第199話目次第201話
「キャンキャン!」
「こらこら、そんなにしがみつくなよ」


公二は夢を見ていた。
「夢をみている」と自覚できる夢。

夢の中で、公二は一匹の子犬とじゃれ合っていた。
赤毛でかわいらしい子犬。

自分の部屋のベッドでじゃれあっているとその子犬が顔を舐め始めた。


「ペロペロペロ……」
「おいおい、くすぐったいよ……」


しかし、その感触がかなり生々しい。
その感触とともに、公二は夢から覚めた。
しかし、頬を舐めている感触は以前残っている。


「……あれ?」
「あっ、やっと起きた♪」


目を開けると光が公二の右頬を舐めていた。
光は嬉しそうに公二にほほえむ。


「ワン♪」
「………」


愛しい妻は犬耳をつけていた。

太陽の恵み、光の恵

第30部 1学期末の学校編 その11

Written by B
琴子がほとんど冗談でプレゼントした、光の誕生日祝いのプレゼント。
コスプレ用の犬耳と犬のしっぽが光のお気に入りになってしまっている。
濃い茶色の犬耳は光にとても似合っており、本人も公二もそう思っている。

家ではよくつけており、光の義理の父母も、もはや気にしていない。

ただ、犬耳をつけた光はいつも以上に甘えん坊になる。
スイッチが入ったかのごとく、公二にべったりと寄り添い甘えたがる。

昨日の夜も犬耳をつけたまま眠っていた。



そして朝食。

「ねぇお母さん。何笑ってるの?」
「そうだよ、父さんもどうしたの?」
「いや……なんでもないわよ」
「ああ……なんでもない、なんでもない」
「???」

並んで御飯を食べている2人をみて両親がクスクスと笑っている。
理由を聞いても笑って答えてくれない。

「ほら、もう時間よ。学校に行く準備をしなくちゃでしょ?」
「……ああ、光、準備するぞ」
「……う、うん……」

最後には母にせかされていまい、うやむやにされてしまった。
公二と光は釈然としないまま、恵に見送られて家を出て行った。



「ねぇ、あなた。なんか変じゃない?」
「確かにそうだけど、なんでだ?」
「さぁ?」

登校している途中。
2人は違和感を感じながら登校していた。
自分の横を通り過ぎる人が、なぜかクスクス笑いながら通り過ぎる。
自分たちを笑いながらとは失礼だとは思うが、原因が自分たちにありそうな様子で何も言えない。


「しかし、光も変じゃないか?」
「えっ?」
「なんで、そんなに俺の腕にしがみついてるんだ?」
「えっ〜?だって、そうしたい気分だから♪」

光は公二の右腕にしがみつき、その腕を自分の胸の間に押しつけるようにしている。
公二はその感触を気にしながらも、腕をぐいぐいと引っ張っていく。


「光、そんなに腕を押しつけるな」
「えっ〜、そんなに私の胸が不満なの?」
「そういう意味じゃなくて、歩きにくいって事」
「そんなの気にしない気にしない♪」



周りからクスクス笑われていた2人はそのまま校門にたどり着く。
校門にはほむらが待っていた。

「あっ、ほむらおはよう♪」
「赤井さん、おはよう」
「………」

2人はほむらに挨拶する。
しかし、挨拶されたほむらは、口をあんぐりと開けたまま固まっている。

「あれ?どうしたの?」
「おまえらぁ……」
「???」

おかしな反応に光が聞いてみると、ほむらは頭を抱えてしまった。

「赤井さん、どうしたの?」
「おまえらぁ……気づいてないのか?
「???」

今度は公二が聞いてみるが、反応は同じ。
すると、ほむらは両手で軽く自分の頭をポンポンとたたき出した。

「………」
「???」
「………」

何も言わずにほむらが叩き続けるから、公二と光も同じことをやってみる。



「!!!」



「あ゛ぁあ゛ぁぁぁぁ〜〜〜!!」



すると突然光の顔が真っ赤にして素っ頓狂な叫びを上げた。


光はここでようやく、自分が犬耳をつけたままであることを知ったのであった。



「ああぁぁぁぁ……」
「お前ら、家でなにやってるんだ……」
「い、いや、家でも普通につけてるから、なんとなく違和感がなくて、いや、あの、その……」
「親は何も言わなかったのか?」
「お母さんもお父さんも何も言わずに笑ってただけ……ああっ!」
「ぐはぁ……」

