第193話目次第195話
太陽の日差しが段々と強くなってくると感じる初夏。

ひびきの高校は朝練の生徒達でにぎわっている。
そんな生徒達も朝のメニューを一通りこなすと教室へ集まりだす。

やることと言っても、授業の予習をしたり、友達ととりとめのない話をしたり、
あるいは早起きしすぎて、それを取り戻すべく軽く寝ていたり。
人それぞれに授業前の時間を楽しんでいる。

「………」

そんななか、純一郎は廊下側の自分の机にうつ伏せになって寝ている。
今日は朝目覚めが悪かったのだろうか。

そんな純一郎の頬をぷにぷにと突っつく感触が。
純一郎はそれに気づいて目を開け、顔を上げる。

「純くん。おはよう♪」
「お、おはよう……」

目の前には楓子の笑顔でいっぱいだった。

太陽の恵み、光の恵

第30部 1学期末の学校編 その5

Written by B
「純くん。もうすぐ授業が始まっちゃうよ。起きなきゃ」
「えっ?もうそんな時間?」
「うん。あと5分ぐらいで始まるよ」
「あ、そうなんだ……ありがとう……」

楓子は純一郎の前の席。
くじ引きでの結果であり偶然なのだが、楓子はこの席が決まったときに大喜びだった。
理由は言わずもがな。
純一郎も口にはしていないが、ラッキーだと思っている。
理由は言わずもがな。

「ねぇ、もうすぐテストだけど準備してる?」
「まあ、少しずつだけどやってるよ。楓子ちゃんは?」
「う〜ん、やってはいるんだけどよくわからなくて……そうだ!」
「ん?」

楓子がいいことを思いついたようだ。
しかし、その内容で顔を赤くしてしまう。
楓子は少し照れた表情。

「ね、ねぇ……今日図書館で勉強教えてくれないかなぁ?」
「えっ?部活は?」
「部活は今日はお休み。だから時間はたっぷりあるから」
「奇遇だな、今日は顧問がいないから放課後は自主練習だよ」
「じゃあいいの?」
「ああ、俺でいいのなら」
「わ〜い!じゃあ放課後よろしくね♪」

楓子は嬉しそうだ。
1時間目は楓子はずっと嬉しそうな表情のままだった。



そのまま2時間目に突入。

2時間目は英語。
文法の授業で、先生の解説に生徒達は淡々と黒板の内容をノートに写したりしている。

その先生が突然黒板に英語の文を一文書き出した。
今日の教えている文法が入った文だ。
先生はそれを書き終えると教室を見渡した。

「え〜と、さっそくだがこれを訳してもらおうかな……」

先生の言葉に生徒達は先生から視線をそらしだす。
ノートを取るふりをしたり、教科書をみている振りをしたり。
目を合わせると絶対に指されると思っているからだ。
こういう事は毎日毎日の経験から自然に身に付く自己防衛方法。



それでも、当てられる人は当てられる。

「じゃあ、佐倉。黒板の文を訳して」
「は、はい!」

当てられた楓子はびっくりしたのか直立不動で立ち上がる。
当てられると思わなかった楓子は慌てて黒板の文をみて訳そうとする。

「え〜と、その〜、あの〜……」
「どうした?わからないのか?」
「いえ、違います。いま訳しますから、え〜と、その〜、あの〜……」

しかし、慌てているため少し混乱していてなかなか訳せない。



そんな楓子の後ろから天の声が小さな声で聞こえてきた。

「楓子ちゃん、楓子ちゃん」
「えっ……」
「『人気が落ちている』だよ」
「?……あっ……」

楓子はようやく理解したようだ。
楓子は今気がついた振りをしながら回答する。

「え〜と『最近は評判が悪いので人気が落ちている。その原因は嫁とファンと売る人である。しかし……』」

少々意訳ながらも、ほぼ正しく訳している。
先生もうんうんと頷いている。



「よし、まあ意訳なところもあるけど、まあ合格だな」
「ああよかったぁ〜」

先生のお褒めの言葉に楓子は思わず安堵の声を上げる。
しかし、先生の言葉でその安堵の時間もすぐに終わり。


「次は後ろに助けてもらわないようにしないとな」


「「「ハハハ……」」」

楓子と純一郎は顔が真っ赤。
どうやら、純一郎の声は教室に丸聞こえだったらしい。



「ああ、恥ずかしかったよぉ〜」
「先輩が気を抜いてるからでしょ?」
「そんなこと言ったって……」
「はいはい、言い訳はいいですから」

お昼休み。
野球部の女子部室で楓子と後輩の友梨子が一緒にお弁当。
毎日一緒と言うわけではないが、週に一度は2人で一緒に食べている。

「しかし、彼氏が後ろの席なんていいですねぇ」
「やだぁ、彼氏だなんて……ちがうよう……」
「もう、毎度の否定はしなくていいですから。わかってますから」
「わかってないよう」

