第238話目次第240話
夏休みももうすぐ終わり。

そんな夏を惜しむように、この時期は花火大会がたくさん行われる。

ひびきの市の周辺で行われる花火大会で最大規模と言えば、はばたき市の海岸で行われる花火大会。
臨海公園で行われるこの花火大会は、最近市が力を入れているだけあって、打ち上げ数も周辺では規模も見物客も最大規模と言われている。

公二と光も恵を連れて見物に行くことにした。ただ、夜遅いと恵が寝てしまうため、今晩は輝美の家に泊まることになっている。もちろん輝美は大歓迎だ。
これから浴衣姿の4人が一緒に出かけようとするところ。


「でも、輝ちゃん。本当にいいの?」
「いいよ。だって、光ちゃんが泊まりに来るの久しぶりだから」
「そっか、久しぶりだもんね。でも彼氏は?」
「珪くんは写真集のPRとか雑誌の取材とか夜までお仕事なんだって」
「へぇ〜、大変なんだな」
「ほんと、せっかく……ねぇ?」
「光、何だそのもったいぶった言い方は?」
「だって輝ちゃんったら、ハワイで「わぁ〜!わぁ〜!わぁ〜!」」
「?」


必死に光の口を両手でふさぐ輝美を、公二と恵はただただ不思議そうな顔をして見ていた。

太陽の恵み、光の恵

第36部 花火大会編 その1

Written by B
「恵ちゃん!お姉ちゃんと一緒に屋台に行く?」
「は〜い!」


シンプルな赤の浴衣を着た輝美が臨海公園に到着するやいなや、さっそく恵を連れて屋台へと繰り出して行ってしまった。公二と光はそれを後ろから後ろからただ見送るだけ。


「輝ちゃん。本当に楽しそうだね」
「妹みたいな感覚なのか?」
「そうかもしれないね、たまに電話で言ってたから。『恵ちゃんみたいな妹がいたらなぁ』って」
「やっぱり弟とは違うのか……あれ?尽くんは?」
「輝ちゃんの話だと、友達と一緒に花火大会に繰り出して、そのまま友達の家に泊まるらしいよ」
「ふ〜ん、俺たちに気を遣ったのかな?」
「どうなんだろうね?」


紺色で一緒の浴衣の2人は、少し前に花火大会のスタッフと思われる人が配っていた団扇で涼みながら、手と手をがっちりと握ったまま仲良く歩いている。


「ところで、恵、輝美さんにまかせちゃっていいのか?どんどん進んじゃうけど」
「大丈夫だよ。恵も私が近くにいないと泣くってことはないから」
「そうだよな。前はママ、ママって泣いてばっかりだったもんな」
「そうそう。私も気が気でなくてね。でも今は心配するほどではなくなったみたい」
「じゃあ、合流の時間までまだあるから、俺たちもなんか買って食べるか?」
「うん♪」

そういうわけで、公二と光は2人で屋台巡りをすることにしたようだ。






「ねぇねぇ恵ちゃん。何が食べたい?」
「う〜ん……」


恵は人差し指をくわえながら、華やかな屋台をきょろきょろと右に左に眺めている。ちょうど恵と同じ赤で短冊の柄の入った浴衣の輝美はそんな恵の仕草を楽しそうに横から見ている。
そんな恵だが、不意に一つの屋台を指さす。


「おねえちゃん、あれ!」
「あれ?綿アメ?」
「うん!」


恵の目の前には綿アメの屋台。アニメキャラが描かれた水色とピンクの大きな綿アメの袋がたくさんつり下げられており、恵と同年齢ぐらいの子供達が大勢いた。


「じゃあ、お姉ちゃんが買ってあげるね」
「わ〜い、ありがと〜!」
「うんうん♪お姉さんにどーんと任せて!じゃあ、恵ちゃん、どの絵がいいの?」
「あれ!」
「あれね。うんわかった。すみませ〜ん、これください!」


輝美は大きな綿アメを一つ買った。いくら恵が食べたがってたとしても、一人で食べられないだろうし、自分もそんなに食べたいわけではないので、一つで十分だった。






「うんしょ、うんしょ、うんしょ……」
「恵ちゃん。危ないからあそこで食べようよ」


大きな綿アメの袋を両手で大事に抱きながら歩いていた。袋は自分の顔よりも大きいので、前が見えないので右にふらふら左にふらふら。輝美も笑ってみていたが、さすがに危ないので屋台並びから離れ、近くの煉瓦道のところのベンチで食べることにする。
煉瓦道では花火を見る人で人も多いが、たまたまベンチから立ち去る人がいたので座ることができた。


「じゃあ袋あけて食べようね」
「は〜い。いただきま〜す!……もぐもぐ……あま〜い!」
「うんよかったね」


輝美に空けてもらった綿アメの袋から小さい手で綿アメをつかみ口にほおばることを繰り返す恵。嬉しそうに食べる恵の姿を輝美は横から楽しそうに眺めていた。
そんな輝美に恵は気づいた。


「おねえちゃん?」
「お姉ちゃんのことはいいから食べて食べて」
「……あげる」
「ありがとう!」


恵は袋からいっぱい綿アメを掴んで輝美にあげた。恵の手なので掴んだのもたいした大きさじゃないが、それでも輝美は喜んで受け取った。


(恵ちゃん、尽と違ってすごくいい子!やっぱり光ちゃんのしつけかな?)


