「………」
「………」
時間は少し戻って、ここは誠の部屋。
中央に惹かれた布団の上には裸の男女が2人抱き合うように横になっている。
「………」
「………」
布団の周りには無造作に脱ぎ散らかされた2人の服。
ついさっき、2人は愛の営みを終えたばかり。
さぞかし幸せかと思いきや、どうも様子が違う。
「………」
「………」
2人ともなにか気まずそうな顔をしてお互いに見つめ合っている。
足を絡ませ、お互いを抱き合っていながら、どうも幸せな雰囲気が漂っていない。
「ごめん……」
「ごめんなさい……」
そして、結ばれた後で初めて出てきた言葉がこれである。
太陽の恵み、光の恵
第35部 琴子の元彼編 その4
第238話〜枕愛会話〜
Written by B
「なんで?誠が謝ることなんて何もないのに」
誠の胸を枕にしている琴子が聞いてきた。
それを聞いて、誠が顔を真っ赤にしながら顔を横に向ける。
「そ、そんなこと……わかるだろ!すぐに終わっちゃったことだよ!」
「そんなこと……」
「男としては恥ずかしいの!……だ、だから、俺、本当に初めてだったし、琴子の体が綺麗でものすごく柔らかくて触り心地がすごくて……なにより、その、あの、挿れたらものすごく気持ちよくて……俺だけが満足しちゃって琴子になにもできなくて……」
「あら?そんなことないわよ。とってもワイルドで激しくて……素敵だったわ……」
「お世辞はいらん」
「そんなことないわよ。正直な気持ち」
「それだったらいんだけど……なんか、腑に落ちないな……」
「女は好きな男に抱かれるだけで満足できるものなのよ」
「そういうもんか?」
「少なくとも私はそう。だから私は今、とても満足」
琴子は誠の胸を優しくさすり、誠は抱きしめた左手で琴子の髪の毛を優しく触っている。誠はどことなく納得してないようだが、これ以上のことは言う様子もない。
今度は琴子の表情がどこか堅い。
「そんなことより、誠。私こそ言わなきゃいけなかったのに……」
「何が?俺は不満なんてないぞ」
「その……怒ったでしょ?……私が初めてじゃなかった、ってこと……」
「……そういうことか?」
「………」
琴子は黙って頷く。誠は黙って考え込む。琴子はそんな誠を不安そうに見上げる。
「まあな」
誠はそういうと琴子の体を少し引き寄せるようにして近づける。
「確かに、琴子の体を知っている奴が他にいるっていうのは、ちょっとむかつくところはある。でも、俺は琴子をとがめるつもりはない。だって、琴子が望んで抱かれたんだろ?だったらいいじゃないか。昔の琴子の行動に干渉することなんて誰にもできないよ」
「そう言ってくれるの?」
「ああ。それにもし琴子が初めてだったら、俺、ただ琴子を痛くさせただけで終わっちゃったと思う。そう考えると、ちょっと安心してるのも確か」
「よかった……誠が怒るかと……」
「怒るかよ。とにかく、今は琴子は俺が独り占めだからな」
「そうよ。私は誠のものよ……」
ようやく2人に笑顔が戻る。お互いじっと見つめ合い、幸せな笑顔を見せる。
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪
ようやく甘い雰囲気が漂いはじめようとするときに、琴子の携帯が鳴った。
琴子が布団から手を伸ばして起きあがって携帯を見たとたんに、琴子の体がびくっとなった。
誠はその反応から見てかけてきたのはあの男だと直感した。
「またか?だったら俺がでようか?」
「ううん、大丈夫。もう私は前の私と違うから。でも、お願いだから私を抱いて欲しい……そうすれば怖くないから」
「……わかった」
誠は起きあがり、座った状態の琴子を後ろから優しく抱きしめる。琴子は落ち着いた表情で携帯を耳に対蹴る。
「……もしもし。あっ、こんにちは。あの、いったい何の用事……えっ?しばらくは電源入れてなかったから……えっ?……ええっ!!」
最初は落ち着いた表情だった琴子だが、突然顔が真っ赤になる。そこからは琴子は慌てているのが顔に表れたまま話をしている。
「じゃあ、あのときは……そ、そうだったんですか!ご、ごめんなさい!すぐに取りに行きますから!……す、すみませんでした!」
ピッ!