ここでようやく両親は光の犬耳を知ってて知らぬふりをしていたことを知った。
公二と光の慌てようをみて、ほむらは気がついたようだ。

「はは〜ん、親も呆れて知らぬ顔かぁ……」
「はずかしぃよぉ……」
「………」
「しかし、親も呆れるほどの事を学校までも……これは生徒会長として見逃せないなぁ……」

いつの間にかほむらはニヤニヤと笑っている。
当の2人は事実を知ってパニック状態でそれに気がつかない。


「よし!お前は今日はずっとそれをつけてろ!」


「「ええっ〜〜!」」


「生徒会長命令だ!」


「「……はい……」」

公二と光は頭をがっくりと垂れてうなづくしかなかった。



今日一日犬耳をつけたまま授業にいることになった光。
もちろん朝は光の周りに人が集まる。

「光ちゃん!それ、かなり似合ってない?」
「そ、そんなことないよぉ〜」

「旦那さんも喜んでるんじゃないの?」
「いや、かなり喜ん……いや、普通の反応だよぉ……」

「光ちゃんって、コスプレにはまってるんだ。他に何やってるの?」
「だからコスプレにははまってないよぉ」

「そんなにマンネリなの?」
「違うって!」

女の子からの興味津々な質問攻めに光もたじたじ。
反論するが顔を真っ赤にして言うものだから、さらにからかわれてしまう悪循環。

(こうじぃ〜、たすけてよぉ〜)

光の心の叫びは当然公二に聞こえるわけがない。



そして、授業が始まった。
光は授業開始からびくびくしていた。

(ああっ、どうしよう……先生に色々言われちゃう……)

当然犬耳はつけたまま。
それを先生から言われたらどうしようかと考えていた。
授業中も先生の動きにばかり目をとられて授業内容が頭にまったく入らない。

(もう、早く言われないと気が気じゃないよぉ〜……)

しかし、先生は光の事には一切触れず、普通の授業をしている。
光は、もはや授業を受ける状態ではない。




キーンコーンカーンコーン


そして授業が終わった。
先生は結局、光の事は一言も触れずに教室から出て行った。


「はぁぁぁぁ……」


先生が教室から出て行くと、光は大きなため息をついて机にはいつくばってしまった。


「結局、何も言われなかった……」


そして気がついた。


「何も言われなかったほうが恥ずかしいよぉ〜!」


実は、事前にほむらが「陽ノ下のためにならんから、何も言わないように」と先生達に言ってあったのだが、当然光はそんなことは知るよしもなかった。
そして、この日は光はずっとびくびくしながら授業を受け、最後まで何も言われず拍子抜けするという授業が最後まで続くのであった。
もちろん、この日の授業の内容は光の頭の中には一切はいることはなかった。



そんな状況でお昼休みの鐘が鳴ったとたん、2年A組の教室に飛び込んできた黒い影。


ガラガラッ!


「あなたぁぁぁぁ〜!」
「うわぁ!」


光が扉を開けると、公二の席へ猛ダッシュ。
そして公二に抱きついた。


「うぇ〜ん、恥ずかしかったよぉ〜」
「そうやってるのが、俺は一番恥ずかしいんだけど……」


公二は光を優しく抱きしめながら、耳元でそっとささやく。
しかし、光は公二の言うことが聞こえていない。


「ずっと恥ずかしかったんだからぁ〜」
「だから、みんな注目してるって」


教室で抱き合っている、しかも片方は犬耳とあれば、注目されるのは当然。
このままではいい見せ物である。
そこで公二はすぐに考えた。


「屋上でお昼にしないか?」
「……うん」

とりあえず屋上に避難することにした。



「ねぇ……大丈夫だよね?」
「大丈夫じゃない?人は少ないからそんなに注目されないって」

お弁当をもって、いそいそと屋上へ向かう2人。
廊下でずっと、視線を集めていた光は顔を真っ赤にして、公二の背中に隠れるように歩いていた。

そして今は階段を上り、屋上への扉の前。


「ここなら誰にも気にされずに済むよね」
「そうだといいね」


そういいながら、公二が屋上への扉を開ける。



がちゃ



「あっ……」
「あっ……」


扉を開けて、2人とも絶句。


「お待ちしてましたわ」


そこには右手にデジカメ、左手にお弁当を持った琴子がにっこりとほほえんで立っていた。


「光のことだからここにくると思ったら案の定だったわ」
「………」

2人は逃げる気力もなくなっていた。



しかし、それでも楽しいお昼。
光お手製のお弁当を仲良く食べる2人。

「あなた、あ〜ん♪」
「ここでか?」
「え〜?やってくれないのぉ〜?」
「……わかったよ。あ〜ん」
「はい、あ〜ん♪」

光が唐揚げを公二が開けた口に入れる。


カシャ!


