第227話目次第229話
朝7時。


「ふぁ〜あ、昨日は舞佳さんの話で盛り上がっちゃったからなぁ……」


少しだけ寝ぼけ眼の真帆は目を覚ませるために、民宿の外に出た。
すると、若い親子3人の姿が自分に向かって歩いてきており、その姿は段々と大きくなる。


「あれ?光さん。どうしたの?」

「真帆ちゃん!あれ?バイトなの?」

「そうなんだけど……どうしてここに?」

「1泊して海を楽しもうかと思って。それにほら、ちょっと朝が終わるとすぐに混むから、早めに海に行く予定なの」


光の足下にはニコニコ笑顔で大きな麦わら帽をかぶった恵の姿があった。

太陽の恵み、光の恵

第34部 真帆の浜茶屋奮闘記編 その2

Written by B
「あら?主人くんに奥さん!あらあら娘さんも一緒なのね」


民宿の前が騒がしくなったところで、舞佳も玄関から外にやってきた。そして公二達3人の姿を見つける。


「あっ、舞佳さんじゃないですか。お久しぶりです」

「こんにちは、いつも公二がお世話になってます」

「こんにちは!」


公二と光が丁寧に舞佳に頭を下げる。それをみた真帆が驚きながらも舞佳に小声で尋ねる。


「ねぇ、知ってるの?」

「知ってるもなにも、何年も前からバイトで知り合ってるのよ」

「へぇ〜」


それ以上は真帆は聞くつもりはなく、その場で座り込み、自分たちをじっと見つめている恵に話しかける。


「恵ちゃんは海ははじめて?」

「うん!」

「じゃあ、今日はとっても楽しみじゃない?」

「うみ♪うみ♪うみ♪うみ♪」

「じゃあ、お昼になったらお姉さんのお店にくるんだよ?」

「は〜い!」


恵は相変わらずの笑顔で、それを見た真帆もいい笑顔になっていた。
公二達は民宿に入り海に出かける準備に入る。真帆達も仕事の準備と朝ご飯のために民宿に戻った。






朝9時半ごろ。


「さてと、これでOKかな」


民宿で家から持ってきたおにぎりを朝ご飯でいただいた後、公二はすぐに水着に着替え、浜辺に先に来ていた。見晴らしがいい場所を選び、シートを敷き、この日のために買った大きなビーチパラソルを地面に差し、光と恵が来るのを待つ。


「結局、どんな水着か全然教えてくれなかったからな……どんなのだろう?想像つかないけど……」


黒地にジグザク模様の濃赤の線が入ったトランクス型の水着の公二の体は筋肉質で、夏休み中のバイトのせいなのか日焼けしている。女子大生とかがいれば、逆ナンでもされそうな感じだが、今の海にはそんな人たちはいない。


「おまたせ!」

「おまたせぇ〜!」


そうしていると、光と恵がお揃いの青の薄いウインドブレーカーを着てきた。水着姿で来るかと思っていた公二はちょっと拍子抜け。


「光、上来てきたのか?」

「だってぇ、一番最初にあなたに見て欲しかったからさぁ〜」

「そういうことか……なるほどね。じゃあ、まずは恵のを見るか」

「そうね。恵、ちょっと暑そうだから」


公二と光が一緒になって、恵のウインドブレーカーを脱がす。すると、水色に可愛くカラフルなお魚のイラストが描かれたワンピースの水着姿の恵が現れた。それをみて公二はちょっとだけ見とれる。


「へぇ〜、小さい子供に水色って似合わないような気がしたんだけど、似合うもんなんだな……」

「恵らしくていい色でしょ?」

「そうだな。光、なかなかセンスいいぞ」

「えへへへ。ありがと」


公二は光の頭をなでなでする。2人とも恵を見ながら話をしており、じっと見つめられている恵もちょっとうれしそうな顔をしている。






「あなた、次は私も見て」

「わかったよ。ずっと楽しみにしてたんだから」

「じゃあ、あなたが脱がせてほしいな……」


公二は返事をするかわりに、光の前に立ち、ウインドブレーカーの前のチャックをゆっくりと下におろす。チャックを外すと、肩からゆっくりとウインドブレーカーを脱がしていく。ウインドブレーカーが砂浜に落ち、光の水着姿があらわになる。


