第191話目次第193話
「ごめんね。急にお願いなんかしちゃったりして」
「いえ、これも経験ですから」

とあるレストラン。

真帆は舞佳に頼まれてファーストフードのバイトのない平日にウェイトレスのアルバイトをすることになった。
急にバイトが何人も辞めてシフトが苦しくなったとのこと。
そこで週1で働いている舞佳が真帆に目をつけて頼んだという次第。

「まあ、最初だからオーダーは取らないから、頑張って料理を運べばいいのよん」
「はい!わかりました」
「うん。頑張ってね」

控え室で制服に着替えた2人が最後の服装チェックをしているところだ。

太陽の恵み、光の恵

第30部 1学期末の学校編 その3

Written by B
きらめき駅前の繁華街にあるレストラン。
ここのレストランは基本的に食事をするところだが、
アメリカンパイとスイーツが有名になっている。
店舗数は少ないが、有名なレストランチェーンである。


「「いらっしゃいませ!」」

お客が入ってきた。
ウェイトレスの明るい声がホール内に響く。

近くに居た真帆が対応する。
お客様の前に立ち、深く頭を下げる。

「お客様は何名様ですか?」
「ひとりです」

「御煙草はお吸いになられますか?」
「いや、吸いませんが……」

「それではご案内します」

真帆は禁煙席の1、2人用の小さなテーブルに案内する。
テーブルに座ってもらうと、真帆は立ち去り、別のウェイトレスが水を持って来る。
お客はそのウェイトレスになにやら注文しているようだ。

真帆はそれを見ながら厨房のウェイトレスの待機場に戻る。

(ふぅ……緊張するぅ。やっぱりレストランの接客は違うなぁ)

戻った真帆はファーストフードとは違った接客に緊張していた。



(しかし、この制服……狙ってない?)

真帆は自分の制服をしげしげと眺める。

このレストランの特徴。
それはウェイトレスの女の子が着ている制服にある。

(デザインとか色は可愛いんだよね……)

白のブラウスにピンクのタイトなミニスカート。
そしてピンクのエプロンなのだが、このエプロンがくせ者。
体の前面を覆っているのではなく、ウエストから下だけを覆っている。
さらにエプロンのウエストの帯の幅がかなり太くなっており、それを背中で結ぶ形。

(でも、これは……絶対狙ってるよ……)

そうすることでどうなるのか。
そうすることで、胸をかなり強調することになるのだ。

この制服が店自体よりも有名じゃないかと言うほどの人気。
この制服見たさに店に来る男性客も多いとか。
とはいえ、制服自体は昔からなので狙っているわけではないのだが。

ご多分に漏れず真帆の胸もかなり強調されてしまっている。

(少し慣れたけど、恥ずかしい……みんな恥ずかしくないのかなぁ?)

真帆はホール内を平然とキビキビと動き回るウェイトレス達をじっと見ていた。



「誰か料理運んで!」

先輩ウェイトレスの声が外から聞こえてきた。
真帆は急いで厨房に入る。

「6番さんのテーブルによろしくね」
「はい!」

真帆はパイの皿2枚を持ってホールに入る。
真帆は6番テーブルを探す。

(え〜と、6番6番……ふぅ、レストランはテーブル番号があって大変だよ……)