輝美はそんな恵にとても感心していた。






輝美は恵と一緒にいるために、目の前に見知った顔が2人いるのに気づいていなかった。


「やっほ〜、輝ちゃん、久しぶり〜」
「こんばんは……」
「わぁ!いきなりなによ!」
「いきなりだなんて、さっきからいたけど気づいてなかったじゃん」


奈津実と珠美の2人だった。奈津実は濃いめの赤で縦に赤系統の色のラインがいくつも入ったシンプルなデザインの浴衣。一方の珠美はピンクの半袖トレーナーと青のズボンというラフな格好。


「ところで、なっちゃんと珠ちゃんで来てたの?他は?」
「ああ、まどかは友達と屋台のバイトだってさ。あ〜あ、せっかく誘ったのになぁ。そういえばアタシも聞いてなかったんだけど、鈴鹿くんはどうしたの?」
「和馬くんもバイトだって」
「へぇ、珍しい!あのバスケ馬鹿がバスケ以外の事をねぇ……珠美、なんでか知ってる?」
「うん、お金貯めて冬にアメリカでNBAを生観戦したいんだって」
「へぇ〜、生観戦か、鈴鹿くんらしいなぁ……」
「アメリカ?でも、あの馬鹿英語できないけど大丈夫なの?」
「観戦ツアーを利用するんだって。だから大丈夫みたい」
「なっちゃん……あまり馬鹿馬鹿言わないほうが……」
「私もあまり否定しないけど……そこまで和馬くんのこと悪く言って欲しくないなぁ……」
「あははは!ごめんごめん!」


ちょっと顔が引きつっている輝美と珠美に謝っている奈津実だが、楽しそうに笑っているところからみてあまり反省しているようには見えない。






「あれ?この子、輝ちゃんの親戚?」


珠美は輝美の膝元に座って、自分と奈津実をきょとんとした表情でじっとみながら綿アメを食べている小さいな女の子の存在に気づいた。奈津実もそのことにようやく気づいたようだ。


「ああっ、かわいい!ねぇねぇ、親戚なの?」
「うん、そうだよ。今日は一緒に花火を見るんだよねっ、恵ちゃん?」
「は〜い!」


ニコニコ満面の笑顔でほほえむ恵に、3人ともさっきの気まずさはどこへやら、すっかり元通りになっていた。


「この子は輝ちゃんのいとこなの?」
「ううん、いとこの子供」
「へぇ〜、輝ちゃんにそんなに年のいとこがいたんだ」
「そんなことはないよ。私と同じ年」
「ふ〜ん、そうするとアタシと同じ年って……え゛っ……」
「奈津実ちゃん。なにそんなに固まって、私たちと同じ年って……あ゛っ……」
「どうしたの?そんなに固まって……あ……しまった……」


輝美が気づいたが遅い。輝美はもう慣れていたが、2人にとってはあまりに想像外の事。固まってしまうのも無理はない。


「ほ、ほら、いろいろあるのよ!そ、それにこの子見れば問題ないのは、わ、わかるでしょ?」
「そ、そうかもしれないね……あははは……」
「たしかに私たちが考えすぎかも……」


輝美が大あわてで、フォローしたので、その場はなんとなく収まった。






その後、3人は恵に綿アメを食べさせたりしたりしていた。


「でも、この子。見れば見るほど、輝ちゃんのいとこの子供だけに、輝ちゃんに似てるねぇ〜」
「輝ちゃんの小さい頃はこんなだったの?」
「う〜ん、この子よりはおとなしいかったと思うよ」


ここで、珠美が突然ちょっと考え込む。そして一言。


「そういえば、この子からみれば輝ちゃんは『おばさん』だよね」


「え゛……」
「あははは!輝美おばさんか!」
「ちょ、ちょっと!まだそんな年じゃないよ!」
「でも、お母さんと同じ年の人をお姉さんとは言いにくいよねぇ」
「た、たまちゃぁ〜ん。だから年が……」
「輝ちゃん、親の姉妹は何歳でも『おばさん』なんだから諦めなさい」
「なっちゃぁ〜ん……」


