はばたき海岸は外からの行楽客だけではなく、地元の人も多く足を運んでいる。知った人とたくさんであってしまうという欠点もあるが、気軽にいけるという利点にはかなわない。
そういうわけで、はばたき海岸に現地集合となったはばたき学園の女の子が集まっているが、どうも様子がおかしい。
幹事の輝美が来ていないのだ。彼女に誘われた瑞希、志穂、珠美が奈津実の言葉に耳を疑う。
「奈津実、本当なの?東雲さんがドタキャンって」
「本当だよ。何ども聞いたけどダメみたい」
「私たちを海に誘ったのは輝ちゃんだよ?」
「そうなんだけど、変なのよ?電話で輝ちゃんがおかしなことを言ってて」
「なに?」
「『なんでかわからないけど、ハワイに拉致されるぅ!』だって。かなり混乱しているみたい」
「「「はぁ??」」」
奈津実の言うことに、他の3人が変な声を挙げるのは当然だろう。
太陽の恵み、光の恵
第34部 真帆の浜茶屋奮闘記編 その6
第232話〜友人海岸〜
Written by B
「藤井さん。もう少しまともな冗談を言ってくださる?それでミズキに納得しろとでもいうのかしら?」
「あのな、輝ちゃんが嘘つくと思う?それに受話器の向こうからアナウンスの声が聞こえてたけど、輝ちゃんが空港だというのは間違いないとおもうよ」
「でもハワイに拉致って何?普通は北朝鮮よ」
「有沢さん。そんな真面目なことを考えても……あれ?」
「どうしたの、珠美?」
「そういえば前に輝ちゃんから聞いてたんだけど……確か今、葉月くんがハワイにいるみたい。それで自分は1人で寂しいから私たちを海に誘ったって」
「葉月?何で?」
「写真集の撮影とかって聞いてるよ?……あの、もしかして輝ちゃん……」
「「「「………」」」」
4人の頭の中には、顔や頭や運動神経やスタイルはいいけど、いつも眠そうな顔をしているあの男の顔が浮かんでいる。
「ま、まぁ、今更来ない人の事を考えてもしょうがないじゃない!せっかく集まったんだから4人で楽しもう?輝ちゃんには後できっちりと穴埋めしてもらうことにしてさ!」
こうして、奈津実主導で5人ではなく4人で海を楽しむことにした。
さっそく水着に着替えて海に出た4人。見晴らしのいい場所を選び、持参したビニールシートとレンタルのビーチパラソル2つを配置してスペースを確保した。
そこからは、パラソルの下でみんな新しい水着の鑑賞会となった。注目されたは奈津実の水着、虹の7色のストライプが映えてる三角ビキニである。
「うわぁ、奈津実ちゃん似合ってるね」
「そう?ありがと♪」
「ううっ……それはミズキが狙ってたのにぃ……」
「迷ってるから、先にいただいちゃった♪それにミズキちゃんにこの水着だとここらへんがねぇ〜」
「く、くやしいですわ!」
奈津実は大きな胸を両手で下から持ち上げてみせる。瑞希もそれなりの大きさはあるのだが奈津実にはかなわない。
「でも、須藤さんの水着も可愛くて上品で、そっちのほうが似合ってるとおもうけどな」
「Merci.そういっていただけるとうれしいわ。珠美のもかわいいわよ。自慢げに水着を見せるだれかとは大違いだわ」
「ありがとう」
「こら、なにか言ったか?」
「ミズキは何も言ってませんわ」
瑞希はピンクの花柄が綺麗なビキニ、珠美はライトグリーンのタンキニとショートパンツのセット。それぞれに新しい水着である。そんな3人の会話とは離れた場所でくつろいでいる志穂を奈津実が見つける。
「志穂。私は関係ありません、みたいな顔して、ちゃっかり新しい水着じゃない!」
「いや、私はそんな……」
「あら?有沢さん、素敵ですわ!」
「有沢さん、背が高くてスレンダーだから、そういうハイレグが似合うんだよねぇ、いいなぁ……」
「またまたぁ。自分に一番似合う水着を選んじゃって!それで守村くんを悩殺かな?」
「!?!?!?」
確かに、黒地に赤のラインが入った、露出は控えめだがハイレグのワンピースを着ていれば、こんな事を言われるのは当たり前である。
「でも、『似合ってますね』としか言われてないし、それに守村くんは海とか苦手だし……」
「『似合ってますね』って言われたってことは、守村くんに見せてるってことだよね?」
「!!!」
