第203話目次第205話
夏祭り当日。

空には満開の星空。
気温もすこし暑い感じ。
まさにお祭り日より。

「お〜い、まだかぁ?」
「もうちょっと!」

公二は先に浴衣に着替え終え、玄関で待っている。
公二の浴衣は濃紺に水色の透かし模様が入ったシンプルなもの、帯は濃い緑のシンプルなもの。
茶色の雪駄を履いて腕組みして待っている。
ちなみに、公二は2人がどんな浴衣を着てくるのかまだ知らない。
当日のお楽しみ、ということで光にずっと秘密にされてきていた。


ドタドタドタ……


しばらくしてようやく光と恵が浴衣に着替えてやってきた。


「おまたせ!」
「おまたせ〜!」

二人の浴衣姿はとてもまぶしかった。

太陽の恵み、光の恵

第31部 夏祭り編 その2

Written by B
「ねぇねぇ、私の浴衣どうかな?」
「意外だな……もっと明るめの色って思ってたから」
「そう?でも色っぽいでしょ?」

光はその場でくるっと一回転する。

光の浴衣も濃紺。
赤の短冊の柄が全体にちりばめられているシンプルな柄。
帯はすこし暗めの赤。
明るい色の服が好きな光にしては意外なデザイン。

しかし、光の言うとおり、いつもの光よりも色っぽい印象を公二は受けた。

「確かに色っぽいな……」
「でしょ?それにあなたとお揃い♪」
「そうだな、びっくりしたよ」
「やっぱり愛の力だよね♪」

公二にほめられて嬉しい光は公二の右腕に抱きついてきた。

「おいおい、いきなりなんだよ」
「だって嬉しいもん♪」




「ぶぅ〜」


そんな二人の下から不満そうな声が聞こえてきた。

「あっ、恵、ごめんごめん」
「恵、ごめんね」
「ぶぅ〜」

恵が2人の浴衣の裾を引っ張っている。
2人の世界から追い出され不満そうな顔を見せている。
公二と光は慌てて恵のしゃがみ込んで恵のご機嫌をとる。

恵の浴衣は真っ赤で、恵の顔ぐらいの大きなひまわりがいくつも描かれているかわいらしいもの。
帯の色は黄色。

光が血眼になって選んだ浴衣は恵にとても似合っていた。

「恵、浴衣とっても似合ってるな」
「えへへ、いいでしょ?」
「そうだな、やっぱり光のセンスがいいんだよな」
「でしょでしょ?」

公二と光は二人の浴衣をさわったり頭をなでたりしている。
恵は2人の会話の意味がよくわかっていないようだが、頭をなでられているうちに機嫌を直したようだ。

「さて、出かけようか?」
「は〜い!」
「は〜い!」

準備万端、ようやく夏祭り会場の神社へ向かう。



「♪♪♪」
「♪♪♪」

光と恵はご機嫌に鼻歌を歌っている。
恵の両手を公二と光が持って歩いている。
恵はときたま2人の手にぶら下がりながら歩いている。

「もうすぐ神社だな」
「そうだね、笛太鼓の音が聞こえてきたね」
「♪♪♪」

神社から笛や太鼓の音が聞こえてきた。
それに浴衣姿の人が段々と多く見かけるようになってきた。

神社までもうすぐだ。
公二がふと恵を見たらちょっとだけ疲れたような顔をしていた。
すぐに恵に話しかける。

「恵、パパの上に乗るかい?」
「うん!」
「ちょっと、あなた大丈夫?」
「大丈夫大丈夫、ほら恵、ここに乗って」
「は〜い」

公二はその場でしゃがみ込む。
恵は公二の右肩にちょこんと座る。
そしてそのまま公二が立ち上がる。
すると恵はびっくりしたような顔をしたかと思うとすぐに満面の笑みを浮かべた。

「うわぁ〜!」
「どうだ?色々見えるだろ?」
「すご〜い!」
「恵、よかったね」
「うん!」

爛々と輝かせる恵の瞳には初めて見る夏祭りの光景がはっきりと写っているのだろう。



そして夏祭り会場の入り口へとやってきた3人。
そこで公二が何かを見つけたようだ。

「光、あそこでうろうろしてるのは赤井さんじゃないか?」
「えっ、どれどれ……あっ、そうだ、ほむらだ」

法被姿で髪型をポニーテイルにしているが、あの背格好と顔は間違いなくほむらだった。
なにやら入り口でうろうろしている。
光が恵にほむらのいる場所を指さして気づかせると大声を上げる。

