第15話目次第17話

太陽の恵み、光の恵 外伝

第1集 不良少女と呼ばれて〜詩織と公人〜

Written by B
公人が短期留学から帰ってきた。

1ヶ月という短い期間だったが、たくましくなって帰ってきた。
顔つきもりりしくなり、体つきも一回り大きくなったように見える。
もちろん周りの人から注目されるようになった。
公人の周りには人が男女問わず集まるようになった。

そんな公人は詩織は遠くから見ているだけだった。



「高見くんが帰ってきたときの感想は?」
「『かっこいい……』ってその一言だったわね」
「やっぱりね。で、帰ってきたときに高見くんに会ったの?」
「会わなかったわ」
「なんで?」
「だって、タバコふかして変な制服で……会えるわけないじゃない」
「高見君からは?」
「帰ってきた日に私に会いに家に来たみたい。でも、『気分が悪い』って言って会わなかった。会いたくなかった。実際、あの事件まで一度も顔を合わせていなかった。おかしいよね。あれだけ会いたかったのにいざその日になると避けちゃうなんて」



公人が帰ってきても詩織の素行は悪かった。

授業は聞いてない、居眠りは茶飯事。
タバコはふかしっぱなし。
竹刀をもって、近づく人を容赦なくたたきまくる。

実はこれ以外はなにもしていないのだが、生徒・先生たちの評判は最悪だった。



「本当になにもしてないの?」
「してないわよ。学校からでたら家へ一直線。帰宅だけはいい生徒よ」
「まあいいわ。で、家ではなにしてたの?」
「部屋にこもってハードメタル聞いて、官能小説読んで、木刀振り回して……そんな感じ」
「どんな感じなのよ。なんかツッコミすぎて疲れちゃったわよ」



そこで事件が起きた。
深夜に学校の1階の廊下の窓ガラスがすべて割られるという事件が起きた。

伊集院家のセキュリティが行き届いている中での犯行だけに学校中話題騒然となった。

そんなときに詩織が真っ先に職員室に呼ばれた。
渋々詩織が職員室に行くと教頭がどなりちらしてきた。


「藤崎!1階の廊下はおまえだろ!」
「………」
「学校中であんなことする奴はおまえしかいない!」
「………」
「黙っても無駄だ!いい加減謝れ!」
「………」
「だったら警察につきだしてきっちり調べてもらうぞ!」


詩織は何も言わない。
しかし、教頭を始め、周りの教師は全員詩織に冷たい視線を突きつける。
「おまえが犯人だろ」と言わんばかりの冷たい視線。



がらがらっ!



そんなときに扉を開ける大きな音が職員室の中に響いた。

「公人……」

詩織がそうつぶやく間に、公人がどかどかと歩み寄り、詩織の横に立つ。
そして教頭に向かって言い放つ。


「教頭!なにか証拠はあるんですか?」
「それは……」
「理由もないのに、勝手に詩織を犯人にするのはなぜなんですか?」
「それは、だって、ねぇ?」
「だってじゃありません!
 詩織は昨日の晩はずっと部屋にいました!
 詩織の部屋は俺の部屋と向かいだからわかるんです!
 だいたい詩織はそんなことする奴じゃない!」
「じゃあだれが……」
「そんなの俺でもわかりませんよ!
 そんなに詩織を警察に突き出すのなら、俺を共犯者として一緒につきだしてくださいよ!」
「公人!」


初めて詩織が声を出した。
そんな詩織に目もくれず公人は教頭の顔をじっとにらみつける。


「そ、そこまでいうから信用しよう……」
「当然です!」
「もう用件はすんだから帰れ!」
「言われなくても帰ります!」


そういうと公人は詩織の背中を無理矢理押して職員室から出て行った。



「あのとき『あの高見が、あの藤崎をかばった』って話題になったよね」
「はっきりいって、みんなが私が犯人だと決めつけてた。もしかしたら、私が犯人だと言わない限り収集がつかなくなると思ったぐらい」
「だからうれしかったでしょ?」
「公人があそこまで言ってくれるなんて思わなかった。『共犯者にしてもいい』、なんて普通言わないわよ!本当に泣きたくなるぐらい嬉しかった……でも……」
「でも?」
「公人を巻き添えにしちゃった、という思いが強くて……実際、あれで公人の評判がかなり落ちちゃったでしょ?このままでは公人が私と同類に見られちゃう。公人を私から遠ざけなきゃ……って気持ちが一気にわいてきて」
「つらいよね」
「ええ、あれだけ側にいて欲しかったのに、そうして欲しくないなんて……あのときは辛かった」



教室をでて、扉を閉めると、公人は詩織の前に回り、両手を詩織の両肩に乗せた。
そしてにっこりとほほえむ。


「ただいま、詩織」


その一言に冷たかった詩織の表情が崩れかかった。
泣き出しそうに見えた。
しかし、詩織は泣く寸前に首を横にぶんぶんぶんぶんと振り回して、それを止めた。
そして言い返した。


「近寄るな!私の側にいたら公人のためにならないから!」


そう言って詩織は猛然と走りだした。
公人の声が後ろから聞こえるがそれには答えず、猛然と走った。
家まで猛然と走った。



そして部屋に入ると詩織はベッドで大声で泣き始めた。
その鳴き声は夜遅くまで続いた。



「でも、高見くんは詩織さんの側にいたんでしょ?」
「ええ、私が辛くなるぐらいにね……」



「ところで、あの事件って結局迷宮入りみたいだけど犯人は知ってる?」
「そんなの紐緒さんしかいないでしょ?」
「あっ……」
「あとで聞いたんだけど、セキュリティをはずして校舎の耐震実験を始めたのはいいけどやりすぎたんだって」
「………」



「ところで、奈津江はあの事件はどう思ったの」
「詩織が怪しいって話は聞いたけど、すぐ違うって思ったわ」
「えっ、なんで?」
「詩織が窓ガラス割るなんて面倒なことするわけないでしょ。詩織だったらもっと効率よく被害が大きい方法考えるに決まってるから、だから詩織じゃないって」
「私じゃないって思ってくれただけでも嬉しいけど……なんか引っかかるんだけど」
To be continued
後書き 兼 言い訳
公人君が登場です。
ここからは詩織と公人の話だけに特化していきます。
シリアス?ながらも馬鹿馬鹿しいところを入れていければと思います。

次回からも公人くんが活躍する、かなぁ?
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