「どうかなぁ?……がんばってみたんだけど……」


光は恥ずかしそうに顔を赤くし、からだをもじもじさせている。


「………」


公二は予想外な水着姿に閉口。それは当然だろう。光は白のマイクロビキニだったからだ。
普通のビキニよりも明らかに布地の部分が小さい。上も下も最小限の大きさしかなく、他はほとんど紐。後ろもTバックよりも隠しているところが小さい。
光のあまりに大胆な水着に半分驚き半分興奮しているが、それでも冷静に、こういうときに光が一番言って欲しい言葉を耳元でささやく。


「素敵だよ。とってもセクシーで似合ってるよ」

「ほんとう?」

「ああ、もうドキドキしてるよ」

「よかったぁ……笑われたらどうしようかと……」

「光は何着ても似合うよ」

「ありがと♪」


チュッ!


光は素早く公二の頬にキスをした。






「うみだ、うみだぁ〜♪」

「こらこら、恵。走りすぎだよ」

「でも、うれしそうな顔だね」


恵に麦わら帽をかぶせると、恵はトコトコと海へと走りだす。その後ろを腕を組みながらゆっくりと歩く公二と光。特に光はなにかうれしそうだ。


「でも、いいよねぇ、夏!海!太陽!もう最高!」

「そうだな、それに本当にいい天気でよかったな」

「だよね。本当、もう泳ぎたくなっちゃう!」

「おいおい。その水着で泳ぐのか?」

「あっ……これはちょっとやばいかな?」

「やばすぎ……でも泳がなくても遊べるだろ?」

「そうだね!せっかく海に来たんだからたくさん遊ばなくちゃ!」

「そうそう。恵と一緒にね」

「うん!あっ、恵!そんなに走り過ぎちゃだめ!


カップルのような、夫婦のような、父母のような、そんな2人の会話が続く。






若いがいい男といい女のカップル。しかも、女のほうはルックス・スタイル共に良く、さらに超セクシー水着とくれば周りから注目されるのは当然。本人達はまったく気づいていないが、周りから注目されいる。見とれすぎて彼女に怒られるカップルもいるが、中にはこんなカップルもいる。


「あ〜あ、私もあんなエロ水着がよかったなぁ」

「詩織、人を指差してエロ水着っていうな」

「だって、どう見てもエロ水着じゃない?公人もあんな水着着て欲しかったでしょ?」

「あのなぁ、男として見てみたいのもあるけど、ああいう姿を他人に見せたくない、っていう、まあなんというか、独占欲っていうのもあるんだよ」

「そうなの?私は公人が喜んでくれるなら、どんな水着でもOKよ?」

「なぁ、その俺の選んだ水着では不満なのか?」

「とんでもない!とっても素敵で気に入っちゃった♪」

「詩織はこのぐらいが一番似合うんだよ」

「ありがと♪公人が言うからそうなんだよね♪」


こんな会話をしている女の水着は黒のワンピースなのだが、胸の谷間はもちろんおへそがはっきりと見えるぐらい中央に切れ込みが入っており、横はほぼ丸見え状態。V字水着とか紐水着とまではいかないが、露出はかなり多く、それに近いと言えば近い。
ちなみに男の水着は黒のビキニパンツ。もちろん選んだのは彼女のほうだ。


「万が一に備えて、私も水着持って来たけど必要なかったみたいね」

「……それ、どんなのだ?まさかスケスケとか紐とかじゃないだろうな?」

「そんなのじゃないわ!ちゃんとしてるわ。どこかのゲームで女の子が着ている水着よ」

「そうか、ゲームで出ているならそれほどでも……ん?」

「どうしたの?」

「ちょっとまて……詩織、そのゲームってどういうゲームだ?」

「え〜とねぇ……プルプルピチピチの女性達が無人島でバレーボールしてるの」

「そのゲームの水着はまずいって!どうせ一番布地が小さいのだろ?」

「もちろん♪」

「……そういう水着はベッドの上だけにしろ」

「うん♪今晩、その水着着たら、たっぷりいじめてね♪」

「ああ、『こんなエロ水着を着たがる詩織をお仕置きしてやる』と言って、徹底的にいじめてやるからな」

「わぁお!楽しみ♪楽しみ♪」

「夜のことはもうこのぐらいにして、今は海で遊ぶぞ」

「は〜い」


この会話は2人だけにしか聞こえていない。端から見ていればちょっと大人びたお似合いのカップルにしか見えていない。






「わ〜いわ〜いうみうみ!」

「こら!恵!走りすぎだって!」


さて、恵は体よりも大きい感じもする麦わら帽をかぶったまま、海岸沿いをテクテクと走り回っている。その後ろを光が追いかけているが、恵は聞く耳を持たないようで走り回っている。距離も結構開いている。


