第189話目次第191話
「「「「かっわいぃぃぃぃぃぃ!」」」」

教室に黄色い声があふれ出す。



「「「「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」

ひびきの高校がいくら自由な校風でも四六時中黄色い声を上げているような馬鹿はいない。
しかし、2年E組の教室は黄色い声でいっぱい。


「こらこら!お前ら押すな!怪我するぞ!」


ほむらが必死に抑えようとするが止まる様子がない。


「「「「かっわいぃぃぃぃぃぃ!」」」」


教室には女の子が輪になって密集している。


その中央には恵。
恵はひびきの高校の夏服を着ていた。

太陽の恵み、光の恵

第30部 1学期末の学校編 その1

Written by B
琴子達から誕生日プレゼントとしてもらった、恵専用のひびきの高校制服。
誕生日から遅くなったが、今日が制服姿のお披露目。

2歳の女の子の制服姿。
そのかわいさにクラスの女の子が夢中になってしまった。
抱かせて欲しいとか、なでなでしたいとか、恵はお人形状態。
しかし、恵は嫌な顔せずに、かわいらしい笑顔のまま。



女の子が夢中なら男子は?という声はあろう。
男子はそこまでいっていないのだが……

「しかし、恵ちゃんの制服姿ってかわいいよなぁ……」
「なんだよ。お前ロリコンになったのか?」
「馬鹿言え、俺はノーマルだ!でも、かわいいのは確かだろ?」
「まあ、俺もそう思う」

男子も輪から離れた机で、こんな会話を交わしている。

「しかし、最近恵ちゃんって、段々光ちゃんに似てきてないか?」
「アホか、母親に似るのは当たり前だろ?」
「いや、最初は父親似かな?って思ってたんだけど、最近なぁ……」
「そういわれると、そうかもしれないなぁ」
「だろぉ?俺の言うこともあながち間違ってないだろ?」

男子も話題はやっぱり恵であった。



「しっかし可愛いよなぁ〜。いやぁプレゼントした甲斐があったぜ」
「本当、素敵なプレゼントだよ」
「そう言ってくれるとうれしいなぁ……」

恵が可愛がられている真後ろでほむらと光は楽しそうにその様子を眺めている。

「でも、うちの制服って結構可愛いんだな」
「うん、今までかっこいいって感じだったんだけど、恵に着せたら可愛いのね」
「着る人が違うとちがうのか?」
「そうかもしれないね」

そんな話をしているうちに、授業のベルが鳴る。
女の子は残念そうに自分の席に戻る。



1時間目はここの教室で行う古文。
担当の先生が教室の後ろにいる恵に気づく。

「おや?恵ちゃんも授業を受けるのかい?」

その発言に、教室中がクスクスと笑い出す。

「ん?どうかしたのか?」
「い、いえ、なんでもありません」
「???」

実はいつも恵が授業中に遊んでいるスペースに机が新設されている。
椅子はなく、机というよりもテーブルなのだが、普通の机風になっている。
具体的にはテーブルが教室の机と同じようにベニヤ板を何枚も重ねたもの。
色も同じにして、教室の机と同じようにしたのだ。

恵も気に入ったらしく、机にしがみついて笑っている。



「陽ノ下さん」
「は、はい?」

突然呼び掛けられた光。
恵のいる場所のすぐ前の席にいる光はちょうど教科書を読んでいたところ。
びっくりして、慌てて顔を上げる。

「これからも恵ちゃんを連れてきたらきっといいことあるよ」
「えっ?」


「中国の故事に『孟母三遷の教え』ってあるのを知ってるかい?

