第232話目次第234話
日曜日。海が一番賑わう曜日。さらには8月中旬であり、海が一番賑わう時期になっている。海の家も一番忙しくなるとともに、一番の稼ぎ時である。

そこで真帆が泊まりがけのバイトをしている海の家「えるに〜にょ」でもいつもの違うことをすることにした。ちなみに今日が真帆にとってもバイトの最終日だ。


「舞佳さん」

「なに?真帆ちゃん」

「このエプロン。意味あるんですか?」

「どうして?」

「だって、スケスケで見えちゃってるじゃないですか」

「だって、見せるためのエプロンだから」

「………」


2人はビニール製のエプロンに水着という姿で立っていた。

太陽の恵み、光の恵

第34部 真帆の浜茶屋奮闘記編 その7

Written by B
今日はTシャツも短パンも着ていない。透明ビニールで白く店の名前が書いてあるだけのエプロンをしているだけなので、ただナイスバディの女の子が接客しているだけになっている。


「もってるものは使わないとね。水着を見せるぐらいまでなら大丈夫よ」

「もしかして、このために水着はビキニを指定したんですか?」

「もちろん」


真帆の黄色のビキニと舞佳の黒のビキニは店の中でもとても目立っている。それが店員となれば、やってくる男性も多くなるというもの。もちろんそれを狙ってのものである。


「でも、それだったらなんで今まで水着でやらなかったんですか?」

「ずっと水着だったら飽きられるわよ。こういうとっておきはいざというときに使うの」

「そういうものなんですか?」

「そうそう」






真帆と話していた舞佳が右手を目の上にかざしながらきょろきょろと辺りを見渡している。


「あっ、今日は忙しいから1日限定でバイトに来る子がいるから。たぶんもうすぐ来ると思うんだけど……あっ、きたきた!」


舞佳が見ている方向から自分たちと同じようにビキニの上にビニールのエプロン姿の女の子が2人やてきた。その顔に真帆は見覚えがあった。


「ああっ!久しぶり!」

「あら?白雪さんだったわね。お久しぶりですわ」

「そうね。それにしてもとっても素敵な水着ですね」

「ありがとう。私、ビキニって恥ずかしくて抵抗があったんだけど……」

「そう?とっても似合ってるわよ」


その女の子は前に一緒にバイトをしたことがある万里とかずみだった。ワインレッドの上品なビキニを来ている万里は結構グラマーな体型をしているので、とっても似合っている。恥ずかしそうだけど、ちょっとうれしそうな万里とは違い、かずみはどことなく元気がない。


「おつかれ〜……」

「あれ?かずみちゃんどうしたの?」

「だってぇ。みんなプルプルのボンッ!キュッ!ボンッ!なんだもん。あたしなんかぺちゃんこだから……」


かずみももちろんビキニ。赤と白のストライプが映えるのだが、他の3人と違いかずみはバストがかなり小さいというよりも典型的な幼児体型。しかも舞佳と万里の背も大きいほうなので、余計に目立ってしまう。気にするのも無理はない。
そこで舞佳がすぐにフォローを入れる。


「あら?そんなことないわよ。可愛くてとってもいいわよん♪」

「そう?」

「そうそう!女は胸の大きさだけじゃないの!小さくても形が良ければ男にとってはとっても魅力的なのよ」

「そうか?舞佳さんに言われるとそんな気がしてきたなぁ」

「だから自信持てばいいのよ!」

「うん!あたしもがんばる!」


舞佳がとくに凄いことを言っているわけではないが、素直なかずみはそれで元気を取り戻したようだ。






そして店が開店した。
やはり一番賑わう日というだけあって、昼前からもう大混雑。


「席は相席になりますけどいいですか?」

「ご注文はよろしいですか?……焼きそば2つにビール2本ですね。かしこまりました」

「は〜い!焼き鳥おまちどぉ〜!」


真帆、万里、かずみの3人は休む暇もなく動き回っている。あまりに忙しくて、自分達の水着姿に対する男からの熱い視線にまったく気づくことがないぐらい。まあ、それはそれで彼女たちにとって好都合なのかもしれないが。
一方舞佳は、ウエイトレスは行わず、店頭での客引きと、店員を含めた店内の監視をしていた。トラブルに対する迅速な対応のためである。
そんな中で、真帆が店頭の舞佳に声を掛けた。


