グラウンドでの騒動が無事解決した夜。
♪!♪!♪!♪!♪!♪!♪!♪!
管理人室に突然の電話。光と恵はお風呂の時間。そのため留守番の公二が電話をとる。
「はい、もしもし。こちら管理人室」
「あっ、生徒会の橘ですけど。お聞きしてよろしいかしら?」
「なんですか?」
「管理人室に放送設備ってあるの?」
「宿泊棟の建物だけのマイクはあるけど……」
「お借りしてよろしい?」
「こんな夜中に?理由さえ良ければ貸しますけど……」
ガチャ
「じゃあ、説明させてもらうわ」
「そこにいて電話するんだったら入ったほうが早いだろ!」
太陽の恵み、光の恵
第33部 夏合宿ウィーク 後編 その6
第225話〜深夜捜索〜
Written by B
いきなり入って来たのは生徒会風紀委員長の橘吹雪。ジャージ姿の吹雪は管理人室に入ると公二の前に正座する。
「こんな夜中に放送なんて、なにか緊急ごと?」
「いや、緊急ってほどじゃないけど、こうでもしないとねぇ……」
「何があったの?」
「馬鹿会長がいなくなったのよ」
「会長?ああ、赤井さん……どうして?」
「これから、建物の中の見回りをしようと思ったら、いなくなってたのよ。友達のところを探してもいないし、会長は携帯なんてものは持ってないし……手がかりなしなのよ……」
「……そういう仕事って会長がいかなくちゃいけないものなの?」
「当たり前でしょ!生徒会長なんですから!学校の規律は生徒会が主体となって守らせなければいけないのよ!」
「やっぱりねぇ……」
「それに……悔しいけど、私の言うことは聞かなくても、会長の言うことなら聞く、って言う人が結構いるのよ……そういう意味でもやっぱりね……」
「なるほど……じゃあ、マイクはあそこにあるから。左のボタンがチャイム。右のボタンを押しながら話すと、建物内に放送がながれるから」
「ごめんなさいね……じゃあ、お借りします」
そういうと吹雪は立ち上がり、扉の隣の台の上に置いてある小さなマイクの前に立つ。
キーンコーンカーンコーン
「ええ……生徒会風紀委員の橘です。皆様にお知らせがあります。ただいま、我が校の生徒会長が逃げ隠れております。そこで生徒の皆様に捜索の協力をお願いしたいと思います」
「ただとは言いません!会長を生け捕りにした方の部活には、その場で部費として1万円進呈します!ぜひご協力を!」
キーンコーンカーンコーン
「ありがとうございました……それでは行ってきます……」
吹雪は丁寧にお辞儀すると、そのまま管理人室から出て行ってしまった。
公二の耳には、今の放送で宿泊棟全体が大騒ぎしだしたのが聞こえだしてきた。
「ねぇねぇ!ほむら捕まえると1万円なんだって?!」
光がそういいながら、恵と一緒に管理人室に戻ってきたのは、その直後だった。
「吹雪、会長なんて放ってもよかったんじゃないっすか?」
「いいわけないでしょ!事前に仕事だって言ってあるのに、逃げ出すんだから!」
「わざわざ探さなくたって……」
「しゃくじゃない!こっちは仕事してるのに、会長は遊んでるなんて!」
「………」
吹雪は自分の部屋で格闘技番組を見ていた夏海を連れ出し、ほむら探しに出かけていた。夏海はブルーのTシャツにジーンズの半ズボンというかなりラフな格好。一方の吹雪は相変わらずジャージ姿。
2人は宿泊棟から外に出て、建物の周りを歩きながらほむらを探している。
「それにしても、今日は涼しくて気持ちいいっすね」
「ほんと、天気続きでいい合宿日よりなのよね」
「しかし、会長はどこに……あれ?あれは師匠だ……なにしてるっすかねぇ?」
「さぁ?ん?猫と一緒みたい」
建物近くの水飲み場を通り過ぎるところで、夏海は花桜梨を見つけた。どうやら、花桜梨は猫と一緒らしい。花桜梨は足下の猫に向かって話しかけているようだ。
「どうしたの?迷子になっちゃったのかな?」
花桜梨は猫を抱きかかえる。すると猫が花桜梨にじゃれついてくる。
「きゃっ、くすぐったい……もう、かわいいんだから」
しばらくじゃれついていた猫だが、急に花桜梨から離れて、地面に降りてしまう。