「うらやましいですわ!ミズキはまだですのに!」
「あわ、あわ、あわ、あわ……」
「奈津実ちゃん。そんなに有沢さんをからかわなくても……顔が真っ赤だよ?」
「あははは、ごめんごめん」
志穂が顔を真っ赤であわてふためいているところで水着鑑賞会は終わりとなった。
「さあて、泳ぐぞ!遊ぶぞ!」
「あ〜ん、奈津実ちゃん、待ってよぅ」
軽く準備体操を済ませると奈津実はさっそく海へと飛び出した。珠美も慌てて奈津実の後ろを追いかける。一方、志穂と瑞希はパラソルの下でのんびりと日焼け止めクリームを塗っている。
「あ〜あ、騒がしいですわね」
「まあいつもの事だから。でも須藤さんは焼かないの?」
「焼かないわよ。焼いたら色サマに嫌われちゃう」
「嫌われる?どうして?」
「だって、焼けた肌なんて興味ないでしょ?」
「そう?あの男は焼けようが白かろうが芸術だと思ったらどっちでもいいと思うけど」
「そうかしら?」
「そうよ。同じクラスで毎日見てるからわかるわよ。あの男の頭の中は芸術しかないから」
「そこまで色サマのことを言わなくてもいいんじゃないかしら?」
「だって、社会の授業で黒板の説明書きに芸術性がないって文句言うのよ?数学でも現代文でもそう。古文では読み方に芸術性がどうたらとか……」
「……降参だわ」
おしゃべりはしているが手はしっかりと動いており、体のほとんどを塗り終わっている。塗り終わった後は2人とも寝転がり、お互い上を向きながら話を続ける。
「でもうらやましいですわ。デートできて」
「でもその1回だけ。なかなか私から誘えないわよ。須藤さんはなにもないの?」
「なにもないのよ。色サマはずっと日本にいるみたいだけど忙しいみたいで」
「やっかいな男を好きになったものね」
「どういうことかしら?」
「言ったでしょ?あの男は何でもかんでも芸術。そんななかで芸術の範囲から越えて恋愛対象として見られるには相当大変だと思うわよ。たぶん彼の前で裸になっても誘惑じゃなくて芸術と見られるだけよ」
「……じゃあ、どうしたらいいわけ?色サマのハートはどうしたらつかめるの?実はミズキ悩んでるのよ」
困った顔を見ている瑞希に向かって志穂はため息を一つついたあとで、また話し始める。
「私はあの人にとって必要な人と思われたいのだけど……」
「必要な人?」
「そう。友達とかそういうのを越えた人。彼が私を求めて欲しい。好きってそうでしょ?」
「そうね……難しいわね」
「でも、そんなのどうしたらいいのかわかる?私も悩んでるのよ」
「そうよね……はぁ」
「はぁ……」
ため息をつき、遠くを眺めているようにみて何も見えておらず、頭の中の男の子の姿しか見えていない。2人とも恋する乙女の悩む姿である。
「こらぁ!なにやってるのよ!」
志穂と瑞希が気がつくと真上に奈津実が立っていた。すこし焼けているようで肌がほのかに褐色になている。その後ろでぜいぜい息を吐いている珠美がいた。両手を両膝に置いて大きく息を吐いている。
「はぁ、はぁ……もう奈津実ちゃん、本気で泳ぐんだから……」
「あははは。なんか海だと元気出ちゃうんだよね。ごめんごめん」
「ところでミズキたちに何のようなの?」
「あのさ、あっちでおいしいって評判の海の家を見つけたんだよ。もうすぐお昼時だし、混まないうちに行かない?」
「あら、もうそんな時間?そうねせっかくだから行きましょうか」
「じゃあ案内してくださる?」
「いいわよ。もしかしたらお嬢ちゃまのミズキちゃんには庶民的すぎると思うけど」
「失礼ね!」
なんだかんだいいながら4人は海の家に出かけてお昼ご飯となった。
そこでもしばらくおしゃべりしていたが、他愛のない話ばかりでここで書くような話ではない。
「じゃあ、ミズキ達は潮風にあたりに行くからよろしくね」
「私もせっかく海に来たから海を感じて来るわ」
「いってらっしゃ〜い!」
「ナンパに気をつけてね」
昼ご飯も終わり戻ってきたところで、今度は志穂と瑞希が外に出かけていった。そして奈津実と珠美がパラソルの下でくつろいでいる。珠美は普通に仰向けになっているのだが、奈津実は大の字になっている。
「はぁ、食った食った」
「奈津実ちゃん……そんなはしたない言葉はやめたほうがいいと思うな……」
