「は〜や〜く〜、こ〜ねぇ〜かなぁ〜」
天気のいい朝。
ほむらは校門前で待ちくたびれていた。
「まったく、早く来ないと一緒に遊ぶ時間がなくなっちゃうだろ」
校門前を右へふらふら、左へフラフラ。
「恵ちゃん、こねぇかなぁ」
今日は恵が登校する日。
校門で出迎えるほむらはとても気合いが入ってる。
そうしているうちに、待ち人が来る。
遠くで小さな姿がほむらの目に入ってきた。
「おおっ!来たって……あれ?……えっ」
一瞬喜んだほむらだが、なぜか不機嫌になってしまう。
「……ちぇ……なんだよ……」
さっきまでのウキウキはどこへやら。
今は苦虫を噛みしめたような顔をしている。
なぜか?
「「お〜てぇ〜てぇ〜♪つ〜ないでぇ〜♪の〜み〜ち〜を〜ゆ〜けぇばぁ〜♪」」
恵の隣にほむらが待っていない人が。
なぜかメイが恵の手を握って一緒に登校してきたのだ。
太陽の恵み、光の恵
第30部 1学期末の学校編 その7
第196話〜笑顔登校〜
Written by B
時間をほんの少しさかのぼる。
「恵、また学校で遊ぼうね」
「は〜い♪」
「光、学校を遊ぶところにするなって……」
「いいじゃない、恵にとっては遊び場だよ」
学校へ向かう坂道の手前に親子3人がやってきていた。
もちろん恵は専用の夏制服。
恵もすっかりお気に入りのようだ。
「さて、恵、ここから大変だけど歩く?」
「あるく!あるく!」
「うん♪元気があってよろしい!」
「おいおい。大丈夫か?子供だと結構大変だぞ」
「そう?」
「子供の時、俺達がここを歩いたときは疲れた記憶があるんだけど」
「それはあなたが走ってただけでしょ?歩けば大丈夫だよ」
「そうなのかなぁ……」
これまでは、公二が恵をおんぶして登校していたのだが、今日は歩くと言い出した。
公二は恵の体力が心配でとても不安だ。
一方の光は元気な娘にとてもご機嫌。
さっそく一緒に歩こうと恵の手を取ろうとしたとき、恵が誰かを指さした。
「あっ、おねえちゃんだ!」
「えっ?お姉ちゃん?……あっ、メイさん。おはよう」
「お、おはようなのだ……」
恵が指さす方向からメイが歩いてやってきた。
それをみて公二が少しだけ驚く。
もちろん理由はある。
「へぇ、いつもは車で校門まで行ってると思ったけど、今日はどうしたの?」
「うん、確かに歩きって珍しいよね」
メイが毎日校門までリムジンで登校しているのは学校中で知らない人はいないほど有名。
だからこそ、今日のメイの行動には驚くのは当然。
そんな普通の疑問に、メイはなぜか顔を赤くする。
「メ、メイも歩いて学校まで行きたくなる時があるのだ……」
「そうなの?」
「そ、そうなのだ。き、気分転換なのだ……あれ?」
なぜかメイの返事がおぼつかない。
そんなメイの足元に恵が抱きついてきた。
メイはそれに気がついて下を向く。
そこには制服姿でメイをまっすぐと見る恵が。
メイは思わず顔がゆるむ。
「おねえちゃん!あるこう!」
「えっ?」
「あっちまで!」
恵は校門を指さす。
するとメイはなぜかとびっきりの笑顔になる。
「おお!メイも恵ちゃんと一緒に行くのだ!」
「わ〜い!」
「じゃあ、メイの手を握るのだ」
「うん!」
メイが恵に右手を差し出すと、恵は小さな手をその上に乗せる。
そして一緒に校門へ向かって歩き出す。
「「お〜てぇ〜てぇ〜♪つ〜ないでぇ〜♪の〜み〜ち〜を〜ゆ〜けぇばぁ〜♪」」
すぐにメイと恵の元気のいい歌声が聞こえてきた。
そんな2人の後ろを公二と光が並んで歩いている。
「あはは、恵も楽しそうだな」
「なんかメイさんも楽しそうに見えるけど気のせい?」