それを琴子が見逃さずに撮る。
琴子は2人の向かい側でお弁当を食べながらシャッターチャンスを狙っている。
それは気にせずに公二が自分のお弁当からウィンナーを箸でつまむ。

「ほら、こんどは光の番だ」
「え〜、恥ずかしいよぉ〜」
「ダメだ、光もやれ」
「やだ、やだぁ!恥ずかしいよぉ〜」
「駄々をこねるな」
「ぶぅ〜」

体を横にふり、イヤイヤしている光。
しかし、本気で嫌がっている

「はい、あ〜ん」
「あ〜ん♪」

光はにっこりと笑って口を大きく開ける。
公二はそこにウィンナーを入れる。


カシャ!


それを琴子がデジカメでばっちりと撮る。
そんなお昼がずっと続いていた。

ちなみに、光は胡座をかいている公二の膝の上に座っている。
光がこの格好を強く希望したからだ。
御飯が終わるまではずっと公二が後ろから光を抱きしめている状態でいた。



そして、ご飯が終わってお昼休み。

「す〜……す〜……す〜……」

光はすっかり眠っていた。
公二がかいている胡座の膝を枕にして顔を公二のほうを向けて眠っていた。

「あらあら、すっかり眠っちゃってるわね」
「本当だ。すっかり深い眠りだよ」

公二の左には琴子が座っている。
公二の左側から光の寝顔をのぞき込んで見ている。

見終わると先程撮ったデジカメの写真の確認を始める。

「しかし、いい写真がたくさん撮れたわ」
「あのね、琴子さん……」
「これなんか、光の嬉しそうな顔!犬耳とピッタリ合ってるわ」
「………」
「よかったら焼き増しして送ってあげるけど……どう?」
「……是非頂きます」

琴子の写真について色々言いたいが、光の写真が欲しくてたまらない公二だった。



一通り写真を確認すると、デジカメを片づけながら再び光の寝顔を見る。

「しかし、さっきの光はとても甘えん坊だったわね」
「あははは……やっぱりそう見えるか……」
「ええ、でもびっくりだわ」
「えっ?」
「光がこんなに甘えん坊だとは思わなかったわ」
「そう?」
「一時期、べったりな時があったけど、あれは単なる色ボケだと思ってたけど……」
「色ボケって……」

琴子は光の寝顔を見ながら話を続ける。


「小学校の時に光に初めてあってから、光のことは『しっかりもの』って思ってた。
 行事には進んで参加するし、
 運動会では先頭に立って張り切って。
 クラス委員にだってなったのよ。
 私は光のことをしっかりしてて羨ましいと何度も思ったわ。
 だから、こういう光って私にとってはとっても意外なの」


公二は琴子の話をじっと黙って聞いていた。



そして公二が口を開く。
光の寝顔をじっと見つめ、頭を軽くなでながら。

「琴子さんの言っていることは少し違ってるな」
「えっ?」



「光は『しっかりもの』じゃなく『がんばり屋さん』なんだよ」



「えっ?『がんばり屋さん』?」



「そう、光は何でも頑張っちゃうんだよ。
 それが自分にとってかなり負担になることでもね。
 光は目の前にあることに全力でやろうとしてるんだよ。

 小学校の時もそうでしょ?
 行事は嫌な仕事を進んで選んだだろ?
 運動会は応援も先頭に立ってやってただろ?
 クラス委員も自分から立候補しただろ?

 今だって同じ。
 出産、子育ても一所懸命
 家計のやりくり、朝晩の料理、バイトも一所懸命。
 学校でも頑張ってる。

 光はそういう奴なんだよ」



「小学校の事も詳しいのね」



「ずっと文通やってたからね。

 でも、光はがんばり屋なんだけど、そのくせ精神的に強くない。
 むしろ弱いほうかもしれない。

 だから、すぐに精神的に疲れちゃうんだよ。
 そういうときに俺に甘えたくなるんじゃないかな?
 俺はそう思ってる」


「なるほどね。よくわかったわ」

琴子も公二の言うことにとても納得したようだ。



「でも、主人くんは光に甘えたくなることはないの?」
「俺?俺は甘えなんてとっくに捨てちゃったよ」
「えっ?」
「光と恵を養わなきゃいけないのに、甘えなんて言ってられないよ。
 それに俺がそんなだと、光は安心して俺に甘えられないだろ?」
「確かにそうかも……」
「俺はこの光の笑顔があれば癒される……これだけあれば十分だよ」

