太陽の恵み、光の恵 外伝
第1集 不良少女と呼ばれて〜詩織と公人〜
その20 それでも来る訳
Written by B
「……あれ?」
詩織は気が付いたときには朝だった。
自分がベッドの上で寝転がっていたのに気が付いた。
「あっ……朝なんだ」
詩織はゆっくりと起きあがり、窓の向こうを見る。
カーテンは閉まったまま。
「これで公人は私から離れて自由になれるんだよね……これでいいのよね」
小さい声でぼそっとつぶやいた。
そしてそのまま動かず、じっとカーテンを見つめていた。
「……これでいいのよ」
詩織は再びベッドに倒れ込んだ。
「これでいいのに……どうしてこんなに胸が苦しいの?……いや……」
その日、詩織は気分が悪いと言い張り、学校に行かなかった。
「一応皆勤賞だった詩織が休んだってことで、ちょっとした騒ぎになったのよね」
「そうなんだ」
「しかも、高見くんも休んだから、色々憶測もあったみたい」
「えっ?公人も?」
「たしかそうだったよ。あれ?知らなかったの?」
「知らないわよ!公人は私を見捨てて行ったを思ったから」
「たしか早乙女の話だと気分が悪いとか言ってた記憶があるんだけど。本当に知らなかったの?」
「うん」
翌日。
朝起きた詩織はカーテンの向こうをじっと見つめていた。
「もう公人は学校行ったんだろうな……」
すると、階下から足音がどたどたと近づいてきた。
そして部屋の扉が開いた。
「あっ……」
そこには公人が立っていた。
「詩織……学校に行こう……」
「………」
「………」
二人の間に沈黙が走る。
詩織が立ち上がり、公人の前に立つ。
バチン!
部屋に平手打ちの冷たい音が響く。
「なんで……なんで来るのよ!あんな事しておきながら何で来るのよ!」
「詩織、そのときの気持ちってどうだったの?」
「もうめちゃくちゃ。そのとき私の中に二人いたの。私を犯しておきながら目の前に現れた公人に怒っている自分と公人が来てくれたことにとても喜んでいる自分。二人の自分が混じり合って、何がなんだかわからなくなっていた。気が付いたら公人を撲ってた」
公人は撲たれた頬をじっとさすっている。
「許してくれ……なんて、言える立場じゃない。
だけど、これだけは言える。
俺は、詩織を見捨てるなんて事はできない」
「………」
「早く準備しろ。おれはそこでいつまでも待ってるからな……」
公人はそういうと部屋から出て行った。
そして扉が閉まる。
扉の向こうでは公人が廊下に座るような音が聞こえてきた。
「………」
詩織はその扉をじっと見つめていた。
それからも公人は相変わらず毎日詩織を学校に連れに来た。
公人は詩織の顔を見ずに何も言わなくなったのがあの日以来変わっただけ。
詩織はそれに何も言わずに公人に連れられて学校に行った。
二人は顔を合わさない。
視線が交差することもない。
しかし、学校に行くときに組まれた手はあの日以前よりも力強く、絶対に離れることはなかった。
二人に興味を示す生徒もごく少数になってしまっていた。
「結局、高見くんと一緒に学校に行ったんでしょ?」
「そう、前と何も変わらなくなっちゃた」
「それでよかったの?」
「全然。でも、次第に考えるようになっちゃった」
「何を?」
「本当に私は公人が遠ざかるのを望んでいるのか?本当の私はやっぱり公人を求めているのでは?毎晩、毎晩、ベッドの上で体育座りしながらじっと考えてた。1週間ぐらい考えてたかな」
「それで結論は?」
「やっぱり、私は公人が好き。公人の近くにずっといたい。それがわかったとたん自分に絶望した。だって、公人の側に一番いちゃいけない人間に私がなってたから今までのやり方が間違っていたんだって」
「………」
「自暴自棄っていうのは、このことを言うんでしょうね。その次の日からずっと荒れてた。もう自分でも訳がわからないぐらい」
「そのときにあれをやっちゃったわけ?」
「そうなの……」
To be continued
後書き 兼 言い訳
あまり大きな事件はありません。
詩織、というよりも公人も苦悩していたことがわかっていただければ。
次話で、いよいよ詩織が大事件を起こします。
ええ、こんなこと他のSSでやっているところ見たことがないぐらいの事件を。