおいしいからですよ』
『そうかしら?光さんの作る和食も最近上達してきたわよ』
『そ、そうかなぁ?て、照れちゃうよ……』
『ママ、おいしいね!』
『うん、恵、おいしいねぇ〜』
「恵につられて、自分も食べちゃうと……そういえば、最近俺、バイトで夕食は一人だったからなぁ」
「恵が『おいしい』って言ってくれると嬉しくなっちゃってね……」
「なるほどな。確かに最近の光の料理が急においしくなったんだよな」
「そ、そう?」
「ああ、最初はちょっとムラがあったんだけど、最近は俺好みの味になって……」
「うれしい♪」
「だからいちいち抱きつくなって!」
光はさっきのいじけはすっかり忘れたかのようなご機嫌ぶりだ。
その日はこのまま、光がご機嫌なまま2人とも眠ってしまった。
翌日。
「あら?そうなの?全然気づかなかったけど」
「いや、俺も昨日、あれっ?って思ったら案の定で……」
「でも、すごいわね。だっこしただけで、太ったのがわかるなんて」
「いや、光が毎日のようにせがむから、腕が光の体重覚えちゃったみたいで……」
「はいはい。ごちそうさま……」
お昼休み、屋上の階段の踊り場。
公二は琴子に昨日の事情を説明していた。
「でも、光の気持ちなんて、私よりも主人君のほうが知り尽くしてるんじゃないかしら?」
「う〜ん、でも体重を気にしてる女心までは、いくら俺でも……」
「なるほどね。それで私に相談したわけね」
「そう。こういう場合どういう風に接したらいいのかわからなくて……」
「う〜ん……」
琴子は右手をあごにあて、目をつぶりすこし考える。
「主人君。今の光のスタイルってどう思う?」
「えっ?いきなり何?」
「太ってると思う?痩せてると思う?ちょうどいいと思う?どれなの?」
突然の質問に、少し困った表情の公二、すこし天井を見ながら自分の考えをまとめる。
「う〜ん……俺はちょうどいいと思うけどな」
「ちょっと太った今でも?」
「今がちょうどいい感じかもしれないな」
「ふ〜ん、なら光にはそれを言ってあげたら?」
「えっ?」
いきなりの琴子の結論。
あっさりと結論付いたことに公二は驚いている。
琴子の話が続く。
「あのね。女って愛する男性の好みに合わせようとする一面もあるの。
たぶん、光は太ったことで公二の好みとずれたかもしれないと思ってるんじゃない?
もちろん、他人に関係ない、自分の理想像を目指すというのもあるわよ。
でも、光って自分よりも公二の好みを優先しそうじゃない?
公二が好みだって言えば、光なら明日にでもブクブクにもガリガリにもなると思うわ。
だから素直に言ってあげたら?
そうすれば光は安心すると思うわ」
琴子の言葉に公二は腕を組み、首をうんうんと頷く。
「なるほどね。女性って、こういうことにデリケートなんだよね」
「光だけじゃないわ。他の女性にでも、スタイルとか髪型とか服とかの発言は気をつけないとね」
「う〜ん、難しいなぁ」
「そうかもね。私でもわからない事があるもの」
公二もとても納得した様子。
琴子も自分の言いたいことが伝わり、ほっとした様子。
今回の議案も解決し、ふたりともほっとしている。
ほっとしたところで公二が琴子に質問する。
「ところで水無月さん」
「なにかしら?」
「水無月さんの彼の好みのスタイルってどんなの?」
「えっ?えっ?えっ?ちょ、ちょっとな、なにを……」
「光が言ってたよ『琴子って最近、スタイル気にしてるんだよ……』って」
「えっ、なっ?ひ、光は何を……」
何気ない公二の質問。
しかし、琴子がものすごく動揺している。
言葉が言葉になっていない、顔には冷や汗が出ている。
そして少し後ずさりしている。
「『あれだけのナイスバディなのに、なにが不満なんだろうね?』って、光が文句言ってたぞ」
「そ、そんな、私はそれほどでも……」
「今の話を聞いて、やっぱり水無月さんもそうなのかな?って」
「……あっ、午後の授業があるから、これで帰るわね!」
タッタッタッ……
「ちょ、ちょっと、水無月さん……いっちゃったよ」
琴子は逃げるように走り去ってしまった。
「図星の図星みたいだな……まずかったかな……」
言われてすぐのこの結果に公二は少しだけ反省していた。
そして、その夜。
ベッドの中で、光に正直に言うことにした。
「なぁ、光」
「な〜に?」
「あれから考えたんだけど、光は今のままでいいぞ」
「えっ?」
「よくよく考えたら、俺の好みのスタイルって元々ないんだよな。
今の光のスタイルが俺の好みになってるから……
それに俺が光が好きな理由でスタイルって入ってなかったんだよな。
俺が好きなのは光の中身とその笑顔なわけで……」
「あなた……」
「だから、自分の好きなようにしたらいいよ。
俺は光がどんなスタイルでも中身が光だったら愛することができるから」
「……いいの?」
「ま、まぁ……極端になられるとわからないけど……
普通に過ごしている分には俺は何も文句言わないよ」
「………」
「……光?」
公二の言葉に光が黙ってしまう。
光の公二に抱きつく力が強くなる。
「ありがとう……すごく嬉しいよ。
実は、ずっと悩んでたんだ……恵を産んだときからずっと……
ほら、子供産むとスタイルが崩れるって聞いてて……
それで公二の好みのスタイルって何だろうって?
でも恥ずかしくて聞けなくて……
今日のあなたの言葉を聞いて安心した……」
「そんなに気にしてたのか……
ごめんな。気づかなくて」
公二の光を抱く力が強くなる。
2人ともその締め付けが少し心地いい。
「でも、極端にはならないから安心して。
あなたや恵が自慢できるナイスバディの奥さんになるから待っててね♪」
「待ってなくても、今の光も十分ナイスバディだよ」
「本当?じゃあ、証拠をみせてほしいなぁ〜……」
「えっ?」
「……だめ?」
光が公二に上目遣いで聞いてきた。
よく見ると顔を赤くしている。
さらに、光の全身を公二の体にぴったりと張り付くようにしている。
「わかったよ。じゃあ、俺の思うナイスバディの定義を体で教えてあげようかな」
「うん、私が絶対に忘れないように、スパルタ式で教えてね♪」
「おお、言ったな。覚悟しろよ」
「は〜い♪」
この晩の展開はご想像にお任せします。
ただ言えるのは、この晩で光は少しダイエットに成功したということだけ。
でも、もうこの2人には体重とかそんなことは関係なくなったようだ。
To be continued
後書き 兼 言い訳
久々に主役夫婦のお話です。
いや、誰を書こうか迷ってたんですよ。
虹野さんというのはありましたけど、楓子ちゃんと友梨子ちゃんの話と似たような展開になるので止め。
じゃあ誰?
考えてたら、単純な答えが脳内に、
「主役書けよ!主役を!」
なんで、気がつかなかったんだろう(汗
内容はダイエットとは離れてますけどね。
その次回はちぃちゃんのラストです。