「舞佳さん。店長が早めにお昼にしてくれって」

「あいよ。じゃあすぐに戻るわね」

「それにしても忙しいですね。万里さんとかずみさんがいないと回らないですよ」

「でしょ?特にかずみちゃんはよく動いてくれるから助かるわよ」


確かにバイト慣れしているかずみの動きは迅速だった。注文をとったり、できた品を運んだり。彼女がもともとすばしっこいのだが、それでも仕事量は真帆以上にこなしている。


「真帆ちゃん。それに気づいてる?結構かずみちゃんへの視線もあるでしょ?」

「えっ?そうですか?それどころじゃなかったから」

「あら?でもかずみちゃんのスタイルも結構需要があるのよん」

「需要?」

「そうそう需要」

「???」


真帆は意味がよくわからなかったが、舞佳がいうからにはそういうものだろう、と思うことにした。
かずみの近くでは万里がお客の注文を受け取っていた。さすがにかずみよりも動きは遅いのの、丁寧に注文を受けており、店内での歩きも上品だけど素早い。


「それにしても万里さんもがんばってるよね。私も負けられないな」

「彼女、女優の卵で結構な家の人なんでしょ?よくこんなバイトを選んだわよね」

「かずみさんに『人前に立つバイトってあるかしら?』って聞いたみたいで、それで紹介されたのがここみたい」

「へぇ〜。でもふつうお嬢様って、ビキニ着てウエイトレスなんてやらないわよ」

「どうも芝居のためなら何でもやるって人みたいで……だから、前のヒーローショーも出たんだと思いますよ」

「そういえば、そうだったわね……結構ストイックなのね」

「う〜ん……そうなんでしょうねぇ……あっ、舞佳さん。早くお昼にしてくださいよ」


真帆が話し込んでいたことに気づいたところで立ち話は終わりになった。






「いらっしゃいませ〜!」


お昼時。さすがに舞佳も客引きをする余裕もなくなり、ウエイトレスとして働いている。まあ、客引きしなくても人気のあるこの店はひっきりなしに客は入ってくるのだが。
そんなときに真帆が見知った客が入ってきた。ただ、こういう時にあまり来て欲しくなかった人が。


「Hi!元気かしら?」

「あっ、彩子……」


サンバイザーを被り、短パンに白のサマーベストという夏らしい格好の彩子が真帆に笑顔で座っていた。首からは自慢のカメラがしっかりとぶら下がっており、真帆も彩子が何をしに来たのかはなんとなく感じていた。


「……な、なんでここに?」

「今日は素敵なビーチの写真を撮りに来たんだけど、真帆ちゃんがここでバイトしてるって聞いたの」

「……誰に?」

「う〜ん、Y.Aさんということで」

「夕子ったら……」

「そういうわけで、お昼休みはまだなの?」

「まだだけど……もしかして……」

「5枚ね。あとオレンジジュース1つ」

「うっ……かしこまりました……」


彩子は右手を大きく広げて真帆に見せる。真帆はその意図が嫌でもわかってしまう。文句を言いたいが、注文を受けた以上対応しなければいけず、店の奥に入っていく。
そして注文の品を届けたときに、改めて文句を言う。


「彩子、まさかその5枚って……」

「この前、たまたまレース雑誌みてたら、でかでかと1ページ載ってたのよねぇ〜」

「……なんで、私がでている雑誌ばっかりたまたま見つけちゃうの?」

「真帆の写真が私を呼んでいるのよ」

「……あと、そんなに私の水着ばっかり撮って飽きないの?他にもいるでしょ?鏡さんとか藤崎さんとか」

「真帆は鏡さんのadultさとは違ったfreshさがあるのよ。藤崎さんは外面撮っても面白くないわ。内面の写真を撮りたいと思っているけど」

「……わかったわよ。もうすぐ休みだから、好きに撮らせてあげるわよ、はぁ……」

「Thank.うれしいわ。じゃあ焼きそば追加で」


結局その後のお昼休みで、真帆は彩子に水着写真を何枚も撮られるはめになってしまった。しかも彩子がポーズの指定が細かいので、お昼休みはほとんど写真撮影に使われてしまい、あまり休めなかった。