 孟子のお母さんが、墓地の近くに引っ越したら孟子が墓守の真似をしたので引っ越した。
 次が市場だったので、孟子が商人の真似をしたのでまた引っ越した。
 3度目が学校の近くで、孟子が礼儀作法の真似をしたので、そこに定着した。

 って、話だけど…

 要は子供の教育って環境が大事なんだよね。

 だから、恵ちゃんもこの年になったら学校が大好きな子になるんじゃないかな?」


先生の言葉に光だけでなく、他の生徒もうんうん頷いている。

「学校好きにねぇ……」
「恵ちゃんは高校生になったら、ひびきの高校にくるのかな?」
「う〜ん……それいいかもねぇ……」
「あははは、私はそのときまでいられるかわからないけど、楽しみにしてるよ」

教室は全体がほがらかな雰囲気が包まれていた。
授業も和やかに進んでいた。

ちなみにほむらは恵の姿を見て安心して眠っていた。



3時間目の前の休み時間。


「「「「かっわいぃぃぃぃぃぃ!」」」」


またもや教室に黄色い声。


「「「「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」


ちなみにここは2年E組ではない。
公二がいる2年A組の教室だ。
光が体育の授業で監視が効かなくなる、という理由で公二が預かったのだ。

しかし、こちらで女の子の歓喜の声の嵐。


「こらこら恵がびっくりするから、もうちょっと静かに……」


こっちでは公二が女の子達を抑えていた。
しかし、公二が焦っているが、当の恵はいたって平気。
もう慣れてしまったのだろうか。

「とりあえず、光の教室から恵用の机を借りないと……」

公二は女の子達を抑えながら、次の授業中の対策で頭がいっぱいだった。
当然、その後の授業の内容など頭に入るわけがなかった。



そんな、大騒ぎの授業は一段落して、お昼休み。

普段は別々にお昼を食べている公二と光だが、今日は恵が来ていることもあって、珍しく親子3人でのお昼御飯。

「はい、恵、あ〜ん♪」
「あ〜ん♪」
「こらこら、恵に一人で食べられるようにしないと…」

場所は学校の中庭。
芝生の上で光の自信作のお弁当を食べている。

当然、周りには野次馬が通り過ぎていくが、3人はまったく気にしていない。
嬉しそうに光は恵にキャベツの千切りやらハンバーグやら食べさせている。

「えっ?あなたもあ〜ん♪ってして欲しいの?」
「俺はいいけど……光がそうして欲しいんじゃないのか?」
「私はそうだよ♪あなた、あ〜ん♪」

そういうと光は公二に向かって大きく口を開けている。

「あ〜ん♪」

それを見た恵も公二に向かって口を大きく開けた。



「光、このままだと恵も甘えん坊になるんじゃないか?」
「いいの!あ〜ん♪」
「あ〜ん♪」

光は公二の顔の近くで大きく口を開けている。
恵も負けじと公二の近くで口を開ける。

「なんか、2匹の小鳥の親鳥の心境だな……はい、あ〜ん」
「あ〜ん……もぐもぐ……」
「あ〜ん……もぐもぐ……」

公二はそう愚痴を言うと、弁当の端にあったたくわんを一切れずつ2人に食べさせる。
食べさせてもらった2人はとても嬉しそうに食べる。

「恵、おいしいね♪」
「うん!」

至って上機嫌の2人だった。



そして、お昼休みも終わって、午後の2年E組。

「赤井」
「なんだ?」

教科担任がほむらに話しかける。

「こんな状況……前にもあったと思うが気のせいか?」
「うんにゃ、確実にあった」

「しかし、今日はなんでA組の主人もいるんだ?」
「そんなのあたしに聞かれても困る」

教室の最後方。
恵用のスペースで恵がお昼寝。
しかも、光はともかく、公二も一緒にお昼寝していた。

「起こせるか?」
「無理だ」

公二は教室の壁に寄りかかり胡座をかいて寝ている。
光はその公二の膝の上に座り、公二に寄りかかって寝ている。
恵はその光に抱きかかえながらすやすやと眠っている。

「あれはもう仕方がない。私も諦めた……」
「また後で叱ってくれ」



そう言いながら、ほむらは後ろを向いたのだが。

「おい、水無月。なんでここにいるんだ?」
「あっ……」

教室が一斉に後ろを向く。

すると扉には隣のクラスにいるはずの琴子がいた。
右手にはデジカメを持って。

「いや、いい写真が撮れそうだと思ってつい……」
「確かに、ほほえましいところだけど……」
「すぐ撮って帰るから見逃して?」
「後であたしにも焼き増ししてくれたら認めてやる」
「もちろんよ、じゃあ遠慮なく……」

