第202話目次第204話
「♪♪♪」
「♪♪♪」

日曜日。
家で光と恵が朝からご機嫌だ。
二人で適当な鼻歌を吹きながらお出かけの準備。
光はすでにジーンズにブラウスといった服装で準備万端。
恵に黄色のワンピースを着せているところだ。

しかし、公二はなぜそんなにご機嫌なのか実はわかっていなかった。

「光、いったい朝からどうしたんだ?」
「えへへ。これからお買い物♪」
「買い物?昨日そんなこと聞いてないぞ」
「あのね。今朝お母さんからお小遣いもらったの」
「お小遣い?なんで?」


「あのね『これで恵ちゃんの浴衣を買ってきなさい』だって♪」


もう、浴衣が似合う時期になってきた。
その浴衣が一番映える夏祭りの季節になってきた。

太陽の恵み、光の恵

第31部 夏祭り編 その1

Written by B
「そうか。夏祭りかぁ、来週だっけ?」
「うん!去年はお預けだったから楽しみなんだぁ」
「そうだなぁ、恵をおいていけなかったから我慢したんだよな。2年ぶりかぁ」

去年はこの二人は夏祭りに行かなかった。
去年は二人の関係を全く秘密にしていた時期。
恵と3人で行ったらそれこそ完全にバレる。
だからと言って、二人で行くと恵を置いていくことになる。
そんなことはできない二人は夏祭りを我慢していたのだ。

しかし、今は違う。
3人で堂々と町を歩けるのだ。

「私は3年ぶりだよ!一昨年は恵産んだばっかでもっと外に行けない状態だったんだから」
「あっ、そうかごめんごめん」
「あ〜あ、私の旦那様は奥さんのことを考えずに遊びに行ったんだぁ」
「しょうがないだろ。友達づきあいってものがあるんだから」
「友達ねぇ……もしかして、楓子ちゃんと、って事じゃないよね♪」
「そ、そんなこと、あ、あるわけないだろ?」

光は冗談で言ったつもりだが、公二は焦りまくり。

(あなた、バレバレよ。馬鹿!でも、しょうがないよね♪)

本当に公二は楓子と夏祭りにデートしていたことが光にはわかってしまったがそれ以上は追求しない。
普通の光なら文句の一つも言うのだが、機嫌がいいのでさらりと流す。



「恵にとっては初めてのお祭りかぁ」
「私たちのせいで遅いお祭りデビューになっちゃったけどね……」
「その分、思い切り楽しませてあげたいな」
「そっ!だからさっそく浴衣を買いに行くの♪」
「ママ〜!はやくぅ〜!」

すでに恵はワンピースにちょっと大きめの麦わら帽をかぶって準備万端。
早くおでかけしたくて光のジーンズを引っ張っている。

「もうすぐバイトだし、女の子の浴衣は俺はわからないから光に任せていいかな?」
「まかせて!かわいいのを買ってくるね」
「じゃあ、恵の浴衣姿はお祭り当日までの俺のお楽しみだな」
「………」
「あれ?」

突然光がむすっとふくれっ面になってしまった。
公二には理由がわからない。

「あなた。もっとお楽しみがあるんじゃないの?」
「えっ?」


「わたしの・ゆ・か・た!」


「ああっ!」
「もうっ!あなたにまだ見せたことないんだからね!」

そう、公二は光の浴衣姿を見たことがない。
夏祭りは小さい頃に何度も行っているが、そのころの光は普段着で浴衣ではない。
公二は腕をくんで目をつぶり光の浴衣姿を想像してみる。
公二の顔が自然とゆるむ。

「そうか、光の浴衣姿か……あれ?」
「どうしたの?」
「3年ぶりって言ってたけど、浴衣は?」
「あっ、いや、その、え〜と……あっ、時間だ!じゃあいってきま〜す!」
「パパ、いってきま〜す!」
「あ?え?行ってらっしゃい!気をつけろよ!」