お昼も過ぎてお客の入りも一段落する、ウェイトレスの万里とかずみも少し休む時間ができた。2人は建物の裏の日陰でジュースを飲み、涼みながら休んでいる。


「ぷはぁ〜!う〜ん、やっぱり暑いときのジュースって気持ちいいねぇ〜」

「そうね。とっても体が涼しくなるわ」

「御田さん。ところで夏休みはなにしてたの?」

「そうね、高原へ行ったり、映画を見たり、コンサートに行ったり……」

「へぇ〜、御田さんらしいねぇ〜」

「渡井さんはどうなの?」

「あたしはずっとバイトだよぉ。なんか、体を動かさないと死んじゃいそうで〜」

「うふふふ。でも楽しい夏休みを過ごしてるわね」

「御田さんも楽しそうだよ?」

「そうね、私も楽しい夏休みを過ごしているわ。ほんと、もえぎのに来てよかったわ」

「えっ?そういえば元々別の高校のつもりだったんだって?」

「ええ、演劇の名門校でお嬢様学校。でもあのころの私は違和感あって……そのまま芝居ばかりの生活でいいのかって……それで両親の猛反対もあったけど強引にここに来たの……最初は本当によかったか迷ってたけど、今はこれでよかったとおもってるわ」

「ふ〜ん、でも夏休みも芸術っぽい生活してるよ?」

「そうね。でも、自分から行きたいと思ってるだけで、義務とかじゃない。自分のやりたいことをやっているわ。ほら、もえぎのじゃなかったら、こんな水着着てバイトなんてできないわよ。御父様だったら目を回して倒れてしまいますわ」

「にゃははは!そうだね。それにそんなお嬢様学校だと彼氏もできないもんね♪」

「えっ?」

「あららぁ〜?ごまかしてるのぉ〜?じゃあ、さっき顔真っ赤にして対応してた男の子はだれかなぁ?」

「あ、あら、まあ、その……え、演劇部の後輩よ!」

「ふぅ〜ん。じゃあ、そうしとこうかな」

「……もう」


顔真っ赤の万里。これでは反論に説得力がない。かずみもそれ以上の深い追求もしなかった。
そして、2人は夕方までウエイトレスをやり遂げた。特にトラブルもなく、綺麗所がそろった海の家は空前の大盛況となった。






さて、夕方に店を閉じ、万里とかずみは家が遠いので早々に家路についたあと、真帆と舞佳が後かたづけをしていた。


「真帆ちゃん。もう上がっていいわよ」

「えっ?だってまだ、片づけるものが……」

「お姉さんからのちょっとしたご褒美。今までゆっくりと海を見ることもなかったでしょ?今、夕焼けの海がとっても綺麗だからゆっくりみておいで」

「いいんですか?」

「いいわよ。早くしないとにわか雨が降って景色が台無しになるわよ」

「じゃあ、すみません。行ってきます!」

「雨には気を付けてね〜」


真帆はエプロンを脱ぎ捨て、白のTシャツを被ると急いで海に向かった。






「うわぁ〜、綺麗……」


人がぱらぱらとしかいなくなった海岸。そこで真帆は一人、海に向かって立っていた。海は夕焼けに染まり、オレンジ色になっていた。そのオレンジが、すこし弱くなったが太陽の光が反射してキラキラと輝いていた。


「今まで、こんなにじっくりと見ることもなかったな……」


自分自身も夕焼けに照らされている。そんな真帆に声を掛ける人はだれもいない。真帆は自分だけの世界に浸ることができた。自分だけの海、という感覚が真帆を酔わせる。


「なんか感動しちゃう……」


うっとりと海を見つめる真帆。その真帆の視界に人影が入ってきた。


「あれ……あの人なんだろう?」
To be continued
後書き 兼 言い訳
真帆ちゃんに話が戻りました。

まあ、最後なのでちゃんと水着でウエイトレスをしてもらわないとねぇ(なんで?)
あとはそれだとあんまりなので万里さんとかずみちゃんに助っ人として参加してもらいました。

しかし、久々か?次に続くような中途半端な終わりかたは。
次は今部の締めという名のネタ振りになりそうです。
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