「いや、メイさんも楽しそうだな」
「なんか、私たちも楽しそうになっちゃうよ……ねぇ、あなた」
「なんだ?」
公二が光を見ると、すこし顔を赤くして、ちょっとだけもじもじしている。
それをみた公二は光の言いたいことがなんとなくわかるが、一応聞いてみる。
「私たちも手をつなご♪」
光の答えは公二の予想どおりだった。
公二はすぐにOKの返事をせず、ちょっとからかってみる。
「嫌だと言ったら?」
「ここでわんわん泣いちゃう♪」
「……だろうと思った。まあいいや、じゃあ俺達も行くぞ」
「わん♪」
公二は、メイの姿をみてすっかり子犬モードになってしまった光の手を指を絡ませて握りしめる。
光は恵と変わらない、とびっきりの笑顔を公二に見せる。
そして一緒に歩き出す。
「ねぇあなた。私たちも一緒に歌う?」
「い、いや。それは恥ずかしいからやめてくれ」
「うふふ、冗談よ」
「こら!」
「きゃい〜ん♪」
こんな会話を交わしているほうが恥ずかしいと、端から見れば思うのだが2人はまったく気にしていない。
そして、こんなことがあった、さらに少し前にさかのぼる。
場所はメイと恵が会った坂道の手前から20メートルほど離れた場所。
「う〜ん、まだ来ないのだ……」
「メイ様。いい加減に諦めたらどうです?もうかれこれ1時間ですよ」
「いやだ!」
双眼鏡で遠くをじっと見つめているメイ。
メイはリムジンの影に隠れて遠くを見ている。
それももう1時間も経っている。
運転手の咲之進が呆れるのも無理はない。
そんな咲之進を無視して、メイは血眼で双眼鏡から遠くの様子をうかがっている。
「本当に恵さんは来るのですか?」
「来る!昨日、山ザルが言っていたのを耳にしたのだ!」
「もしかして、もう学校に行っているというのはないのですか?」
「ない!今まで早朝に登校したところはないはずなのだ!」
「遅刻しても知りませんよ?」
「問題ないのだ!絶対に来るのだ!」
とにかく必死になっているメイに咲之進も忠告する気力をなくしてしまう。
メイが待ち続けてから1時間。
ついにお目当てがやってきた。
双眼鏡の中に恵の姿をはっきりと確認した。
「おおっ!来たのだ!」
「そうですか……お疲れさまでした」
「それでは今から行ってくるのだ!」
「お気をつけて」
「帰りはいつもの時間でいいのだ!」
そういって、双眼鏡を車の中に放り投げると急いで、坂道に向かって早足で歩き始めた。
『あっ、おねえちゃんだ!』
『えっ?お姉ちゃん?……あっ、メイさん。おはよう』
『お、おはようなのだ……』
こんな会話が聞こえてきたのはそれから1分も経たなかった。
「ふぅ……そこまでして恵さんと一緒に登校したければ、昨日連絡しておけばいいのに……」
咲之進はメイが置いていった双眼鏡でメイの様子をうかがっていた。
「しかし、メイ様も素直じゃないですな……偶然を装って出会うなんて……」
そうつぶやくと、咲之進は車のエンジンを掛ける。
この場にはとても不釣り合いな高級リムジンはすぐに動き出す。
「しかし、メイ様はとても素敵な笑顔をしておられた……」
とにもかくにも、メイの努力?が実りほっとした咲之進であった。
「ぐ〜や〜じぃ〜!」
「ほむら、そんなに悔しがることはないのに…」
校門前でこんな事が起こっていたとは全く知らないほむらは今朝の出来事にとても不満。
「あたしだって、恵ちゃんと一緒に登校したいのにぃ!それをあの阿呆猿が……」
「しょうがないじゃない。ほむらは仕事であそこにいるんだから」
「それだから余計にむかつくんだ!あの猿の嬉しそうな顔と来たら……きぃぃぃぃぃぃ!」