通話を切ったとたん。琴子の顔が茹で蛸のようにさらに赤くなり、ぼぉ〜っとしている。話の内容がわからない誠は後ろから琴子を抱きしめた状態で聞いてみる。
「おい、琴子。いったいどうしたんだ?」
「ああっ!恥ずかしい!……実は……」
「はぁ?忘れ物!前にあいつに会ったときにポーチを忘れただと?」
「そうなの。動揺してて全然気づかなくて……それで、何度も携帯に電話してくれたみたいだけど、携帯の電源切ってたみたいで……」
「じゃあ、さっき俺が出たのも……」
「そういうこと。ただ、忘れ物を返したいけどどうすればいいのか、聞きたかっただけだって」
「あちゃぁ〜……やばっ、なんか俺も今頃恥ずかしくなってきた……」
「私も今の今までまったく忘れてたわ……」
「はぁ……あれ?琴子、さっき『すぐに』って言わなかったか?」
「あっ……」
お互い顔を見合わせる。
そして苦笑い。
2人はすっと立ち上がると、周囲に散らかっている自分の服を探し出して着始める。
「ごめんなさい……ムード丸つぶれで……」
「俺達らしくていいんじゃないの」
甘い雰囲気はどこへやら。2人はすぐに出かける準備を黙々と進めていた。
「あっ、光に電話しなきゃ!」
「なんで今?」
「ほら、今晩ここに泊まるから、口裏合わせを……」
その1分後、大親友にからかわれ、顔を真っ赤にしながら布団の上に正座で電話している、青の下着姿の琴子の姿があった。
「なぁ、琴子。俺と一緒でよかったのか?」
「あの人にちゃんと紹介したかったの。『今、私を大切にしてくれる人です』って。それが私のけじめだから」
ひびきの駅の駅ビル入り口で琴子の元彼からポーチを返してもらい、近くのファミレスで夕食を摂っているところ。
ちなみに、誠はハンバーグとパンのセット。琴子はネギトロ丼と小うどんのセット。2人用のテーブルで向かい合って食べている。
「俺があの人の立場だったら嫌だぞ。今つきあってる彼紹介されても」
「大丈夫よ、あの人は。元々お兄さんみたいな存在だったから」
「どういうこと?」
「元々私の家庭教師だったのよ」
「家庭教師?教師嫌いのおまえが?」
「ええ、中学も白紙回答ばっかりだから、成績がよくないと思われてて、中2の時に両親に無理矢理付けさせられたのよ」
「それがあの人か……で、その人と親密になって……ということか?」
「ご想像のとおりよ。今までの先生とは違って、ちゃんとした大人だったから……」
「俺もなんとなくわかるな。琴子が好きそうな人に見えたから、俺も」
「それで、その年の終わりには恋人になって……まあ、そういうこと」
ここで会話がとぎれる。2人とも目の前の食事に集中することにする。
ファミレスからの帰り道。誠の家へと2人で向かっているところ。さすがに空は暗くなり、すこしだけ涼しくなってきた。
2人の手は指と指が絡み熱く握られており、そして寄り添った2人の間にはまったくの隙間がない。
「ところで琴子。聞いていいか?」
「なに?」
「隣で聞いてたからわかってると思うけど、俺、あの人から『ずっと琴子の側にいてくれ』って頼まれたんだけど……意味わかる?」
「わかるわ……だって、私たち遠距離恋愛で失敗して別れたの」
「遠距離?失敗?」
「ええ、私が高校に入ると同時に、あの人も遠くの高校に数学教師として採用されたの」
「で、教師だからすごく忙しくなって、全く会えなくなって……ってことか?」
「そういうこと。高校に入ってから3回しか会えなかったのよ。そうそう、さっきひどい振られ方って言ったでしょ?携帯で別れ話言われたのよ」
「携帯で?そりゃひどい……ごめん、聞いちゃいけないこと聞いたか?」
「ううん。今だから言える。昨日だったらいえなかったけど、今はもう吹っ切れたから」
「そうか……」
そして、誠のアパートの前。中には誰もおらず暗い。その扉の前で、2人とも少し顔を赤くして立っている。
「なぁ、なんかさっきより恥ずかしいし緊張するんだけど……」
「私だって!こんなにドキドキするの初めてかも……」
夕食も済ませている。部屋に入ればそれからすることはひとつしかない。それがよくわかっているから、余計に顔が赤くなる。しかし、2人の手は強く握られている。
「俺、琴子を満足させられないかも……」
「何言ってるのよ。私を誠の好きなようにしてくれればいいのよ。言ってるでしょ?私は誠のものだって」
「そういってくれるといいけど……でも、今の女がそんなこというか?『私はあなたのものって』」
「そうね、『あの男をゲットしたとか』とか言ってるのテレビでよく見るけど、あんな変な日本語嫌だし、あの感覚はわからないわ」
「まあ、俺もあんな女にゲットされてくない、ってテレビの前で思うわ。まあ、俺だったら琴子にゲットされてもいいとは思うけど」
「な、何言ってるのよ!と、とにかく、誠は男らしく私を荒々しく抱けばそれでいいの!」
「わかったよ。まったく、琴子は注文が多いよな……」
「私は一つしか注文してないわよ!」
なんだかんだで言い合う、いつもの2人に戻ったところで、誠が扉の鍵を開け、2人が中に入る。
2人の幸せな夜はこれから朝まで続きそうだ。
甘いムードがあるかは別として。
To be continued
後書き 兼 言い訳
今部の最後はただただラブラブ?で終わりました。
色々あった2人ですが、今後もこの調子でラブラブ?なのだと思います。
ちなみに、琴子の元彼は前話でも書いてますが眼鏡はしてませんのであしからず。
さて、次部はようやく花火大会になります。