「あっ、恵。こっちにもどりなさい!」

「???」


光が大きな波が海岸に近づくのに気づき、恵に戻るように言うが、恵はなにがなんだかわからない。そうしているうちに、波が海岸沿いに到達する。


ザッブ〜ン!


「………」


大きな波は海岸沿いに立っていた恵は波を頭からかぶってしまった。なにが起こったかわからず、ずぶぬれのままの恵。すぐに、海の塩辛さが恵を襲う。


「うわぁ〜〜〜〜ん!」

「ほらほら、泣かない泣かない」

「からいよぉ〜!うわぁ〜ん!」

「そんなに走るからだよ、もっと砂のところにいないと」


光が恵を抱きかかえ。泣いている恵をあやす。しかし恵はなかなか泣きやまない。


「あはははは!」


公二が恵の麦わら帽を持って来た。波をかぶったときに流された麦わら帽を公二が拾っていたのだ。その公二が大笑い。光は当然怒る。


「ちょっと!恵が泣いてるのに笑うことないじゃない!」

「あははは……いや、恵を笑ってるわけじゃなくてさ……なんか昔を思い出してさ」

「むかし?」

「ああ、今の恵……昔の光そのまんまだよ」

「えっ?」

「俺と光の家族で初めて海に行ったとき、光がはしゃぎまくって波が来るのに気づかなくて、結局、恵みたいに波を頭からかぶって、大泣きしてたんだよ。恵を見て完全に思い出したよ」

「え゛」

「それから、光はずっと大泣きで俺の腕にしがみついたまま離れなくてさ……あははは!本当に恵は光に似てるなぁ!」

「………」


光は恥ずかしくて顔を真っ赤にするしかなかった。






恵もようやく泣きやんだようだ。光は抱きかかえていた恵を砂浜におろす。


「恵、じゃあ、あそこのパラソルまで戻ろうね」

「は〜い!」

「こら、また走っちゃ!」

「本当に恵は走るのが好きだな。光に似すぎだよ」


またも恵は自分たちのパラソルに向かってテクテクと走り始めた。公二と光は苦笑いしながらも、後ろから見守りながら歩いている。


「なつ!うみ!たいよう!わぁ〜い!」


上機嫌で砂浜を走る恵。しかし、初めての砂浜で足下がおぼつかない。そして恵はバランスを崩してしまう。


どさっ!


「………」


恵は砂浜に頭からつっこみ、起きあがると顔が砂だらけになっている。


「うわぁ〜〜〜ん!」

「ほらほら、恵、大丈夫かい?」

「うわぁ〜ん!いたいよぉ!」

「パパがはらってあげるから泣かないの」

「ぐすん……」


今度は公二が恵を抱きかかえ、顔についた砂を優しく手で払う。こんどはすぐに泣きやんだみたいだ。


「くくっ……くくっ……」


今度は光が笑いをこらえている。今度は公二が怒る。


「なんだよ。恵が痛がって泣いてるのに!」

「だってぇ……今の恵、昔のあなたそんまんまだから」

「えっ?」

「さっきあなたが言ってた海のときだよ!あのあと、公二がおかんに呼ばれて走ったときに思いっきり走って、思いっきりずっこけて、思いっきり砂まみれになったの思い出したの!」

「え゛」

「それからなかなか砂が払えなくて大変でさぁ……恵もあなたに似てるわよ、とっても」

「………」


今度は公二が顔を赤くして黙っているしかなかった。
そんな2人を恵はきょとんとした顔でじっと見つめていた。

3人の海はまだまだ続く。
To be continued
後書き 兼 言い訳
主役親子が登場です。

途中暴走カップルがいましたが(笑)、ほとんどが親子の楽しい海の様子を書いてみました。

恵ちゃんにとっては初めての海ですので、いろいろハプニングがあるかと、そんなところも書いてみました。

親子の話は次も続きます。
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