第239話目次第241話
「さぁて!特ダネ♪特ダネ♪」
「あのぉ、特ダネより花火を楽しんだ方が……」
「花火を楽しむのは当たり前。でも、やっぱり新聞の記事になるネタが欲しいじゃない」
「そうだけど、そんなネタあるの?」
「あるわよ!だって、周辺の若者が注目のイベントだもん。きらめき駅から2時間も掛からないなら、みんな来てるって!それもカップルで!そこを狙うのよ!」
「うまくいけばいいけど……」


花火大会の群衆の中でこんな会話をしているのは、館林見晴と美樹原愛、きらめき高校のクラスメイトであり、同じ新聞部所属でもある。2人とも浴衣姿ではなく、ラフな格好でお出かけ。
最後の最後まで見るつもりでいるが、帰りが夜も遅くなるので、2人で近くのホテルの安いツインの部屋一部屋で泊まる予定だ

今日は花火を見るついでに学校新聞用のゴシップ記事が見つけるつもりの見晴は、愛の心配をよそに張り切っている。

太陽の恵み、光の恵

第36部 花火大会編 その2

Written by B
「でも、見晴ちゃん。こっそりつきあってるカップルなんているんでしょうか?きらめきって恋愛には結構オープンだと思うけど」
「いつの間にかつきあってた、ってことがあるじゃない。ほら、恵ちゃんとかそうじゃない」
「そう?あれって、鞠川さんと芹沢さんが色々あったときにそっちに目が行き過ぎてて、気づこうともしなかったからじゃないのかなぁ?だって恵ちゃんも『隠してるつもりはまったくなかった』って言ってたよ」
「うっ……きょ、今日は大丈夫よ!」
「もし見つからなかったら?」
「そのときはこの花火大会のレポートを書くわよ。来年行きたい人のためにもおすすめスポットの紹介とかね」
「………」


そういいながらも見晴は携帯電話のカメラで祭りのにぎわいをパシャパシャと撮りながら歩いている。右手にラムネ、左手に携帯電話を持ちながら歩く姿はちょっと変だと、愛は隣で思っているが言わない。


「ところで、スクープなんでしょ?会っちゃったらどうするの?」
「それじゃあ記事にならないわよ。だからどうしても極秘取材!」
「………」


だったら、その目立つ髪型をどうかしたほうかいいのでは、と愛は思っているが友達なので言わない。
見晴はいつも髪をコアラの耳みたいにまとめた髪型をしている。これはこれで可愛いのだがあまりに変わった髪型で目立ちすぎており、学校でも有名である。しかし、髪を降ろせば美人の部類に入るし、愛も実際にそれを見晴に指摘したことはあるが、見晴はこの髪型がとても気にいっているみたいで、いつもこのコアラ頭をしている。
過去にもこの髪型で極秘取材がばれたこともあるが、本人は一向に気にしていないみたいだ。






ひととおり会場を回った2人は、早めにいい花火の見物場所を探すために臨海公園の煉瓦道に移動。
少し前に屋台で買ったたこ焼きを食べながらちょっと休憩。


「はぁ〜、疲れたぁ〜!屋台がたくさんあって見るのが大変だよね」
「でも、見晴ちゃん、楽しそうに見えたけど……」
「だって、変わった屋台がたくさんあってどれも目移りしちゃって〜」
「うん、朝顔とかあったよね。やっぱり商店街も協賛してるからかな?」
「へぇ。メグちゃん、ちゃんと調べたんだ」
「だって、誰かさんのせいで、あとになって記事書かされるとおもったら調べておかないと……」
「うっ……さぁ〜てと……喉が渇いたからかき氷買ってくるねぇ〜……」
「あっ……見晴ちゃん、逃げた……」


見晴はいつの間にか駆けだしていた。荷物があるため、愛は追いかけるわけにもいかず、その場で待っているしかなかった。


「ふ〜ん、見晴ちゃん、そうなんだ……よぉし」






「おまたせぇ〜。はい、メグちゃんはイチゴね」
「ありがとう」


愛は見晴から受け取ったかき氷を頂くことにする。結局おごってもらったことになるので、あまり文句を言うつもりもないらしい。ちなみに見晴のかき氷はブルーハワイだ。
さっそく2人ともかき氷を食べてその涼に浸る。嬉しそうな見晴に比べて、愛は感情を見せない顔をしている。