「きゃっ!あっ……行っちゃった……大丈夫かな……あの子……」
花桜梨はしばらく走り去っていく猫を見送っていた。その猫の姿が見えなくなると、花桜梨もその場から立ち去ってしまった。
そして、その様子をじっと見ていた、吹雪と夏海。
「八重さんって、猫好きなの?」
「そうっすよ。師匠は本当に猫が好きなんですよ。なんでそこまで好きなのかはわからないっすけど」
「ふ〜ん、そうなんだ……」
「師匠は猫は、好きなんですけどね……」
2人はそう話しながら、再びほむら探しのために歩き始めた。
「なぁ、俺たちがこんなところにいていいのか?」
「いいの?」
「イイノ!」
そのころ、公二は光と恵と一緒にほむら探しに出かけていた。公二は乗り気でなかったが、光にとっては1万円は家計のためにどうしても欲しいみたいで、かなり乗り気だ。
3人は、宿泊棟から少し離れた購買施設、今は自動販売機のみ、とはいっても十何台もあるが、それが稼働している建物に入っている。そこで、2人は缶コーヒーを買っているところ、恵には乳酸飲料を買ってあげて今はごくごくと飲んでいる。公二も光もジャージに着替えているが、恵はピンクのパジャマのまま連れ出している。
「ところで、赤井さんはこの建物にいるのか?」
「たぶんね、どうせほむらはさぼって逃げてるだけだから、おなか空くと思うんだ。ここなら食べ物の自販機もあるし来る可能性は高いと思うよ」
「こっそりと、自室に戻ってる可能性は?」
「橘さんが諦めるまで戻らないと思うよ。ほむらの性格ならね」
「ふ〜ん」
♭♪♯♪♯♭♭♪♪♯♪♭♪♪♯♭
「あれ?管理人室からだ」
公二は突然鳴った携帯電話を見る。管理人室に部屋に誰もいないときに備えて、自分の携帯電話に転送できるようにしている。公二は携帯電話を取る。電話の相手は女の子のようだ。
「もしもし、管理人室ですが」
『あっ、すいません……ば、ばけものが!ドリルが現れました!』
「ドリル?ドリルと言ってもいろいろあるよ。ドリルキックとかツンデレドリルとかミスタードリラーとか。どういうこと?」
『え〜とですねぇ……ドリルを持った化け物が購買施設に現れたんです!』
「……で、その化け物はどうしたわけ?」
『こちらを睨んだんです!そして「ファーー!!」とかなんとか叫んで。私、怖くてすぐに逃げてしまったんですが……』
「わかった。偶然近くにいるんだ。調べてみるよ」
『お願いします!』
電話はそれで切れた。光は恵と一緒に電話をしている公二の顔をじっとみていたが、電話が終わったときに光が聞いてみる。
「だれ?」
「わからん。この近くでドリルオバケを見たとかで、電話が来た」
「ドリル?……ほむらのこと?」
「なんで、ドリルで赤井さんが出てくるんだ?」
「だって、ほむらってドリル大好きだから」
「なんだそりゃ?」
「あなたも見たことあるよ。生徒会室には手に差すドリルが置いてあったの。アニメでもドリルロボが大好きみたいだから」
「ああ、そういえばそうだったな……赤井さんが紹介してくれるアニメは必ずドリルが出てたよな」
「だから、ここら辺にほむらがいるんだよ!つかまえないとね♪」
光は公二の予想以上にニコニコ笑顔。よほど自信があるのか、わくわくしているのかわからないが、公二には根拠がわからない。
「でも、どうするんだよ?話を聞いてみると、かなり気が立っているらしいぞ」
「わかってるよ。だから、恵を連れてきたんだよ」
「はぁ?」
「あとは、たしか、ここの倉庫にいいものがあったんだよねぇ〜」
「いいもの?」
「うん、これから準備してくる!恵、ママと一緒に行こうね」
「は〜い!」
光は夜だけど元気のいい恵を連れて、購買施設の倉庫のところに行ってしまった。公二はその場で一人ぼっちで待つことになる。
「大丈夫かなぁ?」
公二はいまだに不安そうだ。
それからしばらくした後のこと。
「ふぁ〜あ、そろそろ吹雪も諦めたころかな?いい加減、逃げるのも退屈になってきたぜ、まったく」
