第235話目次第237話
主人家のリビングルーム。
朝から恵は大騒ぎ。
平日は毎日この時間に放送されているテレビの夏休みアニメ特集に首っ丈だからだ。
アニメ自体は昔の名作と呼ばれている作品なので、確実に子供が楽しめるもの。しかも、どうも1話完結のアニメを選んでいるようなので、それまでのあらすじなんて関係なく楽しめる。
どこがどう楽しいのかまではわからないが、恵は毎日この時間を楽しみにしているようだ。

いつもは恵と一緒に光が見ているのだが、今日は公二が一緒に見ている。
公二のバイトがたまたま今日は午後からだというのもあるが、なにより光が今携帯で話している最中だからだ。


「琴子!だから泣いてばっかりじゃわからないって!」


電話の向こうは琴子のようだ。

太陽の恵み、光の恵

第35部 琴子の元彼編 その2

Written by B
公二は真正面でアニメを見ながら、ちらちら横を見ながら光の様子を見ている。
どうも深刻な相談みたいだが、詳しい内容は光の言葉からではよくわからない。


「いい加減に冷静になりなさいよ!とにかく深呼吸!」

「吸って……吐いて……吸って……吐いて……どう?落ち着いた?」

「それで?……ふんふん、元彼に会った?この前話してくれた人のこと?」

「それで、何か言われたの?えっ?何も言われてない?」

「ええっ!ぶっちゃったの!どうして?」

「えっ?……うん……うん……そうなんだ……」

「それだけ?……ええっ!彼に見られたって!で、話したの?」

「話したんだ、元彼だって……で、怒ってなかった?」

「怒ってなかったけど……ちょっと!どうして!なんでそんなことしちゃうの?!」

「うん……うん……たしかにわかるけど、彼はなにがなんだかわからないと思うよ……」

「その後は?また元彼と会ったって!ちょっと、琴子いったいなに……えっ?偶然?」

「そんなわざわざ謝らなくても……で?……まあねぇ……」


どうも、琴子の彼氏との問題らしいが、元彼と言う言葉が聞こえている。ここら辺の話は光から聞いていないし、公二も聞きたいとは思ってもいない。だから、公二はこれ以上聞いても自分では関われない範囲だと感じ、光の会話を聞くことをやめ、真正面のアニメとそれを見て喜ぶ愛娘に集中することにした。






「今日も楽しかったね」

「うん!たのしかった!」

「何が楽しかった?」

「メガネのひとがいえをなげちゃうとこ!」


ようやく1時間の放送が終わった。恵はすっかり満足したようすだ。公二も久しぶりに見たアニメで楽しかった。
一方、光はどうも表情が暗い。さっき長い電話が終わったところで、そのまま光は携帯の待ち受画面を見たままじっと考え込んでいる。
それに気づいた公二は今度は絵本を見始めた恵に気づかれないようにその場から離れ、光にそっと声を掛ける。


「光、水無月さんどうしたの?」

「う〜ん、かなり重症みたい。しかも琴子の悪い癖が出てるし」

「悪い癖?」

「そう、誰にも相談せず、自分の中に引きこもって悩み続ける悪い癖。琴子が悩んでいるのはなんとなくわかったけど、結局琴子からは話してくれなかった」

「光にも話してくれないのか?」

「それが悪い癖なの!昔っからそう。どんなに悩んでいても、みんなに心配掛けさせたくないからって……そこまで気遣わなくていい、って言ってるんだけど……」

「それで、何か解決策はあるのか?どうも俺ではどうしようもないようだけど」

「たぶん単純だと思うよ。あとは彼がはっきりしてくれれば」

「彼?なんでまた……あれ?光、また電話だぞ」

「あっ、本当だ?琴子かな?ん?違うみたい……誰だろう?」

「ワンぎりか?」

「いや、ずっとなってるから違うと思う」


会話の途中で光の携帯がまた鳴り出したので、光はまたボタンを押す。


「もしもし、主人ですけど……えっ?……ああ!琴子の彼だっけ?」

「なんで私の携帯を……ほむらに聞いた……まあ、しょうがないか」

「それで?私になにか?……琴子のこと?」

「ふんふん……ふんふん……ふんふん……なるほどね……」

「わかった。ちょうど駅前に用事があるから来てよ。ちょっと私も話したいことがあるから」

「駅って?ひびきの駅。駅前に喫茶店があるでしょ?そうそう、ちょっと古びたとこ。そこに10時半に来て。こっちも都合があるから時間厳守だよ!」


そう光は言い終わると、ボタンを押し、すぐに立ち上がる。


「どうした?」

「ちょうどよかった。彼氏も琴子のことで相談があるって。お昼の買い物ついでにちょっと会ってすませちゃう」

「買い物ついでで大丈夫か?結構深刻みたいだけど」

「うん、話は深刻だけど、解決策自体は単純だから」

「???」

「解決したら全部話してあげるから、それまでは我慢して。ねっ?」


光はかなり自信ありげだ。そこまで言われれば公二は嫌とは絶対に言わない。この問題は光に任せることにした。






駅前の喫茶店。
コンクリートの建物が建ち並ぶ駅前通りのなかでひときわ目立つ煉瓦造りの建物。それがモダンさを感じさせ、そこのコーヒーが評判が良いため、知る人ぞ知る隠れた名店と言われている。
クリーム色のワンピースという普段着に近い格好の光が、これからの買い物の品を入れるためのトートバックを肩に掛けながら入ると、すでに誠がコーヒーを飲みながら待っていた。光は店員に待ち合わせであることを告げると誠の向かいの椅子に座る。