そう言いながら公二は光の髪の毛を優しくなでていた。



そして、時は過ぎて放課後。

「しかし、神聖なる学校に犬耳などとてもけしからん!」
「はい……」
「これに懲りて二度とやらないように!」
「はい……」
「それでは帰れ!」

2年E組の教壇の前で、ほむらが光に説教のパフォーマンス。
ほむら曰く「反省会」ということらしいが、そんな雰囲気はまったくない。
とりあえず誰かを叱ってみたかったらしい。
台詞が棒読みであることから、それは周りにもよくわかっていた。

どちらにせよ、光はようやく解放されることになった。
光は授業での精神的疲労が重なり、ぐったりしたまま学校から出て行った。

実はこのときに既に犬耳は外してもよかったのだが、そんなことは光の頭の中からすっかりなくなっていた。



校門では公二が待ってていた。

「光、帰るぞ」
「バイトは?」
「今日は休みだ。光も今日は休みだろ?」
「うん、じゃあ一緒に帰れるね♪」

そういうと光は公二の右腕を抱きしめ、自分の胸に押しつける。

「またか?」
「わん♪」
「しょうがないなぁ……光、このままデートするか?」
「えっ?」
「珍しく2人そろって放課後暇だろ?折角だからどこか行こうよ」
「きゃい〜〜〜ん♪」
「本当に光は子犬だよな」
「わんわん♪」

公二の提案に嬉しい光は公二の腕を抱きしめて、犬鳴きをしはじめた。
そんな光の頭を公二は優しくなでる。
光は本当に嬉しそうだ。



そういうわけで放課後デートをすることになった2人。

「さてと、どこに行く?」
「映画館!」

校門からの坂道を歩く2人。
光はとにかく機嫌がいい。
その機嫌の良さに公二も思わず笑みがこぼれる。

「どんな映画がいいんだ?」
「え〜とねぇ、あま〜いラブストーリーがいいなぁ……」

光はそういうと公二の右腕にさらに強く抱きつく。

「あれ?光ってそんなの好きだっけ?」
「いいの!今日はそういう気分なの!」
「犬耳つけたままでそういう気分もあるのか?」
「あるの!ぶぅ〜」
「はいはい。最近話題の恋愛映画があるみたいだからそれにするか?」
「うん!それそれ!それにしよう!」

そういうわけで、恋愛映画を見ることになった2人。
幸いなことに、映画館にすんなり入ることができ、映画を楽しむことができた。

その後は、ファミレスでコーヒーを頼み、とりとめのない世間話をして家に帰った。



「ちょっと、おかあさ〜ん!」
「母さん。黙ってることはないだろ?」

家に帰ると、真っ先に台所の母に朝のことについて抗議を始める。
それを聞いて母はクスクス笑い出す。

「うふふ!だって、あなた達があまりに自然に振る舞ってるからおかしくて!」
「そ、それは……」
「だから、ちょっと意地悪したくなっちゃっただけ」
「だけって……」
「光さん。犬耳つけたまま言ってもあまり効果はないわよ」
「うっ……それは……」

光は犬耳をつけたまま。
外すことは頭からすっかり抜けているらしい。

「ご飯はまだだから、早く部屋に行ったら?恵ちゃんが待ってるわよ」
「そうだね。じゃあ今日はお願いします」
「光、早く行くぞ。恵が怒ってるかもしれないぞ」



部屋に帰ると2人は大変だった。
2人が勝手にデートをしたため、その間親の帰りを待った恵はご機嫌斜め。

「恵、勝手に遊んじゃってごめんね」
「ぶぅ〜」
「ほら、パパとママがこれだけ謝ってるから」
「ぶぅ〜」
「ほらほら、恵、クマさんだよぉ〜」
「ぶぅ〜」
「恵、こっちむいて」
「ぶぅ〜」

2人は恵をあやして何とか機嫌をなおしてもらうと必死。
しかし、恵は一向にご機嫌が治る気配がない。
2人が興味を引かせようとするが、そっぽを向いて顔を見せてくれない。

