第214話目次第216話
「よし!今日は各自、合宿の様子を視察するんだ!」
「いいっスねぇ!」
「いいわけないでしょ!」

生徒会の夏合宿初日の午前。

生徒会は何か大会があるわけでもないので、夏合宿を行う必然性はまったくない。

しかし、夏休み明けから本格的に準備を行う文化祭の計画を立てるという大仕事がある。
また、合宿を行うことで生徒会内の結束を高めるという意義もある。
あとは夏合宿が部活というよりも学校全体の行事になっているのでその監視という意味もある。

そういうわけで、生徒会の夏合宿での活動、というと、このようにほむらが提案したような事になる。
夏海もこれには異論がない。
しかし吹雪は文句ありあり。


「文句あるのか?」
「あるわよ!仕事を先にすませてからでしょ!去年もそうだったじゃないの!」

太陽の恵み、光の恵

第32部 夏合宿ウィーク 前編 その4

Written by B
「あいたた……去年の事は言うなよ……それに溜まっている仕事はないだろ?」


去年はほむらが生徒会の書類整理の仕事を溜め込んでいたため、夏合宿中はそれの処理で合宿の半分が終わってしまっていた。
その半分という時間のさらに半分は、仕事が嫌になって脱走したほむらを捕まえる時間。
そのため、仕事の充実感がなく、ただ疲れただけになってしまっていた。

そういう状況に懲りた吹雪は、今年は用意周到だった。
1学期中、事あるごとにほむらに、


「今年仕事を溜めたら、地下に監禁して処理が終わるまで出さないから」


と写真や絵で説明しながら脅したため、怯えたほむらは夏休み前に処理を終わらせてしまっていた。



「そっちはいいけど、文化祭はどうするのよ!」

その吹雪が気にしているのは今回の唯一の議題である文化祭について。
今年の文化祭は何をするのかをある程度決める、大事な会議。
これが決まらないと夏休み明けてからが大変なことになる。

去年は最後の最後になんとかまとまったという体たらく。
それをおそれている吹雪の発言である。

しかし、ほむらはそんな事を素直に聞く人ではない。

「な〜に、部活に盛り上がる人たちを見れば、アイデアが浮かんでくるだろうぜ」
「すばらしいッスね!」
「………」

ある意味まともなほむらの発言。
それに賛同する夏海。
反論しにくく、困ってしまう吹雪。

「な〜に、午後は暑いから会議室で会議やるから大丈夫だって!」

このほむらの一言で吹雪も諦めた。

「わかったわよ……午後はちゃんと会議をやるからね」
「当たり前だ」
「うわぁ!吹雪は物わかりがいいッス!」

結局ほむらの言い分が100%通ってしまった。



生徒会のメンバーは何人かのグループを作って、それぞれ好きなところに向かっていった。

「で、なんで吹雪はあたしと一緒なんだ?」
「どうしてッスか?」
「あなた達の監視に決まってるでしょ!」

ほむら、吹雪、夏海の幹部3人は一緒になって太陽が照らしつける下を歩いている。

「何言ってるんだよ。あたしが脱走でもすると思ったのか?」
「去年したでしょ!」
「う〜ん……それはあたしはコメントできないッス」
「………」

余計なことを言って自爆してしまったほむらは何も反論できなかった。



そうこう言いながらも3人は一つの建物にたどり着く。

「あれ?ここなんだっけ?」
「コンピュータ棟ね。え〜と、施設のコンピュータの中心が入っているようね」
「あとはパソコン室もあるッス」

吹雪は施設のパンフレットを見ながら建物を確認している。


「ここは電脳部が今活動しているけど……無視していいわね?」
「………」


電脳部部長のメイとほむら、吹雪曰く『文字通り』犬猿の仲であることは学校中に知られている。
そんなほむらをここにつっこませたらトラブル必至。
吹雪が気を遣ったのだが、ほむらは腕を組み、目をつぶってじっくりと考え込む。