突然光があわてて恵を連れて出かけてしまった。
公二はただ見送るだけ。



そして部屋には公二だけ。
公二はバイトに行く準備をしながら考える。

「なんで、光は慌てて……そもそも、時間なんて関係あるのか?」

「……!!!」

「ああっ!」

そして公二はなにかひらめいたようで大声を上げた。



「まさか、母さん。光の浴衣の分の小遣いも!」



気づいた頃にはもう遅い。

「やられた……俺にはくれないのに!俺の浴衣はどうするんだ?俺のも古くて着られないぞ」

公二はタンスの底に埋もれている自分の浴衣の状態を想像してみる。

「まいったなぁ、帰りに俺のを買わないと。ああ、痛い出費だ……はぁ」

公二は大きなため息をついた。

「今日はがんばって浴衣代を稼ぐことにするか!」

それでも公二は気合いを入れ直した。
今日のバイトはコンサートでの会場内の管理員。体力勝負の仕事だ。



「真帆ちゃ〜ん♪」
「ま、舞佳さん。いったいなんですか?」

きらめき市駅前のファーストフード。
バイトの休憩時間に真帆はたまたま一緒に休憩していた舞佳に呼ばれた。
舞佳はとてもご機嫌だ。

「もうすぐ、夏祭りだよね?」
「ええ、ここでもひびきのでも大々的にありますよね?来週ですよね」
「そうよね。夏祭りはバイトもたくさ〜んあるのよね」
「そうなんですか?」
「そうよ♪だから、今日は舞佳お姉さんがとっておきのバイトを紹介しようと思うんだけど……」
「バイトですか?」
「その日は友達との約束があればダメだけど……」

舞佳は夏祭りの真帆の予定を知りたがっているようだ。
真帆はその日の予定を思い出す。

(う〜ん、まだ誰かと遊びに行く約束はしてないのよね。
 でも、ヒナはどうせ早乙女君とだし。ゆかりはお父様とだと思うし……
 他は……あ〜あ、彼氏持ちばっかりじゃない!
 どうせ姉さんは坂城さんとデートだから……まあいいか)

「予定がないからいいですよ」
「本当?いいの?友達は?」
「馬に蹴られたくないですから」
「あらそういうこと……ごめんなさいね」
「いいんです……慣れてますから」
「じゃあ、決まりね♪」

舞佳は人手が見つかってご機嫌な様子。



「ところで、衣装なんだけど」
「衣装?」
「たぶん、法被は貸してくれると思うけどその下が……」
「法被の下?」



「さらしじゃだめ?」



「さ、さらし?って、あの布でぐるぐるで、胸を、あの、谷間を、その、少し見せてあの……」
「私はさらしにするつもりなんだけど、真帆ちゃんはどうかな?って」

真帆は頭がぐるぐると回っている。
自分のさらし姿を想像してさらに混乱している。

「でも、あの格好でえ〜と、そのぉ〜……えええええっ!!!」

そして混乱が収まり、冷静になったとたん、真帆の顔が茹で蛸のように真っ赤になる。



「お願いです!それだけは勘弁してください!」
「どうして?」
「さらしなんて、私、恥ずかしくて死んじゃいます!」



真帆は必死に舞佳に頭を下げてお願いする。
舞佳はそれをみてため息をつく。

「ふぅ、真帆ちゃんはそう言うかとおもったわよ。別にさらしでなくてもいいわよ」
「よかったぁ〜」
「しかし、真帆ちゃんは最近では珍しく恥ずかしがり屋よね」
「そうですか?あれは恥ずかしいですよ」
「あははは。まあ、衣装で商売するわけじゃないしね」

恥ずかしい格好をせずにすんでほっとしている真帆の前で舞佳は優しくほほえんでいた。

「さて、来週は稼ぎ時よ!なんてたって歩合制だからがんばりなさい!」
「はい!」
「その前に……こっちをがんばらないとね」
「は〜い!」

休憩時間も終わり、二人は気合いを入れてバイトに戻っていった。



「夏祭り?」
「ああ、そっちもあるだろ?」
「ええ、あるみたいだけど……」

高速道路のサービスエリア。
ツーリングをして休憩していた芹華が花桜梨に突然夏祭りの話をしてきた。

「せっかくだから、遊びに来ないか?」
「いつあるの?」
「来週あるんだ。夜はあたしの部屋に泊まればいいからさ」
「でも……彼は?」
「えっ……」
「夏祭りなら絶好のデートチャンスじゃないの?」