「めぐみ〜、おねがいだからぁ〜」
「なぁ、恵。このとおりだから!」
「………」

結局、晩御飯の直前にようやくご機嫌が治った恵であった。



そして夜。

2人は今でテレビを見ていた。

公二はソファーに座り、
光はその公二の座っている膝の上にまたがるように座り、
恵はその光に抱きかかえられるように光の膝に座っていた。

見ている番組はドキュメンタリーもの。
最近話題の動物園についてのお話なので、恵も退屈せずに見ている。

「光、今日は本当に甘えん坊だな」
「う〜ん、そうだね」
「やっぱりその犬耳か?」
「これもあるけど、最近甘えてなかったから……」
「そうだな。バイトとか試験勉強で忙しかったからな」

2人はテレビをじっと見たまま話をしている。
光の声がいつのまにかしんみりとした声になる。

「ねぇ……これからも、甘えていいかなぁ?」
「いいよ。甘えたくなったら、いつでも甘えていいからな」
「うん、ありがとう……」


ちゅっ!


光は少し顔を赤くし、顔だけ振り向くと公二の頬に軽くキスをした。
そしてさらに顔を赤くするとすぐにテレビのほうを向いてしまった。

そんな2人を恵は下からじっと見ていた。

「あっ、見られちゃった……」
「なあ、恵が大きくなったら、かなり甘えん坊になるんじゃないか?」
「それは……もうなってるかも……」
「まったく、甘えん坊お母さんには困ったもんだ……なあ?」
「もう……馬鹿……」

公二は憎まれ口を叩きながら、光を後ろからすこしだけ強く抱きしめた。
光は文句を言うが、まったく本気ではないのがわかるぐらい弱々しい文句だった。



そして深夜。
恵はすっかりベッドで眠り、自分たちも寝る時間になった。

「今日は満足に甘えられたか?」
「うん。明日からまたがんばれそうだよ」
「そうか、よかったな」

そういうと、公二は部屋の電気を消して、ベッドに向かう。

すると公二のパジャマの裾を光が引っ張って、止めようとする。

「ん?どうした?」
「あのぉ……最後にお願い……いいかな?」
「何が?」

公二が振り向くと、光が左手の人差し指を加えながらなにかもじもじしている。
暗闇だが、たぶん顔は赤いのだろう。


「もうすこし……あなたに甘えたいなぁ……」


光の声はかなり甘い声。
よく見ると、まだ犬耳がつけたまま。
甘えモードはまだ終わってなかったようだ。

公二は光の左肩を掴み、自分に引き寄せると、立ったまま軽く抱きしめる。
光の手はもう公二の背中に回っている。

「少しだけ?たくさん甘えたいんじゃないの?」
「そんなこと、恥ずかしくて……」
「はいはい、じゃあ甘えん坊さんのリクエストに応えますか」


ぼふっ


公二は光を抱いたままベッドに倒れ込む。
そして、仰向けの光の上に覆い被さるようにする。
そして暗闇の中、2人はじっと見つめ合う。


「じゃあ、たっぷり甘えさせてあげるからな」
「うん、ありがとう……」

「光……」
「あなた……」

「………」
「………」

「んっ……」
「んんっ……」


2人の唇が重なり、2つのシルエットが1つになる。
そして、すぐにベッドからは甘い吐息と愛の言葉だけが聞こえるようになる。


結局、一日中犬耳をつけていた光は、一日中甘えん坊であった。


2人の奇妙な一日はこうして幕を閉じた。
To be continued
後書き 兼 言い訳
おかげさまで200話というとんでもない話数を達成することができました。

内容はもう煩悩一色ですので、あまり気にしないでください(こら)

しかし、200話なんで、連載始めたときは想像もつきませんでした。
ましてや4年以上も書き続けるなんて夢のまた夢。

はっきりいって最後まで書けるかわかりません。
書き終わるまでにときメモというジャンルが残っているかもわかりません。

それでも、折角書いたものですから、焦らず、急がず、自由気ままに書いていきたいと思います。
書いていくうちに、キャラ達にも愛着が出てきますからね。
書きたい話もいっぱいあります。

これだけ書いていながら、いまだに誤字は多いし、ストーリー構成もたいしたものではないし、
それに情景描写なんぞまだまだ低レベルです。
まあ、少しずつよくなればいいなぁとは思っています。

それでは、皆様の興味が続く限り、今後ともよろしくおねがいしますm(_ _)m
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