「だから、そんなにハンカチ噛みしめて悔しがらなくても……」
「おねえちゃん〜いたいよぉ〜」
「あっ、ごめんごめん……恵ちゃんごめんね」
「うん……」
一番嫌な奴に恵を取られた気分のほむらは、もう悔しくてしょうがない。
教室に入ると恵をがっちりと抱きしめて、椅子から動こうとしなかった。
よほど、メイに渡したくないのだろう。
そんなほむらに光が申し訳なさそうにつぶやく。
「ほむら、そんなところで申し訳ないんだけど……」
「なんだ?」
「放課後……電脳部に行くことになったから……」
「なんだってぇ!あの猿のところにかぁ?どうしてだ!」
「おねえちゃ〜ん!」
「あっ、ごめんごめん」
思わず声を上げたほむらだが、ついでに力も入ってしまったため、恵が苦しそうになる。
慌てて謝るが、ほむらの怒りが収まったわけではない。
「登校してるときに、メイさんが誘ったの。恵も『うん♪』って喜んでるから……」
「……恵ちゃんがOKと言えば、あたしが文句言えないじゃないか……」
「そうなんだ……ごめんね」
「ああ、別に誰も悪くないけど……きぃぃぃぃぃぃぃ!ぐ〜〜や〜〜じ〜〜ぃ〜〜!」
ほむらはまたハンカチを噛みしめて悔しがっていた。
今日はせっかくの恵の登校日だったのだが、メイのせいですっかり最悪の日になってしまったほむらだった。
そして、その3日後。
恵の登校日なのだが、家の玄関で公二と光が固まっていた。
「ねぇ……なんでここに?」
「俺に聞かれても困る……」
玄関の中から外の様子をうかがっていたのだが、そこにはなぜは待ち伏せしている人が。
それも2人。
「おい!てめぇ、なんでこんなところにいるんだ!」
「貴様こそなんでいるのだ!」
「お前みたいな、毎日車でくる軟弱な奴に言われる筋合いはない!」
「うるさい!セキュリティのためなのだ!」
「だったら、とっとと帰れ!」
「貴様こそ生徒会はどうしたのだ!」
「今日は吹雪に頼んだ!それがどうした!」
扉の向こうからこんな会話が延々と続いている。
殺気まで伝わって来そうだ。
「ねぇ、もしかして、恵と一緒に登校したいってこと?」
「たぶんそうだろうな」
「ほむらはこの前の事があるから家までやってきた」
「それを知ったメイさんもここにやってきた」
「………」
「………」
「「はぁ……」」
2人とも大きくため息をついた。
「これからは予告しないで行くようにしようか?」
「うん。そうでもしないと、これからずっとこんな事が続くぞ」
「でも、学校に連絡して置かないとみんなに迷惑かけるからな……」
「やっぱりだめか……」
「「はぁ……」」
再び大きなため息。
「ねぇ、2人にはもう来ないように言わないとだめかも……」
「申し訳ないけど、恵も歩いてばかりだと大変だからな……」
「さっそくだけど、今日はもう帰ってもらうか……」
「そうだね……」
「「はぁ……」」
今後の事を考えて、今日はお引き取り願うことを玄関前の2人に告げた。
ほむらもメイも頭を垂れ、おもいきりがっかりした様子で、一緒に学校に向かっていった。
こうして親子3人の平穏な登校は確保されることになったのであった。
To be continued
後書き 兼 言い訳
これも久々なほむらとメイの大人げない?争い話です。
この2人ならこんなことを絶対に考えるだろう。ということで書いてみました。
メイが歩いて登校する話はイベント的に別に必要なのですが、それは後々公開予定ということで。
200話まであと3つ!
なんでもいいから書かないと!(それよりも書くことを考えろよ!)