第190話目次第192話
2年になってから、すったもんだを繰り返した琴子と誠。
体育祭後にようやく恋人同士になった。

普通恋人同士になると、それなりに変化があるもの。
やはり「恋人」という意識があるから、なんともないと思っても変化があるもの。

ほんの少し優しくなったり。
ほんの少し格好良くなったり。
ほんの少し綺麗になったり。

そういうことがあってもおかしくないはず。

しかし、2年F組の朝はまったく変わってない。



「ちょっと、昨日のはなんだったのよ!」
「なんだよ。楽しんでたくせに!」



琴子と誠の朝の口論は相変わらず続いている。

太陽の恵み、光の恵

第30部 1学期末の学校編 その2

Written by B
「昨晩いきなり『御飯食べにいかない?』って言われて行ったらサッカーバーってなんなのよ」
「いいじゃないか、行ってみたかったんだから」

「なんでサッカーなのよ!日本人なら野球よ!」
「よく言うよ!日本代表の試合だって聞いたら、目の色変えたやつはだれだよ!」

「そ、それは……」
「それに『なんで3-5-2じゃなくて、3-6-1なのよ!』って、かなり詳しいじゃねぇか!」

「う、う……うるさいわね!いいじゃない!」
「よくない!」


こんな会話を週3回ほど。
顔を10cmぐらいに近づけて大声で言い合うのが定例行事となっている。

内容は端からみていれば、くだらないものばかり。

「そんなこと、外でやってくれ」とクラスメイト全員が思っているのだが、
既に「気にしてたらやってられない」ということに気づいているので、全員会話を流している。


それでも琴子と誠はクラス公認の恋人同士なのである。



「琴子、今朝もらぶらぶだったね」
「どこが!」
「あれが」
「………」

お昼休み。
光と琴子は久しぶりに2人きりでお昼ごはん。
天気もいいので、中庭の芝生に座ってでお弁当を頂いている。


「琴子、なんで彼とつき合うことにしたの?」
「えっ、それは前に言ったじゃない……」
「『なぜか』じゃなくて、『いつ、どういう状況で』ってこと」
「そ、そんなの……」


顔を真っ赤にしてうつむいた状態で御飯を食べる琴子。
一方の光は、珍しく作った鮭入りおにぎりにかぶりついている。
もじもじしている琴子にしごく不満そうな表情。


「まだ、私、全然聞いてないよ。そのときのいきさつ、体育祭の後ってことだけ聞いたけど……」
「………」
「私たち友達でしょ?教えてくれてもいいのになぁ……」
「……(友達だからって、そこまで言う必要はないと思うけど……)」
「あ〜あ、私は琴子に細かく教えたのになぁ……
「……もう、わかったわよ!教えるわよ!」
「やったぁ、だから琴子って大好き♪」
「………」

琴子は完全に光の策略にはまってしまったようだ。



「前にも言ったでしょ?体育祭のときに誠にした約束」
「え〜と……『琴子を好きに弄んでいい』だっけ?」
「全然違うわよ!『一度だけ何でも言うことをきいてあげる』って言ったのよ!」
「もう、冗談だよぉ〜」
「……まあ、いいわよ。それで放課後、誠に呼ばれて……」
「それでそれで?」
「うわぁ!そんなに近づかなくても話すわよ!」

身を乗り出して琴子の話を聞こうとする光。
琴子は慌てて光を突き放す。
その間も顔は真っ赤な琴子。



「放課後ね、ちょうど二人っきりでね……」
「うんうん、夕焼けが2人を真っ赤に照らして、2人の距離が段々近づいて……」
「そんなイメージ入れなくていいの!」



『文月くん……用事はなに?』
『用事もなにも、約束だよ、約束』
『あっ、約束ね……決まったの……』
『ああ、さんざん考えたけど……決まったよ』
『教えて……』



「うわぁ〜、これで彼が告白なんだよね」
「光!展開を先に言わなくていいの!」
「えっ?本当にそうなの?」
「そうよ……私の前に立ってほっぺをぼりぼりとかきながら、私をまっすぐ見ずに言うのよ!」





『あの……俺と……つき合ってくれないかなぁ?』





「だって。一瞬戸惑ったけど、段々頭に来たのよ!」
「ええっ?なんで?その言葉を待ってたんじゃないの?」
「だから、言ったわよ」



『文月くん!それだけは……それだけはやめてよ!』
『えっ……なんでだよ!何でもいい、って言ったじゃないか!』
『ええ、言ったわ!なんでもやってあげるけど……それだけは嫌!』
『なんでだよ!それを言わないと納得できない!』



「……それって、いつもの口論じゃないの?」
「そうよ。いつもの口論になっちゃったのよ。間近までに顔を付け合わせて」
「ムード丸つぶれだね」
「……それで、つい言っちゃったのよ」




