第204話目次第206話
「ぐやじいぃぃぃぃ!」
「はぁ……」

ほむらが矢倉から降りてもまだ悔しがっているメイ。
緑の浴衣に赤の帯、普通の浴衣姿のメイの後ろにはタキシード姿の咲之進。

「それよりも、恵さんに会いに行くんでしょ?」
「そうだそうだ。さっき恵ちゃんの顔が見えたのだ、急いで行くのだ!」

メイは咲之進の言葉に慌てて恵がいると思われる場所に歩いていく。

メイの目の前には、恵が光と公二と一緒にいた。
あのほむらはいないらしい。
光と公二が自分たちに気づいたらしく自分たちに向かって手を振っていた。

「あっ、メイさん!」
「メイさん。それに三原さんも一緒で!」
「おおっ、こんばんはなのだ!」
「どうも、いつもお世話になっております」
「メイおねぇちゃん!」
「よしよし、メイと一緒に行くかい?」
「うん!」

足下に寄ってきた恵の頭を軽くなでながらご機嫌な顔のメイ。
それをみて公二は咲之進の横に立ち。

「三原さん。今日はどういう用件で?」
「いえ、メイ様が夏祭りに行きたい、とのことで……」
「もしかして……」
「ご想像の通りです……」

公二が指さした先は恵。
公二と咲之進は思わず見合わせ苦笑してしまった。

太陽の恵み、光の恵

第31部 夏祭り編 その3

Written by B
「♪♪♪」
「♪♪♪」

メイと恵が手を繋いで鼻歌混じりに歩いている。
その後ろに光と公二が手を繋いで歩いている。
公二の横には咲之進が並んで歩いている。


メイは本当に嬉しそうだ。

「ねぇ、メイちゃんって夏祭りは来たことあるの?」
「いいや、ないのだ」
「えっ、じゃあ初めてってこと?」
「そうなのだ」
「へぇ」
「しかし、これが夏祭りか!これまで縁がなかったが、何だかワクワクしてくるのだ!」

メイは周りをキョロキョロと見渡している。
様々な屋台がメイの目にとびこんでくる。

「メイちゃん、浴衣なんだ」
「お祭りに合わせて着てきたのだ」
「他に着ることはあるの?」
「う〜ん、七夕とかで着ることはあるのだ」
「へぇ〜」

こんな会話をしている間もメイは屋台に夢中だ。



そんななか、メイの足が突然止まった。

「ところで、あの小さい魚がいっぱいいるのはなんなのだ?」
「ママ〜、な〜に?」

メイが指さす先は金魚すくいの屋台だった。
恵も一緒になって聞いてきたので光が答える。

「あれは金魚すくいっていうんだよ」
「金魚すくい?あれが金魚か。で、すくうのか?」
「そう。あの薄い紙を張った網で、金魚ををすくうの」

水槽の周りは子供から大人までいろんな人が金魚をすくおうとしているのが見える。
どの人も真剣にすくっている。
メイはそんな人たちをみて首をかしげる。

「あれの、どこが面白いのだ?」

メイは金魚すくいのおもしろさが理解できていないらしい。
そこで公二が提案してみる。

「それだったら、やってみれば?」
「えっ?」
「1回100円だからやってみたら?話の種ぐらいにはなると思うけど」
「なるほど……よかろう。面白いかどうか試してやるのだ」

そういうわけで、メイは生まれて初めて金魚すくいに挑戦することになった。



メイはちっちゃいポイを持ち、じっと金魚の動きを見定めている。
恵はメイの隣でメイの様子をじっと見つめている。
メイの視線の動きをみるからに、一匹に照準を合わせているようだ。
その照準の金魚の動きが泊まった。

すかさずメイがポイを水槽の中に入れ、金魚の下に潜り込ませると持ち上げた。



バシャ!

「うわぁ!破れたのだ!」



しかし、メイのポイは思い切り穴が空き、金魚は逃げてしまった。

「これで終わりだけど、どうする?」
「次なのだ!」

あまりにあっけない終わり方に納得できない様子で、すぐに次を要求した。


しかし、金魚すくいが初めてのメイがそう簡単にできるものではない。



バシャ

「破れたのだ!次なのだ!」



バシャ

「また破れたのだ!次なのだ!」


再挑戦して失敗して、また挑戦して失敗しての繰り返し。
この調子では次第にメイが嫌になるのは当然のこと。



そして、とうとうキレてしまった。

「あんなのは、いんちきなのだ!」
「メイさん。そんなことないって!」
「じゃあ、どうやればできるのだ!」
「そ、それは……」

メイがお店の主人に文句を言いそうになるところを、公二と光が抑えているところだ。
しかし、メイに金魚をすくえと言われても、公二も光もすくえた経験がないので、言葉を濁してしまう。

