第196話目次第198話
きらめき高校の放課後のとある教室。

「ねぇ〜、カンペ作りしようよぉ〜♪」
「嫌だ」
「おねがぁ〜い♪」
「勉強しろ」
「面倒だからやだぁ〜!」

夕子は好雄にこれから図書館で試験用のカンペ作りをしようと誘ったのだが、好雄が冷たく断った。
好雄はこれから家で勉強したかったからだ。
しかし、そんなことでひるむ夕子ではない。

「ぐすん……好雄は愛しい女性が赤点で夏休みつぶれてもいいと思ってるんだ……」
「おい、夕子……」
「いいもんいいもん。あたしは夏休み学校で泣きながら補修を受けるんだ……」
「俺はそこまで言ってないだろ」
「じゃあ、手伝ってくれる?」
「ああ、わかったよ!手伝ってやるよ!」

嘘泣きして必死にお願いする夕子。
そんなしつこさに好雄は音を上げてOKしてしまう。

「ありがと!好雄、愛してるよ!」
「そんな言葉、ここで言われてもちっとも嬉しくないぞ」

夕子は好雄の腕に自分の腕を絡ませ、図書館に引っ張っていく。

「ちなみにばれたら俺の責任じゃないからな」
「えぇ〜、あたしと好雄は身も心も結ばれてぇ、一心同体な間柄なのにぃ?」
「俺が夕子をどんなに愛しても責任までは嫌だ!」

夕子は好雄の腕に抱きつき、人差し指で好雄の胸のあたりをこねくり回して甘える。
そんな夕子の甘え攻撃に好雄は防戦一方。


この2人の場合だけではないが、この時期どんな学校でも試験準備が始まる。

太陽の恵み、光の恵

第30部 1学期末の学校編 その8

Written by B
好雄と夕子は図書館にやってきた。
図書館は勉強する人たちでにぎわっている。

「うわぁ、図書館っていつもこんなに人がいるの?」
「いや、俺もめったに行かないわからん」

普段は静かに読書をする人がまばらにいるだけの机には、
グループで勉強する人たちでいっぱい。
暑い教室とは違い、図書館は冷暖房完備なので勉強するには最適な環境だ。

「これじゃあ、カンペ作る場所がないよぉ」
「あのなぁ。カンペなんて堂々と作るもんじゃないだろ?」
「あ〜ん、相手いる机ないかなぁ?」
「おい、夕子。聞いてないだろ……」

好雄の言葉を無視して、開いている机を探す夕子。



すると空いている場所が見つかったようだ。

「あっ!あそこが空いてる!」
「あそこって、空いてるけど……」
「気にしない、気にしない♪」

夕子は好雄の手を無理矢理引っ張り、隅の机へと向かう。
隅の机は女の子が1人教科書を見て勉強していた。

夕子はその反対側の席に座る。

「鏡さん♪こっちの席借りていい?」
「えっ……ええ、いいわよ」
「じゃあ、おじゃましま〜す。あっ、この助平男も一緒だけどね」
「助平男は余計だ。鏡さん、ごめんね。こんなうるさい女が邪魔して……いてぇ!」
「うるさいは余計よ」
「うふふふ。気にしてないから大丈夫よ」

うるさい2人の前でクスクス笑っているのは鏡魅羅。
学校一の美貌とプロポーションを誇り、男子生徒の中では高嶺の花の1人として数えられている。
ただ、高飛車で冷たい性格と裏で言われており、彼女に近づく人は数少ない。

もちろん夕子と好雄はそんなことはまったく気にする人ではない。



夕子は珍しく重い鞄から教科書とレポート用紙を取り出し、カンペの紙を作る。
それを魅羅は珍しそうに見ている。

「あら?夕子さんは何をしているのかしら?」
「カンペ作ってるの」
「カンペ?……えっ?」
「この女、勉強しないでこんなことしかしないんだよ」
「うるさいわね。さっ、好雄、ここからお願いね♪」
「えっ?」

好雄の前にはいつの間にか作られたカンペの用紙と教科書の山。
夕子はニヤニヤ、好雄はなにがなんだか。

「お願いってどういうことだ?」
「決まってるじゃない。カンペ作ってよ」
「作ってって……はぁぁ?」
「だってぇ。馬鹿な私だとこれに何書いていいかわからないからさぁ」
「………」