「ふぅ〜、今日は暑いからかき氷はいいよねぇ〜」


「見晴ちゃん……今度見晴ちゃんが原稿に穴明けたらまた創作怪談書くことにしたから……」


「げっ……」


愛のぽつりと言った一言で見晴の顔から一気に血の気が引いた。


「メグちゃん!あれだけはやめて!あれは洒落になってないから!」
「そう?」
「そうだよ!『自分の血が流れる蛇口』みたいなの怖すぎるから!」
「話としてはありそうだと思うけど……ほら、蛇口からいろんな物が流れるって噂はあるから……」
「血とポンジュースを一緒にしちゃだめ!『学校のどこかの蛇口を捻ると自分の血がそこから流れて、最後には自分の体内の血が無くなって死ぬ』ってみんな本気にしちゃったんだから!」
「だって、おおきく『創作』って書いてたけど……」


いたって平然としている愛に対して見晴は明らかに怖がっている。


「おまけにあの次の夜に、だれかがあちこちの蛇口の下にトマトジュースをぶちまけて、学校中大パニックになったんだから」
「あ、あれね。あはははは……」
「結局犯人は見つからずじまいで、しばらく学校の水道を誰も使わなかったって話だよ。またそんなことが起こったらどうするの?」
「ま、まあそんなことはないと思うけど、嫌だったら原稿書いてね♪」
「はい……」


にっこり笑う愛に対して見晴は素直に頷くしかなかった。
どうやら見晴は取材は好きだが原稿書きが嫌いらしい。別に書くのが苦手というわけではないみたいだし、学校での成績も優秀なのに、こういうことは嫌がって逃げまくっているらしい。






2人ともかき氷を食べ終わり、見晴が立ち上がる。


「さて、かき氷もおいしかったし、さっそく取材に行こう!」
「うん、そうだね」


「で、どこに行くのかしら?」


「「えっ?」」


2人の会話に勝手に割り込んできた声が真横から。2人は驚いてその方向をみるとまた驚いた。


「まったく、気づくの遅いわね。あなたたち、それでも新聞部なのかしら」


「「あっ……」」


声の主は2人と同じ学校の紐緒結奈。いつの間にか2人が座っていたベンチの横のベンチに座っていた。
ところで、見晴と愛の2人は立ったまま固まってしまっている。2人の視線は結奈の全身に注がれていた。その視線に結奈は不機嫌な表情を見せる。


「なによ、その視線。私がこれ着てはいけないわけ?」
「そ、そんなことないよ。い、いや、紐緒さんの浴衣って珍しいなって、ほら、いつも白衣だから、あはははは……」
「白衣以外の服ぐらいあるわよ。他に何か言いたそうだけど」
「い、いや、あの、その……」


言葉がとぎれとぎれで返事がうまく返せない見晴と愛。目の前の結奈の格好は紺色の浴衣姿。折り鶴の柄がちりばめられたその浴衣は不自然ではなく、2人の想像以上に綺麗に着こなしている姿に脳が混乱している。


「お待たせしました……ん?どうしたんですか?あれ、そこにいるのは、館林さんと美樹原さんですか?」

「「!!!」」


その2人の脳を両手にソフトクリームを持って現れた男性がさらにかき回すことになる。クリーム色の半袖のシャツの男性は2人も知っている人。


「え、え、え〜と、あ、あ、あ、蒼樹くんだっけ?」
「そうですけど、なにか?」
「ど、どうして紐緒さんと……」
「はい、ボクの街の花火大会がとても有名だと知ったので誘いました」
「そういうわけよ。他に聞きたいことはある?」
「はい、ありません!それでは失礼します!」
「失礼します……」


見晴と愛は逃げるようにその場から立ち去った。






煉瓦道ではあるが、先程の場所からかなり離れたところに2人は逃げてきた。
お祭りのメイン会場から少し離れた場所なので、人も少なく、ベンチもすぐに見つかり座ることができた。
冷や汗をかいて、また喉が渇いたらしく、2人の手には冷水で濡れたお茶のペットボトルが握られていた。
それを開けて飲みながら、見晴と愛は先程の出来事を確認し合っていた。


「メグちゃん。確かにB組の蒼樹くんだよね?アメリカから留学してきてなぜか電脳部に入っちゃった、あの蒼樹くんだよね?」
「そこまで説明してもらわなくてもわかるけど……確かに蒼樹くん。でも、科学部と電脳部は同じようなもんだから一緒だって不思議は無いと思うけど……」
「それだとしても、あの紐緒さんが浴衣着る?あの紐緒さんが、わざわざここまで来たんだよ。花火だけ見に」
「う〜ん、たしかに……」
「ねぇ……まさかとは思うけど、もしかして、もしかして、もしかして……」
「……こわい……」