クラスメイトの全員が「おいおい、それでいいのかよ」と突っ込みたそうな顔をしている。
それを気にせず、琴子は3人の近づく。
そして振り向いて一言。

「折角だから、カメラ付きの携帯持ってる人は撮ったらどう?こんな写真滅多に取れないわよ?」

その一言で、教室はちょっとした撮影会が始まった。
カメラ付き携帯で3人が起きないように静かに写真を撮っている。
琴子もあちこちの角度からデジカメで写真を撮っている。
持っていない人は後ろからその光景を楽しんでいる。

こんな状況なら普通は教科担任は怒るのだが、当の教師もちゃっかりと写真を撮っていたのでおとがめはなかった。

その間も3人は写真を撮りたくなるぐらい幸せな寝顔を見せていた。



「うぇ〜ん、恥ずかしいよぉ」
「俺も不覚だった……」

放課後、職員室に呼ばれた公二と光。
目的は授業中のお昼寝のお小言。
教師がたくさんいる前でそんなことで怒られるのは恥ずかしいの他はない。

しかし、それは簡単に終わってしまっている。

「しかし、先生達も恵に夢中だったよね」
「クラスメイトよりもすごかったんじゃないの?」

簡単に終わった理由。
それは先生達も制服姿の恵を近くで見たかったから。
黄色い歓声はなかったものの、職員室は恵の可愛らしさの話題で持ちきり。
携帯のカメラで恵の写真を撮る先生が続出していた。

予想外の盛り上がりに、公二と恵はただ呆然と眺めているしかなかった。



「でもなぁ……」
「あんなこと言われたけど……」

2人が頭を抱えたくなる出来事がこの場で起こっていた。
それは、学校の事務の職員、年は40台ぐらいの女性の事務員が2人に言ったことが発端。

『ねぇ、主人君。光さん。ちょっと提案があるんだけど……』
『なんですか?』
『恵ちゃんをモデルにしたい、っていったらOKしてくれる?』
『『えっ?』』

突然のことに2人は声を合わせて驚く。

『これから、学校案内のパンフレットをつくるんだけど、その表紙にいいかな?って思って』
『は、はぁ……』
『実際は私が決めるんじゃなくて、校長を含めた職員全員で決めるんだけどね』
『ま、まあ、断る理由もないですけど……』
『私も……』
『ありがとう。じゃあ候補に入れておくから考えておいてね』

事務の職員は嬉しそうにこのことをメモに取っていた。

「パンフの表紙っていうのは……もっと恥ずかしいよぉ」
「俺もな……それはちょっとなぁ……」
「まあ、話が来たら考えるようにすればいいよね?」
「そうだな。まだ決まったわけじゃないよな」



「恵って、本当に学校で有名人になっちゃったね」
「そうだな。本当は子供なんて邪魔なだけなんだけど、みんなが理解してくれているからね」
「学校のみんなに感謝しなくちゃね」
「そうだね。こんな俺達を受け入れてくれてるんだからね」

学校からの帰り道。
恵は公二におんぶされて眠っている。
やはり学校生活は子供にはかなり疲れるのだろうか、ぐっすりと眠っている。
その隣で、光は公二の鞄も一緒にもって歩いている。

その様子は本当に幸せな家族の姿だった。



ちなみに、パンフレットの表紙の件だが。
その晩、校長の鶴の一言ですべては決まってしまった。


「それなら、親子3人の表紙にしよう!」


しかも、それは公二と光には拒否権がない状態になっているとは当の3人は知るよしもなかった。
To be continued
後書き 兼 言い訳
久しぶりに本編が進みます。
ということで第30部は学校内の話題に戻る「予定」です。
いや、まだ内容全部決まってないんです(汗
ただ、200話が近いのでそこまでに終わらせる必要があるのかなと(汗

今回は予告通り、制服姿の恵ちゃんのお話です。
制服姿の恵ちゃんはそれぞれで勝手にイメージしてください。

で、次回ですが、これから考えま〜す(やけくそ)
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