第206話目次第208話
きらめき神社の夏祭りが始まる2時間前。
空はまだ明るいなか、神社前では屋台のセッティングが行われている最中。
屋台の売り子のバイトをする真帆は一足早く会場に来ていた。

「真帆ちゃん。今日はお願いね」
「え、ええ……」

青のスパッツ、白Tシャツの上に法被というあまり色気のない格好の真帆の前には指導役の舞佳。
舞佳の格好をみて真帆はちょっとだけ引いていた。

「あれ?あたしの格好がどうしたの?」
「舞佳さん……それ怪しすぎませんか?」
「そうかしら?祭りと言ったらこういう格好でしょ?」
「はぁ……」

黒の法被にオレンジの作業ズボン。
法被の下には、胸をかなり強調するようにぐるぐるに巻かれたさらし。
そしてサングラス。
真帆じゃなくても、普通の人がみても怪しい。

「まあいいじゃない。それよりも、今日は歩合給がいいからがんばってね」
「はい……でも、これ売れるんですか?」
「そう?」
「普通は買わないものだから……」
「でも、祭りとなると不思議と売れるものよ」


今日の真帆はお面売りのバイトだ。

太陽の恵み、光の恵

第31部 夏祭り編 その5

Written by B
そして夏祭りが始まった。
早くも浴衣姿の人が集まり始めている。

「いらっしゃい、いらっしゃい!お面だよぉ〜!」

大きなの木板にずらりと7列に並べられたお面、お面、お面。
新旧のさまざまなキャラクターや、動物のかわいらしいお面が並べられている。
それだけで、圧巻であり、夏祭りの雰囲気を漂わせる。

その前で真帆はパンパンと手をたたきながら前を通り過ぎる人に声を掛ける。
しかし、なかなか足を止める人は少ない。
それでも真帆は懸命に声を出す。

「真帆ちゃん。祭りはまだ長いから気合い入れて声を出さなくても大丈夫よ」
「そうなんですか?」
「ちょっと控えめに、一人一人に声を掛けるようにするのがポイントよん」
「なるほど、わかりましたが……」
「なに?」

真帆は隣の舞佳をみてちょっと口を閉ざす。

「今の時代……それ、売れるんですか?」
「意外と売れるのよん♪」

隣で舞佳が売っているのはカラーヒヨコ。
赤、青、緑、ピンク、紫などカラフルな色のヒヨコが大きめの木箱の中でチョコチョコと動いている。
もちろん、単にヒヨコに色を塗っただけのもの。
昔からある屋台の売り物、それも怪しい売り物の筆頭格でもある。

「さっきも1羽売れたわよん」
「………」
「たぶん、カラーニワトリを育てようと思ってるんじゃないかしら?」
(こんなのに騙される人がいるんだ……)

真帆は少し呆れていた。



そのとき真帆の後ろから聞こえてきた黄色い声。

「ねぇねぇ!あれレアものなの!」
「そうなんだ……あっ、あの隣の欲しい!」

しかもとても聞き慣れた声。
真帆はすぐに売り場に戻る。
そしてその声の主に驚く。

「ああっ、メグ!それに見晴ちゃん!」
「あれ?真帆ちゃん、こんばんは……」
「どうも〜、見晴ちゃんで〜す!」

真帆の隣のクラスの美樹原愛と館林見晴だった。
2人はとても仲良しで部活も一緒。
今日は一緒に夏祭りに来たのだろうか。
愛は青色のちょっと地味な浴衣。
見晴は白地に花の模様のある少しかわいらしい浴衣だ。

「今日はここでバイトなんだ」
「そうなんですか、がんばってるんですね」
「へぇ〜、すごいねぇ」
「ところで、どのお面が欲しいの?」
「私は……あの右上のジェ○ソンのお面が欲しいです」
「私はその隣のコアラのお面!」
「えっ……あんなの?」

2人が指定したのは右隅に配列したお面。
愛が欲しいはジェイ○ンのお面。
見晴が欲しいのは目つきが悪すぎる、通称殺人コアラと呼ばれるコアラのお面。
準備の時にどうせ売れないだろうと、真帆が隅に配置したものだった。
だから真帆はびっくり。

「……こんなのが欲しいの?」
「あれ……マニアでも有名なお面で、ずっと探してたんです……」
「欲しいよぉ!ねぇ、あの可愛らしさがわからないの?」
「………」

この2人にはこれ以上聞いても無駄とわかっている真帆は台に乗ってお面をとって渡した。


「……まいどあり〜……」


ちなみに、愛は同じお面を保存用・観賞用・かぶる用と3つも買っていった。

(需要というものはあるもんなんだな……)