口数が少しずつ減っていき。黙ってしまった2人。


「いいネタだけど……どうする?見晴ちゃん」
「無理無理無理無理!ネタにしたら殺されちゃう!」
「……それはそれで怖くておもしろそうだけど……」
「冗談でもやめて!いくら私でもこれを記事にする度胸はない!それに確たる証拠はないし!」
「憶測だけでも記事にしてるのを、今まで結構見てるんだけど……」
「ごめんなさい!もうしません!だから、記事にしろなんて言わないで!
「なぁ〜んだ、残念」


見晴もその先を考えると記事にするのはやめたようだ。






ドーン!!!



そんな2人の上から突然大きな音。


「あっ、花火が上がり始めたね」
「えっ?メグちゃん、もうそんな時間?」
「うん、そうだよ」
「じゃあ、ゆっくりと花火を見るとしますか」
「それがいいと思う」


そんなわけで、2人は取材を少し忘れてじっくりと花火見物を楽しむことにしたのだが、愛が周りを見渡してあることに気づいた。


「見晴ちゃん。そういえば、ここって人が少ないね。会場からそんなに離れていないのに」
「本当だ。あっちに比べると確かに少ない。それなりに人がいるけど、これなら窮屈じゃないしベンチに座っても楽に楽しめるね」
「お勧めスポットかも」
「うん、これは記事にできる!ああ、これで記事の心配もなく楽しめるな」


偶然にも見物スポットも見つけた2人はあとは気兼ねなく花火を楽しんでいた。


「見晴ちゃん。その携帯でうまく花火撮れるの?」
「意外とうまくいきそう。本当にそうかは後のお楽しみかな。もし、上手く撮れれば待ち受けにも使えそう」
「ふ〜ん、じゃあ楽しみにしてるね」


そんな会話も挟みながら、じっくりと花火鑑賞。次々に打ち上がる綺麗な花火に2人ともうっとり。


「綺麗だね……」
「うん……」


2人はうっとりと花火を鑑賞し続けていた。






そんな花火大会もあっという間に終了。
駅に向かう人の流れにのって2人ともホテルへと向かう。


「あ〜首が痛い……」
「わたしも……」


2人ともずっと上を向いたままだったのか、首が疲れてしまったようだ。2人とも首の後ろを叩いたり、首を曲げたりしながら歩いている。


「でも楽しかったね、メグちゃん」
「うん、花火が思った以上に綺麗だった。来てよかったね」
「食べ物もおいしかったし!いい見物スポットも見つけたし!また来年も来ようね?」
「うん、来年も来たいけど……」
「どうしたの?」
「見晴ちゃん……まわり見て」
「えっ、周り……あっ……」


2人の周りはカップルだらけ。浴衣姿で並んで歩いていたり、浴衣ではないけど腕を組んで歩いていたり。周りがみてもわかるぐらいベタベタアツアツのカップルが結構多い。
見晴もその状況に気づいてちょっと表情が暗くなる。


「私はやっぱり、彼氏見つけて一緒に来たいな……」
「そう言うメグちゃんは目星はあるの?」
「ない……見晴ちゃんもないでしょ?」
「あったら誘ってるよ!」
「そうだよね、はぁ……」
「はぁ……」


少し前は上を向いてうっとりとしていた2人が、今では下を向いてしょんぼりとしている。


「見晴ちゃん。ホテル着いたらやけ酒してもいい?」
「お酒って……メグちゃん飲むの?」
「少しだけだよ……見晴ちゃんは?」
「実は私も少しだけある……それに正直言うと私も飲みたいなぁって。だって悔しいじゃない!」
「せっかくのお泊まりだから、羽目はずそ」
「それ賛成。もう飲んであのベタベタカップルのことなんて忘れたい!」


2人のお祭りはホテルに戻っても続くことになりそうだ。
しかし、まあこれも2人にとっては花火大会のの楽しい想い出の一つになることは間違いない。
To be continued
後書き 兼 言い訳
お待たせしました。花火大会編です。

間隔長すぎ(汗

後半部分がまったく思い浮かばずにこんなに時間が掛かりました(汗
まあ山ナシ、オチナシな感じもしますが、こんな感じもあっていいいのでは?はい、どう見ても言い訳ですね、はい。

さて、次も1キャラ話です。
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