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太陽の恵み、光の恵 外伝

第1集 不良少女と呼ばれて〜詩織と公人〜

Written by B
そして、次の日。
運命の日は普通に朝を迎えた。

「どうしたのかしら……今日は遅いわね」

あれだけ嫌がっていたのに、既に制服に着替え終わり、べっどに座って公人が迎えに来るのを待っている詩織。
しかし、今日は公人が来るのが遅い。
そう思っていると階下で扉が開く音がかすかに聞こえる。

そして詩織の耳に聞こえてきたのは、詩織の母の驚いたような声だった。

「なにをいまさら驚いているのかしら?」

詩織は無視していると、階段を登る足音が聞こえてきた。

「公人は今日はどうしたのかしら?」

今日はその足音が遅い。
そしていつもよりゆっくりと扉が開く。

「詩織……」
「公人!」

詩織は公人の姿を見て驚愕した。




「ねぇ、一体なにがあったの?」
「びっくりしたわよ。公人が顔を真っ赤にしてフラフラで立ってるんだから」
「真っ赤?」
「公人……高熱だったのよ。それもあまりに異常なぐらいに」
「そんなに?」
「ええ、もう血の色よりも真っ赤。さすがの私も慌てたわよ」



詩織は飛び起きて公人の側に駆け寄る。
公人は目がうつろで、今にも倒れそうなぐらいにふらついている。
詩織は公人の腕をつかむようにして公人を支える。

「ちょっと!どうしたのよ!」
「なんでもない……」
「どこが!」
「ちょっと熱っぽいだけだよ」
「ちょっとって……」

詩織は右手を公人の額に当てる。


「熱い!」


詩織は今まで経験したことのない熱さに思わず手を離す。


「この熱は異常!すぐに休みなさいよ!」
「だめだ…俺は…詩織を…学校に…」
「そんな事言ってる場合じゃないわよ!」
「俺の事…は…心配するな…詩織は…自分の…ことを…心配…しろ」
「公人……」
「………」

公人の体がゆっくりと前に倒れる。
詩織はさっき腕を放してしまっており、対処できない。



バタン!



そして公人は力無く床に倒れ込んでしまう。



「公人!」

詩織が公人の体を起こそうとするが、体がだらんとしてしまっていて、起こせない。
それでも公人の体を膝の上に乗せ、なんとか仰向けの格好にする。

「公人!しっかりして!」

しかし、公人の返事はない。
目をつぶり、頭もだらんと垂れてしまっている。
意識がまったくない。

「公人!公人!公人!お願いだから!しっかりして!ねぇ、公人!」

詩織が必死に体を揺さぶるが公人の意識はまったく戻らなかった。



「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


詩織の絶叫が部屋に響き渡る。



藤崎家の前に救急車が現れるのはそれからまもなくのことだった。



「パニックだったんじゃ……」
「そのとおり。私はもう気が動転していて、救急車を呼んだのはお母さんだったの」
「そうでしょうねぇ」
「私はわけがわからないうちに救急車に同乗して、気がついたら病院だった」
「じゃあ、学校への連絡も詩織のお母さんが?」
「こっちは私の分も一緒に公人のお母さんがやってくれたみたい。たぶん私が学校に行くのは無理と判断したのかもしれないわね」



「そういえば、高見くんが倒れたのは朝でしょ?それから詩織は何してたの?」
「病院で入院予定の部屋で、公人が帰ってくるのをずっと待っていた。もう公人の事が心配でそれしか考えられなかった。お昼とか夕食とか食べることもできなかった。もう頭の中は公人のことでいっぱいいっぱい。結局、公人が戻ってきたのは夜の8時頃」
「そのときはお父さんお母さんも一緒に?」
「公人のお母さんが一緒にいてくれた。それと学校が終わってから好雄君と夕子ちゃんも一緒」
「えっ?あの2人も?」
「うん。私はそこまで見てなかったけど、お母さんが言うには2人とも顔を真っ青にして飛び込んできたみたい」



「落ち着いたのか?」
「そうみたいだね」
「………」

夜の病室。
ひとり部屋の病室のベッドでは公人が眠っている。
その横には詩織と好雄、夕子がいた。
詩織は丸椅子に座り、その後ろで2人が立っていた。

好雄は重い口調で話し出す。


「今日学校は二つの事件で大騒ぎになってたんだ。
 一つは公人が原因不明の熱病で倒れたこと。
 もう一つは伝説の樹が何者かによってズタズタに傷つけられたこと」

「………」

「伝説の樹を傷つけた犯人は不明のままだ。俺たち以外に誰も見ていなかったらしい」

「………」

「藤崎、伝説の樹の呪いってどんなものだか知ってるか?」

詩織は首をゆっくりと横に振る。





「伝説の樹は……樹を傷つけた人ではなく……そいつが『愛している人』を呪うんだよ……」





「!!!」

「ちょっと前に好雄と調べたら間違いない……昔の記録もたくさん残ってたの」

「………」

「藤崎の公人への想い、それにあの樹の傷つけよう……」
「最悪の場合……公人君は……」

「!!!」


2人の深刻な顔を見て、詩織は2人が言いたいことがわかってしまう。



「藤崎、たぶん目の前にある選択肢は二つ。

 一つは、このまま公人を見殺しにする。
 もう一つは、公人を救うために、公人から遠く離れて二度と接触しない。

 過去の記録によると、結果は全部このどちらかだ」



「………」

「覚悟が必要だぞ……ちょっと部屋を出るから決心をつけろ」

「ごめん。私たちにはこれ以外の案は思いつかない……」



2人はそういうと部屋から出ていってしまった。
部屋には公人と詩織だけが残された。




「ちょっと!なんでここで一区切りつけちゃうのよ!」
「もったいぶってもいいじゃない?よくドラマとかであるでしょ?」
「よくない!」
To be continued
後書き 兼 言い訳
クライマックスは次ですね。
やっとクライマックスまで持ってこれた、はぁ。
とにかく次ですね。
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