※今回は18禁をイメージさせるシーンがあるので、精神的おこちゃまは読まないでね。ショック受けても私は責任は取りません。
「公人は私を追いかけてくれる。私が公人にどんなことをしようとも……だから」
「だから?」
「公人が私にひどいことをさせて、私がそれを理由に公人を突き返す……それしか思いつかなかった」
「ふむふむ……それで」
「………」
「?」
「………」
「詩織?」
詩織が突然黙ってしまう。
顔をうつむかせ、何度も深呼吸をしているように見える。
そして顔から汗がにじんでいるようにも見える。
「奈津江……お願いがあるの」
「なに?」
「他のことはベラベラしゃべってもかまわないけど……これだけはだまってて欲しいの」
「他のことも言わないわよ。私の話も詩織はしゃべってないじゃない。それと同じ」
「あともう一つ」
「なに?」
「今度の話は……覚悟がいるわよ……それでもいい?」
「いいわよ」
詩織の表情が真剣なものに変わる。
今まで見たことがないぐらい真剣な表情。
さすがの奈津江も緊張感が漂う。
「一気に話すからね……」
ある日の深夜。
ガンガン!ガンガン!
「公人!公人!」
詩織は自分の部屋の窓から公人を呼び出した。
詩織はピンクのパジャマ姿。
向こうから青のパジャマ姿の公人が窓を開けた。
「なんだよ。こんな時間に」
「とにかく来い!」
「なんだよ、こっちへ招く手は。ここから来いってことか?」
「当たり前じゃない!」
「……わかったよ」
渋々と窓から詩織の部屋に入って来る公人。
「しかし、俺が窓から来るなんて何年ぶりだ?」
「本当ね。ほら、公人、飲め!」
そう言って、詩織はすでに開けてある缶ビール300ml缶を公人に渡した。
公人はその缶をじっとみつめてつぶやいた。
「……嫌とは……言わせないんだろ……わかったよ……」
そういうとビールをぐいっと一気飲みした。
「それで……いいのよ……それで……」
詩織もだまってぐいっと飲み始めた。
二人は黙々とビールを飲んでいる。
それでも少しずつ話が始まる。
「詩織……ビールはやめたほうがいいぞ……」
「いいじゃない。私の勝手でしょ」
「タバコもいい加減にしたらどうだ?」
「好きで吸ってるのよ。何も言わないでよ」
「あのなぁ〜、俺は詩織を心配してるんだぁ〜……ヒック……」
「……ヒック……私も公人の事をかんがえてるんだぁ〜からぁ〜」
「俺は〜、詩織が〜、いつもの〜〜〜、詩織になって欲しい〜〜〜なぁって思ってなぁ〜……」
「私は〜、公人の評判が〜、落ちないよ〜〜に、嫌われないよ〜〜〜うにって……」
「そんなことしなくても詩織は普段の詩織でいればいいんだよ!」
「普段の私って何よ!私はそれが嫌でこうなってるのよ!」
「人の目なんていいじゃないか!俺がいるだろ!」
「そんな事言ったら、公人も学校のやっかいものになっちゃうわよ!」
「そんなの関係ない!」
「関係ある!公人まで私の巻き添えにしたくないの!」
「俺は詩織の巻き添えになってもかまわない!」
「それは私が絶対に許さない!公人が落ちたらもう戻せない!」
黙々とした話し合いから、酔いが少しずつ回ってきている。
そして酔っぱらった会話から、いつしか怒鳴り合いになっている。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
お互いの目を見つめたまま、ぜいぜいと息を吐いている。
顔も赤くなっており、体もほんのりと赤くなっている。
「じゃあ、俺の気持ちはどうしたらわかるんだよ……」
「………」
公人のこの一言を聞くと、詩織はごくりと息をのんだ。
そして、詩織は何度も深呼吸をし始めた。
公人はその様子を息をぜいぜいと吐きながらじっと見つめている。
「お、お、お……襲ってよ……」
「なんだって……」
「そこまで私に気があるなら、襲ってみせてよ!
男でしょ!態度で見せてよ!
今なら私と二人っきりで、扉には鍵がかかってある。
男なら甲斐性見せてよ!」
「………」
詩織が一気にまくし立てた。
「………」
公人はそれを聞いて黙っていた。
しかし、公人の体がブルブルと震えだす。
「うっ……い、いかん……はぁ、はぁ……」
公人は自分自身を抱きしめ、必死にその震えを押さえようとしている。
しかし、震えはとまらない。
「ほらほら!どうしたのよ!」
公人の我慢はそこまでだった。
「も、もうだめだぁ!……うおおおおぉぉぉぉぉ!」
「きゃぁぁ!」
公人がいきなり詩織に襲いかかった。
3時間後。
「………」
「………」
すべてが終わった。
今は、パジャマを再び着たが床に正座の格好で向かい合っている。
二人の中央には鮮血がこぼれていた。
公人は正気に戻っている。
そして現実を思い知っていた。
公人は頭を床にこすりつけていた。
そんな公人を見下ろす詩織の顔は冷めていた。
「詩織……俺は……俺は……なんてことを……」
「………」
「どうしたら……」
「謝らないで」
「えっ?」
「あ、あ、あ……謝ってもどうもならないでしょ?