冷静に答える花桜梨に芹華が顔を赤くする。
花桜梨から視線をはずし、恥ずかしそうに頬をぽりぽりとかいている。

「い、いや。実はあいつが、その、あの、誘ってくれたんだけど……」
「まさか、断ったの?!」
「とんでもない!受けたんだけど、それが、まあ……せっかくだから花桜梨も来て欲しいなと」
「どういうこと?さっぱり話がつながらないけど?彼は?」
「ま、まあ、来てからのお楽しみということで」

花桜梨にはさっぱり意味がわからない。
花桜梨にはどうしても芹華の彼氏?の事が気になる。

「???……彼氏のじゃまにならない?」
「ならないならない!むしろ大歓迎!」
「???……それなら行くけど」
「いやぁ、ありがとう助かるよ」
「???……ええ、どういたしまして」

芹華が心配ないと言うので花桜梨はOKした。
来週はもえぎの市の夏祭りを見にツーリングが決まった。



二人は高速道路を降り、はばたきICを降りて海岸へと向かう。
きれいな海岸が広がり、景色がすばらしいので芹華も花桜梨も好んでこの場所に来ている。

「いやぁ、相変わらず海がきれいだなぁ」
「本当ね」

ヘルメットをとり、ライダースーツ姿の上半身を脱ぎ、Tシャツ姿になって、海岸の近くまで歩く二人。

「浜風が気持ちいいなぁ」
「そうね。気持ちいい……」

浜風を感じながら、周りを見ると、なにやら祭りの準備をしているのが見えた。
入り口に飾ると思われるアーケードや、イベントスペースと思われる、舞台も準備されている。

「あれは何だ?」
「なんかサマーフェスティバルとかなんとかって書いてあるけど」
「へぇ……ふ〜ん、こっちも来週やるんだ」
「どこもかしこも夏祭りなのね」
「やっぱり日本の夏には祭りだな」

あちこちで準備されている夏祭り。
それを見て、二人は夏本番を感じ取っていた。

芹華がちらりと腕時計を見る。
時間を確認すると花桜梨に話しかける。

「さて、そろそろ時間だから帰るか」
「えっ?時間」
「まあ、その……『お仕事』なんだ」
「大変ね……怪我をして夏祭りにデートができない、なんてことにならないようにね」
「うっ……気をつけます……」
「うふふ、じゃあ帰りましょう」
「あ、ああ……」

今日の芹華は花桜梨にからかわれっぱなしだった。



そしてその日の夜。

「♪♪♪」
「♪♪♪」

光と恵は夜も上機嫌。
お買い物がよほど楽しかったようだ。
公二は新聞を読み、光は家計簿をつけ、恵は絵本を楽しそうに読んでいる。

「おいおい、もう遅いんだから、。恵が寝られなくなっちゃうだろ?」
「大丈夫、大丈夫♪」
「しかし、こっそりと自分の浴衣も買うんだもんなぁ」
「だってぇ……あなたに驚かせようとおもったから……」

公二がちょっと嫌みっぽく言うと光が恥ずかしそうに顔を赤くする。
公二は光の真っ赤な顔を堪能すると、やさしい声に変える。

「でも、いい浴衣は買えたのか?」
「うん!とってもいいのが買えたよ」
「ほう、じゃあ、来週は楽しみだな」
「楽しみにしてね♪オトナの魅力たっぷりの浴衣姿をみせてあげるから♪」
「ふ〜ん、じゃあ来週は3人でおもいっきり楽しもうな」
「うん♪」

3人とも笑顔。
みんな夏祭りが楽しみでしょうがない、といった雰囲気が部屋中いっぱいに広がっている。
公二と光は、恵以上に楽しみなのだろう。





そして夏祭り本番を迎える。
To be continued
後書き 兼 言い訳
いよいよ新部の夏祭り編です。
今回は前段として、夏祭りの前の様子を少し書いてみました。
まあ、ネタ振りとも言いますけどね(苦笑)

え〜と、夏祭り編ですが、1,3,GSも書きますが全員書く予定はありません。
そんなにたくさん書けないし、どうせ夏休みの最後には……と、まあわかるでしょ?

メインはこの親子を中心に、あのカップルやあのカップル等々…を書いてみたいと思います。

さて、次からさっそく夏祭り本番です。
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