楓子がいくら否定しても、友梨子は純一郎の事を彼氏と決めつけている。

「いやね。先輩と同じ年の従姉妹は野球部のエース候補とラブラブなんですけど否定してですねぇ」
「はぁ……」
「私がいくら問いつめても先輩と同じような答えばかりで、いやになっちゃいますよ」
「そ、そう……」
「別に言いふらす訳じゃないのに、まったく……どいつもこいつも……」

(それ……友梨子ちゃんが話を聞いていないような……)

ぶつぶつ文句を言いながらお弁当の御飯を食べている友梨子の横で楓子は心の中で突っ込んでいた。


ちなみに、このとき、もえぎの方面で女の子が大きなくしゃみをしたのを参考に追記しておく。



「先輩。甲子園、あっさり終わっちゃいましたねぇ」
「そうね……もう少し行けると思ったのにね」

ひびきの高校の野球部の甲子園の西東京予選は三回戦で終わってしまった。
相手もその年の優勝候補でもない相手に。
負けた試合も盛り上がる場面がなく、あっさりと負けてしまった。
そんなことなので、その後の話題にもなっていなかった。

「でも、今の3年生じゃ、このぐらいとも思えますけどね」
「友梨ちゃん!それは先輩に失礼でしょ!」
「でも先輩。冷静に考えるとそう思いません?」
「う、う〜ん……」

確かに、今の3年生に攻撃でも投手も目立つ人がいない。
チームワークでなんとかなっているが、その程度。
これでは勝てる気がしない。



「しかし、今度は2年生の出番ですからね!期待できますよ!」
「う〜ん、チームも変わったから心機一転しないとね」
「そうでしょ!先輩!秋の大会は甲子園もねらえますよ!」
「そ、そう?」

確かに今の2年生は目立った人はいないものの全員が高レベル。
しかも楓子のノックで鍛えられた守備力と根性は他の有力校に引けと取らない。
投手陣もそれなりに整備されているので、あとは攻撃のレベルアップが課題だ。

「目標は高く!そのぐらいしないと駄目ですよ!」
「友梨ちゃんの言うとおりかもね……」
「夏休みの合宿はがんばりましょ!先輩、頼みますよ!」
「ええっ?私?」

友梨子は両手で楓子の手を掴んでじっと楓子を見つめる。
見つめられた楓子は戸惑っている。

「先輩が選手を鼓舞してがんばらせないと!」
「そ、それは友梨ちゃんも協力してよ……」
「私も協力します!先輩!気合いはいりますねぇ!」

(わ、私はまだ入ってない……)

楓子は一人で盛り上がる友梨子に戸惑ってばかりだった。



そして放課後。

楓子は校門で純一郎を待っていた。
一緒に図書館で勉強するためだ。

「純くん、遅いなぁ……」

鞄を両手で後ろに持っている。
そして校門から中をちらちらと見て純一郎が来るのを待つ。

すると純一郎がやってきた。
純一郎は少し困ったような顔をしている。
しかし、楓子はそんなことに気づいていない様子。

「あっ!純くん!待ってたよ!」
「ああ、ごめんごめん……」
「あれ?どうしたの?」

楓子は純一郎の様子がおかしいのに気づいた。

「いや、図書館の場所知らなかったから、公二に聞いてみたんだけど……
 今日休みだって」

「ええ〜っ……がっくり……」

大声を出した後、楓子ががっくりと頭を垂れた。
両手もだらんと前に垂れ、力が抜けているようだ。

「せっかく純くんと一緒のお勉強……」

ほんとうにがっくりした様子。



それに気づいた純一郎は慌てて楓子の頬に右手を添えて顔を上げさせる。

「楓子ちゃん。勉強する場所なんて図書館じゃなくていいだろ?」
「えっ?」
「駅前のファミレスがあるだろ。そこでやるっていうのはだめか?」
「あっ、ファミレスがあるじゃない!うんうん!そうしよう!」
「実は公二に長時間居られそうなファミレスを教えてもらったんだ。そこで勉強しよう」
「わ〜い、早くいかなきゃ!」
「こら!俺より先に行っても場所わからないだろ!」
「あっ、そうか……うふふ!」
「あははは!」

楓子と純一郎の笑い声が校門前で響き渡る。

そして楓子は純一郎の横にピッタリとくっつくとそのままお目当てのファミレスへと向かった。

2人は手を繋いでいない。
腕も組んでない。
そもそも2人は恋人ではない。

しかし、春から徐々に仲を深めていき、あとは「好き」と言えばいい段階だと、某夫婦をはじめとする親友達は思っている。




もうすぐ夏本番。


告白する舞台はたくさん用意されている。
To be continued
後書き 兼 言い訳
全然書けていなかった、純一郎&楓子カップルのお話です。
ここまで2人はドラマ的なことは何もしてません。
こんな調子の生活を過ごしているだけですが、友梨子ちゃんの指摘はごもっとも。

そろそろですね(ニヤリ)

さあて、次はどうしようかな(最近そればっかり)
美幸ちゃんか?それともほむらあたりか?
200話の内容は決まってるんだけど(こら)
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