カウンター対応だけでいいファーストフードとは違って、レストランはテーブル対応。
だから、テーブル番号を間違えて他のテーブルに間違った皿を運ぶと大変なことになる。

ホールに出る前に改めてチェックはしているが、やっぱり不安な真帆。
しかし、すぐに6番テーブルにたどり着く。
テーブルは若い学生カップルのようだ。

「お待たせしました。レアチーズケーキとアップルパイです。レアチーズケーキはどちらですか?」
「私です」

女性の方が手を顔の高さまで上げる。
真帆は女性の前にレアチーズケーキを置く。

「アップルパイはこちらですね」

続いてアップルパイを男性の前に置く。



注文の品を運んだ真帆は頭を下げる。

「それではごゆっくり……えっ」

顔を上げた真帆。
女性、いや女の子の顔を改めて見た真帆はびっくりした。

「の、の、の、望!」
「真帆!なんでこんなところにいるんだ!」
「白雪さんじゃないか」

女の子は同じきらめき高校の清川望だった。

「わ、わたしは今日からここでバイトなんだけど……の、望は?」
「あ、あたしは部活が終わっておやつというかなんというか……あはははは」

真帆も望も少し顔が引きつっている。

「望、デートなんでしょ?」
「………」
「白雪さん。そんなの望をいじめるなよ、あはははは」

顔を真っ赤にしてうつむいてしまう望をみて、笑いながら止める男性。
男性のほうも真帆は顔見知り。
きらめき高校の同級生で望の彼と言われている人だ。
本人達は否定しているが、端から見ていれば明らかに恋人同士にしか見えない。

「そ、それじゃあ、私はお邪魔だから、ごゆっくり〜」
「あ、ありがとう……」

真帆はすぐにテーブルから離れて控え室に戻っていった。

その後、接客をしている真帆の耳に、望が「なぁ、あたしもあの制服似合うかなぁ?」と彼に聞いていたのが聞こえたのだが、そこは黙って聞き流していた。



そして、真帆も仕事に慣れてきたときにまたお客が入ってきたのが見えた。
男女2人ずつ4人の客のようだ。

真帆はすぐにお客の前に立つ。


「いらっしゃいませぇぇぇぇぇぇ!」


頭を下げ、頭を上げた真帆は思わず叫んでしまう。
4人も口をあんぐり。

「ま、真帆ちゃん……」
「ま、真帆!」
「ね、姉さん!それに匠さんに穂刈くんに佐倉さんにあわわわわわ……」

制服姿でおろおろする真帆。
まさか、姉が来るとは思ってもいなかったからだ。

びっくりした匠は美帆に慌てて聞いてみている。

「美帆ちゃん、知ってたの?」
「知らないわよ。真帆から今日はウェイトレスのバイトとは聞いていたけど場所までは……」
「と、とにかくテーブルに案内するよ!」

ここで話していてもしょうがないので、真帆は急いでテーブルに案内する。



真帆はテーブルに4人を案内する。
通路側に男子2人が陣取り、匠と美帆、純一郎と楓子が横に並んで座る。

「じゃあ、姉さん。注文の人が来るから待っててね」
「真帆は?」
「私は新人だからできないの。それじゃあごゆっくりね」

真帆は急ぐようにその場から離れていく。
その真帆の後ろから、
「あれ〜?真帆ちゃんのお友達?バイトの様子でも見に来たの?」
というオーダーを取りに来た舞佳の声を聞いて、顔を赤くする真帆だった。

その後は真帆はなるべく4人のいるテーブルに近づかないように接客をしていた。
やっぱり恥ずかしいからなのだろう。



4人も帰ったところで、ちょうど真帆のバイトの時間も終わりになった。
店員に一通り挨拶したあとで、更衣室に戻る。

「あっ、舞佳さん。お疲れさまでした」
「真帆ちゃん。お疲れさま」

更衣室には舞佳が先に着替えてるところだった。
真帆は舞佳の隣で着替える。

「どうだった?今日のバイトは?」
「やっぱりファーストフードとは違いますね。ちょっと疲れました」

「おもしろかった?」
「新鮮でおもしろかったです……でも」
「でも?」
「この制服、ちょっと恥ずかしいですよ」
「それがいいのよ。お客も喜んでくれるし、それに着ているこっちにもいいのよ」

「そうなんですか?」
「そうよ。『見られてる』と思うと、自然に体がぎゅっと引き締まるものなのよ」
「へぇ〜」

「だから足を引き締めたいときにはスカートとか足を見せる格好にするっていうのは常識よ」
「なるほどねぇ」

そんな話をしているうちに2人とも着替えが終わった。
舞佳は運送屋のつなぎ服。もう普段着同然になっているらしい。
真帆はきらめき高校の制服。学校帰りなので当然といえば当然の格好。



