第20話目次第22話

太陽の恵み、光の恵 外伝

第1集 不良少女と呼ばれて〜詩織と公人〜

Written by B
詩織が自分で公人のことを求めていたのに気づいた日。
あの日から詩織は荒れていた。

これまでの詩織はいくら不良といっても、1人でやっていただけだった。
しかし、今度は違った。

近くの女の子に勝手に因縁をつけると、容赦なく蹴りつける。
木刀を持っていれば容赦なくたたきつけた。
木刀を持っていたときは男でも関係がなかった。

理由なんてない「むかついたから」だった。


「たしかにありがちな理由だけど……なんで?」
「本当にむかついたのよ。私がこれだけ悩んでいるのにみんなはお気楽なご様子で……」
「それって、八つ当たりじゃないの?」
「その通り。でも奈津江、八つ当たりしたくなることってあるでしょ?」
「私も何度もあるわよ。だから、わからないことはないけど……」



下校時は公人とは一緒にいなかった。

「まっすぐ家に帰る!絶対に帰る!」

と言い張り、心配する公人を無理矢理部活に出させていた。




しかし、本当はまっすぐ帰っていなかった。

詩織は伝説の樹の下にいた。



「………」

詩織は伝説の樹の真下に立ち、上をじっと見つめていた。
そしてぼそっとつぶやく。

「ねぇ、教えてよ。私、どうすればいいの?」

伝説の樹は何も答えない。

「私は公人が好き。でも、私が公人の側にいちゃいけない。じゃあどうすればいいの?」

やっぱり何も答えない。

「ねえ、霊験高らかなんでしょ?何とかしてくれないの?」

しかし何も返事はない。

「また明日答えを聞きにくるから……」

そうつぶやくと、詩織はようやく家路についた。



「本気で伝説の樹に聞いたの?神仏信じない詩織が?」
「本気よ。もう頼るのがそこしかなかったから」
「でも相手は樹だよ。返事をくれると思ってたの?」
「ええ、答えでもなくても、何か心を変えてくれるものが欲しかったかもしれない」
「それも答えてくれなかったんでしょ?」
「ええ、今考えれば当たり前よね。それなのに、自分で勝手にキレちゃった」



一週間経った。

詩織は放課後に伝説の樹の下に立つが答えはいっこうにもらえなかった。
ついに詩織がしびれを切らせた。

「ねぇ!何か言ってよ!」

そのとき、強い風が樹に向かって吹いた。

その風により、枝葉ががさがさと揺れる。

その音が詩織の耳に声のように聞こえてきた。



「笑うんだ……私を馬鹿にしてるんだ……」



詩織には自分をあざ笑う声に聞き取れてしまっていた。
詩織の我慢も限界だった。


「樹のくせに生意気よ!あんななんかこうしてやる!」



詩織は鞄から金属製の釘抜きを取り出した。
そしてそれを持つと、樹の幹に向かって振り下ろした。


がしっ!


樹の皮が少しはがれる。
詩織は何度も振り下ろす。


がしっ!がしっ!がしっ!


伝説の樹の中が見えてくる。
詩織の目は正常ではなかった。


「てめぇなんか!てめぇなんか!」


樹がだんだんと傷ついていく。
樹の中が段々と見えてくる。




「なんで、釘抜きなんて持ってたの?」
「最初からこんなことになるんじゃないかと思って、お父さんの工具箱から持ち出した」
「最初から傷つけるのが目的で?」
「うん……なんとなくね……」



「おい、やめろ!」
「詩織ちゃん!やめなさいよ」

詩織の奇行に気づいたのは好雄と夕子だった。

「うるさいわね!私の勝手でしょ!」
「そんなわけないだろ!」
「だから、やばいって!」

暴れる詩織を好雄と夕子の2人がかりで押さえ込む。
好雄が後ろから詩織を羽交い締めにし、夕子は詩織の手から釘抜きを奪おうとする。

「この樹を傷つけると呪われるって知らないのか?」
「知ってるわよ」
「じゃあなんで!」



「そんなの関係ないわよ!呪うのなら呪ってみなさいよ!私を馬鹿にしやがって!それが伝説の樹のやることなの?なによ、文句あるなら言ってごらんなさいよ!」



詩織の大暴れは2人が学校から連れ出したところでようやく収まった。
ちなみに、このとき公人は部活の遠征で学校にいなかった。



「そうとう傷つけちゃったよね」
「ええ……後で聞いたんだけど、あれ以上やったら樹が死んでたかもしれないって」
「うわぁ……」
「でも、あの状態の私にそんなこと考えている余裕はなかったわよ」

「ところで、本当に伝説の樹は笑ってたの?」
「そう聞こえてたと思う」
「まあ、詩織のその状態じゃ、そう聞こえてもおかしくないわね」




「そういえば、これは犯人不明のままうやむやになったけど、奈津江は真っ先に私を疑ったわね」


実は奈津江は後日、久々に二人きりの状態になったときに真っ先に『伝説の樹をヤったの詩織でしょ?』と聞いている。
詩織もストレートに断言して聞いてくるからから素直に認めるしかなかった経緯がある。


「もちろんよ。『遂にやっちまったか』って心の中で嘆いたわよ。よく学校が詩織を疑わなかったか不思議なぐらいよ」
「窓ガラスのときは疑わなかったのに、なんで?」
「だって伝説の樹でしょ?そんな樹にあんなことをする、とち狂ったことをする人は詩織以外いないわよ。さすがの紐緒も実験材料を破壊することまではしないし」
「………」




「それでどうなったの?」

「それで次の日が来ちゃった……私が呪われた日……あの日はたぶん一生忘れないと思う」
To be continued
後書き 兼 言い訳
姉さん、また事件です。
詩織さんがキレて伝説の樹を滅多切りにしてしまいました。
溺れる者がつかんだ藁に笑われてしまった感じなんでしょうね。

いよいよ次か、その次がクライマックスになります。
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