水泳トレーニングを初めて2週間後。
お昼休みに自分の教室にちとせを連れてきた。
優紀子が珍しく怒っていた。
「ちとせ!」
「な、なんや、そんなに……美人が台無しや」
「冗談言わないで、ほらここに座って!」
ちとせの冗談も通用しない。
ちとせは優紀子の言われるままに席に座らされた。
そこは優紀子の席だった。
「ちとせ、証拠は挙がってるんだよ」
「な、なんのことや……」
「隠したってもう無駄だよ!」
ダンッ!
「ひぃ!」
優紀子が目の前の机を思いきり叩いた。
ちとせはもちろん、周りの視線も集まっている。
「ちとせ!相変わらず食べ歩きしてるってどういうことよ!」
太陽の恵み、光の恵
第29部 乙女のダイエット編 その10
第188話〜間食発覚〜
Written by B
優紀子の気迫に押され、さらに冷や汗を垂れ流すちとせ。
「な、何のことや……」
「証人連れてくるから!」
それでもしらを切るちとせに、優紀子は突然教室の端に行く。
そして、窓から外を見ていた女の子に一言二言話しかけると、その女の子を連れてくる。
「え〜と、彼女知ってる?」
「いや、あまり……」
「あのね、彼女はクラスメイトの神条芹華さん。神条さん、私の友達のちとせ」
優紀子は芹華とちとせを顔合わせさせる。
「神条さん。ちとせで間違いないよね?」
「あ、ああ……確かに……」
優紀子は芹華に何かを尋ねている。
どうやら確認をしているようだ。
芹華は押され気味に答えた。
「神条さん。この前見た事を話して!」
「ゆっこ……本当にいいのか?」
「いいわよ!話しちゃって!」
心配そうな芹華に対して、優紀子ははっきりとしている。
その気迫に押されて、芹華が話しはじめた。
「じゃあ話すよ……
いや、最近室内プールで泳いでるんだよ。
あたし、部活入ってないけど、運動が好きでね。
そうしたら、ゆっこが相沢さんと泳いでたのを見たんだよ。
へぇ〜、ゆっこも運動してるんだって、単純に思っただけなんだよ。
それでプールの帰りにあいつと別れたあとで駅前をぶらぶらしてたら、
相沢さんを見たんだよ。
大きなメロンパンを持って。
とてもおいしそうに食べてたのが印象的だったな。
それが何日か続いたんだよ。
それで今日ゆっこに話したら猛烈に怒って……」
芹華は頭をかきながら、ばつの悪そうな顔をしながら話をした。
優紀子は相変わらず怒っており、ちとせは顔が青くなっている。
優紀子はちとせの真正面に仁王立ち。
「ちとせ!もう言い訳できないよ!正直にいったらどうなの?」
「………」
「ちとせ!」
「……ごめん」
「………」
「いやな、運動の後って猛烈にお腹が減るやん。
それでふらふらで歩いてたら、おいしそうな臭いがするんや……
気がついたら、かぶりついてたんだよ。
もうどうしようもなくて……」
「……ちとせの馬鹿馬鹿馬鹿!」
ちとせの苦しい言い訳についに優紀子がキレた。
「私はずっと真面目にやってるのにどういう事よ!
ちとせが本気で痩せたいと思ってるから色々と調べたり、
運動は余り得意じゃないけど、ちとせのためだと思ってプールにつき合ったり。
自分だけ食べるとちとせに悪いと思って間食を控えたり。
それなのにどういうことよ!
いくらちとせでも水泳やってる間ぐらい我慢してもいいのに。
しかも、毎日注意してるのに、駅前でもう我慢できないって!
ひどいよ……
ちとせなんか、ちとせなんか……」
「ゆ、ゆっこ……」
「昨日体重計計ったらまた痩せちゃったんだよ!
私は痩せたくないのに!