「メイ様、私がやりましょうか?」

ここで、助け船が背後から入ってきた。

「あっ、三原さん」
「おおっ、咲之進か、できるのか?」
「ええ、昔は結構得意だったのですが、十何年ぶりですので、できるかどうか……」
「大丈夫なのだ!メイに見せるのだ」
「わかりました……」

咲之進が水槽の前にしゃがみ込み、店主からポイをもらうと、じっと水槽をみる。

そして水面ぎりぎりにポイを近づけて、狙いの金魚と一緒に動かす、
そして、すばやく一部だけ水に入れると、ポイの端を使って金魚をすくい上げる。
ポイを受け取ってから約10秒で見事を金魚をすくいあげた。



「「「おおっ!!」」」

パチパチパチ……



この早業に周りの人から歓声と拍手がわき上がった。
咲之進は周りからの拍手に振り向きながら軽く頭を下げている。

これにはメイもとてもご機嫌。

「誉めてやるのだ!」
「……ありがとうございます」
「やはり勝負というものは、勝ってこそ意味があるというものなのだ」
「いや、勝負ってほどのものでは……」

オーバーな喜びように咲之進も戸惑っている様子。
しかし、メイのご機嫌が直って一安心の一行だった。

結局、その後、咲之進は金魚を8匹ほどすくって持ち帰ることになった。
今日からメイの部屋に水槽が一つ増えることになるだろう。



「おねぇちゃん、こっちこっち!」
「えっ?メイをどこに連れていくのか?」

金魚すくいを堪能したところで、それまでメイの様子をじっと見つめていた恵がメイを引っ張って歩き始めた。

「恵ちゃん。どこにいくのか?」
「いいところ!」
「えっ?」
「♪♪♪」

腕をぶんぶんと振ってご機嫌になって歩く恵。
その後ろを公二と光、それに金魚の袋をもった咲之進がついて行く。

「ねぇ、恵がいきたいところって?」
「そもそも、恵はそんなに場所知らないだろ」
「そうだよね。さっきまで恵が行った場所といえば……あっ」
「あっ……」


「……やばくない?」
「……やばいかも……」

恵が知っている数少ない場所。
それを思い出したとき、光と公二の顔が少しだけ青ざめた。



2人の予想はピタリと当たった。

「……なんで、てめぇが来た」
「し、知らないのだ!恵ちゃんが連れてきただけなのだ!」
「本当か?」
「当たり前なのだ!こんなところメイが好きで来るわけないのだ!」

恵が連れてきたのはほむらの実家が出しているりんご飴の屋台。
一番来て欲しくない人が来て不機嫌なほむら。
しかし、一番来て欲しい人が連れてきたのだから追い出すわけにもいかない。

メイもまさかほむらのところに連れて行かれるとは思ってもいなかったようで、かなり驚き焦っている。

「♪♪♪」

そんな2人の心中などまったく知らない恵はりんご飴を指さしている。
意味がわからないメイは恵の両親に尋ねる。

「な、なぁ、恵ちゃんはなにが言いたいのだ?」
「う〜ん、たぶん、メイちゃんにも食べてもらいたいと思ってるんじゃないの?」
「そうだな。かなりお気に入りになったみたいだからな」
「………」