わ、私をこんなにしておいて!
こ、これで、わかったでしょ!
も、も、もう……もう私に近づかないでよ!
お願いだから!
か、顔も見たくない!」
「………」
「出て行ってよ!」
「………」
詩織の言葉に公人は何も返事せずに窓から自分の部屋に戻っていった。
二人の部屋の間にはすぐにカーテンが引かれた。
「わぁぁぁぁ〜〜〜〜!!!」
「あぁぁぁぁ〜〜〜〜!!!」
その後、2人の部屋からはそれぞれの絶叫がしばらく続いていた。
「はぁ……はぁ……言ったわよ……」
詩織はぜいぜい息を吐いていた。
「詩織……」
奈津江は両手を口に当て、床にへたり込んでしまっていた。
絶句するしかなかった。
顔にはショックの色がありありと見えている。
一言だけ言うのが精一杯だった。
「そうなの、これが事実なの……公人は私をレイ……ううん、私が公人をそそのかして……」
「………」
奈津江は未だに何も言えない。
しかし、詩織も立ってはいるものの顔が青く、体も震えている。
ついに詩織はふらふらと後ろに倒れてしまう。
「………」
「詩織!」
奈津江が慌てて立ち上がり、詩織を抱きかかえたので、頭を地面にぶつけることは免れた。
詩織の顔は真っ青だった。
「保健室!すぐに連れて行くから!」
「ごめんなさい……お願い……」
奈津江は詩織の肩を担ぐと、屋上から保健室へと場所を移した。
保健室、奈津江は保健室の先生に貧血ということで、詩織をベッドに寝かせてもらうように頼んだ。
先生はちょうど会議があるとかで、部屋の鍵を奈津江に渡すと保健室から出て行った。
今は奈津江と詩織の二人っきり。詩織はベッドで寝たまま。
奈津江はそのベッドの横にある椅子に座っている。
「詩織、公人に襲わせたってこと?」
「そうなの……自分がやったのにトラウマになってる……この話をするとよくこうなる」
「なんでそんなトラウマになってまで……自分の体を傷つけてまで……」
奈津江が言ったことに、それまで弱々しかった詩織の声が張りあがる。
「じゃあ、どうすればよかったのよ!
簡単な事なら、公人は必死に謝ると思う。そうなったら私は許してしまうと思う。それじゃあ意味がないのよ!
謝っても許されないことじゃないと、私は公人を突き放せない!
公人が私にやれる最悪の事って言ったら……これしかないじゃない!
私の体と心を公人にズタズタに傷つけさせること以外に何があったのよ!
ねぇ、教えてよ!あのとき私はどうすれば公人を突き放すことができたのか!私は今でも答えが見つからないのよ!」
詩織は泣きながら奈津江に訴えかけていた。
「ごめん……私もわからない……知らなかった、詩織がそこまで追い込まれてたなんて……」
奈津江はそういうしかなかった。
今度は詩織はゆっくりとした口調で話し始めた。
「本当はいい答えがあったかもしれない。私が公人の言うことを聞いて更正すれば一番よかったと思うけど、それだけは論外だったからね。私もレディコミの読み過ぎだし、公人を突き放すことだけを考えてたからこんな事になったと思う。公人は私の陰謀にはまっただけ、何も悪くない」
「それにしても、高見くんはなんでそんなに凶暴に?」
「実はね、開けた缶ビールに強力な興奮剤と媚薬を入れたの。私のと公人のと両方に。紐緒さんからもらったんだけど、もらうときに一言
『後悔するわよ』
って言われた。確かに、使ってみて後悔だけが残った」
「高見くんとはこの話は?」
「この話になると今でも喧嘩になるわ」
「何で?」
「『これが私がしくんだから、公人はなにも悪くない!』
『俺がセーブすれば詩織は何も傷つかなかった。全部俺が悪いんだ!』って。
お互いに自分が悪い、って言い合ってね」
「そうなんだ……紐緒に記憶を消してもらうことはしないの?簡単でしょ?」
「それはやっちゃいけないと思ってる。たしかにお互いの身も心もズタズタに傷ついてる。記憶を消せばすぐに楽になれる。でもそれは逃げていることになる。逃げちゃいけない。これは素直になれなかった自分たちへの罰なんだ、って言い聞かせて、真正面から向かい合おうとするんだけど、いつもこの喧嘩になって終わっちゃう」
「………」
「でも、これがピーク、私と公人のごたごたの……」
後書き 兼 言い訳
姉さん、事件です。
ということで大事件です。
冒頭にたっぷり警告書こうかと思ったけどあのレベルにしました。
書く気もなかったのですが、一応書かないと、今は色々あるから(汗
個人的には盛り上げだけの18禁的事件は書きたくないのですが、
この2人はここまでしないと、今の2人の愛の深さが表現できないと思ってしまったものですから。
さて、その後公人はどうしたのか?次の話はそれがメインです。
はぁ、ようやく話が終盤に入る(汗