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太陽の恵み、光の恵 外伝

第1集 不良少女と呼ばれて〜詩織と公人〜

Written by B
保健室はまだ奈津江と詩織の二人きり。
詩織も少し具合が良くなっているようだがまだ全開ではない。
しかし口だけは全開のようだ。


「はやく、そこから教えなさい!」
「奈津江、落ち着いて、これからゆっくりと話してあげるから」
「ゆっくりじゃなくていいから!まったく、もったいぶらせてくだらない話だったら承知しないわよ!」


病室には公人と詩織の二人っきり。

公人は依然眠ったまま。
そのベッドの横で詩織は丸椅子に座ってうなだれている。


「………」


『公人を救うためにはもう2度と公人に会わないこと。それしかない』
好雄が言った言葉が胸にぐさりと突き刺さって何も言えない。


「公人……」


詩織がぽつりとつぶやいた。


「詩織……」


すると公人の声が聞こえてきた。


「公人!」


詩織は思わず立ち上がる。
公人は顔は真っ赤で汗だらだらのままだったが、詩織に顔を向けていた。
そして詩織の顔を見てニコリとわずかにほほえむとこう言った。






「『別れる』なんて言うなよ……」
「!!!」






詩織は心を読まれたかのような言葉に今度は思わず床に座り込んでしまう。



「公人、聞いてたの?」

公人は黙って首を縦に振る。
そしてまたわずかにほほえむ

「あははは……バチが当たったんだな……」
「あれは違う!あれは私がいけないの!公人のせいじゃない!」

公人はゆっくりと首を振る。

「もう言うな……」
「………」
「しかし、嬉しいな……」
「えっ?」



「詩織はこんなに俺のことを想ってくれてたんだ……」



「えっ……」




「すごい……」
「公人の熱病は私のせいなのよ!それなのに公人は死ぬぐらいの熱病を『嬉しい』って」
「私だったら詩織を恨んでいるかも……」
「公人はそんなこと言わなかった……私、それ聞いて泣く直前だった」


詩織はもう抑えきれなかった。

「そうよ!私は公人が好きなの!生まれたころから、公人にあったときから!もうずっと公人が好きで好きでしょうがなかった!」
「そうか……じゃあ、俺は死ねないな」
「えっ?」





「俺を殺すぐらいの熱い熱い想い……受け止められなきゃ……男じゃないよな……」





「えっ?」





「俺は詩織のこと……ずっと、ずっと……愛してるから……」





「………」





「俺は死なない……こんな熱……跳ね返してみせる……呪いがなんだ……俺の愛は……呪いに負けない……」





「公人…………なおと…………なおとぉ〜〜〜〜〜!!!!!」





「し、詩織!……重いよ……」





「愛してる!私も愛してる!世界で一番公人を愛してる!」





詩織は泣き崩れた。
寝ている公人に抱きつき、公人の胸の中で号泣した。
公人はそんな詩織に困りながらも軽く抱きしめていた。



自分で作り、自分を縛っていた幻像の藤崎詩織から本当の藤崎詩織に戻った瞬間だった。



「……すごい……」
「……ぐすん……思い出して泣いちゃった」

2人とも思わず涙ぐんでいた。
奈津江はこぼれそうな涙を手でぬぐい、詩織は流れる涙をそのままにして、その感覚を通じて昔を思い出していた。

「これが、詩織を元に戻したってこと?」
「うん、もうそれまで作っていた自分がいっぺんに破壊されちゃった。いままで公人だけに見せていた本当の自分を取り戻した。あのときは作っていた自分は完全になくなって、本当の自分だけになっていた」



「じゃあ、それからは……」
「ええ、さっそく行動に移したわ」



「………」
「………」

好雄と夕子は病室のすぐ外で待っていた。
それなりの防音は施しているので中の様子はよくわからない。
ただ、詩織の号泣がなにか聞こえてきた、という程度。


ガチャ!


「終わったわ」

「あっ……」
「………」


好雄も夕子もびっくりした。
詩織の表情がまったく変わっていたからだ。

さっきみた弱々しい顔ではなく、
闇雲に人を殴っていた荒々しい顔ではなく、
伝説の樹に襲いかかったときの思い詰めた表情でもない。
なにか強い決意に満ちた顔。
こんな顔を見たのは2人とも初めてだった。


「ところで、結果は……」



「戦う……公人と一緒に戦う」



「!!!」
「!!!」

好雄も夕子もまったく予想外の答えを聞いて何も言えなくなってしまう。
口をあんぐりし、顔が真っ青になってしまっていた。



「決めたの。私の命は公人に預ける……公人と運命を共にする」



「ま、マジか……」
「詩織ちゃん……」



「もう決めた。誰がなんと言おうと私は公人と一緒にいる。

 だからお願いがあるの。

 古式さん、呼んでくれないかしら?」



好雄と夕子は首をゆっくりと縦に振るしかなかった。
To be continued
後書き 兼 言い訳
詩織がようやく目覚めました。
はぁ、ようやくここまでたどり着きました。

公人に殺し文句を言わせるのにこれだけ話数がかかってしまうとは(汗

さて、これからは一気に下り坂です。
とは言ってもあと3〜4話ぐらいありそうですけどね。
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