「うんにゃ、入って視察だ」
「えっ!ちょっと!」
「あたしも行くッス!」


ほむらは突然建物の中に入っていったので吹雪と夏海はびっくりして後を追った。



吹雪と夏海がほむらに追いつき、電脳部が活動しているパソコン室の前にさしかかったとき、
ほむらは見知った人を見つけた。
その人は部屋の前の長椅子に座り、膝の上にノートパソコンを置き、なにやら打っていた。

「あれ?あんた伊集院の……」
「これはこれは、いつもメイがご迷惑をおかけしております」

ノートを脇に置くとすぐに立ち上がり、深々と礼をするタキシードの男。
メイの従者の咲之進だった。

「ねぇ、この人は?」
「ああ、伊集院の付き人だ」
「初めまして、メイ様の従者をやっております三原咲之進と申します」
「ど、どうも……」
「こんにちは!」

丁寧な言葉に驚く吹雪に対して、まったく気にしてない夏海。

「ところで、なんであんたがここにいるんだ?学校に無関係な部外者はいちゃいけないはずだぞ?」
「たしかにそうだったわね……学校に許可とかもらったの?」

ほむらと吹雪は当然わき上がる疑問をぶつけてみた。

「いや、学校には一応許可はもらったのですが、困ったものです」
「えっ?どういうことッスか?」

咲之進は右手で頭の後ろをかきながら困った顔を見せる。

「いや、実は私はメイ様のお父様に半ば無理矢理に来させられたのです。
 メイ様は『合宿ぐらい1人でできるのだ!』と言って、私がついて行くのを拒否したのです。
 私もそれに賛成です。自立するのはいいことですから。
 
 しかし大旦那様…メイ様のお父様ですね、その人が『心配だからついていけ!』と命令したのです。
 私はこういう身分ですから、逆らうこともできず、かと言ってメイ様の側にいたらメイ様が怒るし。
 仕方なしにここで暇をつぶしているありさまです」

「あんたも大変だな」
「慣れてますから」
「ところで泊まりはどうするんですか?」
「管理人の主人さんから宿泊棟の部屋を用意しましょうか?、と言われましたが断りました。
 私みたいな部外者がいるのは他の方にもご迷惑でしょうから。
 近くのホテルに泊まることにしていますのでご心配なく」



「わかった、あまり騒ぎは起こすなよ」
「ええ、ここの施設はセキュリティがすばらしいので、心配はご無用だと思います」
「わかった、それではこれから中を見学するから」

咲之進にそういうとほむらはパソコン室の扉に手を掛けた。


ガラガラッ


「ようっ!元気にしてるかな?」
「元気ですか〜!」
「ど、どうも……」

三者三様のスタイルでパソコン室に入っていった3人。
電脳部の視線を集めている3人。
吹雪だけはちょっと恥ずかしそうにしている。


「こらっ、貴様何しに来た!」


その3人の前に白衣姿のメイが猛然とダッシュでやってきた。


「なに、てめぇの監視だ」
「監視なんていらないのだ!」
「そうか?高校生にもなって親に心配されてる、おこちゃまのてめぇの監視は必要だろ?」

ほむらはニヤリと笑う。
それを聞いてメイは顔を真っ赤にしてしまう。

「うるさい!メイはいらないと言ったのだ!それをお父様が勝手に咲之進をよこしたのだ!」
「断ればいいだろ?それができないのがおこちゃまだって言うんだ」
「なんだと!」
「抗議したのか?どうせしてないんだろ?」
「………」
「ほらみろ!」

両手を頭の後ろに組んだまま、不機嫌な顔でいうほむら。
それに対して顔を真っ赤にしているが何も言えなくなってしまったほむら。

「もういい!勝手にみて勝手に帰ればいいのだ!」

そういうと3人に背中を向けて、自分の席に戻ってしまった。
部員達も自分たちの仕事に戻っていった。



吹雪と夏海は部員達の仕事、文化祭のための作品作りの様子をじっくりと見ていた。

「電脳部って、今年できたばっかりだから、文化祭の目玉にもなりそうね」
「やっぱりハイテクがあると華やかになるッスね」

2人で話す内容はやっぱり文化祭の中になっている。

ところで先ほど口論になっていたメイとほむらだが、


「『生徒会も合宿に参加しています。変ですよね?』って文章はなんだよ!」
「こんなのメイは聞いたことがないのだ、だから月夜見殿に聞いてみるのだ!」
「それに電脳部のことばっかりじゃないか、生徒会のことも書け!」
「生徒会は何をやってるのだ?」
「……何もやってないが?」
「だったら、書けないのだ!そんなの月夜見殿が見ても混乱するだけなのだ」