「いいっていいって。せっかくの海なんだから楽しまないと」
「でも、奈津実ちゃんなら何回も来てるんじゃないの?姫条くんとかとは来てないの?」
「映画とかなら休みでも一緒に行ってるけど海には来てないなぁ」
「どうして?」
「さぁ?海だとナンパのほうがいいんじゃないの?あははは!」
「あっ、本当だ」
「えっ?」
「ほら、あそこ」
「あ゛……」
珠美が指さした方向には姫条が女の子2人をナンパしているようだ。短パンで上にウインドブレーカーを着込んでおり、いかにも泳がずに海を楽しんでます、というような格好で女の子を誘っている。
寝転がっていたのに、がばっと上半身を起こし、その様子を遠くから見ている。その顔は少し引きつっている。
「まさか、あいつ、本当に……」
「あははは。姫条くんらしいね」
「あれ?……隣にいるの鈴鹿じゃん」
「え゛……」
よく見ると姫条の隣に、恥ずかしそうに女の子からみて斜に構えて立っている男がいる。奈津実の言うとおり鈴鹿である。白のTシャツに短パン姿で、どうやらその場から離れようとしているが、姫条に腕をがっちりと握られて逃げられない様子。
今度は珠美ががばっと起きあがり、その様子を見ている、顔は奈津実以上に引きつっている。
「鈴鹿くん……なにしてるかとおもったら……」
「た、珠美?立とうとして、まさか行くの?」
「行く!練習もしないでこんなところで遊んでいるなんて!」
「あれ?もしかして、嫉妬?」
「し、嫉妬なんて、そ、そんなことは……」
勢いよく立ち上がったのはよいものの、奈津実のツッコミに早くもたじたじになっている珠美。それでも姫条と鈴鹿の様子はじっと見ていたのだが。
「あれ?」
「あっ……」
「「………」」
「あちゃぁ〜、かっこ悪い終わりかた……」
「なんか痛そう……」
どうやら女の子2人がが2人にそれぞれみぞおちにひじ鉄を食らわせて立ち去ったようだ。かなり強烈だったらしく、その場でうずくまってお腹を押さえている2人。周りからもくすくす笑っている人もいるぐらい、かなりかっこわるい。
「まあ、バチが当たったってことか」
「そうだね。あんな背が高くて、格好いい色違いのビキニを着たお姉さん達の相手なんて鈴鹿くんじゃ無理」
「アタシ達ぐらいがちょうどいいってこと」
「そうそう」
「「あはははは!」」
ナンパ失敗で怒る気をなくした奈津実と珠美は、そのまま笑い話にしてしまうようだ。
「お待たせ。海ってやっぱり気持ちいいわね」
「潮風が気持ちよかったわ」
「おかえり〜」
「みんなの分のジュース買ってあるよ!」
しばらくして瑞希と志穂が戻ってくる。そこからは、海に出ずにパラソルの下でおしゃべり。
学校のこと、宿題のこと、合宿のこと、夏休みの過ごし方のこと。恋愛の話は出てこなかった。言ったが最後、自爆するのをみんなが予感していたのかもしれない。
「はぁ〜、楽しかった!」
そして、午後から夕方にさしかかるころ、4人は海からきりあげてはばたき駅に戻ってきた。奈津実と珠美は綺麗に日焼けしている。一方瑞希と志穂はそれほど焼けずにすんだようだ。
海で運動していたわけではないので、みんな元気である。とりわけ奈津実が一番元気がある。
「ねぇねぇ、まだ時間があるでしょ?そこの喫茶店で休んでかない?」
「あそこ?味は確かなの?」
「う〜ん、おフランスの人に合うはわからないけど」
「失礼ね!」
「まぁまぁ、そんなに怒らなくても……」
「あそこは確かにコーヒーがいいし、ケーキもお洒落でよかったから、大丈夫だと思うわよ」
「ふ〜ん、じゃあ、ミズキもいくわよ」
志穂が大丈夫と言ったところで、瑞希も納得したみたいだ。さっそく4人は駅前の喫茶店に入り、海でのおしゃべりの続きと相成った。
女の子は気のあった友達とのおしゃべりなら、いつでもどこでも楽しいし時間を忘れる。彼女たちもそうなのだろう。彼女たちは今日は楽しい1日だったに違いない。
To be continued
後書き 兼 言い訳
GS4人娘のお話でした。
最初に輝美のネタ振りをしたあとで、4人のぐだぐだ話を並べただけになってしまいましたが(汗
本当はもう1エピソード入れたかったんだけど、思い浮かばなかった。
次はまた真帆ちゃんに話が戻ります。