「お〜い、ほむらぁ〜」
「ほむらおねぇちゃ〜ん!」

すると、ほむらはこっちに気づくと、猛ダッシュで3人の前にやってきた。

「おおっ!待ってたぜ!」
「待ってたって、別に誘ったわけじゃないけど。ほむら、法被姿なんだ」
「おうっ、どうだい?似合ってるか?」

小豆色の法被にはほむらの実家の「赤井果樹園」の文字がかかれていた。
下は白のスパッツが浴衣の柄にとても合っている。

「似合ってるよ。それにほむら、さらししてるんだ」
「なっ……」
「ふ〜ん、さらししてるんだぁ」
「まあ、法被だし、それに……あたしだって女だから……」

光はほむらの胸元にみえたさらしを見逃さなかった。
ほむらの声が小さくなり、顔も真っ赤になっていた。

「おいおい、赤井さんをからかってどうするんだよ。はやく行くぞ、恵もお待ちかねだぞ」
「あっ、ごめん。ほむら、よかったら一緒にいく?」
「も、もちろん!しかし、恵ちゃん、浴衣よく似合ってるなぁ」
「ほら、恵、お礼の言葉は?」
「ありがとうおねえちゃん!」

すでに地面に降ろしている恵の浴衣を褒めるほむらに光が恵にお礼を言うようにせかしていた。



「ほら、恵ちゃん。すげぇだろ?」
「うん、すげぇ」
「そっか。っかあ〜、やっぱ祭りはいいねぇ〜!」
「ほむら〜、だから変な言葉恵に教えないでよぉ〜」

3人にほむらが一緒になって神社前の屋台の列の真ん中を歩いている。
恵はほむらに手をつながれて歩いている。
2人の後ろに恵と公二が手を繋いで歩いている。

初めてのお祭りに恵はとても楽しそう。
すべてが興味があるものらしく顔をキョロキョロ向いている。
恵が思わず走り出しそうになるところをほむらが引っ張って抑えている感じだ。

恵は楽しそうな顔をしているが、それ以上にほむらも楽しそうな。

「赤井さん、祭りが好きそうだもんなぁ」
「おうよ!喧嘩と祭りは三度の飯より……いや、喧嘩はないな……まあ、同じぐらい好きってことだぜ!」
「まあ、祭りが嫌いな人より好きな人と一緒だとこっちまで楽しくなっちゃうよ」
「おう、祭りだったら毎日でもOKだぜ!」
「あははは……」

ほむらの祭り好きぐあいがわかり、公二も光も思わず笑ってしまう。



夏祭りの醍醐味の一つといえば屋台である。
今でこそ屋台は季節を問わずどんなイベントでも出てくるが、昔は屋台といえば夏祭りだけという場所も多いだろう。
屋台といえば食べ物の屋台が多い。
かき氷、焼きとうもろこし、焼きそば、大阪焼き、クレープ、いか焼き、たこ焼き等々……

「なぁ光。赤井さん。どこに連れて行くつもりなんだ?」
「さぁ?」

しかし、ほむらは恵をそこに連れて行こうとしない。

「でもこれだけの屋台に目もくれないのは妙だと思わないか?」
「うん、あの食いしん坊のほむらがどうしたんだろ?」

ほむらに聞こえないように後ろでこんな会話をしているうちに、とある屋台の前に到着する。

「ほれ、恵ちゃん。到着したぜ」
「わ〜い!ねぇ、これな〜に?」
「これはな、『りんご飴』っていうんだ」
「へぇ〜」

到着したのはりんご飴の屋台だった。



屋台の前にかぶりつく恵の後ろで2人はなにやら話し中。
後ろで耳打ちしながら話している。

「赤井さん、なかなか渋い屋台を選んだな、しかし何でだ?」
「そうよね、もっと豪快なの選びそうだけど……あっ!」
「どうした?」
「あの屋台の人の法被見て!」
「あっ!」

よく見ると屋台でりんご飴を売っている男の人の法被に「赤井果樹園」とかかれている。
公二と光はどうしてここに連れて来たのかようやくわかった。
2人は恵のすぐ後ろにつき、すでに屋台の売る側に入ったほむらを見る。

「ほむら、こういうこと?」
「いいじゃねぇか、せっかくだから恵ちゃんに食べてもらいたいと思ってさ」
「赤井さん。毎年出してるの?」
「おうっ、毎年夏祭りに出してるんだ。あたしも手伝いでやってるぞ」