なにやら何かメールの内容についての話し合いになっている。
ただ先ほどのような険悪なムードはまったくない。


「吹雪、あの2人は本当に仲が悪いッスか?」
「さぁ?ただ、パソコンの前だと仲が良いのは確かみたいね」


吹雪と夏海は目の前の不思議な光景に考え込んでしまっていた。



その後、3人は演劇部や茶道部など、文化系のクラブに一通り顔を出して午前が終わった。

「うん。有意義な午前だった!」
「同じッス!」
「私もそれには異論はないけど……」

充実した顔で食堂に向かう3人。

「これなら午後はいいアイデアがでそうだな!」
「同じッス!」
「確かにそれは文句ないけど……聞いていいかしら?」
「ん?何だ?」


「何で三原さんが一緒にいるの?」


なぜか3人の後ろに咲之進がついてきていた。
実は、食堂に向かう途中でコンピュータ棟に立ち寄り、咲之進をお昼に誘ったのだ。
誘ったのはほむらと夏海。

「いや、1人で寂しそうだったし。それにあいつのことも色々聞けるし」
「あたしは伊集院家にすごく興味があるッス!」
「まあ、伊集院グループは地元だけど謎な部分多いし、興味もあるけど……」
「じゃあ文句ないな!」
「もう、吹雪も興味ありありじゃないッスか?」
「………」

吹雪は反論する気はなくなっていた。



そして食堂。

「いやぁ、あいつってそんなにガキだったのか」
「いやいや最近は自立心を持つようになってきて嬉しい限りです」

「でも伊集院家って、おもしろい人が多いッスね?」
「そうですか?確かに個性的な人が多くて、働いていて飽きることはありませんが」

「そういえばここの施設も伊集院グループなんですって?」
「ええ、ここの施設は誰でも使って欲しいとの意図があって、グループ名はまったく出してませんが」

3人と咲之進を交えた会話は意外と盛り上がっている。
それぞれがそれぞれに聞きたいことを聞いており、それに咲之進が丁寧に対応している。

ちなみに、ほむらはカツカレー、夏海はカツ丼、吹雪と咲之進は焼魚定食を食べているところ。

「しかし、あいつの意地っ張りはなんとかならねぇのか?」
「う〜ん、確かに素直じゃないところはありますね。これは時間を掛ければ治ると思いますが……」

「ところで咲之進さんはなんであそこで働くことになったんスか?」
「若い頃に大旦那様にお世話になりまして、その縁で働いてます」

「確かきらめきとひびきのって姉妹校でしょ?なんであんなに施設のレベルに違いがあるのかしら?」
「う〜んきらめきのことはよくわかりませんが、最先端器具はすぐにきらめきに投入してますね」
「ひびきのは?」
「最先端の施設というよりも、個性重視の学校方針が影響しているからじゃないですか?」

3人の質問はまったくバラバラだが、いつもの表情で答えている。
他人の質問でも他の2人は興味を持って聞いているので答える方としても気分がよい。
今日のお昼はとても充実した様子だった。



そして午後。

生徒会はほむらの期待通り会議は順調に進んだ。
それぞれが他の部活を見て、テンションが高くなったために、アイデアが次々に出てきているのかもしれない。
ほむらも吹雪も夏海も、1年生からもアイデアが出てくる。
その中で有益なアイデアがたくさん出てきた。