嬉しそうな顔でメイをじっと見つめるメイ。

「……ひとつもらうのだ」
「あっ、すみません。私にもひとつ」
「あいよ!ふたつだね!」

こうなるとメイは食べてみる以外なくなる。
咲之進の分も2つ買うことになった。



もらったりんご飴をじっと見つめるメイ。

「これが本当においしいのか?」
「りんご飴は昔からある定番ですし、それになかなかおいしそうですよ」
「咲之進がそういうから食べてみるのだ」

そういうとおそるおそるりんご飴にかじりつく。
りんご飴を口の中で味わった後、メイが言葉を失う。

「うっ……」
「メイ様。どうなされました?」


「うっ、うっ、うまいのだぁ〜〜!」


「そ、そうですか」
「悔しいのだぁ〜〜、あんな猿の家で作ったやつがこんなにおいしいなんてぇ〜〜!」
「確かにおいしいですが、何も悔しがるほどでは……」

おいしいと認めざるをえないメイは悔しがることしきり。
隣でりんご飴を食べながら慰める咲之進の言葉もあまり入っていない様子だ。

「おい、人のことを猿呼ばわりとは何事だ!」
「ほう、ほむらのことを猿か。なかなかいい表現だな」
「親父!余計な口は挟むな!」

一方のほむらはメイにうまいと言わせたことはいいが猿呼ばわりが気にくわない。
ぎゃふんと言わせるぐらいが理想なのだが、そう簡単にはいかないようだ。


そんな2人の顔を恵はキョロキョロと見ながらニコニコしている。
その後ろで公二と光はおかしくて笑いそうになるのを必死に抑えていた。



「うむ、こっちのほうがとてもうまいのだ!」
「うまいのだ!」
「ううっ、お願いだから変なことば教えないでよぉ〜」
「こら、光。大丈夫だって」

りんご飴を食べ終わった後、近くの屋台で売っていたわたあめを買った。
メイと恵の2人で大きい袋の中から綿飴をつまみとって食べていた。
後ろで公二と光も別に綿飴を買って一緒に食べていた。

「三原さんもどうですか?」
「いえ、お二方で食べてください」

公二が咲之進に綿飴を勧めるが咲之進は遠慮して食べない。
それでも話だけは進む。

「でも、伊集院家では家族とかで祭りには行かないんですか?」
「七夕とか十五夜とかでは家族や従者がそろって楽しんでますが」
「へぇ、風流ですね」
「だから、こういう祭りには昔からあこがれていたようですがきっかけがなかったのです」
「ふ〜ん、じゃあ、今年はよく来ましたね」
「ええ、たぶん恵さんが祭りに来ると思ったからじゃないですか?」
「やっぱりねぇ」



「………」
「あれ?恵ちゃん。どうしたのだ?」

メイが恵の様子がおかしいことに気が付いた。
恵がなにかふらふらしているように見える。

「えっ?メイちゃん、ちょっと見せて」

光がすぐに恵の顔を見てみる。

「あ〜、恵、おねむになっちゃってるみたいだね」
「眠くなってるって事か?」
「あはは、今日はかなりはしゃぎ回ってたからな、疲れちゃったんだろう」
「う〜ん、それならば仕方ないのだ……」
「む〜……」

恵はとうとうその場に座り込んでしまった。
慌てて公二が恵を抱えて立ち上がらせる。
そして光と一緒に公二に恵をおぶらせる。

「どうする?」
「う〜ん、恵がこの調子だからね……帰りますか」
「そうだな。まだ時間があるから、恵を寝かしつけてからまた来るか」
「そうだね。恵には悪いけど、もうちょっと楽しみたいからね」

恵の眠そうな姿をみてメイも咲之進と相談を始める。

「メイ様。我々はどうします?」
「もうすぐ門限だからな……メイも帰るのだ」


公二と光が2人の前に立っている。
公二の背中にはぐっすりと眠った恵がいる。

「じゃあ、すいません。これで失礼します」
「我々もこれで失礼します。恵さんによろしく言ってください」
「よろしく言うのだ……」
「じゃあメイさん、また学校で」
「それじゃあまた明日」
「また明日なのだ……」

公二と光は2人に挨拶すると帰り道を歩き始めた。
後ろではメイと咲之進が見送っている。
メイの表情がすこし寂しそうにも見えた。



家までもうすぐ。
恵は依然として眠っている。

「しかし、恵は楽しめたかな?」
「とっても楽しめたと思うよ」
「でも、たいして数は行けなかったよな」
「まあ初めてだからはしゃぎすぎたんだよ」
「そうだな。今度は花火大会だっけ?そっちはもっと楽しませてあげたいよな」
「だよね。今度はりんご飴以外のものもたくさん食べさせてあげないとね」
「「あははは!」」


「す〜……す〜……」


楽しそうに笑う2人の側で恵は幸せそうな顔をして眠っている。
とてもいい夢を見ているのだろう。
To be continued
後書き 兼 言い訳
メイちゃんのお話ですがいかがでしょうか?
恵ちゃんの体力が限界なのでそんなにあちこち行かせられませんでした。
メイちゃんも祭りの雰囲気は楽しめたのかな?とは思います。

さて、公二と光が恵を寝かしつけている間に他の人たちに焦点を当てます。

いつものごとく、1、2、3、2、GS、2という順番で行こうかと思います。
(ちなみにGSは夏祭りがないのですが当然のごとく無理矢理作ります)
2のところは誰がでるのかわかるでしょ?

というわけで、つぎの舞台はきらめき。
あのお方が夏祭りに大暴れ?します。
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