「おまたせ。あれ?結構待たせちゃった?」

「いや、それほど待ってないよ」

「ふ〜ん、まあいいか……さて、琴子のことだっけ?」

「ああ、実は……」

「あっ、別に言わなくていいよ。事情は琴子から聞いたから」

「えっ?」

「琴子からも電話が来てさ。でも、琴子はいつものように肝心なことは言わないんだけどね」

「はぁ……」


誠は光がそこまで知ってるのは予想外だったみたいで、ただ相づちを打つばかり。
光の話は続く。


「文月くんの聞きたいのは、琴子がどう思ってるか、でしょ?」

「ああ……」

「正直言って、私もよくわからない。でも、琴子の心の中がぐちゃぐちゃに乱れていることは確かだと思うよ。だから、あんなにおかしい行動をすると思うし、文月くんとも話をしたくないと思うよ。すると余計にぐちゃぐちゃになっちゃうから」

「ところで、前の彼のことって知ってるのか?」

「う〜ん……前に聞いたから話せるんだけど……私からあまりベラベラしゃべりたくないな……できれば琴子から聞いて欲しいんだけど……これぐらいならいいか……実は琴子、その彼に振られたの」

「えっ?なんで?」

「理由はわからない、一方的だったみたい……う〜ん、これ言っていいのかなぁ……いいか……それも今年の3月」

「3月?……俺がここに来る直前じゃないか……じゃあ」

「そういうこと。文月くんが最初に会った琴子がなんか変だったのはそういう事情があったみたい。私もそのときは知らなかったんだけど」

「そういうことか……で、俺はどうしたらいいんだ?」

「そうそう、それを言わなきゃ!単純、単純!琴子に向かって『好きだぁ〜!』って叫べばOK」

「……へっ?……」


ここで、注文してさっき来た紅茶をごくごくと飲む光。それに対して、誠はあまりに単純な回答で口をあんぐり、ふさがりようがない。


「つまり、琴子の頭の中をあなたでいっぱいにしちゃえばいいの。前にも言ったでしょ?琴子って男らしいストレートな表現に弱いって。それを繰り返せばいいってこと」

「それで解決するのか?」

「するって!あとは文月くんが自分の気持ちを正直にはっきりと伝えること!もう意地張ってないで本音を言わなきゃダメだからね!」

「あ、ああ……」

「あっ!もうこんな時間!急いでお昼の買い物しなくちゃ!」

「えっ……」

「じゃあがんばってね!」


光は腕時計を見るやいなや、いきなり立ち上がって紅茶代を置くと、急いで店から出て行ってしまった。






「んなこと言われてもなぁ……言うことはわかるんだけど……言ったところで……」


遅れて喫茶店から出た誠は、駅前をぶらぶらしていた。光からアドバイスをもらったが、自分では自信が持てず、なんか落ち着かず、ぶらぶらとしていた。
そこでしばらく歩いていたら誠は何かを見つけた。


「あれ?琴子だ……なんであんなとこ……ああっ!」


琴子は駅前のファミレスにいた、そして琴子の前には昨日見た元彼の姿があった。もちろん中の会話は聞こえない。しかし、元彼がなにか必死に話している前で琴子がなにか戸惑っているように見えた。その戸惑いは昨日見た琴子とは比べ物にならないぐらいだと誠は感じた。


「なんだ?なにがどうなってるんだ?……あっ……もしかして……」


誠の頭の中には一つの恐ろしい仮定ができあがっていた。


「まさか……ヨリを戻すってことじゃ……ないよな……」


誠は自分でも足がガタガタしているのがわかるぐらい震えていた。もう、前がどんな状況下見ている精神的余裕もなくなっていた。
誠はすぐにファミレスに背中を向けて早足でその場から立ち去ってしまった。






「………」


誠は家に帰るとベッドに寝転がってしまう。


「まさかだよな……そんなことはないよな……」


いくら頭の中で否定しようとしても、どうしてもぬぐいきれない。どうしても琴子のあの戸惑った顔が忘れられない。


「そういえば振られたって言ってたな……だったらまだ未練が……う〜ん……」


右へごろごろ、左へごろごろ。体を動かしてみるが、どうやっても落ち着けない。かえって不安になるばかり。


「はぁ……結構琴子好みだったからな……頭よさそうだし、かっこいいし……」


いつもは強気な誠も今は完全に弱気になっている。こうなるとなかなか元に戻らないのがこの年齢の男子というもの。


「なんかなぁ……どうしよう……」


結局、誠はそのまま家に出ることなく、半ば部屋にこもりっきりになってしまった。






「………」


一方の琴子も自分の部屋にこもり、布団の中で頭を抱えていた。


「私……なんてひどい女だったの……」


琴子も夕方に家に帰ると部屋にこもり、そのまま布団に潜ってしまっていた。


「わたし……どうしたらいいの……このままじゃ、誠に顔を合わせられない……」


誠も琴子もお互いがわからないまま、深みに落ちてしまっていた。
そして、2人とも不安に揺れながら3日も過ぎてしまうのであった。
To be continued
後書き 兼 言い訳
なんかお互いに深みにはまってますが、この話はこれ以上は深くはなりませんので。
だって、そんなに長いシリアス話なんてとてもとても書けませんから(ぉ

そういうわけで、次でなんとか解決するかな?
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