「素晴らしい!これなら予定以上に早く結論が出そうね」
「ああ、明日にでも片づけるぞ!」
「おおっ〜〜〜!」


調子が良すぎて怖いぐらいだが、とにかく嫌なことが早く片づきそうで気分もいい生徒会の面々だった。



(う〜ん、まったく嫌な気分なのだ……)

一方のメイは大不調。

ただでさえ、いらないと言った咲之進を父の命令で来てしまって監視されるのが気にくわない。
それをほむらにズバリ指摘され、気分が悪かったところでのお昼御飯。
咲之進がなぜか生徒会の3人と話していた。

あのほむらに咲之進が何を話していたのか?
メイは気になってしょうがなかった。


(いい加減にメイも1人でやらせて欲しいのだ!もう嫌な視線を浴びるのはごめんなのだ!)


今日は悪いことだらけ。
そのためまったく調子が上がらなかった。
メイが調子を戻すのは翌日になってからだった。



そしてその夜。

「ふぁ〜、今日は気分がいいなぁ〜」

大浴場にほむらがやってきた。
ここの大浴場は午後から夜中まで入れるようになっている。
もうすでにたくさんの人が入っている。
大人数が泊まる施設の浴場とあり、かなり大きい。
普通の風呂の他、ジャグジー風呂、水風呂の他にサウナなどもある。
さすがに露天風呂とか温泉とかはなく、外の景色を見られるようなガラス張りでもない、
ただ壁には昔ながらの富士山が大きく描かれており、気分は落ち着く。

「さて、先に体を洗って、ゆっくりとジャグジーに浸かるかな……」

そういうとほむらは、浴槽とは反対側の壁にある洗い場のほうに向かい、中央あたりの椅子に座った。
ちょうど左に人がいたのでちらりと顔を見る。
向こうも人の気配を感じてこちらを見る。

「あっ……」
「あっ……」

ほむらの座った椅子の隣ではメイが頭を洗っていた。


ほむらは不機嫌そうな顔になる。

「なんだ、てめぇなら『一緒にお風呂なんて恥ずかしい!』って言うかとおもったぜ」
「馬鹿を言うでない!メイだって大浴場には入るのだ」
「ほぅ」
「見られて恥ずかしいことなんてないのだ」


「へぇ、見せるものもないくせに」


「うるさい!貴様だってないではないか!」
「うっ……あ、あたしはこれから大きくなるんだ!」
「メイだって!」
「………」
「………」

少し自爆してしまったほむら、口を濁してしまい声も小さくなる。
メイも同じ思いなのかそこで突っ込めない。



気まずくなったほむらは、洗う準備に入る。

「もういい。あたしは髪を洗う」
「へぇ、貴様も髪を洗うのか?」
「は?」
「貴様なんか面倒くさがりだから、水で流して終わりかとおもったのだ」
「馬鹿言うな!髪は女の命だ!」

メイが嫌みっぽく言って、ほむらがそれに顔を真っ赤にして怒る。
さっきとは逆のパターンだ。

「貴様はどうしてるんだ!」
「メイはちゃんと高級シャンプーで洗ってるのだ」
「ほう、金持ちは高いだけのもので選んでるのか」
「馬鹿者!ちゃんといいものを使ってるのだ、貴様はどうなんだ!」
「あたしは、てめぇよりもちゃんとしたものを使ってるつもりだが」
「……もういい、これ以上言っても無駄なのだ。メイも髪を洗うのだ」
「……勝手にしろ」

そういうと、2人とも足下に置いていたシャンプーを手前に置いた。
お互いに相手の持っているシャンプーを見る。


「あっ……」
「あっ……」



2人とも硬直。
そりゃそうだ。
2人ともまったく同じ高級シャンプーを使っていたのだから。


「………」
「………」


2人とも文句をいう気力がなくなってしまった。



今日の最後に2人が得た教訓は「こいつとは一緒に風呂に入らない!」ということだった。
To be continued
後書き 兼 言い訳
メイとほむらのくだらない争いについて書いてみました。
この2人の争いを全然書いていなかったので、いい機会、ということで書いてみました。


さて次は男の浪漫なんかを。
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