私はこうプルプルになりたいの!」
「うわぁ!ゆっこ!触るな!掴むな!揉むな!」
優紀子が突然隣にいた芹華に真正面から抱きつき、胸を両手で思いきり掴んでいた。
芹華は驚いたが慌てていて優紀子を振り切れない。
しかし、その勢いも衰えてしまう。
「もうやだ……ぐすん……ぐすん……うわ〜ん!」
優紀子は芹華の胸の中で号泣し始めてしまった。
ちとせはその様子をただ呆然と見ているだけ。
芹華はどうしていいかわからずとりあえずそのままの状態でいる。
クラスメイトは突然キレた優紀子に驚き黙って見ている。
異様な雰囲気が教室を満たしていた。
放課後。
「すまんかった!本当に堪忍してや!」
「ちとせ、本当に悪いと思ってる?」
「ほんまや、本当にほんまや」
廊下でちとせが優紀子に頭を何度も下げ、両手を合わせて懸命に謝っていた。
しかし優紀子は信用できないらしく、疑り深い顔をしている。
「じゃあ、私の言うことをきける?」
「ああ、ゆっこのことなら何でも聞いたる!」
「じゃあね……ぼそぼそ……」
「……えっ……」
優紀子がちとせに耳打ちする。
ちとせは顔を真っ赤にする。
「で・き・る・よ・ね?」
「……はい……」
優紀子はにっこりとほほえむ。
しかし、ちとせには優紀子の後ろで鬼がいるように見えた。
ちとせに断る選択肢はなかった。
「じゃあ、明日お願いねぇ〜」
「………」
優紀子は上機嫌になって廊下をステップしながら去っていった。
「ううっ……ゆっこのあほぉ……」
ちとせはこっそり悪態をつくのが精一杯だった。
そしてその次の日の放課後。
ざわざわざわ……
ちとせの教室はざわめき立っていた。
廊下にも野次馬達が集まっていて教室内でこれから起こることをのぞき見していた。
その教室の中央にはちとせと優紀子。
優紀子は保健室にあった体重計を前ににこにこ顔。
一方のちとせは顔が真っ赤っか。
それもそのはず。
ちとせは学校指定の競泳水着姿だから。
「は〜い、これからちとせのダイエット成果の発表会をおこないま〜す」
ぱちぱちぱち……
優紀子の挨拶に拍手喝采。
(ううっ……ゆっこの馬鹿ぁ……)
優紀子といわば恥さらしの約束をさせられてたちとせは心で泣くしかなかった。
「ダイエット前のちとせの体重は…………でした〜。今日はどれだけ減ってるかなぁ?」
優紀子は教室の外にも聞こえるような元気のある声で司会する。
司会の間にも優紀子はちとせをちらちら見てプレッシャーを掛ける。
(ゆっこ。それは言わない約束やったのにぃ……あかん。うち、もうお嫁にいかれへん……)
「じゃあ、さっそく体重計に乗ってね♪」
「………」
にこにこ顔のままの優紀子にちとせは観念して体重計に乗ろうとした。
ここで優紀子から一言。
「ちとせ」
「……なんや」
「大丈夫?……やばいと思ったら水着も脱いで軽くなっていいんだよ♪」
(ううっ……ゆっこのセクハラぁ……)
いつもなら文句の一つや二つや三つや四つぐらい言いたい。
しかし、こうなった原因はすべて自分にあるため、なにもいえないちとせ。
そしてちとせは体重計に乗る。
体重計の針がくるくると回る。
「………」
「………」
優紀子もちとせも周りの人たちも固唾を呑んで見守る。
そして針がゆっくりと止まる。
「は〜い!ちとせは………キロなので約3キロのダイエットに成功しました!」
「「「「おおっ〜〜!」」」」
パチパチパチ……
どよめきと拍手喝采のなか、一人だけ消沈しているちとせ。
(ああ駄目……恥ずかしくて死んでしまいたいぐらいや……)
自分の体重を大々的に公開されてしまったちとせは心の中で号泣していた。
祝福されているのは確かだがちっとも嬉しくない。
こうして優紀子が課しちとせの罰、公開報告会はちとせの乙女心をずたずたにして終了した。
そして帰り道。
「ちとせ、反省した?」
「……反省してます……」
「うむ、わかればよろしい」
がっくり頭を垂れるちとせの隣で優紀子はしてやったりの表情。
「でも、痩せられてよかったね」
「ま、まあ……」
「これで、安心だね」
「………」
ちとせはちっとも嬉しくなさそう。
まあ、当たり前かもしれない。
こんな調子で駅前にやってきた2人。
そこで、ちとせが何かを見つけた様子。
となりの優紀子の肩を叩き、見つけた方向を指さす。
「あれ?ゆっこ、みてみぃ」
「えっ?」
「ほれ、あそこ」
「あっ」
そこにはケーキバイキングの看板が掲げられている喫茶店があった。
「ここのケーキって有名なのは知ってるやろ?」
「うん。でもケーキバイキングなってやってたっけ?」
「う〜ん……ああっ!これは店主の気まぐれで突然やるレアイベントや!」
「えっ?そうなの?」
「これは逃したら次いつあるかわからへんで!さっそく……」
「こら!ちとせ!痩せたばっかりなのに!」
優紀子の腕を引っ張り喫茶店に向かおうとするちとせ。
しかし、優紀子は当然のごとく怒る。
ここでちとせの足が止まる。
ちらっと空を見ながらなにやら考える。
そして、優紀子に近づき耳元でささやく。
「ええやん。うちがおごってあげるで」
「えっ?」
「今までのお礼や。ゆっこは気兼ねしなくてええよ」
「う〜ん……」
「ケーキぐらい、ちょっと運動すれば大丈夫やから」
「でも……」
「ゆっこ、太りたいんやろ?」
「!!!」
「ケーキは太るに最適やでぇ……」
「………」
ちとせの悪魔のささやき。
怒っていた優紀子の表情も段々とゆるんでいく。
「もうしょうがないなぁ……今回だけだよ」
「おおっ!さすがゆっこはうちの心の友や」
「じゃあ、いくよ」
「おおっ!思いきりたべるでぇ」
そういうわけで、ケーキバイキングに行くことになった2人。
ちなみに、ちとせはそれなりに食べたのだが、
優紀子は今までのストレス発散とばかりにちとせが引くぐらい食べまくったのだが、
ここではそれだけの報告にとどめておく。
結局、ちとせはダイエットに成功したものの、原因の食べ歩きは解消されることはなかったのであった。
To be continued
後書き 兼 言い訳
ちぃちゃんのラストです。
結局最後までゆっこたんは苦労しっぱなしでした。
ゆっこのほうがダイエットに成功してるんじゃないかと思うぐらい。
そういうわけでどっちが主役だったのかよくわからなくなったのですが、いかがだったでしょうか(こら)
次回は今部の最後。レイちゃんのラストです。