輝美は半分泣き顔になってしまっていた。奈津実と珠美は半分笑いながらなので、本気でそう思っているかはわからない。たぶんからかい半分なのかもしれない。






「ねぇあなた。輝ちゃん、なんでさっきあんなにしょんぼりしてたの?」
「さあ、光こそ聞いてないか?」
「だって『いいもん、いいもん……』って言ってるだけだから」


輝美が光を連れて、公二と光のところに戻ってきた。輝美がかなり落ち込んでたみたいだが、すぐにもどにもどったようだ。
これから花火の打ち上げが始まるところ。4人は輝美が探した鑑賞スポットにいる。メイン会場からほんの少し離れたところの煉瓦道で、人もまばら。しかし、人がまばらな分混雑を気にすることがなく、花火を見るにはまったく支障はない。どうやら輝美が奈津実から教えてもらったらしく、奈津実と珠美も近くに確認できた。
さらに運がいいことにベンチが丸々空いていたので、4人並んで座って花火鑑賞となった。


「ところで光ちゃん。恵ちゃんは花火初めて?」
「そうだね」
「祭りとかでは見なかったの?」
「祭りに出かけたけど、はしゃぎすぎて疲れて寝ちゃったの」
「そっか。じゃあ、いい花火が見られるといいね。でも大丈夫?意外と小さい子って花火の大きな音がダメな場合があるって聞いたけど」
「恵は大丈夫だよ。花火より騒がしいところも慣れてるから」



ヒュ〜……



「あっ、始まったね」
「恵、あそこを見てるんだよ」
「???」



ド〜〜〜〜ン!



「たぁまやぁ〜!」
「うわぁ〜、やっぱり花火は綺麗だね、あなた」
「そうだな。ところで恵は?」


3人は一斉に恵に視線を向ける。恵は突然のことにしばらくぼう然としていたが、2発目が上がると徐々にその顔が笑顔に変わってきた。そして目がキラキラと輝いてきた。


「あっ、恵ちゃん、喜んでる!よかったぁ〜!」
「なんか、凄く感動してるみたい。すごく目が輝いてる!」
「じゃあ、僕たちも恵と一緒に見ますか」


恵が喜んでいる事にほっとした3人は安心した花火を楽しむことにした。






打ち上げる間に少し時間はあるものの、連続して上がる花火にずっと見とれていた公二と光。公二がベンチの右端に座り、その左に光が座っている。


「光、ここの花火はでかくてすごいな」
「ほんと、この前のお祭りのもよかったけど、やっぱり迫力あるね」
「しかし、連続で来るからたまらないよ」
「そうそう、すぐにくるから胸がドキドキしちゃうんだよ」
「ほんとうか?」
「ほんとうだよ」
「じゃあ俺が確かめてやろう」


むぎゅ


「きゃっ!」


公二はいきなり、光の左胸を浴衣の上からひと揉み。さすがの光もびっくりした。


「ちょっと!公二のエッチ!」
「あははは、冗談冗談」
「もう、いまの方がドキドキしてるよ!今日は泊まりなんだから、お願いだから私の体に火をつけないで!」
「ごめんごめん。おとなしくしてるよ」


幸い輝美と恵は花火に夢中で2人のバカップルぶりには気づいていなかったようだ。






最後のナイヤガラもすべての火が落ち、花火大会は無事終了した。
4人は臨海公園から新はばたき駅へ向かうところ、そこから電車で一駅乗ってから輝美の自宅に戻る。


「ああ、楽しかった!光ちゃん、どうだった?」
「とっても楽しかったよ!ねっ、あなた」
「とても迫力あって楽しかったよ」
「恵ちゃんもたのしかったのかなぁ?」
「輝美さん。心配しなくても大丈夫。とっても楽しかったはずだよ」


恵は公二の背中で眠っている。結局、恵は花火大会の半分を過ぎたあたりで眠くなって寝てしまったのだ。その時点で帰ろうかと思ったが、あまりにいい寝顔で気持ちよさそうに眠っているので、そのまま寝させておこうということで最後までいたのだ。もちろん自分たちが最後まで見たいというのもあるのだが。


「しかし、今年の夏休みはいろいろあったけど、楽しかったな。光、そうだろ?」
「うん、恵の笑顔もたっぷりみれたし、言うこと無し!輝ちゃんは?」
「そうだねぇ……やっぱりいろいろあったけど……いい夏休みだったとおもうよ」
「もう夏休みも終わりか……」
「夏の暑さもカンカン照りの暑さとはちがう暑さになっちゃって、ちょっと寂しいよね……」
「そうだね……でもまた夏休みが明けてもがんばらないと!」


花火の余韻に浸りながらも過ぎゆく夏を寂しく思う3人だった。
To be continued
後書き 兼 言い訳
お待たせしました。花火大会編です。

今回は独立した話を並べることにしてます。

あちこちで花火大会をやらせてもよかったのですが、それでは面白くないので、全部はばたき市に集めてしまいました。
ただ……GS、GS2の花火大会って8月1週目なんだよね(汗
(1、2、3は8月最終週)
まあそこらへんはまったく気にせずに話を進めます。

さて、次は誰にしようか?順番的に1から進めようかな?
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