夕子は好雄の後ろに回り、好雄を後ろから抱きしめる。
もちろん、自分の胸を好雄の背中に強く押しつけている。
そして好雄の耳元で甘くささやく。

「おねがぁい♪」
「………」
「いいのぉ?可愛い彼女と海に行けなくなっちゃうよぉ?ねぇ〜ん♪」

夕子の滅多にやらない色仕掛けに好雄もとうとう観念した。

「もうわかった!やればいいんだろ!」
「ありがと♪愛してるよ♪」
「はぁ……最初からこのつもりだったんだろ、まったく……」

好雄は教科書を開き、黙々とカンペを作り始めた。



2人のやりとりをずっと見ていた魅羅は教科書を持ったまま、ずっとクスクスと笑っていた。

「うふふふ。夕子さんも早乙女さんをずいぶん尻に引いてるわね」
「そんなことないよ」
「そうかしら、でも仲がよろしいのね。もう何年つき合ってるの?」
「う〜ん、もう2年目……はっ!」

魅羅との何気ない会話で夕子が思わず両手で口を押さえてしまう。

「2年目?あら、春からつき合ってたとか聞いたけど……ふ〜ん、そういうことね」
「あの、その、え〜と、まぁ……」
「うふふ、気にしなくていいわよ。言いふらさないから。私、噂なんて嫌いだから」
「あ、ありがとう……」

冷房が効いているのに冷や汗だらだらで思わずハンカチで汗をぬぐう夕子。
これ以上、自分の事を聞かれたらたまらない夕子は逆に魅羅に聞き返す。

「そういえば親衛隊は?」
「1人で勉強したいから、みんな帰したわ」
「ふ〜ん、でも珍しいよね。図書館で勉強なんて」
「あら、そうでもないわよ。家に帰ったら勉強なんてできないから、よくここで勉強してるわ」
「なんで家でできないの?」
「家に帰ったら弟達の勉強を見てあげないといけないから」
「弟?鏡さん。弟なんていたの?」
「えっ?……はっ!」

今度は魅羅が驚いて両手で口を隠してしまう。
この仕草から、言いたくないことを言ってしまったと、告白しているようなもの。
会話していた夕子と隣で見ていた好雄はそういうことはすぐわかる。
夕子がさっそくフォローを入れる。

「大丈夫よ。言いふらさないから。私、噂なんて嫌いだから」
「嘘つけ、噂大好きだろ。あっ、知られたくないようだから、俺のノートにも書かないでおくよ」
「そう、助かるわ……プライベートなことは知られたくないから……」

今度は魅羅が綺麗な柄のハンカチで冷や汗をぬぐっていた。



「でも、鏡さんの弟かぁ……かなりのイケメンなんだろうなぁ……」
「そんなことなくてよ。それに男なんて顔じゃなくて心よ」
「鏡さん。こんな男にお世辞なんていらないから」
「うるさい。どうせ顔じゃないよ〜だ」

夕子と魅羅が楽しく話している横で、1人女々しくカンペを作っている好雄。
端から見ていると、これが夕子が使うカンペだとはとても見えない光景。

そのうちに下校時間が近づいていたので、どちらともなく話はお開きとなった。



「ねぇさ〜ん。勉強おしえて〜」

場所は変わって白雪邸
机で勉強していた美帆の部屋に真帆がいきなり入ってきた。

「真帆、いったい何なの?」
「世界史がよくわからないの。おしえて〜」
「私だって、世界史はそんなに得意じゃ……」
「私よりはできるでしょ?」
「う〜ん、いいですよ。一緒に勉強しましょ」
「ありがとう!さすが姉さん!」

2人はピンクのカーペットに小さな丸テーブルを広げ、世界史の教科書を開く。
そしてお互いにノートを持ち寄る。

「ところで、どこがわからないのですか?」
「う〜ん……全部」
「ぜんぶぅ?」
「全然ってわけじゃないけど。テスト範囲を最初からやり直したいの!」
「はぁ、しょうがないですね。じゃあテスト範囲のところからやりましょう」
「は〜い」