着替え終わって、従業員口から出た2人。
空はまだ明るいものの、時間でいえば既に夜。

「そうだ。晩御飯ここで食べていかない?お姉さんがおごるわよん」
「いいんですか?」
「いいのよ。やっぱり働いてる場所の食べ物ぐらい一度食べておかないとね」
「じゃあ、お願いします」
「よし!それじゃあ、真帆ちゃんは家に電話してね。帰りはお姉さんが送ってあげるから」

そういうわけで、真帆は舞佳と一緒に晩御飯を食べることになった。
真帆は晩御飯を食べながら、舞佳に舞佳のバイト経験についていろいろと聞いてみた。
舞佳はサービスたっぷりに色々と話してくれた。
バイト経験が豊富なだけあって、話も色々で面白いものだらけ。
真帆はそれだけでも貴重な経験になったようだ。



そして真帆は舞佳の車で家まで送ってもらった。
時間は夜8時過ぎ。

「ただいまぁ」
「真帆、お帰りなさい」
「ね、姉さん……」
(や、やばい……)

玄関では美帆が迎えに来てくれた。
美帆はにこにこ笑顔で迎えてくれたのだが、あまりににこにこしすぎ。
真帆はそれに殺気を覚えた。

「真帆」
「は、はい!」

美帆は右手の甲を下にして、人差し指でくいくいと真帆を呼ぶ仕草をする。

「私の部屋に来てくださいね」
「はい!」

真帆は思わず背筋を伸ばして直立不動で返事をしてしまった。



美帆の部屋。
美帆は机の前の椅子に座っている。
真帆は言われてもないのに床に正座している。

「真帆」
「は、はい!」
「あれは私に対しての嫌みですか?」
「えっ?」
「あの制服、スタイルがいい人でないと似合わないと聞いていたのに真帆はそれを見事に着てますね」
「そ、そんなことないよ」
「私に恨みでもあるんですか?」
「ない!ない!ない!ない!姉さん、それは言いがかり!私だってものすごく恥ずかしいんだから!」

真帆は首を横にぶんぶんと振って否定する。

「そうですか、それならよかった。てっきりスタイルがいいからあのバイトを選んだと……」
「姉さん、それはひどすぎるよ。そんなことで選ばないよ」
「そうですか、誤解してごめんなさいね」

(ほっ……姉さんはスタイルにコンプレックス持ちすぎだよ、はぁ……)

元の笑顔に戻った美帆を見て、真帆はほっと一息ついた。



「ところで姉さん。なんでみんなであそこに行ったの?」
「え〜と、それは……」

美帆が話したことはこういう事。

実は匠がデートコースであのレストラン使いたいと思ったようだ。
理由は制服ではなく、料理が美味しくておしゃれな店だからということらしい。

しかし、下見に行きたいのだがあの店に男一人は恥ずかしい。
そこで純一郎を誘ったが、純一郎も男2人でも恥ずかしい様子。
それで2人で話しているうちに「それだったらいっそのことみんなで行こう」という事になり、
Wデートのような格好になった、ということ。

「匠さんも穂刈さんも制服に見とれると思ったら、逆に見ようとしないんですね」
「へぇ〜」
「匠さんって、意外と恥ずかしがり屋なんですね」

(い、いや、彼女隣でウェイトレスに見とれてたらまずいでしょ……)

真帆は心の中で突っ込みながらも、デートが上手くいったことにほっとした様子だった。
To be continued
後書き 兼 言い訳
こちらも久々真帆ちゃんのバイトシリーズです。

ええ、おわかりの通り?、ア○ナミ○ーズです。
私は行ったことがありません(本当です!)ので、
実際もこんな感じなのかよくわかりませんが、イメージしていただければ嬉しいです。

真帆ちゃんの仕事ぶりをもう少し書ければよかったのですが、これが限界です(汗

さあて、次は誰にしようかな(やっぱり考えてない)
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