『それじゃあ……私が無理矢理つき合わされることになるじゃない!』



『えっ?』



『私は自分の意志でOKの返事をしたいの!』



『そ、それって……』



『言って!約束とか関係なくもう一度言って!』




光は口をあんぐり。
琴子は顔が真っ赤っか。

「それって……OKしてるようなもんじゃないの?」
「そうなの……後で気がついて恥ずかしかったわ」

「それで、彼はどうしたの?」
「誠ね……そのまま私の目をまっすぐ見つめて言ってくれたの……」



『ごくっ……』
『………』




『俺……琴子さんが好きだ……だからつき合って欲しい……』


『私も……文月くんが好き……だからお受けします……』




『………』
『………』



「至近距離で、愛の告白……こうなるともう次はぶちゅーとキスだよね♪」
「私も……そう思って……目をつぶっちゃった……でもね」
「でも?」



『琴子さん』
『……えっ?』

『あのなぁ……実は……琴子さんが……初めての彼女なんだよ……
 だから……段階ぐらい楽しませてくれ……
 いきなりキスじゃつまらん……』



「そういいながら、私の前髪をかき上げたのよ」
「琴子の前髪?」
「そうそれで……」



『だから、最初はここで十分』
『ちょ、ちょっと……』
『ここにしてみたかったんだよな……』


チュッ


『あっ……』


チュッ、チュッ……



「ええっ〜〜〜〜!おでこにキ……もがもがもが……」
「ひ、光、声が大きい!」
「ぐ、ぐるじぃ……」

光の口を慌てて押さえる琴子。
あまりの力の強さに光の顔が少し青くなっている。



「し、死ぬかと思った……」
「もう、びっくりしたわよ……」
「でも、それで琴子はどうなったの?」

「それが……
 目をつぶったまま、誠のキスを受けていたの。
 そうしたら、なんか体中がぼわっとしてきちゃって。
 おでこにしかされてないのに、なんか全身にキスされたような感じがして……

 最後は体中から力が抜けてへたり込んじゃった」



『お、おい、琴子さん!』
『おでこ……弱いみたい……』
『なんだよ……ほら起きろ。このままファミレスに行くぞ』
『うん……ごめんね……』



「誠の肩を借りて、打ち上げにでたのよ……」
「それで、体育祭の打ち上げで婚約発表ってことだよね」
「こ、婚約発表って!」
「公二がお祝いの言葉まで言ったんだよ。間違いなく婚約だよ」
「………」

琴子の顔はまた真っ赤っか。
光はとってもご機嫌。
琴子をからかうのがとても楽しいです、と言いたげな笑顔を琴子に向けている。



「それで、約束はどうなったの?」
「約束ね……まだ実行されてないの」
「えっ?」
「『じゃあ、琴子を断れないのにしてやる』っていって、考えてるみたい」
「ふ〜ん」
「どんなことされるのかちょっと楽しみだったりして」

ちょうど、午後の授業まであと10分ぐらいになったので、話はここでお開きになった。



そして次の日の朝。
琴子と誠はまた顔を付け合わせている。
クラスメイトは「今日はどんなネタで争うのか」と興味津々。

「琴子」
「なによ」
「これやる」

誠は鞄から封筒を取り出すと琴子の顔に押しつける。

「な、なによ!」
「見ろ。琴子のお望みのものだ」

琴子は封筒の中身を開けてみる。

「えっ、野球?」
「ああ、琴子のために前売り券買ってきた……今晩だからな」
「今晩?」
「いいだろ?」
「えっ、ええ……いいわよ……もう強引なんだから……」

顔を少しだけ赤くする琴子。

クラスメイトも今日はなにもないとほっとする。



しかし、そううまくは行かない。


「これってヤク○ト対ロッ○の……レフトスタンドですってぇ!」


琴子はチケットをみて怒り出す。
誠はなぜ琴子が怒るのかわからない。


「なんだよ、悪いのか?」
「なんで私がタオル振り回して応援しなくちゃいけないのよ……私は傘を振り回したいのに!」

「馬鹿、時代は○ッテだ!」
「誠は東京○頭のよさがわからないの!」

「琴子も時代の流れを感じろよ!」
「流行ばっかりにとらわれるのはごめんよ!」


クラスメイトたちは頭を抱えてしまった。
「またか……」
そう言うしかないぐらいにまたいつもの口論が始まってしまった。


こうしていつもの学校風景が始まっていく。



ちなみに、野球場デートだが、琴子が折れてレフトスタンドでの応援となった。

しかし、琴子はちゃっかりと背番号26のレプリカユニフォームとタオルを買って猛烈に応援していたそうだ。
結局、呆れながらも隣で一緒に応援してくれる人がいるだけで琴子は満足らしい。
To be continued
後書き 兼 言い訳
琴子さんのらぶらぶ?話です。
前から後回しにしていた、琴子と誠が恋人になったいきさつです。

相変わらずの2人の様子を感じとっていただければ。

あとは琴子のおでこにキスするシーンを書きたかっただけですかね(ぉぃぉぃ)

さあて、次は誰にしようかな(本当に考えてない)
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