一緒に勉強というよりも美帆の家庭教師になってしまっていた。



美帆が教科書の書いてあることについて、ノートを見ながら解説を入れる。
それを真帆がノートを取るという形ですすむ。


「それで、この事件の後……」
「………」

「この時代の文明は……」
「………」

「ここで押さえておきたい人物は……」
「………」


美帆がノートを見たまま解説し、真帆は熱心にノートを取る。
余計な雑談は何もない。
しかし、美帆は何か気にかかる様子。


(でも、何か違和感があるのですが……)


その原因は2人の座っている位置。
真帆が美帆のすぐ隣に座っているのだ。

しかも、腕と腕がくっつくぐらいの密着度。
美帆が少し離れようとすると、真帆がすぐに近づく。
美帆も何も言わないので、真帆もそのままでいる。


(まあ、他人だったら嫌ですが、真帆ですからねぇ……)


人のいい美帆はそのまま講義を続けていた。



「ふぅ……試験範囲もこれで一通りすんだかな?」
「うん、ようやくおわったね」

同じ頃。
公二の家では公二と光が一緒にお勉強。

家でもそれほど勉強に時間を使えない2人は、計画的に試験勉強に取り掛かっていた。
2人とも真面目に勉強しているので、計画通りに勉強が終わった。

「これで試験も安心だな」
「うん。今回もいい順位を取りたいよね」
「そうだな」

勉強ができる2人だけあって、余裕のご様子。

「しかし、中学のときはこんなに勉強したっけな?」
「私は全然してないよ」
「俺もなんだよ。なんでこうなっちゃったんだろうな?」
「う〜ん……やっぱり私たち、パパとママになったからじゃない?」

光の言葉で2人は同時に同じ方向を向く。
そこにはぐっすりと眠っているはずの恵のベッドがある。

「そうだな。『恵のために頑張らないと』っていうのが無意識にあるかもしれないな」
「そうかもしれないね。恵の前でさぼってなんていられないからね」

お互い顔を見合わせる。
自然と笑みがこぼれる。

「さて、明日もがんばらないとだから」
「寝ましょ♪」

今までいろんな経験をしてきた2人には試験はそれほど苦にならないかもしれない。



「んんっ……あれ?眠っちゃったのかな?」

真帆は眠気が醒めた様子。
目をこすりながら状況を確認する。

「たしか、姉さんと勉強して……えっ?」
「真帆、起きましたか?」
「ね、ねえさん……あれ?……ええっ!」

真帆はびっくり。
それは目の前に美帆の顔があったから。
さらに気がつくと、頭の後ろに柔らかい感触。
顔を左右に向け、状況を確認する。


真帆は美帆の膝枕で眠っていたのだ。
真帆の頭はクリーム色のスカートに仰向けになっていた。
予想外の事態にその格好で固まってしまう真帆。


「ど、どうしてこうなって……」
「真帆がいつの間にか、私に寄りかかって眠ってたんですよ」
「やっぱり寝ちゃったんだ……」
「その格好だと私も辛いので膝枕を」
「そうだったんだ、姉さん大変だったでしょ?」
「いいえ、そのまま世界史の勉強をしていたので気になりませんでしたよ」
「姉さん、ごめんね」
「いいえ、で、どうします?また勉強します?」


美帆の問いかけに、真帆はちょっと考える。
そして真帆は目の前の美帆に申し訳なさそうな顔をしながら答える。


「ごめん。姉さん、もうちょっとこのままでいいかな?」
「うふふ、真帆も甘えん坊ですね。いいですよ」
「ありがとう姉さん。お礼はまたするから」
「じゃあ、私はもう少し勉強してますね」


そういうと美帆はまた教科書に視線を向けた。
真帆は安心して美帆の膝枕に体を預けていた。




試験勉強はどこへやら。

いつの間にか姉妹の団らんの時間になってしまっていた。

「う〜ん、姉さんの太股ってやわらかい……」
「………」

これはこれで充実した時間のようだ。
To be continued
後書き 兼 言い訳
試験勉強について書いてみました。
もう2組ぐらい書きたかったのですが、まとまらなかったので止めました。

それぞれがそれぞれらしいところが読みとれれば嬉しいです。

200話が書けるまであと2つ!
進んでない話があったので次はそれを書く予定です。
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