嬉しそうにお面を頭に乗せて歩く2人の背中をみて真帆はつくづくそう思った。



「白雪せんぱ〜い!」

すぐに次のお客がやってきた。
次に来たのは3人の女の子。
3人とも浴衣ではなく、普段のお出かけの格好だ。

「あっ、優美ちゃん。そうすると優美ちゃんのお友達?」
「そう、優美と同じクラスのみのりちゃんと鈴音ちゃん」
「こんばんは!」
「こんばんは……」
「こんばんは、私は2Gの白雪真帆。よろしくね」

真帆の友達(好雄)の妹でもある早乙女優美は顔なじみだが、優美の両隣にいる秋穂みのりと美咲鈴音は初対面。
名前だけは友達から聞いている程度だった。

「先輩、優美たちって『1年A組の美女軍団』って呼ばれてるんれすよ」
「こらこら、『美女軍団』って何よ。『プリティー美女軍団』でしょ?」
「あのぉ……そんなの初めて聞いたんだけど……」

「でも、優美たち、彼氏いないんですよ。先輩、どうしてでしょうね?」
「それは、恐れ多くて私たちに寄らないだけよ」
「ただ縁がないだけ……」

(あははは。とても仲良しなんだ)


ボケる優美、つっこんんでいるようでボケるみのり、それを真面目にまとめる鈴音。
3人のなかで役割分担がちゃんとできている。
それをみて、真帆は3人がとても仲良しなのがすぐにわかる。

「ねぇ、みんな。せっかくだから買っていってよ」
「うん!優美、あのウルト○マンのお面が欲しい!」
「優美ったら好きよねぇ。あっ、私はあそこの犬のお面をください」
「私はそこのセーラー○ーンのお面を……」

真帆の言葉に素直に反応した3人。
それぞれがお面を一つずつ買った。



買ったお面をさっそく、頭の上にかぶった3人。
お互いのお面を見たところで優美がまた尋ねる。

「ところで先輩。先輩のおすすめの屋台ってありますか?」
「えっ?」
「先輩だったら、どこか人気のある屋台を知ってるかな?と思ったんですけど」
「う〜ん、そうねぇ……」

いつもなら、自分が回った店からおすすめを教えるのだが、今日の真帆は売る方。
しかし、周りの人混みぐあいはよくわかっている。

「あそこのクレープの屋台があるでしょ?
 奥の方じゃなくて手前のほう。
 あっちに女の子とかカップルがよく集まってるのを見えるからそこに行ってみたら?」

「本当ですか?ありがとう!さっそく行ってみるね!」
「先輩もがんばってください」
「それじゃあ、失礼します」

3人はそれぞれ真帆に挨拶するとさっそくクレープ屋へと向かっていった。
真帆は仲良くおしゃべりをしている3人の背中を見送っていた。

(本当にお祭りを楽しんでるようだね。私もがんばらないと!)


ちなみに、さっき真帆がおすすめの屋台を教えている隣で、舞佳がこっちこっち、とばかりに自分の屋台を勧めさせようと、身振り手振りで注目を引かせていたのだが、真帆は見て見ぬふりをしていたことを書いておく。



それからも真帆のお面屋はそれなりに売れていった。

「おねえちゃん。あれちょうだい!」
「300円だけどある?」
「うん!これ」
「はい、どうぞ」
「わ〜い、ありがとう!」

子供たちがほしがって買っていくのはどこのお店も同じ。
真帆が売り子をやっていることで別の効果もあった。

「Hi!真帆。ここで何やってるの?」
「彩ちゃん。見ればわかるでしょ?お面打ってるのよ」
「Oh!色気がないわね。隣のお姉さんみたいにもっとSexyにしなきゃ!」
「隣って……無理無理!」
「う〜ん、真帆はそのshyなところがもったいないわ。ほら私のカメラが泣いているわ」
「そんなのはいいけど、せっかくだからお面買ってかない?」
「3枚撮らせてくれたら買ってもいいわよ」
「わかったわよ。買ったら好きに撮っていいから」


「真帆ちゃん!今日はお面売ってるのね」
「あら、詩織ちゃん。高見くんは?」
「いま、たこ焼き買いに行ってる」
「ふ〜ん。ねぇねぇ、お願いだからお面買って?」
「いいわよ。そうねぇ……こう、目のところが蝶々のお面はないの?」
「そ、それはここでは売ってない……詩織ちゃんの行きつけの店で買った方が……」
「そうか。残念……じゃあ、そのひょっとこのお面ちょうだい」
「かなりジャンプするのね……まいどあり〜」

学校一の顔の広さで知られる真帆。
すぐに友達が近くを通り過ぎる。
そのときに真帆が呼んでお面を売るのだ。
1つ300円だから気軽に買っていく人が多く、当初の予定以上の売れ行きだった。

(う〜ん、やっぱり友達っていいね♪これで売れたのは……)

真帆はおもわず歩合給を頭の中で計算していた。



祭りも終わりが近づいてくる。

(あれ?なんか屋台のおじさんたちがそわそわしている?)

近くから異様な雰囲気が漂ってきた。

(あれ?あっちからなんかすごい集団がやってきてる……うわぁ、怖っ!)