ほむらが、建物の外をぶらぶらと歩いている。左手には大きなドリルがついている。
「しかし、このドリルはいいなぁ。これ見せて騒げば、みんな逃げちまう。そもそも、かっこいいドリルだよなぁ……」
どうやら、吹雪の言うとおり、ほむらは彼女から逃げていたようだ。しかも、いつの間にか逃げること自体が目的になってしまっているようだ。賞金目当ての捜索隊も近くまで来ていたのだが、ドリルで脅して追い返してしまっていた。最初は、それが楽しかったようだが、もう飽きているようだ。
「もうつかれたから、部屋に帰ろうっと。部屋に戻って鍵を掛けちまえばこっちのものだ……その前にジュースでも買っとこ」
今は、宿泊棟の近くの購買施設。そこの自販機目当てで建物の中に入る。そこに、ほむらは見知った顔を見つける。
「あれ?恵ちゃんじゃないか!一人でなにやってるんだ?」
自販機の隣のソファーで恵が一人でジュースを飲んでいた。まだ自分には気づいていないようで、ジュースに視線が集中しているように見える。ほむらは恵を見つけたうれしさと同時に、こんなところに一人でほおって置かれていることに不満を覚えていた。
「なんだよ……恵ちゃん一人か……親は何をやってるんだ?……お〜い!」
「あっ、ほむらおねぇ〜ちゃ〜ん!こっちこっち!」
恵もほむらに気づいたようで、こっちに手招きしている。恵はとっても笑顔だ。それを見たほむらも思わず笑顔になってしまう。
「おおっ!すぐに行くから待ってなよ!……ん?」
と言って、2、3歩歩いたとたん、なにか上がごそごそしている。ほむらが上を向いた瞬間、真上から何かが振ってきた。
「うわぁ!」
どすん!
「な、な、なんだこりゃ!……うわぁ!!」
気がついた時には、ほむらは大きなかごの中に閉じこめられていた。竹で組まれた大きなかごでほむらを閉じこめてもまだ余裕があるぐらい大きい。
ほむらがそのかごを持ち上げようにもたくさんのおもりに粘着質のものがついているらしく、なかなか持ち上がらない。
「あははは!」
「恵ちゃん!笑ってないでなんとかしてくれよ」
ほむらはいつの間にかかごの前で笑っている恵に助けを求めるが、聞いてくれるわけもなく、恵はただ笑っている。そんな恵の後ろにはいつの間にか光と公二が立っていた。
「わ〜い、つ〜かま〜えた!」
「ひ、陽ノ下!おまえ、なんでそこにいるんだよ。それよりもこれなんとかしろよ!」
「やだ。ほむら捕まえて一万円もらうんだから♪」
「なんだって?」
「橘さんから頼まれたの。ほむら生け捕りにしたら1万円なんだって」
「お、おい!吹雪のところに連れて行くつもりか!やめろ!はなせ!」
「や〜だよぉ〜♪1万円♪1万円♪」
「いちまんえん♪いちまんえん♪」
「………」
光の上機嫌な歌声につられて一緒に恵まで一緒に歌い出す。恵にまで歌われてしまっては、ほむらももう抵抗しなくなってしまう。
「いやぁ、ほむらだったら、絶対恵を見つけたら駆け寄ってくると思ったんだぁ。どうせジュース買いにここに来るはずだから、そこで待っていたら来たんだよ。そこで上で待機していて、倉庫にあった大きなかごをドスンと落とせば生け捕り成功♪う〜ん、私って頭いいなぁ……」
「………」
上機嫌の光の後ろで公二は両手を合わせ、何度も頭をさげて謝っていた。しかし、ほむらはがっくりと膝をつき、頭を下げていたので、それを見ることはなかった。
こうして、ほむらは光によって生け捕りにされ、無事?吹雪のところに連行された。そして光は念願の1万円を獲得することに成功した。
ほむらにとっては結局逃げ切れず、吹雪に説教された上に、それから見回りを夜遅くまでさせられてしまうという最悪の夜になってしまったそうだ。
To be continued
後書き 兼 言い訳
夏合宿の恒例行事の一つ?、ドリルほむらですね。
1年に1回の行事?で、逃げられるか捕まるかのどれかですね。
えっ?もう一つある?……それはいろいろ考えているから聞くな!
そういうわけで、合宿編は次が最後。
おわかりだと思いますが、あれです。