すると、隣でほむらに似た顔。たぶん父親または親戚と思われる男の人がりんご飴を恵に差し出す。

「ほら、お嬢ちゃん。サービスだ!」
「ありがとう!」
「うちの果樹園のりんごで作ったりんご飴はうめぇぞぉ」
「わ〜い」

恵は大きめのりんご飴にかぶりついた。

「恵、おいしい?」
「……おいしい!」
「そうかそうか。いやぁ、恵ちゃんに喜んでもらえてよかったぁ!」

ほむらは右腕で泣いた涙を拭く仕草をしてオーバーに喜ぶ。
光と公二は恵がおいしそうに食べるところを見て思わず笑みがこぼれる。

「なんか、恵を見てたら私も食べたくなっちゃった」
「じゃあ、俺たちも……すみませ〜ん、2つください!」



「恵、おいしいね」
「うん!」
「あははは、よかったな」

神社の境内の前。
ここは祭りの騒ぎから少しだけ離れており、少しだけ人通りも少ない。
3人でゆっくりと食べたかったので、この場所に来て食べている。
すでに3人とも半分ぐらい食べて終えている。

そこにほむらがやってきた。

「おおっ、ここにいたか」
「あっ、赤井さん。お店はいいの?」
「ちょっと落ち着いたから抜けてきた。それよりも恵ちゃん借りていいか?」
「えっ?どうして?」
「ちょっと連れて行きたいところがあってな、いいだろ?」
「まあ、ほむらだからいいけど……」
「そうか!じゃあ、恵ちゃん。お姉ちゃんと一緒にいいかい?」
「うん!」
「じゃあいくぞ。おまえたちも広場に行ってくれ!」

そういうとほむらは恵を引っ張ってお祭りの騒ぎの中に入っていった。

「広場?あそこの駐車場だっけ?」
「そうだよな。なんだろう?じゃあ行ってみるか」

公二と光はほむらの意図がわからずにとりあえずお祭り広場に行くことにする。



「さて、着いたけど……」
「ほむらがいない……」

境内入り口の駐車場に作られたお祭り広場。
お祭りでのイベント会場になっている場所である。

夏祭りの会場入り口でもあるので人通りも多い。

2人は周りを見渡してほむらと恵を捜すがいない。

そこに突然どこからかほむらの声が。




「えいやぁ!」


ドンッ!




ほむらの声と同時に響いた太鼓の音。
2人は音のした方向を探す。

「今、ほむらの声がしなかった?」
「あっ、あそこの矢倉の上!」
「ああっ!恵もいる!」

公二が指さしたのは境内入り口の少し奥にもうけられた和太鼓が置かれた矢倉。
そこにほむらがバチを持っているほむらと、その後ろで目を爛々と輝かせて見ている恵の姿が。

そこではほむらが華麗なバチさばきで力強い音を周りに響かせていた。




ドンドンドコドンドン……

「そりゃそりゃ!」

ドコドンドコドンドコドン……

「でやぁ〜!」




周りの人たちは矢倉のほむらに視線が集まっている。
力強い演奏が興味を集めているのだ。

「すごい……」
「ほむらのこと見直しちゃった……」

呆然と聞き惚れる公二と光。
確かにほむらの太鼓演奏は2人のような素人からみてもうまかった。

ほむらの演奏が終わると、拍手と喝采がどっと沸いたのは言うまでもない。

矢倉の上では恵が目を輝かせながら見つめられ、ほむらが照れながらも自慢げな顔をしていた。



ほむらの視線は拍手をしている公二と光のほうに向いていた。
そんなほむらを離れた場所からじっと見ている人がいた。





「きぃぃぃぃぃぃ!悔しいのだ!あんなの見せられて悔しいのだぁ!」
「メイ様。同じ土俵で勝負できないのはわかっているではありませんか」
「でも、でも、でも……ぐやじいぃぃぃぃ!」
「はぁ……」




夏祭りにやってきたメイと咲之進であった。

祭りにはいろいろな人がやってくるものだ。
To be continued
後書き 兼 言い訳
夏祭り本番です。

今日は母娘の浴衣姿がメインです(こら)
ではなくて、ほむらとのお話ですね。

本編ではデートで行くのでしょうけど、ここではこんな感じにしてみました。
どうでしょうか?

次回は、一番最後にかかれているようにメイとのお話です。
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