無彩色系の浴衣を着た、強面で体格のいい男たちが下駄をカタカタ鳴らせながら列の中央を歩いている。
そしてその真ん中には黒に金色の模様が混じったいかにも豪勢な着物を着た女の子がゆったりと歩いている。
その光景に反対側からくる人は誰もが道をどける。

自分の屋台の目の前にその一行が着たとき、その女の子が真帆に声を掛けた。
その子は真帆の友達の古式ゆかりだった。

「あら〜、真帆さんでは、ありませんか〜」
「ゆっ、ゆかり……そ、その着物、すごい豪華ね」
「そうですか?ありがとう〜ございます〜」
「きょ、今日はどんな用事で?」
「今日は、うちの組でも〜、いくつか屋台を出しているので〜、そのお目付役で〜」
「へぇ〜、た、大変だねぇ」
「今朝『ひどい売り上げなら〜、指で損失補填してもらいますから〜』と言っておいたのでみんな真剣でした〜」
「……と、ところでせっかくだから一つ買っていかない?」
「ええ〜、いいですよ〜。あの般若のお面を〜」
「わ、わかったわ……」

怖いお兄さんに囲まれ、真帆はびくびくしながらもお面をゆかりに売ったであった。
ゆかりはそのお面をちゃんと前にかぶったまま歩いていった。

「真帆ちゃん……あんた、すごすぎる……」
「い、いえ、友達でしたので……」

さすがの舞佳も、あの雰囲気で真帆の行動に脱帽だった。



そして祭りも最後のイベント。
舞佳が真帆の隣にやってきた。

「ほら、最後の花火が始まるから、ちょっと見ようか」
「えっ、いいんですか?」
「メインイベントに屋台に夢中な人はいないって」

真帆は舞佳が指さす神社では巨大な大筒花火が設置されており、ちょうど今火がつけられたところ。

「うわぁ!綺麗!」

神社の前の花火は天高く吹き上げられ、白・赤・緑・青と様々な色に変わりながら豪快に神社を照らす。
真帆は思わず感激の声を漏らす。

「でも、なんだろう。去年も同じの見たんだけど、今年はなんかすごく感動してる……」
「やっぱり、屋台でがんばったからよ」
「舞佳さん……」

舞佳が真帆の右肩をぽんと叩く。

「真帆ちゃん、とてもがんばってたから。だから見る花火も違ってくるのよ」
「そうかもしれない……あぁ、綺麗……」
(真帆ちゃん。見とれてるわね……ここは黙って私も花火を見るとしますか)

それからの2人は無言で花火を見つめていた。


こうして今年のきらめき神社の夏祭りは終わった。



しかし、屋台はまだ片づけはある。
屋台自体は翌日に片づけるのだが、商品などの商売道具は今日のうちに片づける。
真帆も売れ残りのお面の段ボール詰めや、お金の精算など最後まで片づけを行った。

「あれ?真帆ちゃんは……」


こちらも仕事を終えた舞佳は真帆の姿を探していた。


「………」

真帆は寂しそうな顔で境内を見つめていた。
舞佳はそっと近づく。

「どうしたの?」
「うん……なんか寂しいなって」
「えっ?」
「祭りの後って、こんなに寂しいなんて初めて知っちゃった……」


もう騒がしい雰囲気は何もない。静かに片づけする音だけが聞こえてくる。
提灯の明かりも消されており、屋台につけられたランプだけが寂しく光る。
普段の日々と変わらない静けさ。

「なんでだろう?今日はとても静かな気がする……」
「………」
「祭りは終わっちゃったんだ……そんな思いが沸々とわいてきて……」
「………」


舞佳は真帆の肩を横からそっと抱く。

「真帆ちゃん。それだけ祭りが燃え上がるものってことなのよ」
「………」
「みんな、祭りで活力をつけて、明日からがんばっていくのよ」
「………」
「真帆ちゃんも活力がついたでしょ?」
「うん……」


「よし!じゃあ、後夜祭とでもいきますか?」
「えっ?」
「ずっとお面売っててお腹空いたでしょ?お姉さんがおごってあげるわよん」
「いいんですか?」
「お姉さんも今日は結構稼いだからね。じゃあ、行きましょ」
「はい!」

真帆はファミレスで舞佳さんにおごってもらった。
ファミレスでの真帆は充実感いっぱいの表情をしていた。


(今日の真帆ちゃん。とっても成長したようね。お姉さんも嬉しいな)


その表情を見て舞佳も充実感でいっぱい。誘って良かったと思っていた。
To be continued
後書き 兼 言い訳
真帆ちゃんテキ屋に挑戦の回でした。

今回は真帆ちゃんのがんばりぶりが中心ですね。

とか言って、見晴ちゃんと、鈴音ちゃんが初登場。
これで1の本編メインはようやく全員登場しました。

次は3。舞台はもえぎの市へ。
とは言っても花桜梨さんも出るんですけどね。
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